寄席紳士録 (1960年) 寄席紳士録 (1960年)
安藤 鶴夫文芸春秋新社 1960
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 安藤鶴夫著

「本牧亭の人々」を読んだらこの本が読みたくなりました。
「本牧亭」で出てきた芸人さんたちがとてもユニークだったので・・・「どれどれ、どんな方たちだったのかな?伝説の芸人さんは?」って気持ちでした。でも想像をはるかに凌駕、というよりも、その埒外っていうか、想像なんて追いつくはずも無いという驚きでした。
いやいや芸人さんって奇人とか変人とかの枠を越えている!人間の埒さえも超越した異星人みたいなものだ!
それなのに何処か畏敬の念も起こさせる。普通の人の欲とは違った、根本から別物の欲を持っていて、全くもって自分だけの自分なんだ?
そして何か物凄く普通の人(私から見てだろうけれども)から欠落したものがある。その上にこそある異能!
少なくとも安鶴さんがここに上梓した10人の芸人さんと湯浅さんとおでこさんの特異性といったら・・・凄いや!だけど安鶴さんはこの凄い人たちを何故か大事に愉快にそのままを見ている。事実ばかりかどうかは分からなくとも、ここに敬意を持って?活写された人々はリアルに生きていたという感じで読んでいる私を圧倒する。
「こんな人たちがちょっと前まで居たんだ!」と圧倒される。
「本牧亭の人々」でお近づきになったおひでさんのご亭主、春本助治郎さんならなんとかお付き合いさせていただけるか・・・?というところでしょうかねぇ。せいぜいでそこまでですよ。なめくじ長屋の志ん生さんの逸話はまだ私に一番近いでしょうか?それにしてもあの方の奥さんが務まった方がいらしたから、私はあの志ん朝さんの落語に惚れさせていただけたんだ!と感謝したいような気持ちでした。彼らの周りで彼らを支えて、または付き合って、仕事をさせた人々もまた凄いや!です。
TVがかなりの仕事場になった今の芸人さんにここで肩を並べられるような人はもう出てこないんだろうなぁ・・・と、この本を読んだ後では淋しいような心持がしましたけれど・・・多分むしろあの人たちそのものが今の社会じゃ「赤貧して」すら生きていけないかもしれません。
昔の芸好きな人たちの鷹揚なカラー、彼ら芸人さんの存在を心から楽しんだ隠居さんたち?という客そのもの、寄席そのものが「もうどっこもなくなっちまった!」というところでしょうか。そういう意味では世間は本当に狭くなったんでしょう。異常な事件を引き起こす人が増えたのも・・・居所が狭まったからでしょうか?と、そこまで思われました。どんな人にも居所があってこそ、世間ですよねって。