光媒の花 光媒の花
道尾 秀介集英社 2010-03-26
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道尾秀介著

 短編6話がぐるっと回っていく往還の?物語集。   全部読み終わってみるとなんだかちゃんと長い物語を読んだなぁという満足感がある。

第1話に出てきた公園の男の子が、2話のホームレス殺しをしたと思う小さなお兄ちゃんで、実際にホームレスを殺したのは世界を閉じ込めて生きるホームレスの男で、彼が3話の主人公で初恋のサチを助けられなかった少年だ…という風に物語は連なっていく。そのサチが第4話の主人公で小さな女の子がトラックにひかれることから救う。 そのトラックを運転していて危うく事故をまのがれた青年が第5話の主人公で姉の病気を心配している。その姉が最後の第6話の主人公の先生で受け持ちの少女と心を通わせることができたが、そのきっかけになったのは第1話の父の愛人を殺してひっそりと生きる印章屋だった…と続く。連作になっているが一つの街の人々の隠された人生の1ページを描いて、人のつながり人生の重なりそんなものが見えてくるようだった。蝶道というものがあると本の中にあった。本当にあるのだろうか? この作品のすべてに共通するトーンというか、底には悲しみが流れている(前半3作には悲惨さも怖さも)が、しかし蝶がその物語の中を鱗粉をまき散らしつつ揺れ飛んでいく光景が…時には少女のブローチだったりもしながら…イメージを連ねていく。それが、鱗粉がまるで白い靄のような明るさを物語全体に漂わせることになっているようだ。(しかし鱗粉は気持ちが悪い!)

この作家は表現がどんどん上手になっていく…と感嘆して読んでいた。すべての作品を読もうとは思っていないが(だって、ホラーがあるようなので)、私が選び取った作品はそれぞれに読後に見事な満足感や感動があった。それぞれの人の真情を彫り上げるような叙景や象徴の繊細さにうなりつつ読んでしまった。

でも一番好きなのは、まだ、「カラスの親指」かな。

カラスの親指 by rule of CROW’s thumb カラスの親指 by rule of CROW’s thumb
道尾 秀介講談社 2008-07-23
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