源平六花撰 源平六花撰
奥山 景布子文藝春秋 2009-01-09
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 奥山景布子著

先ごろ朗読のサークルのベテランさんたちが「耳なし芳一」を練習しているのを聞いたから・・・田辺聖子さんの「文車日記」を読んで「知盛」に同感だから・・・ってわけでもないのですけれど、ふと手に取りました。永遠の源平盛衰記です。
この作品はそういう「平家物語」とかの古典や歌舞伎、舞踏など古典芸能などから題材を採った、というよりむしろその中を自在に泳ぎまわった結果・・・と思われるような短編6編。源平に縁がある、または出来てしまった女性たちをなんとも美しい文と言葉で描き出しています。
古典の豊富な知識と古典藝術の造形の深さとにひれ伏してしまいました。知識だけで書いているのではないのです。知識だけだったらここまで心を揺さぶられずに終ったでしょうから。この源平が盛衰した時代の空気とその時代に生きざるを得なかった女人たちに対する憧憬と憐憫が作家の頭の底に根付いているのだろうな・・・と感じます。
伝わった様々の伝承、文学、謡曲、歌舞伎に至るまで、下敷きにしている材料は様々な形で私たちも目にし耳にしてきたものなのですが・・・奥山さんの紡いだ色合いが物語を新たなものにしたようです。
上手いなぁ・・・とも思って読み終わって調べれば・・・なんと処女作!
もっとも「オール讀物新人賞」を取った作品を含むとか。どの作品が賞を取ったんだろう?私的には「常盤樹」だけどな。これが一番まとまりのある小説になっていたように思うのですが。「平家蟹・・」の姉妹とか「啼く声に」の島娘にはオリジナリティが多かったし・・・という気もする・・・なんて思っているのですが。
好きな順に並べると「常盤樹」「啼く声に」。 ついでちょっと題材の用い方が安直な気がしないでもないけれど「二人静」。 「平家蟹異聞」は少し怖いけれどその中に悲しい魅力があって。「後れ子」は生き抜いて自分にたどり着いて大原御幸を迎えるに至る時を美しく描いているけれどももう少し練ってからでも・・・という気も。「冥きより」は熊谷の有名な?妻相模の心に迫るというものだけれどやはり題材はつらい。
そうこう思いながら古典をそのまま書き下し文にしたかのような、麗しい香気に包まれて、この作品を読んでいい時間を過ごせたと思った。