無花果の実のなるころに

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無花果の実のなるころに 無花果の実のなるころに
西條 奈加東京創元社 2011-02-24
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西條奈加著

神楽坂が舞台だった。 なんだか知っている土地が舞台だと構えてしまうのかね? なんだかこんなテイストのTVドラマを数年前に見たような気がする。 あのドラマと妙に気配が似ている…と、思って、ああ神楽坂のイメージがこういう風に定着しているのかもと思った。 土地が醸し出す雰囲気は確かにあって、その感覚を共有できることも確かに多い。
先日の「浅草の女」でも、あれはどこの街の女でもいいのだけれど三社祭を背景にしたので、浅草の全国共通イメージの土地の女が立ち上がってしまっていた。 それはそれですごいんだけど、現実の浅草の人だった私からしても気恥ずかしいくらい、彼女は浅草の女だった。  で、小気味がすごくいいこのおばあちゃんお蔦さん、そのまま八千草さんにするわけにはいかないけれど…神楽坂芸者って、そうかこのイメージなんだ!と感服しちゃった。 私も人のことは言えない。 妙にこんな人々が神楽坂に本当にいる気になっている。 大体みんな気風がいいし、おせっかいで、気配りが効いて、程よいご近所関係ができているんだね。 浅草の店の客人たちもそんな気配りのいいなじみ感が良かったんだけど。
地名がしっかり実在だと良くも悪くもその土地の人ってイメージが共感できればのめりこめるんだなって思った。
それはともかく、この近隣の事件にかかわるお蔦さんと孫の関係が今実に求められている共存関係で、これは親子じゃなくて、ワンクッションある「程」が心地よいんだねぇとタメ息が出た。 親子関係は難しいんだけど…私も孫がいたらこんな風にうまく…ふふふ…あしらえるのか? いいなぁ!とこっちは大きなため息が出たのでした。

浅草の女

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浅草のおんな 浅草のおんな
伊集院 静文藝春秋 2010-08
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伊集院静著

3月11日の東北震災の後の自粛ムードの中…その後…自粛云々の是非はまだ収まりがつかないが、各地で色々な行事が自粛になったり、決行が決まったり、これというマニュアルがあるわけじゃないから…ドタバタだという気はするものの、自粛になった行事にがっかりしている向きも多いことだろう。
お祭りは土地の人のものだし、土地の人の祈りでもあるのだから…残念な気が強いけれど、まぁ仕方ない部分もあるなぁと、無理やり納得させられた気分でもある。
大体私はもう土地の人ではない。
しかし、もう父も浅草まで神輿を追いかけていく元気もなくなって…私もあと何回の宮神輿を見れるか?と思うと…これがまた妙にさびしい気持ちになる。
そんなわけで来週はほんとだったらお祭りなんだけど…と、思いながら急に浅草散歩を思い立って出かけてきた。
そして、浅草のいつにないというか久々の人通りの少なさに、仕方ないかもと思いつつ、またそれだけに浅草の人はつらいだろうなぁと思ってしまった。 その流れが…この本である。 たまたま図書館で目に付いてしまった。
たぶんこんな時期でなかったら手に取らなかっただろう。
この作家、一度も読んでみたいと思ったことがない。食わず嫌いをそのまま続けていただろう。
それが拾い上げてぱらぱらとめくったら…まさに三社祭のところが開いて、「浅草で祭りと言えば三社祭りしかありません」
それで持ち帰ってしまった。 なんだかよその土地の人はみんな浅草の女ってこんなだと思っているんだな(主人公は浅草の女に育った?んだけど)…と、思いながら本を読み終えた。私は一度も大人にならなかったから、浅草の女にもなり損ねたんだなという気が妙にした。
どっちにしてもどこに住んでも、女になる人は女になるんだけど…だから題が悪いわ…と思っている。 もちろんこの小説の中に封じ込まれた情緒には現実の浅草の女だった私は負けたんだけど。これは余りにも外の男が考えるタイプのステレオタイプだよとも思っている。
三社祭が来年は無事に行われますように!

あんじゅうー三島屋変調百物語事続ー

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あんじゅう―三島屋変調百物語事続 あんじゅう―三島屋変調百物語事続
宮部 みゆき中央公論新社 2010-07
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宮部みゆき著

「三島屋変調百物語事続」と題が付きます。2冊目になります。
新聞に連載されていると聞いていましたから…本になるのを期待して待っていました。で、出た!と、図書館に申し込んで…いったいどのくらい待ったのか?ようやく回ってきました。「事始」の続きで「事続」…この次は「続事続」なのかなぁ…なんてつまらないことを心配していますが…読み終えてもう続きを期待していますが…連載は終わってしまったんでしょうか?続いていますか?
さて、おちかさんがとても明るくなったのに…私も明るくなっています。掲載の4話も少しづつ明るさを感じるようです。
「逃げ水」のお旱さんは心置きなくたっぷりの水に取り巻かれて…穏やかにお鎮まりになるだろうし、平太も行く道が見えたし、三島屋の連中は大笑いできたし、おちかさんも。いうことなしの明るいお話。
2話目の「藪から千本」は針屋の怪談、幽霊怨霊話。だけどもそこはそれ人の心の闇が見せるお化けのお話。それでも終わりよければ…ちゃんと収まるところに収まって、おちかさんにはお勝さんという強い味方ができて、これから話の聞き方が少し変化してくるのだろうなぁ…と予感させられた。
そして3話、「あんじゅう(闇獣)」くろすけのお話。 どうしたって「まっくろくろすけ」を思い出しちゃうけど…日本の古い家の真っ暗な片隅。闇が当たり前のように家の中に蹲っていたころには確かに各家に生息していたかもしれない懐かしいお化け。 このくろすけと新左衛門とお初夫婦との交情の様には泣かされる。哀切でやさしくていじらしい。まっすぐに心にしみてくるいいお話が挟まった。
4話「吠える仏」はそのまま3話から引きずって…登場人物に青野若先生が増えそうな予感も。 それでもこういう登場人物が登場するのに…まだ100分の数話目!っていうのは早すぎる…なんて思ってみたり。
それにしても、物語性の豊かな素晴らしい才能だわ!と宮部さんに改めて…って、読むたびに、感嘆!

悪意

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悪意 (講談社文庫) 悪意 (講談社文庫)
東野 圭吾講談社 2001-01-17
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東野圭吾著

「赤い指」「嘘をもうひとつだけ」「新参者」に次いで加賀恭一郎シリーズ4作目。
本当にますます順序めちゃくちゃ。 相変わらず新刊の「待ち人多し」っていう本から予約しているからです。 こんなに読みたい本が山積じゃぁ…いったいどうするんだ?です。
さて、この作品アガサ・クリスティ―の「アクロイド殺し」を思い出させた。 犯人の手記があるという点でこの作品を思い出したのだけれど。私が知らないだけでこういう形の推理小説って結構あるのだろうか?
この作品の犯人の手記は初めっから?警察をミスリードするために書かれたものだったから、本質的には違ったのだけれど。
意外なくらい杜撰な手記で?犯人が早くに割れてしまった後が長かったー。
だからこの作品は大半が犯人(主人公と言っていいだろう)の人格を読み解くことで動機が分かってきて…解決に持ち込むまでのプロセスが見せ場だった。犯人と被害者の人となりを読み解く作品だったということだ。
よくいう通りに?犯罪者の性格が犯罪を形成するのだ!
犯人の手記と加賀さんの記録の行ったり来たりを、つまり双方向から事件の様相を読むのを面白いと感じるかどうかがカギだと思うけれど、今回も加賀さんの人間洞察の見事さに脱帽させられるのだけれど…私はちょっと煩わしさにとらえられて、一気の面白さに欠けるうらみがあるなぁ…と思ってしまった。
私の頭には煩雑すぎたってことか?
それでも…だからか?加賀さんは読むたびに好きになる。
形成途上なのかもしれないのに? だって私はまだ若いころの?加賀さんをあまり読んでいないのだものね。
まだまだ面白い作品ができるかもねぇ…趣のうんと変わった沢山の作品を読みたいな。
事件そのものにものすごく意外性があるというより、加賀さんと犯人のかかわり方が目新しい…っていうような作品が。
新刊が出たようなので予約しよう。 加賀さん今何歳なのかなぁ? 定年まで刑事やってくれるかなぁ?

陰陽屋へようこそ

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陰陽屋へようこそ 陰陽屋へようこそ
天野 頌子ポプラ社 2007-09
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天野頌子著

 

外しました! っても、この作品が面白くなかったからではありません。 夢枕獏さんの陰陽師シリーズがありますが…私はそれ系の作品を探していたのではなくて夢枕さんの短編の時代物でなにか面白い作品が他にないかなぁ…と、探していたんです。 そこに目に入ってきたのがこれ。 なんか短編集っぽいし…朗読の素材にならないかなぁ…と、借りてきたのですが…。         これはほんのライトノベル?ターゲットは中学生でしょうか? そう主人公は往時の狐の誰かの落とし子、捨て狐の妖狐もどき君でした。 と、頼りになるんだかならないんだか、ただやたらといい男の陰陽師君。  周りののんきな?外野がいいから、つい楽しく読んでしまった。 こんな中学校だったら、いじめはないわね。 お狐君をみんな認めているんじゃないの。かははと笑ってしまった。 本人だけが隠してるつもりで、周りは面倒だから?そういうことにしているぜ…っていう脱力系のこの作品は夢枕さんの向こうを張って?思いっきりいいテイストじゃないの…? さて、続編んがあるんですか?…読むかどうかは思いっきりわかりませんけど一応思ってみました。 

 

 

裏庭

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裏庭 (新潮文庫) 裏庭 (新潮文庫)
梨木 香歩新潮社 2000-12
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梨木香歩著 

ファンタジーということで、しかもあの、最近素晴らしい作品にあたっているあの梨木さんの作でもあるということで期待いっぱいで取り掛かった。 そして、少女の成長譚としても、異世界の冒険ものとしても読めるのだけれど、意外なくらい大上段で妙に教訓的な本という感じも受けた。 成長譚としては「f植物園の巣穴」「西の魔女」「からくりからくさ」とかも読んでいますし、また異世界譚としても「家守奇譚」「りかさん」「f植物園…」とかを読んでいますし…梨木さんの世界の魅力はその混在にあるのだと思って楽しんでいました。だからその意味ではこの作品は梨木さんの本質を正面切って出されたような気がします。が、ただ他の作品ではちらっとも感じなかったお説教みたいなものをパッチンと当てられたような…ちょっと消化するのに胃液をいっぱい頂戴みたいな…。 単純に面白く一気に読むことだけはできないようでした。 世界も人も生死もその対比も呼応も、読み終わってみれば素直に考えられたのだけれど、読んでいる途中に少々気がダレルというか散漫になって冗長に思われたのかもしれません。裏庭という言葉が醸す…日の当たらない世話をされない手をかけられない…という印象が主人公の照美(テルミイ)や影の薄い世界を歩んだ人々と重なり合って…冒険と再生の物語に影を落として…その影の色合いが大量の血や暗闇の世界を配されていながらも最後まで濃淡が心にはっきりしなかったから…かしら? 反対に様々なことが教えられたような被されたような…面倒くささかなぁ?…をずーっと感じていたような気がしたのです。 物語か、語り口か、が、硬くて構えていて入りにくかったような?この硬さが気になったので調べてみましたら…「西の魔女…」の後に出た作品で、最近私が読んだ一連の作品たちより古い作品でした。 そこに関係かも? 

思い出探偵

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思い出探偵 思い出探偵
鏑木 蓮PHP研究所 2009-02-14
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鏑木蓮著
この作家も初めて。 友人の推薦です。 読み終えて、非常にいい読後感があったので、その他の作品を検索してみたのですが・・・残念ながらまだ余り作品が無いし、すぐ読みたいと思う作品もまだないかな。そのうち・・・と、思いますが。
さて、この際物でない?探偵。 探偵というとまず思うような探偵とは一線を画す、思い出を探索する探偵。 確かに探偵って職業を使うとどんな物語でも出来るんだなぁ・・・という感嘆。 冒頭の警察を辞しこの職業をえらんだ経緯がそのまま縦線になって様々な事件?依頼が来て・・・探偵社が仕事に掛かります。 物語が始まるわけですが、この探偵社を始めた実相浩二郎とその妻、ここに彼を慕い彼に心酔してここで働くようになった人々群像がとてもいいのです。 みんな心に負の何かをそれでも大事に抱えている。人の痛みが判る人ばかりです。そこへ持ってきて思い出を大切にする人々が依頼者として集まってくるのですから・・・いやな事件はありません。 (唯一橘さんの悲惨な過去に関わる厭な後味を残す事件があるが)暖かい気分が充満しています。 その優しさは・・・手の届かないウソのような・・・それではなく、その辺に手を伸ばせば手が届くような優しさでもあるのですね。 思いやりがあれば・・・届くんだっていう身近さですか。 伸ばされた手がふっくらと丸まってそっと掬い上げようとしているみたいなんですね。心を大切にしている人々を、よそ目でも見させてもらうってことは、こちらも満たされ、過去を大事にしたいとおもわされる感じです。だから素直に読み終わって「ああ、優しくて思いやりがあって、満たされたなぁ・・・」って気分です。 過去を大事にしないと現在の立ち居地がぶれるんだろうなぁ・・・

岡本かの子全集

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岡本かの子著

先生が以前ラジオで岡本かの子の朗読をなさったことがあって、その朗読を聴いていた。 聞いて、その世界を垣間見た?のではあるけれど、実際手にとって読んでみようとは思わなかった。
ちょっとばかり重苦しいし、じっとりと絡みつくような湿っぽい情緒がご遠慮申し上げたい!という気にさせたのだろう。 耳から入ってくるその世界は少々異界の気味があって、現在を暢気に生きている私には理解が難しいだろうと思われたこともある。
それなのに、私の課題に「何か一つかの子さんの作品に挑戦してみろ」・・・と、まぁけしかけられたのだ・・・ろう?
それでとうとう手にとることになったのだが・・・この一冊を読み終わる頃には、私はすっかりイメージを入れ替えることになった。
古臭い情緒のように思われていたものの奥に、思わぬ柔らかい・・・確かに湿っぽくはあるのだが、女なら何処かに抱いている、思いがけなくも自分の底からひっぱり上げられる、そう忘れていたような意識していなかったような感覚を思い出させられた・・・といった風だろうか。 好きではないし、分かったともいいたくないのだけれども、それでも・・・本当は私もこの世界知っている・・・というような。
そしてその中の美しさをも確実に読んでいる私は感じているのだということも白状しなくてはならないだろう・・・と、思う。
描き出そうとした世界は確実に受け取ったという気すらする。
表現できるとは思わないながらも、共感とか同感とはずーっと遠いながらも、心当たりのあるこの世界を暫くさ迷ってみようかな?と・・・私はとりあえず?課題を「家霊」にすることにした。 母から娘へ譲り渡される情念の呪縛みたいな物を、そこに絡む意志や諦念や糾える様々な柵や運命や・・・怖い世界ではあるけれど・・・とまだ思いながらも。

英雄の書

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英雄の書 上 英雄の書 上毎日新聞社 2009-02-14
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英雄の書 下 英雄の書 下毎日新聞社 2009-02-14
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宮部みゆき著
これは・・・呆然としてしまいました。 出版されて直ぐ申し込んだつもりが後れを取ったらしく? 今頃ようやく手にしたのですが・・・これだけ待ったのだからさぞかし沢山の人が読まれたことでしょうが・・・皆さんどう思ったのでしょうか?
私は「いや、どうしよう・・・」ってあいまいな気持ちで読後記録を書き始めました。
「その意気やよし!」って言葉がまず頭に浮かびました。
ある意味非常に直截に作家の言いたいことが腑に落ちてきます。
語りたいこと、この物語を通して伝えたいと思っておられたのだろうことが・・・わかるような気がします。 でも・・・でも、なんです。
読み始めて直ぐ、なんだ「ブレイブストーリー」に続く似た物ファンタジーなのか!・・・っと、ちょっとがっかりしました。 だとするとロールプレイングゲームの物語みたいになっちゃうのかな?と思ったからです。宮部さんの作品の凄いところはそれでも読ませてしまうところなのですが、それでは私にはちょっとつらい。
読み進むにつれて物語の姿が朧に見えてきたら、今度は子供に読ませたいという気持ちのせいか(青少年読者を意識しすぎか?)、主人公を11歳の少女にしたことから生まれたある種の破綻が気になってきました。そこはファンタジーですから印を戴く者として大人びてもそれは現象なんですが、それでもかなり無理が生じたような気がしてなりません。 違和感がどうしても消えません。
感情的に寄り添ってあげたいと思うと途端に隔てられる感じでしょうか。むしろこの女の子に負わせた「その意気」が大きすぎて物語IN物語の方向がばらついてしまったのではないか・・・それで・・・どこをどの筋を拾っていけばいいのだろうと迷ってしまったようなのです。中途半端な大人なので・・・私。
光まばゆい誰もが憧れ信じる英雄の影の部分黄衣の王が背中合わせにあるという単純な図式の上に今の社会で起こりうる加害者と被害者の背中合わせ、何時どちらに転ぶかもしれない危うさを乗せているのだと受け取ったのですが・・・この物語性が反対に実際の社会をきちんと見据えないあいまいさに陥れたのではないかという気もしています。 どこを受け取りどこを主たる綱にするか迷いながら読んでしまったせいか・・・読み終わって中途半端に置かれたような・・・呆然という状態になったのかも?
これは・・・永遠の一部を切り取ったもの、世界の全ての輪廻の回転中の一時のことなので・・・続編は無いと思いますが、そう思うと益々消化不良に陥った感がするのであります。
作家というのは・・・これで結構つらいのよ・・・物語を生み出して・・・それが見事に一つの世界を生み出せたとして(ひょっとしたらいい作品を書けば書くほど)・・・作中の人物やイデオロギーが長生きして読者に影響を与えちゃうのよ・・・毒を生み出す事だってあるのよ・・・でもそれは物語だから・・・それはその輪の中で終ってるものだから・・・なんていうグチめいたものが聞こえたような気も?

f 植物園の巣穴

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f植物園の巣穴 f植物園の巣穴朝日新聞出版 2009-05-07
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梨木香歩著

「家守綺譚」が面白くステキだったのでまた梨木さんの本を検索して同じ傾向の作品が無いか探してみました。
ちょっと不思議で、ちょっとミステリアスで、ちょっと優しくて、そして心なし古風で風雅?格調があって?そんなテイストの作品があったら・・・という気持ちで。そしたらありました!読み始めたときにはこれ続編かしら?って気がしたのですけれど・・・違いました。ちょっと「夢十夜」を思わせるテイストもあるように思いましたが・・・。
読んで感じる時代感覚は「家守・・」と同じなんです。そして主人公が醸すなんと言うか繊細だけれども鷹揚な・・・ある種育ちのよさ?そんなものも似通っているような。不思議な世界の不思議な動植物に彩られて・・・私も読みながら「迷路に落ちたぞ!」状態になって・・・どこへ連れて行かれるのだろう?と、いぶかり恐れながら怖いもの見たさ、先を見たさで付いて行くような感じでした。主人公より大分腰が引けていましたね。そうかこの主人公は自分の過去に取り落としてきたものを見つけ理解し今立つ場所をしっかり固める旅をしているのか・・・今風に言えば自分探し?いいえ、自分がしっかり向き合わなかったものに向き合う旅にあるんだ・・・。
坊が出てきてからは・・・なんか読む私の心まで涙もろくなるような・・・同調、シンクロする感じが快くありました。
人の記憶が人の心の中を操作する経験は多かれ少なかれあります。
都合いいように自分を擁護してくれる。でも多分そのままに放置することは見えない傷を塗りこめるのと同じことなんだろうな・・・なんて。歯の穴、木の洞、穴の中を下へ下への旅。導くもの、暗示するもの、同行するもの、人には導いてくれる何かが憑いているのかも。良心、思いやる心、受け入れる心、そんなものの事を考えていました。水の流れと時の流れ・・・素直に流れていくことと流されていく事をも。
 

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