カディスの赤い星

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新装版  カディスの赤い星(上) (講談社文庫) 新装版 カディスの赤い星(上) (講談社文庫)
逢坂 剛講談社 2007-02-10
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新装版  カディスの赤い星(下) (講談社文庫) 新装版 カディスの赤い星(下) (講談社文庫)
逢坂 剛講談社 2007-02-10
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逢坂剛著

ひさしぶりにハードボイルド。 先日藤沢周平さんの本を片っ端から読み返していたら、後書にこの本のことが出ていた。そうそうずーっと読もうと思っていてまだ読んでいなかったと思い出して借りてきた。
原尞さんの作品を読み終わってしまった後、ハードボイルド作品を探していて突き当たった作品だが…そういえば原さんの作品もちゃんと感想を書いていない。これは老後?もう一度読み直してからのことだな。
さて、この作品。PRマンの漆原亮というのが主人公だがPRマンとしての資質を見せつけた後、その有能さを引っ提げて探偵のような仕事に駆り出されてしまう。日本で一体どうしたらこんな資質を持った人材が育てられるのだろう?とハードボイルドの主人公にお目にかかるたびに思ってしまうのだが、その例に洩れず、この主人公も実に魅力的で後を引いてしまいそう。
舞台のスペインが又いい! マドリードからグラナダ、カディスへと舞台は移っていくのだが、こんなにスムースに?違和感なく登場するスペイン人達とお付き合いしてもいいのかしら…という気分は読み進む5分のうちに?消えてしまって、この冒険と追跡に魅せられていってしまった。
読み終わってみれば痛快感がドカン!…と行きたいところだったのに、何でここで死なせてしまうかな?と必要もない事故にがっかりしてしまった。
男はこれだからねぇ…。そこまでかっこつけないでよと憤慨している。
だからハードボイルドの主人公は王子様中の王子様になり得るのに、ならない。っていうかなってくれない。
この舞台の背景になっている時代についてはスペイン旅行へ行く前に漠然としたものではあっても一応眼を通している。それに加えて、スペイン内戦と言えばヘミングウェーの「誰がために鐘は鳴る」、「武器よさらば」などを昔読んだな。 ここでは内戦後のフランコ独裁の後期のスペインが舞台。しかしどうしたって探偵にしか思えなくなってくるこの主人公はそのスペインの内情通から土地勘まで…凄い!とにかくすごい!
そんなわけでハードボイルドって、気分が落ち込んでいるときにはすごくいい薬になるわと夏風邪を引いて引きこもっていた私は大満足で読み終えた。
この作家の他の作品にも遅ればせながらアタックしてみようかな?

銀の島

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銀の島 銀の島
山本兼一朝日新聞出版 2011-06-07
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山本兼一著

感想を一言で言ってしまうなら…スターリンやカダフィの銅像が引き倒されたのを見た時のような…(実際には見ていないんだけど)…偶像がどったーんと倒されたような…?「哀れな!」
実際にザビエルの像というものをプラハのカレル橋の上で見ている。 あの橋の上の沢山の聖人像のうち本物の聖人っていったい何体くらいあるのか…わからないけれど…それが人々に倒されたとして…倒された像の目が悲しそうな…そんな気がしてしまった。
大体私は本当は宣教師というものをあまり尊敬していない。 あれはある種の勇気はあるかもしれないけれど、強い意志もあるかも…でもあれは侵略のための先兵部隊だ!と思っているから。 だってスペインやポルトガルや…勿論英仏も…植民地政策の先頭にいたのは聖職者と呼ばれる人たちだったんだものね。それは事実だよ!と、思っている。 宣教師の(あったとして)信念には気の毒かもしれないけれど、結果的には…という事だ。
日本の奇跡は多くの隠れキリシタンを生みながらも…金も銀もあのころは産出量があったにもかかわらず…植民地にされなかった!ことだ…と、思っていたけれど。 日本人の知性はザビエルが期待した以上のものだったのかもしれない…と、別に悦に入ってはいないけれど…この本を読んで思ったりした。
ザビエルという人その人は本当にキリスト教を理解できる知性を求めてアジアで苦渋していたのかもしれない。そして…最初に出会った日本人の知性に光をみたのかもしれない。
けれど…「国の意志と力に結局は悲しい瞳で屈服したのか…」とアンジローは思ったかもなぁ…そしてそれは悲しかっただろうなぁ…と、妙にセンチになってこの本を読んでしまった。 感情移入完璧にしてしまっていたなぁ…と、振り返ってみれば思っている。
しかしこの作品はそれだけでは終わらない。
倭寇と合わせた物語は非常に気宇壮大で面白い冒険劇にもなっていて日本が落ちたかもしれない罠を背筋をぞくぞくさせて読むこともできた。 読んでいる間中、時代と冒険を巧みにより合わせた「素敵な史実もの」としてわくわくしながらも、なぜか背中に悲しみをしょってもいたなぁ…。それは理想と目標を持って遠く国を離れた男のストイックなロマンが潰える瞬間をこの物語が内包しえていたからかもしれない。 そして夢と期待と敬意を捨てきれなかったアンジロウの生涯をも柱にし得たからかもしれないなぁ。 骨のずしりとした作品だった!

刑事のまなざし

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刑事のまなざし 刑事のまなざし
薬丸 岳講談社 2011-07-01
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薬丸岳著
久しぶりの?薬丸さんでした。が、何か新鮮さに欠けると思ったら…東野さんの加賀さんを思い起こさせるタッチだったからかもしれません。そしてなおいうなら…加賀さんの方が作品により出来不出来はあるかもしれませんが…すぐれていると思います。
いい連作短編でした! それはそう思うのですが…読んでいて稚拙な感じも受けました。置かれている状況、夏目さんの人生の選択、人格…すべてがちょっと簡単にきれいすぎたかもしれません。 勿論、そういう人格の男を描きたかったのでしょうが…それがもう一つ納得を生む表現が足りない…なんかそういう食い足りなさでしょうか。
「オムライス」は嫌な話でした。 でもこの母親は自分のしたことに本当に気が付いたでしょうね…。
「黒い履歴」は悲しい兄弟の物語でした。この弟はきっとちゃんとおじさんをして生きていくでしょうね。でも…大変だろうなぁ…。
「ハートレス」は主人公が輪郭を見せてくれました…同じような境遇の男が踏ん張ってくれるかもしれない…希望もありました…。
「傷跡」は取り戻せない時間と向き合わされました。こんな沼に落とされた男をどうしてあげられるんでしょうね。傷跡の多い女の子より殺人をしてしまった男を救う手だてが…。
「プライド」は何とも…。
「休日」は男たちがかっこよくありませんか?なんだかドラマでちょくちょく見ているようなお手軽な設定で、いいけど…どうかなぁ…。
「刑事のまなざし」表題ですが…。いい話にしたくてこれは反対にひねくり回されてしまったという哀れさが行間から漂ってくるような…テーマを設定してそれを文字だけで考えたというか…そんな…小理屈をねじ込まれたような…素直に共感して罪と罰を考えるのを反対に遠ざけられたような…なんか挟まったような…。
そんなこんなで…もう少し熟成を必要としたんじゃないかなぁ…?夏目さんも、彼の周辺も。

小暮荘物語

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木暮荘物語 木暮荘物語
三浦 しをん祥伝社 2010-10-29
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三浦しをん著

小暮荘が舞台だけど…みんながみんなここに住んでいるわけでもないし…この7つ主人公は7人の(と言っても人は重なり合っているわけで)お話の何が…柱かな?…と思って、柱はどうやらセックスだと思っているのだけれど…これって他の言葉でうまく言い換えられないかな?
物語そのもので作家はあっけらかんとというか当たり前にセックスのお話をセックスだと言っているわけで…なんで感想を書きつける私がバタバタしているんだか?…と、あほらしくなるような…自然さなのだけど。
「心身」の大家さんは泣かせるし…繭さんのシチュエーションも本人は大まじめだろうけれどコミカルだし。…「黒い飲み物」の佐伯さんもそれからつながる虹子さんも悲しくて、神崎君にも光子さんにも…こりゃー何とも言いようがない。
人間って死ぬまでセックスには右往左往させられるんだ…と、深い悲しみとも苦笑とも哄笑とも…やれやれ。 しかし実にハーモニーに満ち溢れている。人間ってこんなもんだよ?訳知り顔になりたがる私がいる。
それぞれの主人公がそれぞれに自分の人生にそこそこ苦闘していて…そこからユーモアもにじみ出てしまう。 このにじんでしまうというところにまたペーソスが生まれ…みたいに?連鎖が快い読み物になっているところがみそだ!
みたいに…どんどん書き連ねて行けそうな感想が…自分でも笑える。 つまり程よい読み物で三浦さんの軽やかな精神が柔らかくもちろんほどほどにシニカルで、でも許しているんだ気分もほどほどだ…。 デ、私も読みながらみんなそこそこ頑張って生きて行ってくださいとそこそこの応援エールを送れて…ちょびっと自分を振り返って…皮肉られているんじゃないか?と思ってみたり…。とまぁそこそこ忙しく読ませていただいた。
活字中毒の私だから新しい本をどんどん読んでいくうちに、どんどん読んだ本を忘れていく。どのくらい頭の中に持っていられるんだろうかなぁ。この小さな毒の部分…。

かばん屋の相続

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かばん屋の相続 (文春文庫) かばん屋の相続 (文春文庫)
池井戸 潤文藝春秋 2011-04-08
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池井戸潤著

池井戸さん、2作読んで…ハマったかも。 すぐに借りられる本を探してきました。すっきり読めるという小説ではなかったけれど面白かった!
銀行と零細?企業との間の融資。 私には全く関係の無い分野であるにも関わらず、やっぱり企業と銀行の丁々発止は分らないことがほとんどではあっても…ここに描かれていたのはちゃんと時代と人!
だから面白く興味深く読めたのだと思う。知らない世界なのにリアリティを感じたのです。 融資…経済事情で力関係ががらりと変わるこの綱引き。 無理やり貸され、貸し渋られ、貸しはがされる。世の中の?景気の?波をもろにこうむる経済最前線?それとも縁の下? この作品が気持ちよく読めたのはその金の問題を介しても(又は金の問題を挟んでいるからこそ?)なおかつそこには人の心や頭脳や関係が浮き彫りになって来るところにあるのかなぁ。銀行や企業の倫理、理屈に捻じ曲げられることはあっても、屈することがあっても、だからこそそこで生きる人の命がきらめく?…ってところまで描かれていたようで…小さな細い平均台の綱渡りを命を削って渡っていく時の人のきらめき…。日本はどんどん生きにくく、人情はどんどん枯渇していくような気分も、ともに味わってもいたのだけれど…生き抜いていく人も確実にいるんだ!みたいな。 情と頭を両輪に生き抜いていけるといいね。短編の中に緊迫感があふれていて…ぐいぐい読み進んでしまいました。特にかばん屋は京都の帆布鞄の店を思い浮かべながら読みました。(帆布って意外に高くて、買う気になかなかならないんだけど…柄や色やデザインがどんどん良くなっていくような…)「芥のごとく」は切なくてきつかったな。

カササギたちの四季

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カササギたちの四季 カササギたちの四季
道尾秀介光文社 2011-02-19
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道尾秀介著

ずいぶん待って「月と蟹」が来て読み終わったと思ったらこの作品が思ったより早く届いた。「月と蟹」はまだ図書館では二百数十名が待っているがこの作品は百人待ちだ。 賞の威力はやはり大きいのか。 それにしても前作から数か月で出た作品なのだ…と、驚いている。
読後感はこの作品の方がはるかにいい!というか資質が全然違う…という感じ。同じ作家か?というくらい。油が乗ったんだろう!そういう時期なんだ!なんてますます楽しみにしている。ただねやはり流した感じは否めない。薄味と言ってもいいかな。惜しい!
この作品は三浦しをんさんの多田便利軒を思い出させた。 男2人組の小説は掃いて捨てるほどあるから…こういう事はありがちだけれど…テイストは似ている。
読みやすくて読後感のいい小説(短編4作)でした。 が、もう一つ何かスパイスが足らないような、終了感もないような…なんだかまだ終わったという感じがしません。 次作があるのだと思えば…ここまででもいいのですが…これで終わりだと…面白い思いつきの作品ね…で、終わってしまうような気がします。
人物は少々戯画的で分り易そうに読めるのですが、実はあまりよくわかりません。もう一つ深く人も関係も背景も描きこんでね…と思います。せっかくの人物!に設定!なのですから。

小暮写真館

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小暮写眞館 (書き下ろし100冊) 小暮写眞館 (書き下ろし100冊)
宮部 みゆき講談社 2010-05-14
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宮部みゆき著
「三島屋変調百物語」の「おそろし」より「あんじゅう」に近い方の雰囲気を持った現代ものだ!って感じを受けながら読んだのは私だけでしょうか?
物語の底の方に鉄壁の?素晴らしい心根の人々がガッコンと控えていてくれる安心感が…微妙な人生の不思議な絡まりあった糸をほぐしていく過程での安全弁になっていて…どんな不思議が転がってきても主人公の縁の下は完璧!って安心感があったからかな。
主人公のある意味冒険は成長をもたらし、仲間の結束力を高め、またその存在のありがたさを痛感し、その彼らをも癒していき…という人柄の豊かさかなぁ…なんなんだろうな、この居心地の良さは…と、思ったからかな?
一つ一つの霊だかお化けだかこの世に残った念だか、生きている人の心の残像だとか…まぁ…あり得ないことどもを腑にに落としてしまう手際というか…読んで満足させてしまう力はすごい!と、また私は感心して、物語の高校生の季節を堪能してしまった。キーワードは「思いやり」に尽きるんだな。
こういう子供たち…私のあの時代にもどこかに存在していたのかなぁ…物語・物語と思いながら…なお手さぐりで記憶の世界を彷徨し羨ましがっている私がいるんですね。だから一つ一つの出来事がというより作り上げられた主人公の環境が一番心に残ったのです。 彼の一日一日を取り巻いている現象や人々やなにやかにやが…切ない初めての恋心の17歳あたりをくっきりさせて…こうして力や心を振り絞って育って行けるなんて…悲しいことがいっぱい起きても大丈夫なんだねあの年頃はきっと…?そう思わせてくれる。
生きている商店街なんて、この広い東京でも、もう指で数え切れるほどしかないんですもの。懐かしさをくすぐられちゃって…あの写真屋さんにもこんな飾り窓あったなぁ…って。あのベレー帽をかぶっていたおかしな写真屋のおじさん…もう生きていらっしゃるはずはないんだけど…等とあの当時の店々を心に思い描いてしまった。
なんだか出来の良さと表情がそっくりのお子ちゃまを宮部さんの作品では散見するようで…なんでだろう? なんかふっと手塚さんのヒョウタンツギ?を思い出しちゃった。

神様のカルテ

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神様のカルテ (小学館文庫) 神様のカルテ (小学館文庫)
夏川 草介小学館 2011-06-07
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夏川草介著

お医者さんの作家ってたくさんいらっしゃいますが…またお1人、発見いたしました。  現役の二足の草鞋様です。  最近読み続けている海堂先生が、医術的なことで言いたいこと・主張したいことをエンターテイメントの濃厚な味付けで繰り広げてくれて、私は先生の説得力に感化され続けているところですが、この作品はだいぶ趣が違います。
どちらかと言えばお医者さんの在り方について柔らかに提出してくれていて…私はころりとこの世界の…先生のたぶんお人柄?にしびれました。
螺鈿迷宮の桜宮病院の院長先生と比べれば…漱石先生は上品の極みです。 オーソドックスで気恥ずかしげで針先をたわめたウィットで…いやーん可愛い!って看護婦さんたちは本当は思っているのでしょう。
いずれにしても地方医療の気の毒なくらいの医師不足。ここでも、またしても、政府の無策を嘆かずにはいられません。
こんな良心的で人類愛に献身する先生を見捨てていいのでしょうか。 遠からず、先生の奮闘だけでは先生ご自身も破綻しますよね。  お願いだから、先生、5年ほど医局に戻って最先端?(やっぱり必要でしょう?)を学び(先生ご自身もリフレッシュして)、その医療をまた現場に行かすべくお戻りください。 さもないと先生が持たないよー、奥さんは最高の人には違いないけれども…これじゃ二人ともくたびれて伸びきったゴムになっちゃうよー!
自分が不治の病気になったら「一止せんせーい!」って駆け込むくせに…でも先生倒れないでください。と、切に祈って「あーあ、こういう先生が普通のようにすべての病院にいてくれますように!」と祈ったのです。医局3年地方救急医3年、すべからく交代してあたるべし…なんて簡単にはいかないのかなぁ。 この町のこの寮の人々みたいな素晴らしくやさしい個人にだけ負担を負わせすぎていて…頭が上がらない。 うかうかしてたら映画になっちゃって、見に行っちゃって、友人が「何がって音楽が最高だったね!」「信州松本の景色が最高だった!よ」 本と同じで映画も良かった!と付け加えておきます。

神様のカルテ 2 神様のカルテ 2
夏川 草介小学館 2010-09-28
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神様のカルテ ~辻井伸行 自作集 神様のカルテ ~辻井伸行 自作集
辻井伸行avex CLASSICS 2011-07-27
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神様のカルテ オリジナル・サウンド・トラック 神様のカルテ オリジナル・サウンド・トラック
サントラ 松谷卓ERJ 2011-08-24
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光媒の花

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光媒の花 光媒の花
道尾 秀介集英社 2010-03-26
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道尾秀介著

 短編6話がぐるっと回っていく往還の?物語集。   全部読み終わってみるとなんだかちゃんと長い物語を読んだなぁという満足感がある。

第1話に出てきた公園の男の子が、2話のホームレス殺しをしたと思う小さなお兄ちゃんで、実際にホームレスを殺したのは世界を閉じ込めて生きるホームレスの男で、彼が3話の主人公で初恋のサチを助けられなかった少年だ…という風に物語は連なっていく。そのサチが第4話の主人公で小さな女の子がトラックにひかれることから救う。 そのトラックを運転していて危うく事故をまのがれた青年が第5話の主人公で姉の病気を心配している。その姉が最後の第6話の主人公の先生で受け持ちの少女と心を通わせることができたが、そのきっかけになったのは第1話の父の愛人を殺してひっそりと生きる印章屋だった…と続く。連作になっているが一つの街の人々の隠された人生の1ページを描いて、人のつながり人生の重なりそんなものが見えてくるようだった。蝶道というものがあると本の中にあった。本当にあるのだろうか? この作品のすべてに共通するトーンというか、底には悲しみが流れている(前半3作には悲惨さも怖さも)が、しかし蝶がその物語の中を鱗粉をまき散らしつつ揺れ飛んでいく光景が…時には少女のブローチだったりもしながら…イメージを連ねていく。それが、鱗粉がまるで白い靄のような明るさを物語全体に漂わせることになっているようだ。(しかし鱗粉は気持ちが悪い!)

この作家は表現がどんどん上手になっていく…と感嘆して読んでいた。すべての作品を読もうとは思っていないが(だって、ホラーがあるようなので)、私が選び取った作品はそれぞれに読後に見事な満足感や感動があった。それぞれの人の真情を彫り上げるような叙景や象徴の繊細さにうなりつつ読んでしまった。

でも一番好きなのは、まだ、「カラスの親指」かな。

カラスの親指 by rule of CROW’s thumb カラスの親指 by rule of CROW’s thumb
道尾 秀介講談社 2008-07-23
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蔭桔梗

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蔭桔梗 (新潮文庫) 蔭桔梗 (新潮文庫)
泡坂 妻夫新潮社 1993-03
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   泡坂妻夫著 

短編11作。 職人の世界、昭和戦前の世界という感じ。今より家庭で仕事している父や祖父や…その背中が見える世界。 職人がいて、修行中の弟子がいて、客と仕事をつなぐ商家があって…小さな世界が重奏しているなつかしさのある世界。「控え目」という言葉が支配している世界の感じ。たとえば…恋は声高なものではなくて、ひそやかで、それより優先されるもの…謙譲や義理やおもんぱかりや…さまざまなしがらみ。そういうものが混在しながら居住まいがこぎれいな…という印象の世界。 おしこめられた感情は…底のほうに怪しげに小さなさざ波を立てていながら地表には出てこないというような世界。 かすかな行き違いや思い違いであるべきではなかった人生を生きることになったり…でもそれは自然な成り行きのように埋没していく。 ひそめた声で生きていく普通の人々がしっとりと色っぽい。表題の「蔭桔梗」実際にこの作家は紋章上絵師ということで、この作品世界の情感は際立っていた。成り行きをせつなく感じながら読んで堪能した。また「簪」という1篇があって、この作品のおぼろに包まれた無垢な恋の執念に心ひかれた。「不思議な話は他にも聞いた」炎の中で人の情念だけが燃え残って小さな光芒を放ったのだろうか。不思議に心をとらえる物語世界だった。しかもこの心情そのものがもう日本からおぼろな影になって最後の光芒ももう消え果てているような悲しさも感じてしまった。懐かしいだけで終えたくない…そんな執着を感じている。

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