そろそろ旅に そろそろ旅に
松井 今朝子講談社 2008-03
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 松井今朝子著

松井今朝子さんの「吉原手引き草」を読んで、「仲蔵」に魅せられて、この作家は絶対好き!だと思って、その他の本も読もうと思って第3弾がこの本です。
十返舎一九(学校で習った頃はただの駄洒落まがいの名だと思ったのが意外な?というかちゃんとステキな?意味のある名前だった)の「東海道中膝栗毛」にたどり着くまでの前半生が実際の旅と自分探しの旅をあわせて「そろそろ旅へ」という題で書かれたものでした。したい事を見つけるまでのお尻の落ち着かなさがこの題そのものでした。いつも駆り立てられていたような?
教科書にあったのか先生が言ったのか「この世をば どりゃお暇と線香の 煙と共に灰さようなら」の辞世の狂歌も覚えています。
生涯、あの頃としては驚異の17回もの旅をしたと書かれていましたが、まさに心も体も旅の人だったのだなぁと、読み終わって感嘆しています。
見てきたような松井さんの筆の勢いもキッパリと微に入り細を穿つて描かれる一九の人生が妙にそぞろおかしくも悲しく哀愁を帯びて語られて、この分量!一生涯は書ききれないわねぇ・・・と、思えども、時代の景色と共にあの時代の浮世絵・読み本の興隆の流れまで丁寧で実にたっぷりと読み応えも手ごたえもあって本に頭を突っ込んでしまいました。普遍の青春の彷徨の記録になりました。
彼の生み出した弥次郎兵衛(弥二郎兵衛)と北八(喜多八)とが予七郎と太吉と重なるけれど、生涯切れなかったに違いない太吉とのかかわりは今で言うトラウマかと思えば何故か悲しい。それが吹っ切れた時に結実したのでしょうか?などと・・・
つい最近?も「やじきた道中てれすこ」という映画で弥次さん喜多さんにお目にかかっているというくらい私たちの中には普遍永遠の人物像です。多分日本人が日本人である間は決して消え去らない人々でしょう。軽くておばかでおっちょこちょいでずるくて色気づいていてお人よしで憎めないって像が出来ていますが、実際私がちゃんと読んだ部分はほんの最初、小田原ぐらいまでだったんではないかなぁ・・・と記憶を辿っていますが・・・いまはもう霧の中。
それでも読んでいなくとも彼らの像は誰の頭の中にも生きているという凄さです。その一九さんはあんなに人好きがして愛されたのに足掻き続けたんだって、なんかいいんです。だからあの作品もこんなに愛されて伝わっているんだって納得させられる一九サンの人物像でした。