道絶えずば、また
道絶えずば、また
おすすめ平均
stars3部作の3冊目ではありますがAmazonで詳しく見る
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松井今朝子著

7月に松井さん4作目に新聞に新刊案内で読んだこの本を予約しました。
勿論今まで待っていたから即今読み終えたところなわけです。
ところが読み始めて失敗したことがわかりました。この作品には「非道、
行ずべからず」という前編があったのでした。その前編の5年後の多分どうやら同じ顔ぶれが登場する新しい歌舞伎中村座から始まる殺人事件を描いたもののようでした。まずこちらを先に読むべきだったかもしれません。                               登場人物を挙げて見たいほどなんか歌舞伎ファンには嬉しそうな・・・感じですが。
前三作、私が読んだ松井さんの作品は絶品!でした。でも、残念ながらこの作品もしっかり書かれていながら・・・のめりこむ面白さはありませんでした。前の作品をちゃんと順に読んでいたら登場人物たちにもう少し思い入れが出来ていたのかもしれません?
それにしても冗漫の印象があります。
有名名代の絶世の女形の異常な死から幕を開け、無垢な?町人が何人も殺され、その探索が難渋を極めている。それと閉口して偉大な父に先立たれ襲名を控える血の繋がらない兄弟の女形の芸と父の謎の死に揺れる芸道の話とが交差する。構造的には隙の無い構築物が出来上がりそうな期待を感じさせてくれるのに・・・今ひとつ本にのめりこませる力が不足しているような。なんだろう?
読みながらこの面白くならなさは何が原因なのだろうと考えている。
それぞれの登場人物の心の描き方が、視点が、作家にもう一つ愛情が無いような。突き放した客観性が生ききれていないような。
「あなたも彼らのことが本当は分かっていないんでしょう?」と、聞いて見たくなるような。宇源次が足を突っこんでいる泥沼はあるのだろうし分かろうとすれば分からないではないのだけれど・・・それじゃぁその向うに居る筈の市之介はどうだ?というと・・・彼の葛藤は簡単に乗り越えてしまったようじゃないの?本当はそうじゃなかったろうに・・・言葉と時間でごまかしちゃったのね・・・みたいな片手落ち。とまぁ私にはこの二人の葛藤がもう少し書かれていて欲しかったんだなぁ・・・と、自分の感想を覗き込んでいる。事件の解決のまだるっこさが役者の葛藤をもだらだらとしまりの無いものにしてしまったような気がする。
う~ん、「非道、行ずべからず」を読んでみないとこの作品の感想を書くのは非道なのかな?作中の人物が肝心の宇源次を始め道具方はもとより、理市郎も笹岡ももう一つ人間として見えてこなかったのです。