マスカレード・ホテル

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マスカレード・ホテル マスカレード・ホテル
東野 圭吾集英社 2011-09-09
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東野圭吾著

予約してから…かれこれ…どのくらい経ったか…で、プラチナデータ―に続いて到着。 前作はまずまずと評価したのだが…これは面白かった。まずまずは無し。
ホテルマンの凄い人っていうのは…ざっと…TVドラマや本や映画や…色々いたなぁ…という感じは否めないが、やはり凄いなぁ…と思わされた尚美さんにして…人間はやっぱり読み切れないものなんだと低レベルで私は感心している。 それじゃドラマは始まらないんだった。 この作品は新田刑事とホテルマン尚美さんのフロントでのやり取りが人の見方を示唆していて面白かったことに尽きるかも。 二人の努力、新田さんの成長?が読みどころだった。 マスカレード、仮面舞踏会、仮面をかぶる、仮面をはがす、仮面をかぶらせる…なるほどなぁ人間を描くのにやっぱりホテルは最高の舞台なんだと改めて思わされた。 二つの立場が相克するところに加えて、いつどのように犯罪者が現れるのかという期待が相まってスリルがあったな。 だからいつの間にか犯人の姿はどうでもよくなっていたのかも? だって犯罪のからくりより結局は二人のやり取りの方が楽しめちゃったのだもの。 これって犯罪捜査物を読むにはどうなのかな? 疑問は残るけれど…またしても容疑者Xには届かないことは確かだけれど…まいいんじゃないの?面白く読めたもの…と、思っている私です。 ホテルを舞台に使って、駄作はあり得ない…ってことで。 つまり読んでいるときほど書き始めて見たらそれほどじゃなかったのかなぁという気もしてきたってところです。

無双の花

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無双の花 無双の花
葉室 麟文藝春秋 2012-01-27
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葉室麟著

立花宗茂の義について書いた小説。
と、書き出したのは、この作品の前に 火坂雅志さんの「真田三代記」を読み終えたところだからである。 「義」と言っても人によってなんと違う事だろう。
「その人にとっての義」は他人にとっては常には義となりがたし。
しかしその人の義が人の心を打つほど見事であれば…それはまさしく「義」として認定される。…みたいなことを思って読んでいた。
この作品にも真田幸村が登場し、最近では? 義といえば上杉…上杉といえば直江兼続の義が一番に思い起こされるが…戦国時代にあって燦然と輝くのはなんてったって幸村! だけど彼の場合私は義というよりも心意気! というわけでうちの旦那の好きな武将の一人に数えられるこの武将立花宗茂の義は人生を分かち合った妻に誓った「大名として返り咲く」事だった…というのが…義であるかどうか?  それはさておき彼と妻の心の旅にはある種の感銘を受けた。 解かるから重くなり、重くなるから遠ざかり、遠ざかるから推し量り…結局は結び合っている。 こういう心模様にはなんとなく心当たりがある…つまりは心底は自分だけのもので愛する人にさえ知られたくない。でも知ってくれる人はかけがえない存在でもある。
相手を真実思わなければ知ることはないのだからね…などと、ごちゃごちゃこの夫婦の在り様を思っては見たが…。見事かもしれないが…その実心底淋しかったろうなぁ…妻は。
そっちの方に関心がいってしまったので、彼の返り咲きの話がすんなりとは私の腑には収まらない。ただこれだけは確かだと思うのは彼が歩む道に喜んで付き従った多くの見事な男たちがいたことだ。 これは男を測るのに最高に確かな目安だ。 彼の義を肯う男たちがいたってことにこの義の見事さは尽きるかも。戦国時代の武将は誰を取り上げても面白い。それだけ個が際立っていたのだなぁ、すごい時代だ。

引かれ者でござい ・ 待ち伏せ街道 ー蓬莱屋帳外控ー

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引かれ者でござい―蓬莱屋帳外控 引かれ者でござい―蓬莱屋帳外控
志水 辰夫新潮社 2010-08
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待ち伏せ街道―蓬莱屋帳外控 待ち伏せ街道―蓬莱屋帳外控
志水 辰夫新潮社 2011-09
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志水辰夫著

「つばくろ越え」を読んでから…当然これはシリーズ化されると踏んで…待っていましたから「蓬莱屋帳外控」と銘打って出版された「引かれ者でござい」はすぐ読みましたし…「待ち伏せ街道」も広告を見てすぐ図書館に予約しました。
ロードムービーはどんな時でも興味深く楽しめますが、この長飛脚という設定は志水さんの文章を読むのに最高のめっけものの題材、シチュエーションだとこの2作を読んで思っています。
「引かれ者でござい」は「引かれ者でござい」「旅は道連れ」「観音街道」3編。
「待ち伏せ街道」は「なまくら道中」「峠ななたび」「山抜け女道」3編。
ただ、これらの作品群は終わりに行けばいくほどぐいぐいひきつけられてくるのですが…忍耐力を要求するという点でハードルがどんどん高くなっているような気がします。
かなり微細な地図が必要ですし、行程を一緒に歩く根気も要求されます。 しかも実に先が見えない。 本当に一行ずつ、一枚ずつ、章ごとにようやく一枚一枚道の、登場人物の姿の、霧が晴れていく…という感じでしょうか。 正直かなりもどかしさを感じつつ、それでも読みふけっていき…最後にやっぱりそうだったんだなぁ…と腑に落ちてほっとさせられ、この主人公たちを改めて好きだなぁ…と思わされるのです。
全くどうしてこんな横道に入っていくのかなぁ…それが分からないうちはじりじりじりじり頭を焼きますね。だからこそ最後が嬉しいのですか? そこでやっと私は笑っちゃいます。
男って!と。 この!が何とも好きですね。
男を見込んで仕事の裁量を任せる勝五郎も忠三郎も見事なら難しい仕事を見事なし終える飛脚陣も見事!一仕事の後引っかかった脇道をとことん追っていく飛脚たちも凄い。そしてまた彼らもその仕事を引き受ける自分自身の背景を背負っているところも読みどころ。かかわったものに人にきっちり結末をつけてみせる器量に脱帽して読了する。もう強靭でしぶとくてかっこいい!この完璧感!街道や山越えの詳細が又限りなく興味を惹き起こす!関わってくる村人通行人が面白い。
3冊読んだところでようやく重い腰を上げて蓬莱屋の手ごまの飛脚さんたちのプロフィール帳を作ろうかな?なんて思い始めました。 仙造さんが好きで彼の登場を待っているのですが…他にもどんどん地味(そう)でしたたかで頭のいい目覚ましい男が排出されてきそうで…こっちも頭も心も整理して迎え撃たなくては…という境地?ですよ。
暇になったら三冊また読み通そうって思っているのだけれど…今が暇じゃなければいつ暇が来るんだ?というのが私の痛い処。

モルフェウスの領域

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モルフェウスの領域 モルフェウスの領域
海堂 尊角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-12-16
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海堂尊著
さて、今回のキーワード?は「コールド・スリープ」
未来の医療水準をあてにして、治療方法が確立するまで冬眠して待つ。…という医療?
SFにある命題ですが…現実にこんな日は遠くない…なんて気がしていますが。
実際できたとして、そこまで生にしがみつくだろうか?という単純な疑問が私にはありますけれどね。目が覚めたとき周りは元の私の環境じゃなくなっているなんてリスク怖すぎますもんね。 そう私は何より臆病者なんです。
ですからこの主人公涼子さんには…頭が下がってしまいます。
母より母性豊かで、恋人より忠実。 こんな愛!そしてこのような知性、地上にあるのだろうか?ってくらいに。
今回もお役人のあまりの保身、狡さ、事を消す才能?…さまざまな無能を医療の進歩の裏側で滞っている問題をカリカチュアにして見せていただいたような。 今の内閣のというか政治家の有様のひどさの上の官僚の情けなさ…にぴったり重なって来るから…いやになりますよ。
リーダーには先を走ってもらいたいものです。 あらゆる意味で…時代を追っかけてもらいたくありませんよね。 今回は白鳥さんではなく先端技術者の西野さんが狂言回しで…いつもながらそのパワーに引っ掻き回されつつ…なんだかまた今の医療レベルと厚生省のレベルの知識をしっかり得てしまったような…気分!
でも、ちゃんとドラマとしても、眠るアツシ君を見守る涼子さん、涼子さんと西野の丁々発止、さらに曽根崎さんの人間味…などなど楽しめました。

マドンナ・ヴェルデ

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マドンナ・ヴェルデ マドンナ・ヴェルデ
海堂 尊新潮社 2010-03
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海堂尊著

「医学のたまご」「ジーン・ワルツ」の姉妹編
曽根崎シリーズとでも名前が付くのですか?
そうなんだ! 薫ちゃんと曽根崎慎一郎の関係が実に魅力的だったから、完璧親子と思っていたけれど…ひょっとして薫ちゃんの遺伝子は…?
清川先生も大変だね…って…あれ?ジーン・ワルツの話もう忘れてる? あれ?って、先日映画「ジーン・ワルツ」見てきちゃったのね。 これが…失敗か?どうも話がややこしくなって…清川先生、自分の息子が(または娘が)できたって知っているんだっけ? 少なくとも映画では感ずいていたよ。
アーわかんなくなった。
でも考えてみればそれはどうでもいいことなんで…要は代理母が問題。 外国で代理母に生んでもらった子が日本で戸籍難民になっているってニュースを見たような…あれはだいぶ前の話だよ。 それでその後その話はどうなったんでしょ? 不覚にも…知らない。
私はもう代理母にもなれないし…孫ができる気配もない。 だからあまり深刻にこういう問題考える必要もなかった。
でも、日本の将来を考えて青写真を提示しなければならない政治家の方々にはちゃんと考えてもらいたい!もんだ。
そう、日本で子供がまた増えだして、人口のピラミッドが健康な形?になるためには…産婦人科と小児科の立て直しは大前提だからね。 理恵先生の大向こうへの問題提起は子供の将来を真剣に考える祖母兼母のみどりさんによって阻止されたまんま、行き詰ってしまったのですから。 ここでは事態は前進しなかったのですね。ただ理恵さんが母となって、母となれて?どのような進歩を遂げたのか? そこが知りたいところですね。 それにしても、こんな女性いるんだ? なんだか二人とも変な女性!それはさておき、産婦人科の女医さん増えているはずなんだけど…と、思うんだけど?…その方々で将来ビジョンを描いてもらえないものですか…ね?  ただこの国に今子供が生まれてきても、幸せは保証できないって感じがどうしてもするんです。 厳しい世界を生き抜かなくちゃならないんだよ…って、いたいけな赤ちゃんに警告しなくちゃならないような。 希望を提示できないような。 とりあえず大人が胸を張って…生まれてきてよかったね、ありがとう!素晴らしい未来が君を待っているよ…って胸を張って言える社会を作るのが…まず大人の覚悟!ってものでしょう。

茗荷谷の猫

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茗荷谷の猫 茗荷谷の猫
木内 昇平凡社 2008-09-06
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木内昇著

「染井の桜」「黒焼道話」「茗荷谷の猫」「仲之町の大入道」「隠れる」「庄助さん」「ポケットの、深く」「てのひら」「スペインタイルの家」短編9つ。木内さんが直木賞受賞して「のぼり」さんと呼ぶ女性であることを知りました。 受賞作の「漂砂のうたう」は出遅れて、図書館で借りられるのは…270人待ちです。ある意味意外でもあります。宮部みゆきさんの「小暮写真館」などは半年も前に予約して…まだ350人待ちですものね。もっとも私は賞というものを取ったからって予約することはあまりないのですが。「漂砂…」は描いている時代と人に矯味があります。                 この作家の作品は以前「染井の桜」を朗読された方がいて、のぼるさんと呼んでいたように記憶していました。 いいなと思い作品を検索してみたらなぜか新撰組関係が多いようでした。ですからてっきり男性だと…。が、まだ作品は少ないです。 しかし今回この作品(すぐ借りられたので)読んでみてなかなかの短編作品群に感嘆しました。うまいです。 少しずつ関連のある何かによって作品が続いていくのですが…そのつながりの妙はおいておいても、一つ一つが全く別種の趣を奏でています。 ま、好きなのも嫌いなのも。 でもそれぞれに不思議な興趣があって…読まされました。              たぶん私には「染井の桜」と「てのひら」が一番素直に読めたと思います。 特に「てのひら」は自分の身に沿ってくるというか、時代の雰囲気、母と娘の微妙な感情の擦れ違い思い入れというものが身近で、感傷に飲み込まれました。この作品群を読んで、この作家は「私好きだな」と思わされたのですが、それより文体やそこに横たわる感情の微妙な危うさが奇妙なねじれを感じさせて…一筋縄ではいかない作品を提供してくれそうだな…と背筋がゾクゾクっとします。楽しみでもあります。 その感じは「茗荷谷の猫」とそれに続く「隠れる」で気持ちに引っかかるとげのようなものがざわざわするのですが、「てのひら」で何がしか家に関してはほっとさせられて、それが読後感をよくしているのかもなぁ…。             内田百閒さんて「まぁだだよ」のあの先生ですよね?いったい本当はどんな人だったんだろうね?と、妙に気になっていますが。 

みじかい眠りにつく前に

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金原瑞人YAセレクション みじかい眠りにつく前にI 真夜中に読みたい10の話 (ピュアフル文庫 ん 1-10) 金原瑞人YAセレクション みじかい眠りにつく前にI 真夜中に読みたい10の話 (ピュアフル文庫 ん 1-10)
中島 梨絵ジャイブ 2008-11-10
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 真夜中に読みたい10の話
              金原瑞人YAセレクション

十作家による十作品
有島武郎の「小さき者へ」は別格として、いしいしんじ著「サラマンダー」と恩田陸著「飛び出す、絵本」は既読。二つとも好感の持てる作品で覚えていました。
他は初めて。
で、取り立てて心に残るだろう・・・と、思うのは1作。寺山修司「踊りたいけど踊れない」
寺山修司さんの名は本当に良く知っていながら・・・私は読んだことが無い。全く作品に接したことのないまま、多能多芸多作多趣味の変人風なイメージがあって作品に出会いたいとすら思ったこともありませんでした。それがこんな小さな作品でばったり出会って・・・不思議な感じでした。
知らないまま作られていたイメージと随分違ったので。
どちらかと言うと青年期の記憶に似ています。自分が分からなかった頃というより自分を分かろうとしていたなぁ・・・知ろうと足掻いていたなぁ・・・という時に近い。今は自分がちっとも分かって居ないけれど自分がなんであろうともまぁいいやぁ・・・そんなものじゃないの・・・違ってても別にいいのよ・・・みたいにいい加減になっているけれど、いい加減ではいられなかった頃の記憶・・・それを呼び覚まされたような懐かしさ。
なんとなく抱いていたイメージより正直な人だったのかも?と、たった一つの可愛らしい作品でふと思ったのですが・・・

道、絶えずば

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道絶えずば、また
道絶えずば、また
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松井今朝子著

7月に松井さん4作目に新聞に新刊案内で読んだこの本を予約しました。
勿論今まで待っていたから即今読み終えたところなわけです。
ところが読み始めて失敗したことがわかりました。この作品には「非道、
行ずべからず」という前編があったのでした。その前編の5年後の多分どうやら同じ顔ぶれが登場する新しい歌舞伎中村座から始まる殺人事件を描いたもののようでした。まずこちらを先に読むべきだったかもしれません。                               登場人物を挙げて見たいほどなんか歌舞伎ファンには嬉しそうな・・・感じですが。
前三作、私が読んだ松井さんの作品は絶品!でした。でも、残念ながらこの作品もしっかり書かれていながら・・・のめりこむ面白さはありませんでした。前の作品をちゃんと順に読んでいたら登場人物たちにもう少し思い入れが出来ていたのかもしれません?
それにしても冗漫の印象があります。
有名名代の絶世の女形の異常な死から幕を開け、無垢な?町人が何人も殺され、その探索が難渋を極めている。それと閉口して偉大な父に先立たれ襲名を控える血の繋がらない兄弟の女形の芸と父の謎の死に揺れる芸道の話とが交差する。構造的には隙の無い構築物が出来上がりそうな期待を感じさせてくれるのに・・・今ひとつ本にのめりこませる力が不足しているような。なんだろう?
読みながらこの面白くならなさは何が原因なのだろうと考えている。
それぞれの登場人物の心の描き方が、視点が、作家にもう一つ愛情が無いような。突き放した客観性が生ききれていないような。
「あなたも彼らのことが本当は分かっていないんでしょう?」と、聞いて見たくなるような。宇源次が足を突っこんでいる泥沼はあるのだろうし分かろうとすれば分からないではないのだけれど・・・それじゃぁその向うに居る筈の市之介はどうだ?というと・・・彼の葛藤は簡単に乗り越えてしまったようじゃないの?本当はそうじゃなかったろうに・・・言葉と時間でごまかしちゃったのね・・・みたいな片手落ち。とまぁ私にはこの二人の葛藤がもう少し書かれていて欲しかったんだなぁ・・・と、自分の感想を覗き込んでいる。事件の解決のまだるっこさが役者の葛藤をもだらだらとしまりの無いものにしてしまったような気がする。
う~ん、「非道、行ずべからず」を読んでみないとこの作品の感想を書くのは非道なのかな?作中の人物が肝心の宇源次を始め道具方はもとより、理市郎も笹岡ももう一つ人間として見えてこなかったのです。
 

見知らぬ海へ

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見知らぬ海へ (講談社文庫) 見知らぬ海へ (講談社文庫)
隆 慶一郎講談社 1994-09
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隆慶一郎著

そんなわけで(「一夢庵風流記」参照)この本も続いて旦那から。
この本の場合は彼の城廻の方の関連がより深いようです。それに静岡の海や城はなじみのある懐かしいものですから。
武田といえば山梨・・・なんか海とは縁があるような気がしませんが、その武田家も恋焦がれた海・湊を持っていた時期があります。武田の海軍、意外と知られていないかもしれませんね。その武田の海軍の本拠地が清水港。そこで育ち武田家滅亡の後、向井水軍を率い北条水軍と駿河湾での決戦を経て大きく成長していく水軍の将を見事に描いた作品です。
慶次郎に惚れたように、やっぱり読む人を惚れさせずにはいない見事な男を描いています。多分男が惚れる男がテーマなのでしょうけれど、それはやっぱり男も女も人が惚れる人ということでしょう。
こんな男今の時代にいやしないわ・・・とため息も出ようものですが、でも時代が要求する人物というのはいるようで、時代にはその時代を見事に生きる人が必ずいるものです。あの時代だからこそ坂本龍馬は輝き高杉晋作は光る。そしてこの向井正綱もこの時代だからこそ輝いた・・・ということはあるのでしょうね。それでも、隆さんが拾い上げなければ本の好事家の間だけでひっそり知られただけの存在で終ったでしょうに。
歴史小説を書く人の真の喜びは自分が歴史の闇から引っ張り出した人がちゃんと明るみの中をひとり立ちして歩き出すことなのかもしれないな・・・なんて思いながら読んでいました。
この先駿河の海を見ると、ここで自らを磨き上げ素晴らしく強い水軍となって戦い抜いて死んでいった男たちの亡霊を見られるのではないか?という気がしてきます。
しかもこの向井正綱という魚釣りの大好きなのどかな気質の人があの時代にではなく生まれていたらニコニコと素直に釣り糸を垂れて一生を送ったに違いないと思われるだけに、ある意味時代を得て生まれた人って幸せなのかも・・・とも思われるのですが。反対に名を残すことの裏にある人生の凄みは決して幸せなものではないのかもとも思わされるのです。無名で死んでいく幸せというものをもまた合わせて感じられた作品でした。
それにしても戦国時代にはどれだけの漢が排出したのでしょうね?今後もどんな人物に光が当たることか・・・と、思うと、もう隆さんの新しい作品にお会いできないのが本当に残念です。全部の作品を読もうと思いますけれど・・・少ないのです。
 

ものがたりのお菓子箱

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ものがたりのお菓子箱―日本の作家15人による ものがたりのお菓子箱―日本の作家15人による
谷崎 潤一郎飛鳥新社 2008-11
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15作家、15作品が確かにきっちり詰まっていました。様々な味わいがあるという点では確かにお菓子箱ですが・・・多分に駄菓子も高級菓子もごった混ぜの気配です。コンセプトがなにかな?誰か考えてください?
小説・童話・詩など、別に甘いものとか辛いものとかを詰め合わせた気配も無いのですが・・・。不思議なごった煮です。
小川未明さんの童話など、本当に久しぶりにお目にかかりました。この方そのものを忘れていたといってもいいでしょう。最近著作権が切れたかなにかで新美南吉さんの童話に接する機会が何度かありました。最近の童話ってどんななんでしょうね?と、思いましたが・・・縁がなくなりました。
笑えたのは谷崎さんの李太白です。最初綺麗な言葉使い、高貴な?お屋敷のお嬢様、流石に時代を感じさせるお上品なお話し言葉・・・なんて細雪の世界を思い浮かべながら読んでいましたら・・・呆れました。佐藤春夫さんとの奥様譲り渡し事件?は私でも聞いたことがあるくらいですが・・・こんな腹いせを?鬱憤晴らし?と思ったら笑えました。偉大な文人もただの子供?みたいな事をするのですね。筆の暴力と言うほどではない筆の腹いせ・・・得意な物でやり込めるのは・・・上手いもんだ!です。
ま、そんなこんなでこれも久しぶりのボッコちゃんにいたっては中学以来?そういえば没後10年とか言っていたのは昨年か?中島敦さんも昨年必要があって山月記を読み返したところです。そういえば李陵とそれ以外の作品を読んだことがありませんでした。それにしても何か取り留めの無い物を読んだ気分です。
 

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