ゆめつげ (角川文庫 は 37-1) ゆめつげ (角川文庫 は 37-1)
畠中 恵角川グループパブリッシング 2008-04-25
売り上げランキング : 3035
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

yumetuge1.jpg

畠中恵著

畠中さんの作品はこれで7冊目になるのかな?お江戸・時代物・ファンタジー系・・・の。この作品も江戸も後期、明治維新の足音が聞こえだした頃のお話である。しかもこの作家の作品は結構血が流れる。この作品も始まりは辻斬りから・・・江戸の暗い幕末の世相から入っていく。そして人殺しが次々起きる。そうなのよねぇ・・・と思う。そうなのに読み終わってみると血の臭いは結局綺麗に払拭されて、主人公のおっとりというかのんびりというか、その設定の印象に支配された楽しい読み物だったような気がしている。春風駘蕩?柳に風?それもほんのそよ風だったような?
それだけ主人公の設定がうまいって事だろうなぁ・・・どこといってどうってほど本人が魅力的なわけではないのに・・・彼の持つ能力に惹かれてしまう。
妖怪が見えて、家にいっぱい出入りしていたり、付喪神が付いているお道具に取り巻かれていたりと。ここでの主人公は夢告ができるという、いわば神が憑依するという特殊能力のあるおっとりした神官ということで、これはこれでなかなか興味惹かれる人物である。
事件に迫られて、人情に絡め取られて、続けてはできない夢告を何度も行ううちに彼の能力は飛躍し・・・?これもシリーズになりうるねぇ・・・と、期待するまでになってしまう。
何時も通り謎解きがあって、「実の子は誰でしょう?」という命題以外にも養い親たちを殺した犯人は?問題を持ってきた神官の怪しさは?と物語を引っ張っていく面白さもあって一気に読めたのだ。
しかしそれ以上に面白かったのは明治元年の神仏分離令を予期した神官たちの動き、またそれに対する寺僧らの気分などを背景に取り込んだ意外さだった。これが物語りの謎を重層的に膨らましている。確かあの時代尊王に働いた神職上がりの志士たちもいたなぁ・・・?
廃仏毀釈運動に流れ込んでいく時代。時々里帰りしてくる海外へ流出した仏像を見ると本当に惜しくて悲しいもの。あの頃貧乏した寺が売り払ったものだものね。「神も仏も大事にしておきたいわねぇ・・・日本人なら」と無心論者の私もこういう時はそう思うのです。
エアコンも使わない、風も止んでいる、集中力も途切れるこの真夏の昼下がり、畠田さんの「しゃばけシリーズ」はうって付けの、涼しくなる?最高の楽しみになると思うのですが、読者の思いは同じ?シリーズ残りの本がなかなか順番が回ってきませんね。