仲蔵狂乱 (講談社文庫) 仲蔵狂乱 (講談社文庫)
松井 今朝子講談社 2001-02
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松井今朝子著

松井今朝子さんの二作目。
益々この作家の世界に引きずり込まれていきそうだ。まるで知ったが最後抜け出せない年増の深情けの世界の様。
濃厚で濃密で脂粉、肢体、体臭などに絡め取られそうな深みがある。
最後のページの仲蔵が舞い狂う空から桜の花びらが舞い落ちて渦を巻く様が目に見えるよう、その花の渦の中をまた仲蔵が舞い昇っていくかのような様が目の前に繰り広げられるような・・・圧巻だった。
色彩のみならず匂いまで5感を総動員して読んでしまった、いや5感を呼び起こされてしまったという感じだろうか?
一昨年から父のお供で歌舞伎座に度々行ったことが幸いして、演目も既に失われたか、昨今演じられなくなったものもあるようだが、見た事のあるものもあるのが嬉しい。特に「定九郎」はまさに一昨年梅玉の定九郎を見たとき父が仲蔵の工夫の話をしてくれていた。今は定番?になったその扮装の話を聞いた時も、浮世絵展で仲蔵の役者絵を見た時も・・・あの頃はまだこの作品のある事を知らなくて、「ふう~ん」って、感じだったのに・・・一気に知識に色が付いた。
その仲蔵の一代記である。
歌舞伎の世界を背景に極彩色にならないわけが無い。
しかも孤児の境遇からのその酷な生い立ちから役者として座頭を務めるようになるという華々しい異例の出世までの、並々ならぬ苦労の一生がその極彩色にときに効果的な白黒の気配をも対照させて絵巻物の様にさーぁーっと一気に繰り広げられたような勢いの良さも、彼の狂乱の舞を際立たせて、こちらの心も波立たせる。
力強い筆致だなぁ・・・男性の様だ・・・と思えるくらいで、心を振り回されるような力技を感じるのだが、時に繊細な描写は針の先の鋭さも宿していて心の中の痛点をピシリと突いても来る。
芸人の世界のなんともぬめっとした一門意識・人間関係の底知れぬ不気味さ怖さ。現在の役者さんの談話にも「どこそこの兄さん」とか「なんとか屋のおじさん」とか言うせりふがよく聞かれるが・・・あの言葉の底には・・・なんていう楽屋雀並の好奇心まで・・・あぁあ、掻き立てられちゃって・・・。あんなにしごかれた養母の思い出が段々暖かくいいものに仲蔵の心の中で変わっていく様にほっとさせられ、この人の人間的な甘さとも優しさとも偉さとも思えて嬉しい場面だった。
田沼時代の奢侈の世相の前後と足並みを合わせるかのような歌舞伎の幾つもの座の栄枯盛衰も合わせて面白い。時代が立ちあがってくるなぁ。