ブルーベリー

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ブルーベリー ブルーベリー
重松清光文社 2008-04-22
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重松清著

なんていえばいいのか、軽く読めてしまって、気分が分かるような?
分かったような気がするような・・・なんてことは無いながらも、悪い気分ではないような・・・だからといって凄く共感できるって感じでもないのだけれど・・・う~ん、悪くないねぇ・・・
ブルーベリーね?分かるようだわ?確かに思い出って甘酸っぱい?
それもかなりいいところ?甘過ぎもせず、酸っぱすぎもせず?
フッと心に浮かんできた思い出はそれと覚えていたものでなくとも、フッと過去を身近に引き寄せて、「あの頃」を懐かしいもののように色付けてみせる。
それもきっといい人なのね?って思わせる程度には優しく、柔らかく、そう甘酸っぱい。
過ぎた時代にはもっと酸っぱすぎるものや、苦すぎるものや、とっさに顔をそむけたいものもあるだろうけれどなぁ・・・この程の良さがこの作家の持ち味なのかもなぁ・・・
「カシオペアの丘で」はしつこすぎて苦くて・・・「青い鳥」は上手すぎだけど実にほどがよく優しくてなんとも言えずによかったけれど、
これはある意味薄いところが何気なく「思い出は思い出に過ぎない」と安心できて・・・このほどもいい。「ブランケット・キャッツ」も綺麗な心洗われる、心休まるお話でよかったし・・・。
この作家に意地悪されることは無いのかもなぁ・・・安心してお取りおきしておける由緒正しい品行方正な作家かも?なんて書かれると作家はいやだろうなぁ。でも今のところ、読んだものは、そうなんです。誰にでもお薦めできるけれど・・・本気でお薦めできるのは「青い鳥」かな。
で、暇があったらお読みなさいな、なんとなく安らぐわよ。みたいな?一話一話、同じ経験は無くとも相通じる何かは、何らかの記憶の欠片はあなたの人生にもきっと思い当たるわよ。みたいな?
ただ、最後の2編、特に「人生で大事なものは(けっこう)ホイチョイに教わった」のナカムラ君!いいなぁ。私より15年?若い世代の青春は分からないけれど、たどり着いたところはとてもいいなぁ。どんな青春を送っても成熟はそれなりに?やってくる!し、いいんだねぇ。

虚無

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虚夢 虚夢
薬丸 岳講談社 2008-05-23
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薬丸岳著

「天使のナイフ」「闇の底」についで三作目です。
犯罪被害者を描いて着実に丁寧に対称に迫る筆を磨いています。
これも読ませる作品でした、が、やっぱりつらい作品でもありました。でもこの作家の追う目は貴重だし尊重したいと思いました。
道尾秀介さんの「シャドウ」?でしたっけ、精神病医について感想を書いたのは・・・?現実に比例してこの手の小説も増えつつある?と、暗澹と心侘しくなりました。
精神疾患の医者の需要が益々増す現在・・・と言うよりあらゆる医者をめぐる環境が問題になっている昨今、声を大にして精神病医ばかりを増やせとはいえないのですが・・・
この作品で取り上げられたような精神科通院記録のある人による犯罪が増えているのも事実のような感じがしています。
そして今も昔も精神科の医者を騙す犯人たちも現実にいるようです。
というのは鑑定する医者次第で鑑定が変わる、覆ることもあると聞くからです。犯罪小説にだって悧巧きわまる狡猾な犯罪者たちは多いのですし、実際法の穴も多いようなのです。まずは優秀な精神科医を!が最低条件ですか。
私も佐和子さんの立場になったら一か八かやってみたい復讐です。
病気だからといって許せない犯罪が多すぎます。
この作品で取り上げられた統合失調症(精神分裂病)、解離性遁走(これは初耳でしたが、解離性同一性障害なら知っています。「24人のビリー・ミリガン」で読みましたっけ)は今こんなにも人間の間にポピュラー?なんでしょうか。
原因も分からなければ治療の方法も無い。だけど、だからといって責任を取らせないって方はあるのか?というのが被害者の思いですよね。刑法39条という不条理に対する怒りも。治療が終ったと犯罪者を退院させた医者に対する怒りも。
単純に私が佐和子だと仮定して、私にそれだけの知性があれば同じ事をしたい!と思いました。男の方が「法がそうだから」という理屈を受け入れ易いのでしょうか?女の方が未練、執念深いのでしょうか?そうではありませんね。これもその人の性格・資質によるものなのでしょうけど。彼女をここまで追い詰めたものの正体をよーく考えたいものです。
この作品では当事者だけの間である結末が付きましたが、受け取った社会がつける結末はこれからです。本質的な結末は付けようも無いという苦しさがこの本の骨頂です。
治療の方法が完結している病気ならともかく、そうでないことが分かっている精神病犯罪者・性犯罪者、完治はありえないのだったら
永遠に監視できる体制を導入してもらいたいと単純に私は思うのです。護身ナイフすら携えないで生活している人間にとっては、安全こそが生活の最低条件ですもの。自分と家族の安全を自分で保障しなければならなくなったら・・・社会は崩壊です。

天使のナイフ (講談社文庫 や 61-1) 天使のナイフ (講談社文庫 や 61-1)
薬丸 岳講談社 2008-08-12
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闇の底 闇の底
薬丸 岳講談社 2006-09-08
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仏果を得ず

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仏果を得ず 仏果を得ず
三浦 しをん双葉社 2007-11
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 三浦しをん著

しをんさん、4作目です。
思いっきり国宝邦楽芸術国文系青春根性ものと書いちゃってもいい「ジャンルだ!」的でした。しかも思いっきりさわやかな、好感度抜群の!カバーの絵の通りのハンサム系の漫画系のお嬢ちゃんからおじいちゃんまでオール世代カバー型全天候型文部省特薦しかも関西語圏なのにめっちゃカワユーイ!系?
読み終わってニコニコですもの。って、読んでるときから完全ニコニコ応援モードですもん。
こんなに楽しく一直線に読めて読後感にはライムの香り!って、出来すぎでしょう?
でもこんなん、だいすきでっせ!
人生のテーマにガッツンとぶちかまされるほどの「幸せ」って考えられませんもの。殆どの人間がここで頓挫していますもの。なのに思い込んだら一直線!こんな羨ましい修行人生あっていいのでしょうか?あっていいのですとも!無ければいけないのです。全ての青少年に何とかしてこういう修行生活送らせてあげたいものです。
もし間に合うなら私にも今からなにかがツンと目を覚まさせてください!
そして知らない文楽の世界がこんなん、ありえねーと言ってしまいそうになる位清く正しいのです。めっちゃ情に絡まれてじとっと暗い先輩のいじめとか伝統の縛りとかしきたりがんじがらめとか・・・相撲の世界みたいな!どす暗さにまみれてそうに見える世界をキャーかわいいってくらいの理不尽な師匠と変わりもののカッコイイ兄弟子たちに可愛がられて一途に進める・・・笹本健太夫!頑張ってね。とうるうる応援しちゃいますもの。
歌舞伎か?と思った目次も・・・彼のステップアップの段階に即した演目と情報満載で・・・現代青年にとって文楽はこの上も無い最先端今なのですよと・・・いやまさしく今と同じですよ、人情は・・・いつもいつも何時の時代も。
入門書としてもバッチリでした。「仏果」って何のことだか…終りまで読めば分かりますよ。頑張って物にしてね。

当マイクロフォン

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当マイクロフォン 当マイクロフォン
三田 完角川グループパブリッシング 2008-06-28
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三田完著

中西龍さんというアナウンサーを知っていますか?
私は全くラジオというものを聞かないので、この方をNHKのアナウンサーとしては全く知りませんでした。
アナウンサーの事を書いた本なら「読み」について何かいい示唆がえられるかもしれない・・・くらいの気持ちでした。
でもこの方の名、覚えがあります。鬼平犯科帳のナレーションに名前がありました。独特の声―美声、美声と本には書かれていましたが、私にはなんと癖のある特徴的な声だろうとは思っても美声として聞いた覚えはありません。鬼平のナレーションで、この人どこから持ってきたのだろう?知らない名だけれど、演歌の紹介するような司会業みたいな人かなぁ?ドサ回りの劇団の呼び込みとかアナウンス向きだぁ!なんて思った事を思い出しましたが、失礼でしたねぇ・・・でも、あながち全く間違えたと言うわけでもなさそうだな・・・と、読み終わって思いました。
個性というのは諸刃の刃ですよねぇ・・・。私はやはり女性の立場で読んでしまいますから、彼を通り過ぎていった多くの幸せにならなかった女性たちの事が思われます。葬式の前に殴られるたび一つ一つと増えていった指輪を見る奥様の心を見つめてしまうのです。
それでも彼女はどんな人間か知った上で、かなりよく知りぬいた上で結婚しているのです。龍さんの魅力のというか魔法の一端が見えるようで怖かったですね。使っている言葉の品(しな)と彼の性癖の間にある落差は業という厭な字をイヤでも思い出させます。
序章と終章を家族の立場から描き、真ん中は龍さんのドキュメンタリーと二村さんというNHK職員からの視線を交互にリレーしています。二村さんと(だけではないけれど)の会話で見せる「でございます」調と紅灯の巷で酔い遊ぶ姿態との落差は人間を怖いものにも、すごいものにも見せます。彼の詩には情があり、彼の短歌には気障があるけれど人の心を捉える心も同じだけある。だけど多分・・・と色々考えて、考えても及ばない闇を感じる。しかもその闇は愛情も打算も強欲も無常も無慈悲もなんとも濃いごったなもので練り上げられている臭さを秘めていて、これが中西ファンを生み出したのだろうなぁ・・・
アナウンサーとしてのお仕事に接することが無かったのを本当に残念に思いました。
せめて一生懸命あの鬼平のナレーションを頭の中に呼び出しているところなのです。
「咳、声、咽喉に浅田飴」 うーん、確かに、まだ記憶している。人の頭に刻み込まれる声を確かにお持ちだったのでしょうね。
しかしNHKというのはなんか厭なところだなぁ・・・ずーっと支払い続けてきたのはいいことだったんだろうか?とも。

歌酒場 ナレーション 中西龍 歌酒場 ナレーション 中西龍
中村泰士 古賀政男 吉幾三

コロムビアミュージックエンタテインメント(株) 1995-05-20
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最新ヒット曲集「流行うた」~ナレーション中西龍~
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赤めだか

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赤めだか 赤めだか
立川 談春扶桑社 2008-04-11
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立川談春著

談志さんの飼っている金魚がいくら餌をあげても大きく育っていかない。だからあれは「赤めだか」なんだ・・・という赤めだかが題になっているようです。談志さんの弟子も師匠を越えてでかくならない?そんなご謙遜を。
私が始めて談志さんを聞いたのは病気で舞台を休む手前だったので、聞こえたり聞こえなかったり・・・体が揺らぐとマイクから離れる・・・そうするともう声が通らない・・・っていう残念な状況でした。
勿論その昔TVなどでは随分個性的な発言を聞いていて、変わった人だと・・・どちらかというと好きでは無かったですね。話し方、言葉の使い方、声質そのもの・・・色々ね。
ところがそういう人にこんなにほれ込む人たちが居たんですねぇ。
この談春さんの舞台は残念ながら見たことも聞いたことも無いのに何でこの本を読む気になったか?ということの方が不思議ですが。「劇団ひとり」さんの小説も非常にある意味まじめなまともな!小説だったのですね。だからひょっとしたらこの人の本もまじめないい話が書いてあるのではないか?談志さん一門には鬼才・奇才の方がいるんじゃないか?といったところでした。
安鶴さんの本を読んだ後、個性的な芸人さんに対する好奇心、尊敬心?うずうずしております!
志の輔さんなんてとってもまともそうですけれど本当に多才の人ですしね。この一門どんなのかなぁ・・・?そして当たり!でした。まじめな修行時代の一門の人々もですが談志さんが息づいていました。
本当にちょっと見、ちょっと聞、で人をとやかく思うことの恐ろしさを感じましたね。こんな師匠がいて、こんな世界があって、こんな慕う弟子たちがいて・・・怖い人がいる、憧れる人がいる、目標になる人がいる、乗り越えたい人がいる・・・大好きな人がいる、そういう人のいる人のうらやましさ!見つけた人のうらやましさ!
そしておかしさも悲しさもとっぴさも情けなさもあらゆる気持ちを動員して、まじめなこの修行時代を一気読みしてしまいました。
それでも、安鶴さんの時代よりやっぱり少し?当たり前?になっている落語の世界に物足りなさを感じる勝手を許してください。
このおかしげな弟子さんたちももう多分師匠の色々な意味での凄さを越えるとりわけの何かをもう持っていないでしょうし・・・。
大体そういう理不尽さえもまかり通る世界を生きて行く逞しさを持てない時代なのかもしれませんし。談春さん自身の去って行った弟子たちのように?だからこそこの本が、この本で書かれた談春さんの修行時代が愛しく魅力的に読めたのでしょうか?少しづつ後ずさりしながら日本から消えていく師と弟子の世界への郷愁。
 

ちんぷんかん

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ちんぷんかん ちんぷんかん
畠中 恵新潮社 2007-06
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 畠中恵著

「しゃばけ」シリーズの6になるのかな?順番通りに読んでいないと頭の中であいまいになる。
作者もこれだけ書いてくると本当に書きたいのかあいまいになるのかな?熱狂を持って待たれるシリーズ物を書く作家に必ず生じる葛藤?そこまで、まだ続いていないか・・・と、読みながらちょっと頭をかしげた。
妖を使うお話だけに作中人妖を思い通りに動かせるつもりが煙に巻かれた?とにかく読み始めは「?」付きで、何か足りないぞと思いながら読んでいた。1話「鬼と小鬼」はまさしく煙に巻かれた挙句の三途の川の鬼話だし?だけど2話目は表題になっている「ちんぷんかん」。当然この作品中の目玉?広徳寺の寛朝様は前出ですが、寛朝様の弟子秋英さんの成長話です。9歳の時に小坊主になって今この話の時には秋英さんは22歳になっている。だけどここでちんぷんかんになったのはお話が急に13年経ったように思えないところで生じたのではないかな?9歳と22歳の秋英さんに違いが見つからない。成長していないじゃない。この秋英さんは9歳のままの心を持っているから?時の経過が腑に落ちないので多分このホット?心を和ましてくれるに違いない秋英さんのキャラクターが今一心に浸透してこないのかな・・・惜しいなぁ・・・
こういう雑誌に掲載された小品を一冊の本に編む時、設定部分の繰り返しを整理してくれるとありがたいなぁと思います。
繰り返される設定説明がわずらわしく感じられるのです。このシリーズだけのことではないのですけれど。軽妙に読み進み楽しみたいものにこそ、そういう配慮はあってしかるべき・・・なんて。
「男振り」はこのシリーズのファンとしては楽しみな昔語り。お母さんのおたえさんの若き日の恋?と父藤兵衛さんとの結婚のなりゆき。なるほどなるほど・・・なのですが妖の血が半分も流れている(若旦那より濃い)お母さんのお話にしては期待より薄かったかな?
藤兵衛さんのキャラクターが面白そうなので、今後お兄さんの現実化してくる縁談にどう関わってどんな心を見せるのか?興味がありますがねぇ。
「今昔」も余り楽しくなくて・・・やっぱり?と思ったら「はるがいくよ」でほっとしました。このお話は若旦那らしくて他の皆も皆らしくて桜の春とリンクする小紅の一生のはかないお話と惜しむ心が素直に読む心に届く佳作でした!これが私の期待する畠中さんのしゃばけだわ!そういうわけで次が早くとまた、待たれる心地で、よかった。

イラストのファンになっちゃった。

牛込御門余時

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牛込御門余時 (集英社文庫 た 38-2) 牛込御門余時 (集英社文庫 た 38-2)
竹田 真砂子集英社 2008-08
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竹田真砂子著

牛込御門に何かしかのつながりのある家、人、の物語を8作集めた短編集です。面白い趣向だと思いましたね。さりげなくどこかで牛込御門が出てきます。私の住んでいた牛込薬王寺町付近の町名がころころと転がり出てきて・・・つくづく市谷近辺は羨ましい!こまかい町名がちゃんと残っているのですものね。浅草からはとうに懐かしい町名が消えました。最近益々古い名前が無くなっていきます。そこが谷だったのか台地だったのか・・・どんな歴史があったのか・・・地名から過去を知るのはどんどん難しくなっていきます。いいんでしょうかねぇ?どこもかしこも「何とか丘」。 そういえば地名に関して印象的な話を聞いたことがあります。札幌でこの頃地名の本家還り?またその反対?が。読み方が変わっていくのです。「月寒」はツキサップと習いましたが今はツキサムらしいですし、秩父別はチチブベツと習いましたが今はチップベツというらしいです?で、札幌の知り合いのオバサンが言っていました。「やっと先祖が苦労して日本名にしたものを・・・」と。「なるほどそういう立場もあるか!」でしょう?それは寄り道。
「千姫と乳酪」の舞台、千姫御殿・またの名吉田御殿とは歴史物の本が好きな人たちにはよく知られている御殿だと思いますが、その御殿が牛込御門近くだったとは知りませんでした。  この話と最後の8話「本多様の大銀杏」でこの物語は牛込辺りに住んでいたと思しき父親の昔語りを懐かしく娘が思い出していたんだ・・・とこの本の趣が腑に落ちたのです。だからか「本多様の大銀杏」は現代の父をしのぶ話のところが心にしみました。
この作品群の中では「奥方行状記」が面白く読めました。久乃の才も沢之丞の芸も夫婦の機微も、心の行き惑いに華やかな衣装をうち掛けたような趣がありました。他の作品もそれぞれに面白い話題を書いているのですがなにか心に訴えてくるものが寂しい感じがあります。
妻のあり方としてこの「奥方行状記」と「本多様の大銀杏」は丁度対極にあるようです。今のサラリーマンの妻の状況と同じですね。
妻というものが随分変化しているこのご時世にあってもまだ通じる余地はあるようです。自分を表現できないまでも、「一人を生きる術」を持たないと、生きて行くのは大変なのは今も昔もでしょうか。
「9枚の皿」とか「献上牡丹」「繁盛の法則」の読後感はいやですね。「やせ男」は丁度このところおなじみの江戸の狂歌師、「そろそろ旅に」「戯作者銘々伝」の中に出てきた人々の話でもあり江戸の人々の明るさを興味深く読みました。
とにかく地名に楽しませていただいた作品集でした。

戯作者銘々伝

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戯作者銘々伝 (ちくま文庫) 戯作者銘々伝 (ちくま文庫)
井上 ひさし筑摩書房 1999-05
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井上ひさし著

この夏、民藝の朗読で井上さんの「父と暮せば」を聞きましたが、先日また井上さんの「新釈・遠野物語」と「おゆき」を聞きました。
全部傾向の全く違う、それでいて心を打ったり笑わせたり人を翻弄する凄い作品です。
一度講演会でご本人のお話を聞きましたが(お約束?遅刻なさいました)言いたい事をとても見事に尽くした公演で感歎しました。
凄い方だなぁ・・・と、「モッキンポット師」を読んだ時には既に思っていましたが、本当に才能にオーラがかかりまくっています!
ここのところ芸人さん関係(安鶴さん)を読んでこの方面にはまりかけていますから・・・「そろそろ旅へ」もそんな系でしょ?(ってちょっと違う)だから図書館でこの作品を見つけた時は今読むには絶好!と思ったんです。
で、予想通り!面白かった!興味深かった!
「そろそろ旅へ」で読んだばかりの山東京伝さんや式亭三馬さんの違う方面からのアプローチがそれこそツボにはまったみたいにバッチリ面白く興味深く読ませていただきました。
戯作者の皆さんならず、一芸で名を残された人々の凄さって、人生って(安鶴さんの作品を思い出して)、本当に!この平凡極まりない野次馬根性だけの私の目には興味の底なし沼のようでした。
才能はそれを授かった人に、普通の暮らしをきっと許さないんだって思いましたね。当人が望むと望まないに関わらず。才能は運命なんですね。あの逆の逆を行った変人中の変人「唐来参和」!     彼の生き様の哀れに趣のあること「おもしろきもの」の世界です。最も彼の妻になってしまったお信さんには笑い事ではない人生だったのでしょうが。このお信さんには妙な魅力がありましたね。振り回されていても心の底に彼を受け入れている、翻弄される自分の人生を受け入れている不思議なからっとした何かが。諦念というか、それも一つの情だったのでしょうか。
橋から飛び込むときの彼はきっとなす術のなかった自分の人生にあきれ果てていたでしょうか?それでも世に残った作品に満足はあったでしょうか?関係なかったんでしょうね。作品は私みたいな普通の人の、才能を授けられなかった人のためのものでしょうから。
彼らは才能と言う運命に翻弄されて働かされたのでしょうね。
井上さん自身の人生もきっと後で、(ヒョットするともう?)誰かに書かれるのでしょう。非常な才にこき使われた人として。だって、本当に多芸で多能で多作で・・・忙しさ極まりないお方のようですもの。そしてこの作中の人物の系譜に繋がる人なんでしょうね?と、勝手に思わせていただいています。
 

ビター・ブラッド

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ビター・ブラッド ビター・ブラッド
雫井 脩介幻冬舎 2007-08
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雫井脩介著

この作家の二作目です。「犯人に告ぐ」が面白く読めましたから、直ぐこの作品を予約しました。私って警察・探偵ものに本当に目がないなぁ・・・と、自分にあきれながらです。で、結果、端的に言えば主人公が(夏輝刑事君は人が良くて好感度は抜群ですが)刑事としてはちょっと魅力が薄かった気がしてその分「迫力が無かったなぁ」ですか。でも、面白く読んだんですよ。ちょっとコミカルな部分の強調が話の陰惨さを薄めて家族の葛藤をも好感度アップして・・・その分問題?も甘くなっちゃった感はあるのですけれど、その分軽やかな味?になったかな。って、ちょっと褒めすぎかな?進行が甘すぎたところが作品の甘すぎになったかな。
ジェントル・シニアとジュニアってなんだかな・・・ですが、刑事って大変なのね。実際の刑事さんも離婚の多い職業なのかな?家の旦那が勤めていた会社の営業さんも離婚の多い職種だったようですが?
アメリカの映画で良く見るじゃないですか、結婚記念日に仕事していた旦那に家族を顧みないと離婚を突きつける妻。そういえば家族を大事にしたいからと大臣辞めた人も?ホワイトハウスの補佐官の離婚劇可哀想だったな・・・なんて、余計なこと考えたりして。
新米刑事の成長譚としても読めるし、警察群像劇としても読める。
うん、その部分でも欲張った分あいまいになって・・・って感も。
とりあえず刑事に付いたあだ名が笑えて、笑った分当然シリアス感が減少していって、五係、六係の因縁?刑事の腐敗、情報屋の使い方、面白くなる要素はあるのに(相星さんとの関係は出来すぎ!)、サスペンス的には?惜しい!・・・って、感も。
劇場系の後は劇画系?って、作品制作年代は調べていないから反対かな?
「・・・って感も、・・・って感も?」って、読みながらちょこちょこ思っていましたが、この作家「クローズド・ノート」の作家なんですね?って、それって映画化された?恋愛系?見ていませんが・・・それって警察系じゃないのでしょう?ふうむ、事件もの専門じゃないのかな?警察物が他にあるか探してもう一作とりあえず読んで見ましょうか。

あこがれのため息

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あこがれのため息

あこがれのため息
有吉 玉青幻冬舎 1998-09
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有吉玉青著

エッセイ、また随分と正反対のエッセイを読んでしまったなぁ・・・と言う思いがあります。佐野洋子さんの本を読んでしまった後では、いかにこの手のエッセイが「毒にも薬にもならないか」がわかってしまった感じがします。
でも本当はそんなことは無いのです。この多分まじめで丁寧に観察なさるエッセイストはとても現実的に人生に示唆を与えてくれる本を書いていらっしゃるのです。ただ、安全なところで、豊かなところで書いていらっしゃるので、たったちょっと前に読んだ本との余りに対照的な世界にめまいがしそうなほどです。佐野さんに圧倒された後ですから。
私より10歳年上の佐野さん、戦前の困難な生活を記憶に刻みつけ、困窮の中で亡くした家族の記憶にうなされて生きて、一人で生活を立ててきた人と、私より15歳若く恵まれた環境と豊かさの中で伸び伸びと教育を受けて育った人の目線の方角も在り様も比べることなどできよう筈も無くて、ただ佐野さんの世界から帰ってこれた安堵感を読みながら感じてしまいました。
「お嬢さんでよかったわねぇー」なんていったら、いけないでしょうね。でも、戦後の平和の延長が実に「ありがたい!」ってことが思われるのはこんなエッセイを読んだ時でなくて何時でしょう?なんて気になってしまいました。
あこがれることが出来るものに取り巻かれてつくため息のなんと甘美なこと!衣食足りての礼節部分の好き嫌い良し悪しって贅沢の一種ですかしら。多分、ぽっと読んだ以上に今そう感じられるのは「役にたたない日々」を読んだ後だからですね。その意味では私にとって読むタイミングに恵まれない本でした。
ほんとだったら素晴らしいデザートのようなお楽しみの本になるはずじゃなかったかな?と言う気もするのですけれど。


 

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