御伽草紙

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先日何かで「俵の藤太」を知っているかという話になりました。意外に私と同じ年配の人でも知らないのですね。家に帰ってきて「俵の藤太のムカデ退治知らないのよ。驚いた!」と言うと旦那が「家のご先祖様だって教えてやった?」「藤太を知らない人にそんな事を言ってもねぇ~」 藤原秀郷は旦那の家のご先祖様ということになっているのです。
それでふっと思いました。「この年でも知らないのだから今の子供たちはもっと知らないだろうなぁ~」それで今度いつかボランティアで小学校の朗読をするなら・・・どうせなら・・・「この話をしてみようかな?」
藤太をご先祖と仰ぐ家は物凄く多いはずですしね。特に関東地方には?ヒョットすると私は家の子供たちにもこの話はしていないかもしれません。これはしなくっちゃ!というわけで早速図書館に探しに行きました。そしてこの「御伽草紙」のなかに入っているのを見つけた!というわけです。
一種の英雄冒険譚です。単純なわりに?面白いですからね。
それで久しぶりにこのお伽草紙に目を通しましたが・・・懐かしい話も、知らない話も収録されていました。南北朝時代から江戸時代の始めごろまでに流布し書き残されたあまたの物語から16話載せられていました。中では「鉢かつぎ」「酒呑童子」「浦島太郎」「ものぐさ太郎」「俵藤太物語」はよく知った話でしたけれど、他は初めてでした。それにしても荒唐無稽な不思議な話が随分と聞き継ぎ読み継ぎして伝わってきたのだなぁ・・・と感心します。今の子供たちにはこういう摩訶不思議なお話を咀嚼する力があるのでしょうか?意外にこういう筋が面白くてちょとばかげてありえなくて・・・それぞれに悲しかったり笑えたり信じられなかったり、という短いお話は頭にしみこみやすいかもしれません。
私がかすかに覚えている昔の物語は何時覚えたのか定かではないのですけれど・・・こうしてまた本当に久しぶりに出会ってみると・・・子供だった時が妙に身近に感じられるのです。あらかたは父が寝る前に読み聞かせてくれたものだったのですけれど。

最後の恋 つまり、自分史上最高の恋

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最後の恋―つまり、自分史上最高の恋。 (新潮文庫) 最後の恋―つまり、自分史上最高の恋。 (新潮文庫)
阿川 佐和子新潮社 2008-11-27
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8人の作家によるテーマ確定の短編集。
どこで何がトチ狂ったんだか・・・我ながら、らしくない変な作品借りちゃったよーと、思いながら帰ってきたのだけれど・・・三浦しをんさんと乃南アサさんの名が表紙にドンとあったから。三浦さんはファンだと言っていいと思うし、乃南さんは1冊しか読んでいないけど好印象。角田さんはまだ?付くけれど実力は分かっている。あとは読んだことの無い作家ばかり。
だから作家の経歴を読みながら・・・一作ずつ読んでいったのだけど・・・意外なことに?みんな良かった。好き嫌いはあるけれどもちゃんと力が入った作品をあつめてあるということは分かった感じ。
「最後の恋」だなんて乙女チック?気恥ずかしい?題だけれど、やはり女にとっても男にとっても大事なのは・・・大事な人とその思い出?
こういう作品もありだよね!うん!と、皆肯定しました。それに谷村さん作以外は、どれもちゃんと明日がありました。
「春太の毎日」はこう来ましたね?というとおりに来ましたけれど、茶化してないのがいい。「最後の恋」というテーマに本職さんが照れて・・・なんてことはやっぱり無いのでしょうが・・・そんな感じに一人で受けていました。でも本当の愛情は自分が独り占めするものでなく、徹底的に相手の幸せを考えるところにあるんだなぁ・・・と、素直な私は頷いていました。
「ヒトリシズカ」は徹底的に泣かせる。そのために書いてるんじゃないか?と思いましたね。こういう涙と官能の世界どっぷりもたまにはいいけど・・・こういうときを潜って女は再生するのかなぁ・・・必要な潜伏期間なんだよ・・・と、付け加えてオーケーか?
「海辺食堂の姉妹」はお伽噺。類型的な人物像でありえないとは思えど、このほんわりした素直な感じは悪くない。幸せに暮らしましたとさ!ヨカッタァ・・・
「スケジュール」は文句無く好きだね。こういう人居る、って言うか私そうなりたい・・・ちゃんとその人物が彷彿とするし・・・それなのに・・・ニコニコ笑えちゃうのは・・・この静かなユーモアにある。
「LAST LOVE」は彼女とお友だちも、どちらも近くに居そうなお姉さん。そう、こういう人居るのよね。余計な鎧外して自分だけになったとき見えてくるものとか、身に添ってくるものとかが、見つかったりすることってあるし。なんて、先輩面しちゃったりして。良かったわね。
「わたしは鏡」 メインのインサートされた小説がチョット稚拙な感じ。それが初々しい感じを増幅させて、少女雑誌系?なんか教室で回っていたロマンチックストーリーの小説集を思い出した。でもこれって可愛い!
「キープ」はこういう女居たら、私嫌いだ。大体知り合いにもならないね、お互い様だって?大人を気取っちゃって・・・呪われてって思うけれど・・・こういう人にも素直になる時がそのタイミングがあるんだな・・・なんて、振り返ってみたら入り込んでいたな。「本当に最高の恋がやってきたんならいいね」とまぁ言ってあげたいし。
「おかえりなさい」は上手い小説だなぁ・・・構成も内容も人の心の機微を上手に浚って丁寧にほぐして・・・ミステリアスでもあり・・・男の人の根本的弱点を上手く利用しているなっていう作品。この短編集をぐっとしめた感じがする。恋とか愛とかっていっても日常に根ざしたものにはかなわない。リンド夫人が言ったではないですか。男の操縦法1、美味しい物をたっぷり食べさせる!
 

凸凹デイズ

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山本 幸久文藝春秋 2009-02
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山本幸久著

「カイシャデイズ」「ある日、アヒルバス」に告ぐ三作目。で、会社というのか業界と言うのか、それ物の一つです。この作家はこういうシリーズでいくのでしょうか?
働きたくないとか、生きがいの感じられる仕事場が無いとか・・・グニョグニョ言っている人たちがこれを読んだら、いや山本さんの作品群を読んだら・・・どんなに羨ましく感じるでしょうね?
って、言うより仕事や仕事場が好きになるってことの意味考えちゃいますね。
凪海さんを見ていると・・・結局元は全部自分なんだって、自分の姿勢と言うか‘気’なんだ!って思えますよね。
そんな精神論・・・って、普段は思っていても、素直にそこが、今が、素晴らしいものになるかどうかは・・・自分次第なんだって。給料が安かろうが、変人に取り巻かれていようが?そう、そうなんだ!って姿勢がどんどん肯定的に、積極的に、明るい方へ、高い方へ登っていく感じがします。
これがこの作者の作り出した「カイシャ」の素晴らしさです!
タカ・クマ・シノさんが好きになったように、デコさんが好きになったように、凪海さんも、大滝さんも、黒川さんも、磐井田さんも、醐宮さんも、その個性素晴らしいじゃないですか。
この個性的な人々を何気なく読んでしまえるということは・・・この世の中の人、大抵は「その個性ステキじゃないですか」って、言ってあげられるものなのかもしれないなんて思ったりして。失敗しても落ち込んでも、明日も行きたいと思える会社があって、働けることって、なんてステキなんでしょう。仕事を探している人皆に、したい仕事を選べる自由と権利をあげたいな。そしてこの年でも働けたら、働ける場所があったら、ほんとうにいいのにな・・・って思いながら本を閉じました。
「ココスペース」という会社、「アヒルバス」という会社、そしてもう一つ「凹組」大好き!最後の「ほろっ」まで、ホント、上出来!ワンダーランド!
 

ある日、アヒルバス ある日、アヒルバス
山本 幸久実業之日本社 2008-10-17
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カイシャデイズ カイシャデイズ
山本 幸久文藝春秋 2008-07
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おそろし 三島屋変調百物語事始

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おそろし 三島屋変調百物語事始 おそろし 三島屋変調百物語事始
宮部 みゆき角川グループパブリッシング 2008-07-30
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宮部みゆき著

「三島屋変調百物語事始」という副題が付いています。
この本図書館に予約したのが何時のことだったかもうすっかり忘れ果てています。それくらい経ってようやく届きました。ようやくと言えば十日間家を留守にしていた間に東野圭吾作「流星の絆」が届いて取りにいけなかった間に流れちゃいました。改めて予約したら1200人待ちですって!時間が経ったのに増えてる!これってTVドラマ化のせいよね?チェッって感じ?
さてようやく来た本はその分?予想に違わず!面白く読めました。
全くもって名手ですよ!名手過ぎてすべりが良すぎると感じる何かもかすかに頭をよぎるのですけれど、面白く読ませていただける安心感も手馴れた感じ!「しっかし、上手いよなぁ・・・!」嘆声。
百物語と言う既成の枠組みを使いつつ、新しい意匠を凝らしている面白さ。百の物語が語られ何が起こるのだろう・・・と期待感を持たせます。
その何かにも新しい宮部さんならではの意匠が見られそう。それともむしろ現代の衣装をまとった百物語が時代の枠の中で語られるのか?
さぁどんななんでしょう?
心に大きな傷、暗い穴を抱えてしまったおちかさんが物語の聞き手となるのだけれど、だからこそ誰しもが語りたくなる、何かを打ち明けたくなると言う設定も無理はない。むしろ余りに何か人や事象に訳知りすぎて敏すぎる叔父さんの動きが少々出来すぎてあたりまえでない印象を受けるけれども、心ある叔父叔母夫婦に見守られつつ前へと僅かずつ進んでいくおちかさんがいじらしくて(だけど本来は恵まれ過ぎて生まれた人よねとやっかみつつも)・・・つい応援しつつ見守って、話に耳を傾ける自分に気が付いて「宮部ワールドの引力だわ・・・」と苦笑してしまう。心に大きな苦しみ、闇を抱えてしまった全ての人にこのような優しい手が差し伸べられるといいのに・・・なんて思って、そういう人がこの本にめぐり会ったらなにか感じるところが多いかもねぇと・・・。そう!怖ろしい物語だけれど、読む人によっては癒しにも助けにもなるのかも知れず・・・
宮部さんの長い物語をいつも長いと感じずに読みふけってしまう私は今回もまたどうせなら百話聞きたいと願い始めているし・・・。 是非、広げた大風呂敷にしっかり詰め込んでください!
実際途中で松太郎に殺されてしまった良助はどうなるの?なんで彼の事が出てこないの?って声が私の心の中にもずうっと聞こえていたから・・・家守の男のように・・・「まだ何かあなたとは縁がある」みたいな気持ちになって・・・。そう、話をしたい人は山のようにこの世にはいるでしょうし・・・自分の事を心ゆくまで語り続けられたら・・・それだけで救われるという状況はいつもあるものだし・・・人の心の、この世の中の「おそろし!」はあらゆる時の間に、襞に、ひっそりと、またはおどろおどろしく存在していることは確かなんだから・・・と期待しきりです。

・・・って、書いていたら友人からメールが入りました。「今、続編が読売朝刊で連載されているよ」   百話期待できるのも・・・そうしたら・・・何が起きるか?

カラスの親指

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カラスの親指 by rule of CROW’s thumb カラスの親指 by rule of CROW’s thumb
道尾 秀介講談社 2008-07-23
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「カラスの親指」     道尾秀介著

週の始めに図書館から届いたと連絡があり、貰ってきた。
その夜から早速読み始め、ほんの少し読んだら寝るつもりだった。ところが・・・止められなくなった。もう少しもう少し・・・と、気が付いたら明け方の4時になっていた。当然、翌日寝坊して起きたら、旦那が「昨日遅くまで起きていたみたいだね?」「うん、読み始めたら面白くて、止められなくなった。」「これ?道尾・・・?」「そう、もう何冊目かだけど、面白い作家だと思ったからまた予約したんだけど・・・ここまで化けるとは・・・今までの最高傑作だね。成長してるよ!」偉そうに言った。
言った後で気になった。新聞なんかの広告で見つけた作家で、見つけたのから適当に予約して読んだだけだもの、出版順に読んでいるか・・・?
確かめとかなくちゃ。偉そうにああ言ったけれど、ヒョットすると初作が上出来最高傑作で・・・後はジリ貧とかパワーが落ちてきているってこともありえるじゃないか?
読んだのは「シャドウ」「片目の猿」に次いで「ソロモンの犬」3冊読んで「シャドウ」が今のところベスト。さて、調べてみましょう・・・
「シャドウ」2006年9月。「片目の猿」2007年2月。「ソロモンの犬」2007年8月。それでこの作品「カラスの親指」が2008年7月。ああ、一応ちゃんと出版年順に読んでいるんだ。ジャァ、旦那に言ったことは正解なんだ・・・偉そうに言った点だけ割り引いてね。
そんなわけで2晩で読み終えた。文句無く面白かったし、実に見事に構成されてもいた。書かれた人物が皆私から見たら破天荒な人物なのに・・・愛せた。実に上手く騙されて、私も最後の彼らの詐欺の失敗に固唾を呑んだ。そして、樋口の弟の遊び心?の鷹揚さに驚かされた。えーほんとそれでまさか終るんじゃないでしょうね・・・で、最後。
いい終りだったねぇ。嬉しくなるじゃないの。テツさんの人生。彼らの人生。どんな人のだっていとしくなりそうな・・・全ての人の人生!
どんな今があっても人生どうにかなりそうじゃない?という肯定の足が地に付くことといったら!
冒頭の詐欺の出だしも実に興味をそそられる緻密ないい出だしだし。他にも忘れられない印象を脳裏に浮かべさせる情景も上手いが、一番いいのは、好きなのは、テツさんが縁側で「あちっ!」と言いながらタケさんに指の話をしているところ。縁側で掌を見つめ、指を付けたり離したりしているタケさんの背中。
あの場面は本当に秀逸、最高。私まで指を付けたり離したりしているもの・・・まだ。詐欺が「ヘロン」って、ああいう小さな景色の積み重ねがこの作品を高めているんだと思う。
で、今朝。朝刊を開いたら、この作品の「第62回日本推理作家協会賞」受賞の記事が載っていた。やっぱり!
だけど柳広司さんという知らない作家の「ジョーカー・ゲーム」という作品とダブル受賞になっていた。その柳さんのその作品読んでどっちがいいか比べてみようか?それとも先に道尾さんのほかの作品予約するか?
調べてみたら、道尾さんの新作「鬼の跫音」は80人待ち、柳さんは190人待ち!
どっちにしても・・・図書館は待たすんだよねぇ。
 

シャドウ (ミステリ・フロンティア) シャドウ (ミステリ・フロンティア)
道尾 秀介東京創元社 2006-09-30
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片眼の猿 One‐eyed monkeys 片眼の猿 One‐eyed monkeys
道尾 秀介新潮社 2007-02-24
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ソロモンの犬 ソロモンの犬
道尾 秀介文藝春秋 2007-08
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源平六花撰

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源平六花撰 源平六花撰
奥山 景布子文藝春秋 2009-01-09
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 奥山景布子著

先ごろ朗読のサークルのベテランさんたちが「耳なし芳一」を練習しているのを聞いたから・・・田辺聖子さんの「文車日記」を読んで「知盛」に同感だから・・・ってわけでもないのですけれど、ふと手に取りました。永遠の源平盛衰記です。
この作品はそういう「平家物語」とかの古典や歌舞伎、舞踏など古典芸能などから題材を採った、というよりむしろその中を自在に泳ぎまわった結果・・・と思われるような短編6編。源平に縁がある、または出来てしまった女性たちをなんとも美しい文と言葉で描き出しています。
古典の豊富な知識と古典藝術の造形の深さとにひれ伏してしまいました。知識だけで書いているのではないのです。知識だけだったらここまで心を揺さぶられずに終ったでしょうから。この源平が盛衰した時代の空気とその時代に生きざるを得なかった女人たちに対する憧憬と憐憫が作家の頭の底に根付いているのだろうな・・・と感じます。
伝わった様々の伝承、文学、謡曲、歌舞伎に至るまで、下敷きにしている材料は様々な形で私たちも目にし耳にしてきたものなのですが・・・奥山さんの紡いだ色合いが物語を新たなものにしたようです。
上手いなぁ・・・とも思って読み終わって調べれば・・・なんと処女作!
もっとも「オール讀物新人賞」を取った作品を含むとか。どの作品が賞を取ったんだろう?私的には「常盤樹」だけどな。これが一番まとまりのある小説になっていたように思うのですが。「平家蟹・・」の姉妹とか「啼く声に」の島娘にはオリジナリティが多かったし・・・という気もする・・・なんて思っているのですが。
好きな順に並べると「常盤樹」「啼く声に」。 ついでちょっと題材の用い方が安直な気がしないでもないけれど「二人静」。 「平家蟹異聞」は少し怖いけれどその中に悲しい魅力があって。「後れ子」は生き抜いて自分にたどり着いて大原御幸を迎えるに至る時を美しく描いているけれどももう少し練ってからでも・・・という気も。「冥きより」は熊谷の有名な?妻相模の心に迫るというものだけれどやはり題材はつらい。
そうこう思いながら古典をそのまま書き下し文にしたかのような、麗しい香気に包まれて、この作品を読んでいい時間を過ごせたと思った。
 

橋をめぐる

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橋をめぐる―いつかのきみへ、いつかのぼくへ 橋をめぐる―いつかのきみへ、いつかのぼくへ
橋本 紡文藝春秋 2008-11
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 橋本紡著

私の今の行動範囲の中にばっちりはまる六つの橋の名を題にした短編集を見つけました。隅田川にかかる橋2つ、小名木川、大横川など深川の堀に架かる橋4つ、そこに住む人々の・・・読み終わってみると温かなお話が6つ、味わえました。登場する人々の年齢も様々なら置かれている状況もばらばら・・・だけど受ける成熟感には透明感もあっていい感じだなぁ・・・と思って、この作家は・・・と裏を見れば・・・41・2?お若いんだ。
この作家の初めての作品です。
かなり書きなれて、手馴れた感じも受けるのに、清潔感があって、快い味わいがあります。どの人もおろそかにされない丁寧さが感じられ、どの人の未来にも明るみが射していて、和やかさがあります。そこが非常に心引かれるところですが、それは必ずしも下町だから、深川だからと言うわけではないのです。多分ここが舞台だとこういう心を書きやすいのだろうな・・・と思いますけれど、どこにだってどの人にだって普遍にある素直な心根が質素に描かれているのです。
最後の橋を渡って行くおじいちゃんは孫や息子の世界がそんなに取り付きがたいものではない事を知るでしょうし・・・息子は逃げ出した場所に帰る歓びを見出すでしょうし・・・孫はその両方を身体で知ることでしょう・・・そういうもんだ!なんて頷いているところです。
橋のリベットが手に残す感触が思い出を呼び返すキーになるように、心の中に思い出をよみがえらすキーは幾つも幾つも生きてきた年月の長さの中に埋もれているんだろうな。何かが琴線に触れて、何かが甦る!それってステキね?
永代橋、清洲橋、まつぼっくり橋、亥之堀橋、大富橋、八幡橋この近辺を歩くと彼らに会えちゃう・・・って思っちゃうね・・・なんか・・・

警官の血

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警官の血 上巻 警官の血 上巻
佐々木 譲新潮社 2007-09-26
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警官の血 下巻 警官の血 下巻
佐々木 譲新潮社 2007-09-26
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 佐々木譲著

「うたう警官」に次いで二作目。そんなに前に読んだのではないのに「うたう警官」の感想を記していないのに気が付いた。そして自分でもそうだろうなぁ・・・と納得。志水辰夫さんのいわゆる冒険物の感想が記せないのと同じ訳かな。
面白かったのだ!確かに。だけどそれは多分読んでいる間私は何にも考えずにただただ物語の筋を追って楽しんでいたのだろうと思う。丁度子供の頃にお伽噺や冒険小説をワクワクしながら読んでいたときと同じ。
あの時は主人公にそのまま乗り移って私がその冒険をしていたから、後で何を論ずる必要も無かったのだ。
勿論、この小説には(そんなにワクワクする)自分が主人公になって楽しめる要素は殆ど無いのだけれど。この自信を持って堂々延々書かれている大河小説?は流れとして読む人をさぁっと一気に運んでしまう誠実さをちゃんと持っている。
警官の血ね。正義感の血だといわれると反発してしまうけれど。職業は代々受け継がれてノウハウが効率的に譲り渡されていくことのメリットって確かにあるし・・・政治家はそれじゃ困るってことはこの頃国民は骨身に滲みているところだけれど・・・でも3代が限度だろうな・・・こういう商う職業ではない職業は、なんて思って読み終えた。
3代目で謎が解けるなんて・・・これって凄い僥倖だね?なんて、ちょっと思っているけれど、1代目より、2代目、3代目と何か厚い皮が被さっていき、スキルの向上以上に正義と言うものにまで瘡が被さってきたような気配も這い登ってきたような?だから「やっぱり3代が限度だね、世襲は・・・」と言うところに落ち着いて、それが主な感想になった。
丁度清二さんが警官になった年に生まれた私は丁度彼ら3代に付いて自分の時代の一つの側面を見た、という楽しみも別にあったし。
それに図書館で百数十人を待っている間にテレビドラマ化されてしまって、つい見てしまって(だって吉岡君がでたんだもの)、どのくらい丁寧にドラマ化されたのかな?なんて確認に勤しんでしまったという体たらくも・・・不本意だったな。
横山さん、志水さん、佐々木さんってどんどん読んでいきたいと思わせる作家だな!

ものがたりのお菓子箱

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ものがたりのお菓子箱―日本の作家15人による ものがたりのお菓子箱―日本の作家15人による
谷崎 潤一郎飛鳥新社 2008-11
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15作家、15作品が確かにきっちり詰まっていました。様々な味わいがあるという点では確かにお菓子箱ですが・・・多分に駄菓子も高級菓子もごった混ぜの気配です。コンセプトがなにかな?誰か考えてください?
小説・童話・詩など、別に甘いものとか辛いものとかを詰め合わせた気配も無いのですが・・・。不思議なごった煮です。
小川未明さんの童話など、本当に久しぶりにお目にかかりました。この方そのものを忘れていたといってもいいでしょう。最近著作権が切れたかなにかで新美南吉さんの童話に接する機会が何度かありました。最近の童話ってどんななんでしょうね?と、思いましたが・・・縁がなくなりました。
笑えたのは谷崎さんの李太白です。最初綺麗な言葉使い、高貴な?お屋敷のお嬢様、流石に時代を感じさせるお上品なお話し言葉・・・なんて細雪の世界を思い浮かべながら読んでいましたら・・・呆れました。佐藤春夫さんとの奥様譲り渡し事件?は私でも聞いたことがあるくらいですが・・・こんな腹いせを?鬱憤晴らし?と思ったら笑えました。偉大な文人もただの子供?みたいな事をするのですね。筆の暴力と言うほどではない筆の腹いせ・・・得意な物でやり込めるのは・・・上手いもんだ!です。
ま、そんなこんなでこれも久しぶりのボッコちゃんにいたっては中学以来?そういえば没後10年とか言っていたのは昨年か?中島敦さんも昨年必要があって山月記を読み返したところです。そういえば李陵とそれ以外の作品を読んだことがありませんでした。それにしても何か取り留めの無い物を読んだ気分です。
 

アメンボ号の冒険

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アメンボ号の冒険 (講談社文庫) アメンボ号の冒険 (講談社文庫)
椎名 誠講談社 2006-07-12
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椎名誠著

先日小学校読み聞かせのボランティアの代理を頼まれて6年の教室にお邪魔しました。「何を読むかも考えてね」ということで、代理もこれが4回目。風邪を引くたびに急に頼まれると作品選びに大慌てで四苦八苦します。今までに4年、5年と読みに行きましたが・・・読書経験の傾向が完全に彼ら(今の小学生)と私では違っているようです。
終って雑談で「うさこちゃん」知ってる?「知らない!」「ピーター・ラビット知ってる?」「知らない!」
ホントかいな?って思いましたが、その日の6年生に「赤毛のアン」知ってる?と質問して数人が「聞いたことがある」でした。そんなものかー?と驚きました。なにしろその日に読んだのはモンゴメリーの短編の一つでしたから。ですから帰りに図書館へ寄りました。今度慌てなくとも済むように?6年生ぐらいに丁度いい物語を物色してみるか?と思ったのです。
で、たまたまこの本に出会いました。5年生の時に作者が実際に体験した冒険の記録です。借りてきて、実際、私が夢中になりました。こんな子供って今の世の中から駆逐されちゃっていますよ。でも、彼ら(アメンボ号の冒険者たち)だったら十五少年漂流記を生き抜くことができるんじゃありません?
でも多分私が行ったあの教室の6年生は絶対一人も保たないと太鼓判を押せます。って、私だってどうかな?もたないだろう!ですが。それでも「ロビンソン・クルーソー」「スイスのロビンソン」読んでますからね・・・心の準備だけはバッチリ!
子供たちにこういう本を読んであげたいなって思いますけれど・・・15分の持ち時間じゃね。だけどこういう本で得た知識ってバカにならないでしょ?スイスのロビンソンのお母さんの教えは今も私の頭の中よ。
このアメンボ号は今の幕張辺りの冒険でしたが、今のあそこにはそんな遊びを受け入れる自然がもうありません。この辺りの子供たちは毎日橋を渡り、運河を望みながら通学していますが、この運河でこんな遊び・・・テンから考え付かないでしょうし・・・そんな怖ろしいこと!って感じですよね、今の川の姿を見たら。
子どもたちの覇気の無さを憂えるより、子供たちに遊びの余地を残してやれなかった我世代の情けなさが身にしみます。想像力をゲームの中でしか培えない世の中です。身体を使わせようと思ったらお金をかけてしっかり指導者のいる自然キャンプに行かせることくらいしかしてやれないのかも・・・?この本の中の4人の男の子に、昔の近所の坊主どもを懐かしく思い出して・・・一緒に基地を作ったけんちゃんやふいた君やりょーぞーくんや久美ちゃんはどこでどうしてござるやら?
 

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