64 ロクヨン

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64(ロクヨン) 64(ロクヨン)
横山 秀夫文藝春秋 2012-10-26
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横山秀夫著
「横山さんどうしちゃったんだろう?新刊全然でないねぇ」「そうだなぁ~、まだ若いし病気でもないだろ」なんて父と話していること数年。
新聞に7年ぶりの文字と共にこの広告を見つけました。ファンは皆待っていたんですね。数日後に図書館に申し込んだらすでに数百人待ち。文庫ではないので我慢して待つこと…ようやく届きました。(病気だったという話も)
おなじみのD県警物のミステリー。その中の白眉になりそうな…。どの作品でも横山さんの作品を呆然として一気に読んでしまう訳は、あまり物事を深く突き詰めて考える癖?の無い私にとって、この作家の作品に出て来る多くの主人公たちの頭の中の複雑なからくり。信じられない程緻密で疑り深く繊細で猜疑心に満ちて…行ったり来たりの疑問符に満ちた…文章で言えば推敲?ともいえばいえる恐ろしい思考の深読み。 否応なく主人公と頭が同調してしまって、次は次はこの先の局面は…と夢中で読み進んでしまう。
今回の64という符丁の着いた事件の結末も気になるが…二渡さんの行動への三上のじれ…広報官としての立ち位置の揺らぎ…読みふけるこっちも揺らぎに揺らいで…彼の立ち位置が定まったときの、覚悟のほどがいかなる苦渋と困難と葛藤の中から出て来た崇高なものであるのだ、と妙に信頼できて清々しくなってしまった。 仕事に生きるってこういう事なのかな。ついていけるよね。 こういう男の娘だもの…何とか生き抜いて欲しいし道を見つけてほしいな…と、最後まで見つからなかった彼の娘にまで祈りを、なんて気持ちにまでなってしまった。いい作品だ!実に満足して本を閉じたのだけれど…「64」ね。あの犯人も追いつめてね。
警察ものとしては警察の仕事はこうして数珠つなぎに事件から事件へ、刑事たちの葛藤と絡みの上につながって行くんだなぁ…と、D県警のある年のその時の構成員のその時の事件の一部を切り取って見せられたような臨場感があった。

龍神の雨

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龍神の雨 龍神の雨
道尾 秀介新潮社 2009-05
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道尾秀介著

道尾さんの6冊目
この本も夢中で読ませる本だった!
雨の音と龍神に思える黒い雲が今年は例年以上に多くて、この本を読むにはぴったりな気候だったよ・・・(読んだのは6月)
「シャドウ」よりすきだけど「カラスの親指」とはどうかな?
「カラス・・」のほうがまだもう少し好きかも。
二組の兄弟 継父と暮す兄と妹、継母と暮す兄弟、この二組の子供たちの心が切なすぎて・・・読んでいるうちはやりきれないのに・・・それでも・・・そう・・・心配で心配で読み急いでしまう。 傷ついていない人は居ないけれど、この子達の人生の設定はあまりといえばあまりだと作家に対して理不尽にも怒っている。 だからその償いはきっちりしてもらわなければ!・・・そんな思いで読み急いでしまう。
兄は妹を思い、妹を守り、妹だけは幸せにとせつなく人生を綱渡り、弟は兄の心を計り推し量り慮りその心を心としながらその心を何とかしたいと見つめ続け・・・そしてその妹も兄もまた・・・
このシチュエーションだけで作家に怒りが湧くほど・・・切ない。
そしてその継父と継母の最後に見えてくる心の情景も・・・人は善でも悪でもあって、その多面的な心のひだが揺れている時にああいう真の悪に魅入られてしまうのかも・・・頷いている自分に嫌気が差す。
それでもどこでどんな悪につまずくか分からない社会に生きているのだから・・・この話はリアルにリアルすぎて・・・迫ってくる。
幼い二人の兄弟がきわどくすり抜けられた人生の罠に、落ちてしまった年長のあの二人を救えるのは何だろう? そんなものはあるのだろうか?いるのだろうか?
いやそもそも抜けられたのだろうか? あの母はまだ保っているだろうか? 
母でもある私はこの母がどんな場所に危うくいるかを恐れている。でもそれ以上に母も父も居なくなった二人の兄妹の人生を思わずには居られない。あの後の二人を追いかけている目を私はもてあましている。

利休にたずねよ

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利休にたずねよ 利休にたずねよPHP研究所 2008-10-25
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山本兼一著
実に面白く読みましたね。年が明けて書く読書録としては最高の本にあたったかもしれません・・・と、満足して・・・2回読み直したところです。ほんとのところ図書館から借りて週明けには返さなければならない本に追われているので、読み返す時間などないのですが、それでも読み返してしまいました。京都で三千家の佇まいを日常目にしていた私には利休という名は偉大で意外に身近です?一応お茶の経験もありますしね。歴史上の偉大な文化人という扱いでしょうか。でも政治家という側面も感じていました。
なにしろお茶のというか茶道の話をするとなれば・・・特に利休の侘びち茶の話となると・・・美しい物寂しい言葉が多出します。文を読んでいるだけで一つの世界にたゆたう楽しさを満喫できます。日常忘れていた美しい日本語にいっぱい出会えました。
それに利休の行きた時代の息吹!お茶を通しての武将、高僧、女性たちと利休のつながりがそれぞれの人から語られて生き生きと利休が立ち上がってきます。利休の色々な時の色々な横顔が。時代にのしかかるような一人の巨大な男、利休の生きた道筋が見えてきます。語る一人一人の人の心に大きな何かを刻みつけて逝った男、利休。それでもなお利休は一個の大きな不思議です。
聡過ぎる利器、利休。人の心の機微を底の底まで覗いてしまえる、利休。貪欲きわまりない豪腕、利休。あらゆる物を置き去りにして美のみを見つめられる情念、利休。畳の目一筋も読みきる繊細な美意識に支配される、利休。一人の女性に囚われて見果てぬ夢に絡み取られて枯れられない、利休。尊敬と憎悪に取り巻かれた、利休。様々な利休が様々な横顔を見せて大きな背中で坐っていました。家康のような(私は嫌いなので)策士が利休の掌の中で独り相撲を取っているみたいに心が右往左往するのが痛快でした。
あの緑釉の香合が宗恩の手によって粉々に砕け散った時、女としてはそうあるべきだと思いながら宗恩の見果てぬ夢を悲しく読み終わりました。誰の手にも余る男だったのかもなぁ・・・と。敬い尊ばれても当人は誰からも理解はされたくはなかった・・・そんな男を見せてもらったような気がします。
 

利休椿

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利休椿 利休椿実業之日本社 1997-05
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火坂雅志著

短編7作。秀吉統治下の頃の今で言う「アート」な人を題材にした作品集といえるかもしれない。
「山三の恋」は名古屋山三郎、名古屋山三と言えば阿国歌舞伎、てっきり阿国との話かと思いきや、もう1方の伝説?秀頼の父?の方。化かされ物の系譜。目新しくなくてちょっとがっかりだけどこの手の話は好きだなぁ・・・と、読み進む。
「関寺小町」は能の演目に関わる家元と一子相伝などの葛藤
「辻が花」は染師の秀次事件に絡んでの片恋
「天下百韻」は連歌師里村紹巴の成り上がり振り
「包丁奥義」は大草流に挑む懐石膳の工夫をする包丁人の物語
「笑うて候」は曽呂利新左衛門と落語の祖といわれる安楽庵策伝の話
表題の「利休椿」は茶花として欠かせなくなった椿、紫にこだわる利休とその椿の花作り又三の悲恋。
各物語は短かったが、一番絢爛だった頃の秀吉の時代を背景に、秀吉、北の政所、淀殿、千利休、光秀など、登場人物も華やかならば、それぞれの芸術に携わる個性というか異能というか複雑な人々の生き方、その生き方に巻き込まれた人々を描いて興味深い物語集。巨大な権力者が統治する時代には絢爛と花開くものが多い。その花の幾つかは徒花になるのかもしれないが連綿と続いて今なお私達を豊かにさせてくれるものも多い。その花のために自分を貫いた人たちの話とも。
関寺小町もそんなに難しい演目だったのか・・・と今度何処かで演能されることがあったら見てみたいと、とても好奇心をくすぐられた。芸術家のねたみは怖ろしく粘着性がある。どんな怖い情念を描いた演目よりも演じる人の方が怖い?妻の哀れ、一子相伝とか家元制度とか、厭なものだと常々思っているが・・・。
光秀の最後の連歌の催しは世に広く知られているが、紹巴の今の俳句というものから想像も出来ないほどの権勢を目指す成功志向の余りの強さ、その人格の灰汁の強さには辟易とするくらいだが、その強さにはまた妙に感服させられもする。一つのものに秀でるにはなんと強さが必要なことか。命を賭け、まわりの人をも巻き込み踏み潰し・・・ようやくものは成る!
面白い作品集でありながら、枯れる万骨の1骨に過ぎない私にとってはどこか素直に楽しみにくいところがあった。文人がただの文人でいられない、職人がただの職人ではいられない時代が切ない。

六月の昼と夜のあわいに

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六月の夜と昼のあわいに 六月の夜と昼のあわいに朝日新聞出版 2009-06-19
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   恩田陸著
あらゆる小説の形式と、恩田作品のエッセンスが味わえる小説集。フランス文学者・杉本秀太郎による詩、俳句、短歌に秘められた謎と、新鋭画家によるイメージに誘われた、摩訶不思議な小説全10編を収録。と、あります。気をそそられるでしょう?

題がいいですね、夜と昼のあわいですよ、それもあの?六月の。濃厚なじっとり重い夜に昼か・・・。短編10作。しかし見事に20ページづつなんですね?最初の「恋はみずいろ」から当然読み始めます、ね。
それで、この本に好感を持ちました。杉本さんの作品?がどういう関係を持つのか良く分からないまま・・・この方は妙にフランス風調味料濃厚国粋型みたいなイメージ?よく知らないくせに無責任に言っていますが・・・結論から言えば私にはこの冒頭の1ページが本編の必要ではないという感じでした。作品を重層にしているとか奥行きを深くしているとかインスピレーションの源であるとか・・・いう感じはしなかったのです。「あわい」という言葉のためですかねぇ?
「約束の地」を読んでゴーギャンみたい・・・と、思って冒頭に戻ったら杉本さんのゴーギャンの歌。これだけは関連していたんだ・・・と。
むしろ挿絵の方がインパクトがありました。まず絵に引っかかって、作品に出かけていったという感があります。不思議なコラボレーションでした?
さて、この短編集最初の1作で感じた好感は次の「唐草模様」で、ちょっと待て!いやこのまま油断して読んでいってはならないような?
それでもまだこの作品は私の中に滑り込みました。
次の「Y字路・・」は好きですね。ルポ風な表現に乗ってその世界にするっと入り込む楽しさがありました。次の「約束の地」のゴーギャンはすぐイメージ浮かびましたが、私はあの絵が不快です。あの色、あの厚みに落ち着かなくなります。で、この作品にもその感じが濃厚でした。
そして、また「酒肆ローレライ」これも「Y字路」に共通した部分があって、より濃厚に情緒的でもっと好きですね。この世界紛れ込んで見たいのですけれど・・・こういう時って私には訪れないという確信がありますね。そこが私の人生の欠けている所なんです。
「窯変・田久保順子」はパターンです。星新一さんに限らず思い浮かんでくる作家がいそうです。類似の作を思い出せそうですし、ありきたりな感じがしますが、それでも面白く読めました。世界ってそういうことに満ちているといえばいえるさ・・・そんなもんさね。でもこうして消えていく命が実に多いのですから重いです、つい現実足元見えてしまいます。いえ、見ちゃうんです。
残りの作品は私には気持ちがよくなかったとだけ記しておこうと思います。忘れたいのです。そのほうがいいな、うん。

臨場

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臨場 (光文社文庫 よ 14-1) 臨場 (光文社文庫 よ 14-1)
横山 秀夫光文社 2007-09-06
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横山秀夫著

記念すべき?横山さんの十冊目になる。全部来るたびに父が「読み終わった。いいぞ!」と言って置いていったものである。
おかげさまですっかり横山さんのファンになってしまいました。
今では好きな作家の五本の指に入ると思っています。
そしていつも読んで裏切られることはありませんでした。
一寸異色の「出口のない海」にしても。
横山さんの魅力の「警察もの」の中でも「臨場」は娯楽性が強い方だと思います。なぜならいつもどおり本当に面白さに引きずられて夢中で読んでしまうのですけれども、彼の警察ものの中にはとても厳しいものもあるからです。人間の心の中が余りに細かく解剖されて「きついなぁ・・・」と主人公たちに言ってあげたいくらいの時も多々ありますものね。
その点、この主人公の切れ味鋭い解決はとても小気味がいいのです。しかも彼には一風代わった人間味がその体のどこか奥底に蠢いているのが感じられて、嬉しいのです。勿論この作品の主人公も健康面で危うい感じです。ひょっとするとこの神がかり的な洞察力は研ぎ澄まされた精神・神経のせいで、それは諸刃の剣で彼自身をも切り刻んでいるのではないか?と危惧させられてしまうからです。彼が魅力的であればあるほど、素晴らしい手腕を発揮すればするほど心配でなりません。彼の活躍する次作が期待できなくなってしまうではないですかと。彼の生き方の意固地さはなかなか組織では発揮できないものです。そこを警察の組織というものに多分本物の警察官以上に?熟知している横山さんがごり押しして?書いてくれているのが面白いのです。こんなプロがアッチコッチの警察署で生きていてくれるといいなぁ・・・なんて魅力的な登場人物に会うたびに思ってしまいます。横山さんの作品を読んでいると多分付き合いにくい奴らだろうなぁ・・・と、思っても、何故かいとおしくてその個性を受け入れてしまっている自分を見出すのです。個性って魅力的な資質のことかもしれないなぁ・・・って。特になにかに取り付かれたようにがむしゃらに進んでいく時に人は!なんて。
ところでこの作品はその魅力的で破天荒な組織のハグレ者の調査官倉石さんが八つの事件を解決に導くのですが、または部下を導くのですが(育てると言っていいかな)、その一つ一つの事件もまた様々で一つ一つに関係してくる捜査官たちの葛藤が読み応えあって、被害者たちの失われた人生もそこにはちゃんとあって・・・。「ゆかりは哀れだなぁ、その辺に居そうな子だけどとか、智子は面白いキャラクターだけど」とか、出てくる人物がきちんと性格を造形されているので全くのよそ事にならないのです。「餞」はいい読後感だったし・・・倉石調査官のキャラクターの色彩が暖かくなって・・・といったところなど楽しめる要素が豊かです。こんな?年季の入った個性的な警察の方たちが大量に定年になっていく現在「大丈夫なのかなぁ・・・警察は?」です。
 

ロング・グッドバイ

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ロング・グッドバイ ロング・グッドバイ
レイモンド・チャンドラー 村上 春樹早川書房 2007-03-08
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レイモンド・チャンドラー著
             村上春樹訳

海外の作家の作品を翻訳者の名前で検索しようなんて思ったことも無かった。
確かに、誰が翻訳したもので読んだかということは翻訳書の場合ズーッと後々まで後を引くことはある。
私にとって外せないのは、堀口大学訳の「ルパン」物。但し堀口さんはルブランの全作品を翻訳していないらしく、他の訳者で読まなければならないものがあるのが、最初のルパンを堀口さんで読んだ私とすれば残念。同じく「赤毛のアン」も村岡花子さんとは切っても切れない。しかしそれは皆、たまたま最初に読んだ時の翻訳者がその人だったために過ぎない。そしてそれなりに個性があった!から。
この作品は多分学生時代に「マルタの鷹」などのダシール・ハメットの作品群と一緒に読んだっきりの作品だ。あの頃面白く読みはしても何度も何度も読み直したい作品にはならなかった。何しろ読みたい本が目白押しだった。最もそれは今も変わっていないけれど。
しかも村上春樹さんの膨大な作品群の中の1冊さえも私は読んでいないというのに・・・?何で今この人の翻訳だからといって読もうという気になったのか?ミーちゃんハーちゃんだからにすぎないのでしょう!よ。
図書館で翻訳者の名前で検索できるんだ!今「新訳」を謳う本が多く見られるから役に立つかも?でもなぁ・・・?いずれにしても私には久しぶりの翻訳小説だ。
翻訳者の違いによるのかもしれないが、昔読んだ時はこんなに寄り道というか薀蓄というか蛇足というか・・・主筋に関係ない話がこんなに膨らんであったのか気が付かなかったよ・・・という気が先ずした。司馬遼太郎さんの本も晩年になればなるほど筋から離れた薀蓄が多くなって、それは時には面白く読めたが、時には「邪魔だなぁ・・・」というため息にもなったっけ。
ふっとそれとオンナジジャン!と思ってしまった。そして訳者の長い後書きの中で訳者がその部分を痛く気に入っていて、やはりその部分がチャンドラーのチャンドラーらしさを際立てているらしいと思ったのだが。若かった頃には私はその部分をすっ飛ばして筋を読んでいたのだろうか。膨らんでしまった、または膨らませざるを得ない作者の傾向嗜好を楽しめる読者ではなかったのだ。
それでもフィリップ・マーロウの名をサム・スペードと共に忘れることは無かったのだから、主人公の魅力には十分惹かれたのだろう。
実際読み直してみて、多分この数十年間の時も彼の魅力は全然減じることは無かったのだなぁと改めて思っている。男の究極の姿勢として頷ける気がする。彼の姿勢を貫く様は一つ一つの彼の科白が際立たせる。その姿は女性が愛しさを感じずにはいられない不器用さを備えていて・・・可愛い!
こういう男と永遠に付き合える女性はいないかもしれないが、彼に惹かれない(または反発と同義?)女性もまたいないだろうと思われる。
図書館に帰そうとして玄関に置いておいたら、目ざとく見つけた息子が「いいな、いいな、読む時間があって。読みたいのにコッチは時間が無いんだよ。」と、ぼやいた。そういえば学生時代の彼の本棚では村上さんがひしめいていたっけ。だからこの本だけ読む気になった私はなんとなく・・・なんで?・・・申し訳ないような気持ちになってしまったじゃない。

楽園

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楽園 上 (1) 楽園 上 (1)
宮部 みゆき文藝春秋 2007-08
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楽園 下 楽園 下
宮部 みゆき文藝春秋 2007-08
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宮部みゆき著

友人から「お薦め」とメールを貰って直ぐに図書館に申し込んで待つこと半年余り・・・いやそろそろ1年近くかな?「東京タワー」も千人待ちだったけれど・・・「ハリポタ」500人待ちもあったけれど、これも400人近く待った。今現在最高に待っているのは「流星の絆」東野圭吾著700人です。
で、待った甲斐あったか?って、「まぁ、ありました!」
それで何故「まぁ」が付いたか?ってことですよね。
これが謎解きものだとしたら・・・(でしょう?)謎は半分残ってしまったからです。上下二冊は長かったのですが、長いと感じずに読みきりました。その意味では宮部さんは本当に凄い!読ませてしまう天才です。作品の巾、守備範囲の巾最高です。私は時代物優先で読んでいますが・・・超能力物も好きです。日常から遊離すればするほど好きっていう部分もあるかも?しかしこの作品の場合読ませる力と物語の集中力は比例しませんでした。どうなるのかどう進むのかどう結末がやってくるのか・・・人参求めて・・・ひたすら読み進みました、面白かったし、主人公前畑滋子さんは心ある婦人で、思索力にも行動力にも優れていましたし、周りに魅力的な人材が多数輩出・・・って?そう夫を始め登場する人物像はなかなか見事に書き込まれ、私など一人一人にこのキャラ惜しい!これだけで終るのか?ってなものでした。
萩谷敏子さん・・・どんどん膨らんでいきませんでしたか?
最後には本当に素晴らしい母として人として、魅力的でしたね。
高橋弁護士、野本希恵刑事、秋津警部夫妻?クリーニング屋の兄ちゃんから米やの姉ちゃんまで等等・・・魅力満載って感じでした。
だから読まされちゃった・・・「作者はやっぱり宮部さんだ!」でしょう。
何より作品構成力?あのところどころ挟まる「断章」には翻弄されました。目次見てください、5章あるんですが、これはどういう目的で挟まれたのだろうか?この余りに哀れな愚かな少女はどういう役割を担っているのかと。引っぱられましたねぇ。
それに主人公の誠実さが伝わって、彼女への好意でも気持ちよくお話に引っり込まれましたし。
でも、読み終わってやっぱり、あれれ・・・確かにそろそろお話は終息に向かう頃だけど・・・えぇぇ?これで終らないでしょう?
等君が三和と接点があって、あの絵が描けて、で、シャンパンのボトルの首はどうなるのかな?読み落としたのかなぁ?でも暫くは読み返せないでしょう、図書館へ返さなくちゃならないから。困っちゃうなぁ。
この作品の骨は「どうすればよろしいというのでしょう。幸せになるためには。・・・・・誰かを切り捨てなければ、排除しなければ、得ることのできない幸福がある。」あのページ・・・ここで読者を頷かせてしまう・・・そこへ読者を見事に引っぱりおおせたうまさに唸りました。
作者も作中の自分が生みおとした子供に引きずられるのでしょうね。
というわけで?ボトルが気に掛かるし、次の作品でも?等君の絵が鍵なら「滋子&敏子」さんにお目にかかれるかもしれませんね。そうなれば楽しい待ち時間ですが。
 

螺鈿迷宮

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海堂尊著

なんでこの作家の本を読むことにしたんだっけ?あ~?と考えないといけないほど昔?図書館に申し込みました。チーム・バチスタの事を聞きかじったからでしたっけ。それで図書館検索したら4冊本が出ていました。「チーム・バチスタの栄光」「ナイチンゲールの沈黙」「ジェネラール・ルージュの凱旋」そしてこの「螺鈿迷宮」。この作家の名前全く知らなかったんですから、全部申し込みました。この作家が書いた順には到着しなかったようですが、ままよ、です。
この本の裏書では現在勤務医ということと「チーム・バチスタの栄光」が第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞、しかわかりませんでした。どうやらご存知のフィールドを駆使した作品が多いようですね?お医者さん作家って結構いらっしゃいますよね・・・えーと・・・
文科系でもないのに、なんでこんなにお医者さんが文章上手いのさ?と、思うこともしばしばですが、この作品読み始めて最初に私が思ったのもそれでした。
先日読んだ薬丸さんのプロフィールも知らないのですが、彼より文にセンスがありますよ。私の好みに過ぎないのかもしれないけれど。
でも凄い勢いで書いていらっしゃるのでしょう?出版年を見ると。
ってーことは御本業の方はいかなる事になっていらっしゃるのでしょう?心配です。
私のいいお医者さんの原点はもうとっくにお亡くなりになられましたが、お隣の内科医院の河合先生でした。熱を出すと夜中もパジャマの上に白衣を引っ掛けて出てきてくれましたし、熱が下がらない時などは夜中に往診があると「ついでだ」と覗きに来てくれました。少なくとも海堂先生にはそんな時間は無いだろうなぁ・・・(それって、既に古き良き時代劇の世界かも?)
始めに取り付いたのがこの本でよかったのかどうか?なんかねぇ、この作品は取り組んでいる命題が見えそうで妙に見えない。
自己韜晦の迷宮なんて言葉が頭に浮かびました。
面白かったんですよ。一気に読みましたもん。でもねぇ、書きたいのが終末医療のあり方なのか?それに関する厚生省と医療現場の問題なのか?安楽死と自殺幇助サイトなのか?全死体解剖の計り知れない恩恵なのか?ま、全部なんでしょうけれど・・・それに向き合う人々が何ていうかそのぉまぁステレオタイプなのね?それで底が浅くなっているかも。書きたいものに向き合う姿勢は薬丸さんに1票!
って、誰が比べなさいって言ったの?そういう問題ではありません!
敵対する両方の情報をしゃべらせるのに実に便利なアンラッキートルネードで幸運の星下の坊やは二重スパイと両方に公言している調子のよさ。それで愛されるキャラなんて余りに底が浅・・・あらもうこの科白言っちゃってたわね。一寸安易な気がしませんか?
光と闇は並んでいたり、交じり合ったり、できるでしょう?ここまで対決姿勢をとる必然が今一伝わりませんでしたし・・・
行方不明人捜査は48時間が勝負!(FBI失踪者を探せより?)
こっち部門でもちょっと緊迫感が今一・・・ってそういう本ではないのか?
ただ医療現場の色々な事を覗き見できた面白さってやっぱり面白さでしょう。
尊敬すべき巌雄先生にはもっと普通の言葉でしゃべってもらって!彼の科白、折角「いいなぁ・・・」と思いたいのに、時代のギャップにけっつまずいてしまうのです。最先端の医療事情を頭の中に構築しようと努力していたのに、ここでも「あれ、時代劇だった?」になってしまう。
それに白鳥さんとか姫宮さんとかの性格有り得ない!それとも医療現場舞台コミックを目指して人物を造形したんで、これで良し!なのかなぁ?
それでも詰めの甘くない小百合先生がどう落とし前をつけるのか?覗いてみたい気持ちも十分に残っている一読者なのです、私。
この作家先生の早業なら、予約してある残り3冊が来る前に小百合先生巻き返すかも?
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ラビリンス

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ケイト・モス著

面白い本を読みました。
「ダ・ヴィンチ・コード」からの流れで見つけた本です。
色々な意味で楽しめました。
ミステリー!ロマンス!ファンタジー!冒険!伝説!フィクション?それにフランス南部飛び回りましたしね。
おまけに私自身に関しては丁度NHKで「カルカソンヌ」放映したのを見たところでしたから、あの映像を一生懸命思い出しながら・・・シテやコンタル城・・・行きたいなぁ!になりました。
ラングドック地方のちょっとしたイメージ観光をした気分です。
ベジエ、ナルボンヌ、ミルボア、ロス・セレス、モンセギュール、フォア、アルビ、おまけのトゥルーズと憧れのシャルトル!
欲張りなサービス満点の小説でした。
欲を言えば13世紀と2005年現在が代わる代わるに飛ぶ構成が
「上手過ぎるの?」で、特に最初の方はいらいらしちゃいました。
丁度アリスの運命に夢中になって、そこから目を離したくないところで切り替わってしまうんですもの。え、何で?ここで?
そして今度はアレースが心配で・・・「なんでそんなことしているのよ!」って危惧しているところで・・・やっぱり!切り替わっちゃうので。
おまけに題材がうずうずするんです。こどもの頃親しんだアーサー王の物語とかアイバンホーとかロビン・フッドだってリチャード獅子親王だって、十字軍がらみでしょう?私にとっては義経や楠正成・正行や赤穂浪士・・・なんかと同列?わくわくものですが・・・大人になって知れば知るほど十字軍は・・・厄介です。
ここではキリスト教カタリ派と聖杯伝説とアルビジョア十字軍が柱で輪廻が味付けで・・・って、輪廻って仏教だけかと思っていたら、キリスト教の一派であるカタリ派にもある思想なんですねぇ!
っていうか、カタリ派ってちょっとこの本で接しただけですけれど、
輪廻思想に近いものがあったり、男女人種に鷹揚なところ、宗派に鷹揚なところ仏教ですよ・・・?って感じです。
物語では聖杯伝説だったり聖遺物物語だったり十字軍だったり・・・結構楽しんでいるくせに、心の底では一神教って厄介だわって思っています。神はそれぞれに任せて全て受け入れて上げられればこの世のどれほどの血が節約できたか?って思っています。皆同じ神なのに・・・マァ、そんな事をいっていると冒険ロマン小説の半分以上は楽しめなくなっちゃいますけれどね。
そう、アレースはアリスに、オリアーヌはマリー・セシールに、夫はフィルに・・・多分輪廻?と想像しながら読んでいたのですけれど、さて?オドリック・バイヤールは・・・?というのが私の謎でした。
サージェかな?それともハリフがそのまま長生きしているのかな?
ハリフはそれまでだってどうやら何百年も生きていたらしいじゃない?オドリックはどうやら輪廻じゃなくて、そのまま生き残っていたみたいだし・・・この謎にはお終いまで引きずられました。
遺跡発掘から宗教異端審問制度まで幅広い知識を薄く吸収しましたが、十三世紀の法王インノケンティウス三世を筆頭にキリストの名の下で略奪戦争をした歴史というのを法王庁はどう扱っているのか知りたいと思いましたね。もっともそんな事を知ったら、法王庁の歴史を紐解いたら、法王を何人もつるし上げねばなりません。
ラング・ド・オック(オック語を話す国)?をオイル語を話すフランス人が統合していった血塗られた過程も興味を惹かれます。
ラビリンスってそもそもそういうものだったのか・・・ってことも。(ファンタジー映画の「ラビリンス」ちょっと思い出しました)
そういえばロマンチック街道を旅行した時、中世のまま残る幾つもの街は司教領でした。しかも彼ら司教の残した要塞・城は過酷な税金に反抗する領民から憎まれる自分を守るためのものでしたって勉強したのでした。
「ヨーロッパの中世ってホント(キリスト教のせいで!)闇ですね?」と、思いながらその中につづられる冒険にいつもながらわくわくしちゃった自分ってなんでしょ?
何時か来る?白馬の騎士に(私は王子より)弱いんだねぇ・・・!
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