臨場 (光文社文庫 よ 14-1) 臨場 (光文社文庫 よ 14-1)
横山 秀夫光文社 2007-09-06
売り上げランキング : 10148
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

rinjyo1.jpg  rinjyou.jpg

横山秀夫著

記念すべき?横山さんの十冊目になる。全部来るたびに父が「読み終わった。いいぞ!」と言って置いていったものである。
おかげさまですっかり横山さんのファンになってしまいました。
今では好きな作家の五本の指に入ると思っています。
そしていつも読んで裏切られることはありませんでした。
一寸異色の「出口のない海」にしても。
横山さんの魅力の「警察もの」の中でも「臨場」は娯楽性が強い方だと思います。なぜならいつもどおり本当に面白さに引きずられて夢中で読んでしまうのですけれども、彼の警察ものの中にはとても厳しいものもあるからです。人間の心の中が余りに細かく解剖されて「きついなぁ・・・」と主人公たちに言ってあげたいくらいの時も多々ありますものね。
その点、この主人公の切れ味鋭い解決はとても小気味がいいのです。しかも彼には一風代わった人間味がその体のどこか奥底に蠢いているのが感じられて、嬉しいのです。勿論この作品の主人公も健康面で危うい感じです。ひょっとするとこの神がかり的な洞察力は研ぎ澄まされた精神・神経のせいで、それは諸刃の剣で彼自身をも切り刻んでいるのではないか?と危惧させられてしまうからです。彼が魅力的であればあるほど、素晴らしい手腕を発揮すればするほど心配でなりません。彼の活躍する次作が期待できなくなってしまうではないですかと。彼の生き方の意固地さはなかなか組織では発揮できないものです。そこを警察の組織というものに多分本物の警察官以上に?熟知している横山さんがごり押しして?書いてくれているのが面白いのです。こんなプロがアッチコッチの警察署で生きていてくれるといいなぁ・・・なんて魅力的な登場人物に会うたびに思ってしまいます。横山さんの作品を読んでいると多分付き合いにくい奴らだろうなぁ・・・と、思っても、何故かいとおしくてその個性を受け入れてしまっている自分を見出すのです。個性って魅力的な資質のことかもしれないなぁ・・・って。特になにかに取り付かれたようにがむしゃらに進んでいく時に人は!なんて。
ところでこの作品はその魅力的で破天荒な組織のハグレ者の調査官倉石さんが八つの事件を解決に導くのですが、または部下を導くのですが(育てると言っていいかな)、その一つ一つの事件もまた様々で一つ一つに関係してくる捜査官たちの葛藤が読み応えあって、被害者たちの失われた人生もそこにはちゃんとあって・・・。「ゆかりは哀れだなぁ、その辺に居そうな子だけどとか、智子は面白いキャラクターだけど」とか、出てくる人物がきちんと性格を造形されているので全くのよそ事にならないのです。「餞」はいい読後感だったし・・・倉石調査官のキャラクターの色彩が暖かくなって・・・といったところなど楽しめる要素が豊かです。こんな?年季の入った個性的な警察の方たちが大量に定年になっていく現在「大丈夫なのかなぁ・・・警察は?」です。