役にたたない日々

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役にたたない日々 役にたたない日々
佐野 洋子朝日新聞出版 2008-05-07
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佐野洋子著

「シズコさん」を読んで、あんなにきついと思ったのに、気が付くとまた佐野さんの本を予約していました。それも「またきつそうだな?」と思われる題の本をよりにもよって?
たまには等身大で?自分を広げて晒してくださる人の日常を読ませていただくのも何か一種、人生の覚悟に繋がるのかも・・・という気がして。そしてやっぱり「案の定きつかった!」                                            目次を見ると分かるとおり、エッセイというか日記のようです。ですけれど、やっぱりこれは作者の時々の、折々の書かずに入れれないような何かの発露の様でもありました。でも何故か随想とか随筆という言葉は重い内容をもっと重たくしそうで使いたくないな、って感じがします。
エッセイを読む時って大抵は自分と引き比べて、「へー、そう思うんだ?」とか「なるほどそうだよねぇー?」とか「ほう、そういう見方も出来るか?」とかみたいな?が普通。
でも佐野さんのこの本に関する限り一切自分と引き比べることが出来ない感じがしました。
勿論していること、思っていること、考えていること、過ぎていく日々の有様、その中に何かしらの同感・共感を抱いてはいるのだけれど、「あぁ、私にもこんな日があるなぁ・・・」なんてことも思うのに、ここまで自分を晒して開き直っている人に安直に「本当ね」なんて言えやしない。余りにも壮絶すぎて余りにも後が無くて、退路を断っていて。この方は今誰にも何をも求めていないんだな。ただ生きてきて最後の時がわかって、「こんな人が一人ここに居たよ!」って言っておきたいんだな。なんて、感じられたので。
感嘆するような事を書いていても、馬鹿な事を書いていても、頷きたくなるような事を書いていても、呆れるような事を書いていても、その全部に「・・・それにしても凄いなぁ!」をくっつけざるを得ないって感じなんです。
「義務はみな果たし、したい仕事も無い」そんな風にして死を迎えられるのは、その覚悟がつくのは・・・本当の所どんなことなのか私にはまだ分からないのです。でもやっぱり凄いな!って感じは感じちゃうのです。「シズコさん」と「役にたたない日々」を読んで「役にたつ自分」を生きた一人の女性の姿を感じたところです。彼女は人生で非常に格闘した人なんですね、と。

そろそろ旅に

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そろそろ旅に そろそろ旅に
松井 今朝子講談社 2008-03
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 松井今朝子著

松井今朝子さんの「吉原手引き草」を読んで、「仲蔵」に魅せられて、この作家は絶対好き!だと思って、その他の本も読もうと思って第3弾がこの本です。
十返舎一九(学校で習った頃はただの駄洒落まがいの名だと思ったのが意外な?というかちゃんとステキな?意味のある名前だった)の「東海道中膝栗毛」にたどり着くまでの前半生が実際の旅と自分探しの旅をあわせて「そろそろ旅へ」という題で書かれたものでした。したい事を見つけるまでのお尻の落ち着かなさがこの題そのものでした。いつも駆り立てられていたような?
教科書にあったのか先生が言ったのか「この世をば どりゃお暇と線香の 煙と共に灰さようなら」の辞世の狂歌も覚えています。
生涯、あの頃としては驚異の17回もの旅をしたと書かれていましたが、まさに心も体も旅の人だったのだなぁと、読み終わって感嘆しています。
見てきたような松井さんの筆の勢いもキッパリと微に入り細を穿つて描かれる一九の人生が妙にそぞろおかしくも悲しく哀愁を帯びて語られて、この分量!一生涯は書ききれないわねぇ・・・と、思えども、時代の景色と共にあの時代の浮世絵・読み本の興隆の流れまで丁寧で実にたっぷりと読み応えも手ごたえもあって本に頭を突っ込んでしまいました。普遍の青春の彷徨の記録になりました。
彼の生み出した弥次郎兵衛(弥二郎兵衛)と北八(喜多八)とが予七郎と太吉と重なるけれど、生涯切れなかったに違いない太吉とのかかわりは今で言うトラウマかと思えば何故か悲しい。それが吹っ切れた時に結実したのでしょうか?などと・・・
つい最近?も「やじきた道中てれすこ」という映画で弥次さん喜多さんにお目にかかっているというくらい私たちの中には普遍永遠の人物像です。多分日本人が日本人である間は決して消え去らない人々でしょう。軽くておばかでおっちょこちょいでずるくて色気づいていてお人よしで憎めないって像が出来ていますが、実際私がちゃんと読んだ部分はほんの最初、小田原ぐらいまでだったんではないかなぁ・・・と記憶を辿っていますが・・・いまはもう霧の中。
それでも読んでいなくとも彼らの像は誰の頭の中にも生きているという凄さです。その一九さんはあんなに人好きがして愛されたのに足掻き続けたんだって、なんかいいんです。だからあの作品もこんなに愛されて伝わっているんだって納得させられる一九サンの人物像でした。

仲蔵狂乱

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仲蔵狂乱 (講談社文庫) 仲蔵狂乱 (講談社文庫)
松井 今朝子講談社 2001-02
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松井今朝子著

松井今朝子さんの二作目。
益々この作家の世界に引きずり込まれていきそうだ。まるで知ったが最後抜け出せない年増の深情けの世界の様。
濃厚で濃密で脂粉、肢体、体臭などに絡め取られそうな深みがある。
最後のページの仲蔵が舞い狂う空から桜の花びらが舞い落ちて渦を巻く様が目に見えるよう、その花の渦の中をまた仲蔵が舞い昇っていくかのような様が目の前に繰り広げられるような・・・圧巻だった。
色彩のみならず匂いまで5感を総動員して読んでしまった、いや5感を呼び起こされてしまったという感じだろうか?
一昨年から父のお供で歌舞伎座に度々行ったことが幸いして、演目も既に失われたか、昨今演じられなくなったものもあるようだが、見た事のあるものもあるのが嬉しい。特に「定九郎」はまさに一昨年梅玉の定九郎を見たとき父が仲蔵の工夫の話をしてくれていた。今は定番?になったその扮装の話を聞いた時も、浮世絵展で仲蔵の役者絵を見た時も・・・あの頃はまだこの作品のある事を知らなくて、「ふう~ん」って、感じだったのに・・・一気に知識に色が付いた。
その仲蔵の一代記である。
歌舞伎の世界を背景に極彩色にならないわけが無い。
しかも孤児の境遇からのその酷な生い立ちから役者として座頭を務めるようになるという華々しい異例の出世までの、並々ならぬ苦労の一生がその極彩色にときに効果的な白黒の気配をも対照させて絵巻物の様にさーぁーっと一気に繰り広げられたような勢いの良さも、彼の狂乱の舞を際立たせて、こちらの心も波立たせる。
力強い筆致だなぁ・・・男性の様だ・・・と思えるくらいで、心を振り回されるような力技を感じるのだが、時に繊細な描写は針の先の鋭さも宿していて心の中の痛点をピシリと突いても来る。
芸人の世界のなんともぬめっとした一門意識・人間関係の底知れぬ不気味さ怖さ。現在の役者さんの談話にも「どこそこの兄さん」とか「なんとか屋のおじさん」とか言うせりふがよく聞かれるが・・・あの言葉の底には・・・なんていう楽屋雀並の好奇心まで・・・あぁあ、掻き立てられちゃって・・・。あんなにしごかれた養母の思い出が段々暖かくいいものに仲蔵の心の中で変わっていく様にほっとさせられ、この人の人間的な甘さとも優しさとも偉さとも思えて嬉しい場面だった。
田沼時代の奢侈の世相の前後と足並みを合わせるかのような歌舞伎の幾つもの座の栄枯盛衰も合わせて面白い。時代が立ちあがってくるなぁ。
 

寄席紳士録

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寄席紳士録 (1960年) 寄席紳士録 (1960年)
安藤 鶴夫文芸春秋新社 1960
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 安藤鶴夫著

「本牧亭の人々」を読んだらこの本が読みたくなりました。
「本牧亭」で出てきた芸人さんたちがとてもユニークだったので・・・「どれどれ、どんな方たちだったのかな?伝説の芸人さんは?」って気持ちでした。でも想像をはるかに凌駕、というよりも、その埒外っていうか、想像なんて追いつくはずも無いという驚きでした。
いやいや芸人さんって奇人とか変人とかの枠を越えている!人間の埒さえも超越した異星人みたいなものだ!
それなのに何処か畏敬の念も起こさせる。普通の人の欲とは違った、根本から別物の欲を持っていて、全くもって自分だけの自分なんだ?
そして何か物凄く普通の人(私から見てだろうけれども)から欠落したものがある。その上にこそある異能!
少なくとも安鶴さんがここに上梓した10人の芸人さんと湯浅さんとおでこさんの特異性といったら・・・凄いや!だけど安鶴さんはこの凄い人たちを何故か大事に愉快にそのままを見ている。事実ばかりかどうかは分からなくとも、ここに敬意を持って?活写された人々はリアルに生きていたという感じで読んでいる私を圧倒する。
「こんな人たちがちょっと前まで居たんだ!」と圧倒される。
「本牧亭の人々」でお近づきになったおひでさんのご亭主、春本助治郎さんならなんとかお付き合いさせていただけるか・・・?というところでしょうかねぇ。せいぜいでそこまでですよ。なめくじ長屋の志ん生さんの逸話はまだ私に一番近いでしょうか?それにしてもあの方の奥さんが務まった方がいらしたから、私はあの志ん朝さんの落語に惚れさせていただけたんだ!と感謝したいような気持ちでした。彼らの周りで彼らを支えて、または付き合って、仕事をさせた人々もまた凄いや!です。
TVがかなりの仕事場になった今の芸人さんにここで肩を並べられるような人はもう出てこないんだろうなぁ・・・と、この本を読んだ後では淋しいような心持がしましたけれど・・・多分むしろあの人たちそのものが今の社会じゃ「赤貧して」すら生きていけないかもしれません。
昔の芸好きな人たちの鷹揚なカラー、彼ら芸人さんの存在を心から楽しんだ隠居さんたち?という客そのもの、寄席そのものが「もうどっこもなくなっちまった!」というところでしょうか。そういう意味では世間は本当に狭くなったんでしょう。異常な事件を引き起こす人が増えたのも・・・居所が狭まったからでしょうか?と、そこまで思われました。どんな人にも居所があってこそ、世間ですよねって。

夢見る黄金地球儀

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夢見る黄金地球儀 (ミステリ・フロンティア 38) 夢見る黄金地球儀 (ミステリ・フロンティア 38)
海堂 尊東京創元社 2007-10
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海堂尊著

いつもと同じ桜宮市がフィールドのようですが、珍しく?東城大学シリーズじゃないのか?と思ったら、やっぱり東城大学も少し絡む桜宮市中事件でした!この市どこにあるのかなぁ・・・首都圏の端で名古屋言語圏に近いってどっかに書いてなかったっけ?あれ?ってことは・・・浜松近辺?まさかそんなに広い首都圏有るはず無いでしょ・・・私の勘違い?・・・それはまぁどうでもいいことで・・・前半あおられるように笑いながら勢いよく読みましたけれど・・・途中からなんだかごちゃごちゃ・・・えー、私分かってるのかな?このすり替え作戦進行状況?と、ちょっとあやふやな足取りになりました。
思い返せば・・・一番面白かったのはプロローグだったような?
あぁ、それからこの作家のお得意な際立つ人物造形!今回は豪介親父もとぃー豪介社長!双子のような小山田課長と小西課長(あの小錦体形の二人の苗字に「小」の字の名を付けるか?)それに忘れちゃいけない主人公。へこんだり、脱力したりに忙しいのに、なぜか保険をかけることには通?の理科系知識人平平(へいへい)こと平沼平介君。
ただね、ここまでこの作者の作品読み続けていると、知り合いに会えるからやっぱり行かなくちゃ・・・みたいな乗りになります。
小夜さんに再会して「へー、歌で生きているという設定以上の劇的付加価値が付与されているのね」と、驚くものの、その怪しさは懐かしさでごまかされちゃうし・・・ン?厚生労働省?「誰かさん」が居ましたっけ?
そうか海堂先生、完全に桜宮市黒幕と化したのですね?
確かに所々抱腹したかもしれないけれど、絶倒とはいきませんでしたが、大学病院に続いて市役所、同じタイプに過ぎるような気もするけれど、揶揄して笑いものにする絶妙のセンスをお持ちの上に、憎まれない明るさも調子のよさも・・・やっぱり笑ったわ!
エピローグのふろしきの広げ方も楽しかったし。
勢いで書いているという生きのよさも持ち味なんでしょうね。さて、桜宮市は次にはどんな事件が起こるのでしょう。そのうちに誰かファンが地図を作ってくれるかもしれませんね?そこを目指して構築し続けてください!と、エールを送ることに致します。
「桜宮市水族館別館・深海館」はどの辺りにあるんでしたっけ?
 

本からはじまる物語

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本からはじまる物語 本からはじまる物語
恩田 陸メディア・パル 2007-12
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18人の作家による本をテーマにした短編18作を集めた楽しい作品集でした。やっぱり作家さんたちなんですね、皆さん本が好きなんだ!っていうか本をテーマに書くのはお手の物なのかな。
それぞれに面白い、毛色が変わったお話がギフトボックスみたいに詰められていました。読んだことの無い作家も多いのですが、好きな作家のも、余り好きではない作家のもありましたが、それぞれの作家の違いを興味深く読みました。実に軽い読み物なのですがヒョットすると力の入っていない分、その作家の資質が素直に現れているかもしれません?どれも短い作品なので軽い読み物として、作者の遊び心とか、乗りとか、思い付き?を楽しむことが出来ます。
第1話の恩田陸さんも映画化されたり話題の作家のお一人ですが、まだ読んだことは無いのです。どんな作家でしょうか?この作品でこの本の傾向も伺えるかもしれません?そしたら、いきなり面白かったんです。着想が意外だったし、それに絵本の事を語る口調が優しかったんですね。「絵本たちは豊かな森の中で私たちが訪れるのをじっと待っていてくれるんだ、うんそうよね?」って頷きながら・・・で、この作品がこの本の中では一番心に残るものになりました。
次に三崎亜記さんの「The Book Day」でしょうか。この作品もお伽噺チックで悲しいテーストもありながら自分の大好きな大事な本が次は誰に読まれ受け継がれていくのだろう・・・という想像力をゆすぶられて・・・うん、好い感じ!どこかの国に本を贈りあうお祭があるって聞いたことがあるような?いいですよね、そんな日!
次は内海隆一郎さんの「生きてきた証に」でしょうか。定年を迎えた人たちの多くが一度は思うのではないでしょうか?自分史。
なかなか他人には読まれないものですが、人は皆一冊の本は書けるといいますよね。特に私たちの親の戦争を潜り抜けてきた人たちには、伝えたいことがしっかりあると思います。丁度敗戦の日に読むことになったからでしょうか、印象に残りました。そして本屋さんの気持ちと孫の優しさにほっとしました。
本多孝好さんの「11月の約束」もいいし、阿刀田さんの作品も「本好きの人」のお話だなぁ・・・山本さんの作品も山本さんらしさに溢れてる・・・って具合です。
市川拓司さんて今時の若い人たちの作家って感じで遠巻きにしていたいような作家だと思っていたのに「感傷的な甘さが魅力的かも?」なんて思いながらこれも好い作品なのです。
最も題を見ながら「えーと、どんなお話だったかしら?」と思う作品もあるにはあったのですが。
 

ゆめつげ

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ゆめつげ (角川文庫 は 37-1) ゆめつげ (角川文庫 は 37-1)
畠中 恵角川グループパブリッシング 2008-04-25
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畠中恵著

畠中さんの作品はこれで7冊目になるのかな?お江戸・時代物・ファンタジー系・・・の。この作品も江戸も後期、明治維新の足音が聞こえだした頃のお話である。しかもこの作家の作品は結構血が流れる。この作品も始まりは辻斬りから・・・江戸の暗い幕末の世相から入っていく。そして人殺しが次々起きる。そうなのよねぇ・・・と思う。そうなのに読み終わってみると血の臭いは結局綺麗に払拭されて、主人公のおっとりというかのんびりというか、その設定の印象に支配された楽しい読み物だったような気がしている。春風駘蕩?柳に風?それもほんのそよ風だったような?
それだけ主人公の設定がうまいって事だろうなぁ・・・どこといってどうってほど本人が魅力的なわけではないのに・・・彼の持つ能力に惹かれてしまう。
妖怪が見えて、家にいっぱい出入りしていたり、付喪神が付いているお道具に取り巻かれていたりと。ここでの主人公は夢告ができるという、いわば神が憑依するという特殊能力のあるおっとりした神官ということで、これはこれでなかなか興味惹かれる人物である。
事件に迫られて、人情に絡め取られて、続けてはできない夢告を何度も行ううちに彼の能力は飛躍し・・・?これもシリーズになりうるねぇ・・・と、期待するまでになってしまう。
何時も通り謎解きがあって、「実の子は誰でしょう?」という命題以外にも養い親たちを殺した犯人は?問題を持ってきた神官の怪しさは?と物語を引っ張っていく面白さもあって一気に読めたのだ。
しかしそれ以上に面白かったのは明治元年の神仏分離令を予期した神官たちの動き、またそれに対する寺僧らの気分などを背景に取り込んだ意外さだった。これが物語りの謎を重層的に膨らましている。確かあの時代尊王に働いた神職上がりの志士たちもいたなぁ・・・?
廃仏毀釈運動に流れ込んでいく時代。時々里帰りしてくる海外へ流出した仏像を見ると本当に惜しくて悲しいもの。あの頃貧乏した寺が売り払ったものだものね。「神も仏も大事にしておきたいわねぇ・・・日本人なら」と無心論者の私もこういう時はそう思うのです。
エアコンも使わない、風も止んでいる、集中力も途切れるこの真夏の昼下がり、畠田さんの「しゃばけシリーズ」はうって付けの、涼しくなる?最高の楽しみになると思うのですが、読者の思いは同じ?シリーズ残りの本がなかなか順番が回ってきませんね。

東京バンドワゴン

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東京バンドワゴン (集英社文庫 し 46-1) 東京バンドワゴン (集英社文庫 し 46-1)
小路 幸也集英社 2008-04
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小路幸也著

まず温かいなぁ・・・懐かしいなぁ・・・良い感じだなぁ・・・と思いました。語り口も素朴だし、登場人物も皆型にはまったように良い人ばかり。こんな本を読むのもたまには良いなぁ・・・
紹介文には「一癖も二癖もある面々が・・・」とあるのだが、これは一癖なんてものではありません。殆ど“まっとう”です。私にはごく普通の下町の人々に思えましたが・・・それを言ったら、昔私の家の周りに住んでいたご近所さんたち、おじちゃんおばちゃんの方がずーっと一癖も二癖もありましたって!それだけ今は私たちの周りにはまっとうな人がいなくなったってことかもしれませんね。
丁度この「バンドワゴン」という店のあるような町で育ったので、少なくとも私の子供の頃は玄関はいつも開けっ放し、横の台所への通路にはしょっちゅう「おもらいさん」が何か無いかと覗きに入ってきましたっけ。でも誰もその人たちに驚きもせず「あー、来たの?何かあったかしら?」って感じでしたっけ。そんな昔の事を思い出してしまいました。いまじゃ友達もご近所さんも電話で約束しなくちゃ訪ねあいもしません。今は玄関ロックがあって、さらに各部屋は昼でも鍵を掛けドアチェーンをしているという体たらくです。どこで何が違ってしまったのでしょうね?なんて。核家族で育った私は主人の田舎の三世代同居に一週間ごとに?音を上げていましたが、子らの世代はその二世代すらも考えたことないかもしれませんね。
堀田家はここだけ次元が狂った一昔前の夢の落とし穴みたいです。「東京」の「京」の字の口が日なんです。しかも語り手が死後もこの家にとどまっているおばあちゃんで子や孫の中にはその存在に気付いている者もいるという素晴らしさです。色々な出来事はありますが、でもそれは出来事ではないのです・・・タダの日常?そう、人がご近所さんたちとまっとうに付き合っていたら普通に起こるに違いない程度の出来事なんです。でも気の利き具合、感の良さ加減、対処の落としどころ、すべてがGood!って感じ?その気分がとても気持ちよいのですが、じゃァ「うんと若返らせて美人にしてやるから」といわれてもとても亜美さんにもすずみさんにもなれるとは爪の先ほども思いませんけれど・・・
でも読む分には最高の居場所です。
それにしても、題だけではこんなホームドラマだなんてわかりませんね。最初てっきり音楽関係のエッセーかと思いましたもの。ま、Loveを叫ぶ伝説の?ロッカーはいるのですけれど。

黒笑小説

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黒笑小説 (集英社文庫 ひ 15-8) 黒笑小説 (集英社文庫 ひ 15-8)
東野 圭吾集英社 2008-04
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東野圭吾著

「まぁまぁお人が悪い!」アハハ・・・とか、「まぁなんとお商売人さんでいらっしゃる!」ウフフ・・・とか、「おやおや先生は今怖い物はなさそうですのね!」ククク・・・とか、「おやまぁ罪作りな・・・」とか思いながら最初の4短編読みました。
全部で13短編納められています。その中の最初の4編は内幕物とか馴れ合い物とか言う言葉が頭の中でちらちらしました。
そういえば昨日友人から夏休みになると新聞や小説雑誌で「お薦めの読書」特集などするけれど、業界は今危機感からか、なりふり構わず・・・みたいね。競合する出版社の出版物をお薦めに入れていたりするのよ。細かく見てみると面白いわよ。」とメールが来ていました。
この4つの業界物を読んだところですので腑に落ちました。
「その売れっ子作家の次作をその会社は狙っているのよ、きっと」なんてね。しかも編集者さんたちは結構きつい揶揄を受けているのに・・・「このモデルは俺かな?」なんて思いながら出版にこぎつけたのでしょうかね?そう思うと売れて銭になる作家の凄さが凝縮されていると読めます。自分を笑えてこその毒です。だからこの短編集ではこの4作でまず笑いましたけれど、余り気持ちのいい笑ではないのです。題どおりですね、まさに!
それに「選考会」ではどきりともしたのです。この頃「なんでこんな本が売れたのか?」と思う本が結構ありますからね。「Movies Memoranda」の「ジャージの二人」で述べたとおりです。あの作品を思い出すと私も「寒川先生」の線を行っているのだろうなって納得です。でもマァ、それぞれの時代ってこともあるしね。友人が言っていましたっけ「定年になったら旦那は時代劇チャンネルにお守りしてもらっているの。現役時代には馬鹿にしていた黄門さんまで見ているのよ、全くもう」って。好みは好み時代遅れでも面白くない物は面白くない!好きな物は好き!
だからこの後の作品はだいたい笑えたけれど、印象と毒でこの4作に負けた。それらは他の作家でも読めそうだけれど、この4作は今絶頂の東野さんでなくては発表できないかも、だもの。大体において男の人の方が楽しめる作品集です・・・かな。「ストーカー入門」なんてホント、笑えましたけれど・・・やっぱり何処か笑えない(笑いたくない)って感じかなぁ。
今まで気にしたことは無かったけれどこれからは「その本はどこの出版社から出たか?」も要チェックだね。
たまたまこの作品をチェックしましたが、同類の作品が後二作あるんですね。「毒笑小説」「怪笑小説」と。
ただこの作品群は自分で読むと皆何処かで笑えるけれど、読んでもらっても面白くないかもね。星新一さんの作品をTVで色々料理しても自分で読んだ時ほど面白くないように。といっても同じ毛色だというつもりはありません。
 

父・こんなこと

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父・こんなこと (新潮文庫) 父・こんなこと (新潮文庫)
幸田 文新潮社 1967-01
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 幸田文著

これも齋藤さんの本「読書入門」で知って読み始めたのですが、紹介文が良かったのです。掃除の仕方を教え込むお父さんって・・・それもあの厳しさ?って、なんかよくない?って気がしたものですから。幸田文さんは次女さんで、露伴の晩年子供を連れて父の所に帰ってきて、そのまま娘と共に父を看取った方で、そのときの事をまとめた作品と、その後の父の思い出を集めた作品集です。
身につまされて心に迫り、痛々しいと心から思ったのは私の行く道でもあるからかもしれません。今私も老いていく厳しかった父を見つめているからでしょうか。
「父に愛されない娘だった」と述べていらっしゃるのですが、それだけになお更父との様々なことがきりりと心に刻み込まれたのかもしれません。愛された子供は安心感の中で神経が休まるからでしょうか思い出がほんわかしてきつく刻み込まれないような気がするのです。細かな描写が出来るほど、様々な状況が生き生きと書き綴られれば書き綴られるほど、彼女の心への刻まれ方が想像されるようです。
しかも刻まれた分彼女はそこから記憶を丁寧に丁寧に汲み上げ続けたのでしょうね・・・そこが痛々しさの生じる所以かもしれません。
しかし読んでいると露伴がこの娘をとても理解していたように思われてなりません。露伴はこの娘をわかってその性に応じて教育したつもりなのではないでしょうかと、思われてならないのですが。
母を失った娘にあれだけの家事指南をする、様々な遊びの記憶を残してやる・・・文豪の顔ではない父の顔がとても愉快に浮かび上がってきました。といっても私は露伴の作品は読んでいないのです。
今更・・・と思う反面、こんなオヤジが?どんな作品を残したのか、興味をそそられてもいます。それにしても水拭き掃除の仕方のところはとても懐かしかったですね。私が母と廊下の雑巾がけをしていた頃よく注意されたことでしたが、その雑巾がけというものをしなくなってどのくらい経つのでしょう?今はフローリングの床といえども雑巾での水拭きをするお宅は少ないでしょう。今我が家には畳の部屋も無い。幼い頃に教わってきたことのあらかたが必要が無くなってしまったのですね。八雲の「ちんちん小袴」なんぞもふと遠くなってしまった教えだなぁ・・・と懐かしい気持ちは湧き上がってくるのですけれど、わが子の世代にはもうこの作品の機微に心を揺さぶられる私の感傷はもう理解不能だろうなぁ・・・という感慨の方が強くなってしまいます。
「面倒がる、骨惜しみをすると言うことはケチだ」この言葉は前日読み終わった志村さんの本からも漂ってきた精神です。日本の女性たちは骨惜しみをしなかったから美しかったのだと妙に納得のいった今週の読書でした。見た目には今の女性たちの方が美しく見えるかもしれないのにねぇ・・・。志村さんの本の中の、以前は「豊かに貧乏してきた」それに比べて今は「心貧しく富んだ生活をしている」という一節がここでも甦ってきたのです。
 

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