聞き屋与平

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聞き屋与平―江戸夜咄草 (集英社文庫) 聞き屋与平―江戸夜咄草 (集英社文庫)集英社 2009-07-16
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宇江佐真理著

宇江佐さんが続きます。
これは主人公与平の晩年を描いて主人公の死で終るので、明るい作品とはいきません。といって主人公がしたいこと「聞き屋」という変わった商売で聞く話とそれから派生する様々なことどもは明るくないわけでもありません。       つまり人生はこんな色合いで終始するんだろうな・・・という感慨が生じました。 人の人生に関わるということは怪我無しにはできません。しかし聞いてもらうことで聞いて貰った人が助かるのは事実です。  ただ黙って聞いてくれる、そういう痛みを引き受けてくれる人が身近に居たなら・・・あなたは幸せです。聞いてもらって再生していく人が清清しく描かれています。人のつながりが幸せ感になります。
今、そういう人の居ない人が圧倒的なんでしょうね。
その意味で言えばまさしくこれは精神科の医者の原点です。カウンセラーの原点と言ったほうが身近かな?
薬を処方する前に出来ることがあるでしょう?ということです。
だからこれは時代をかりた普遍的人間の物語です。与平さんは亡くなってしまったのですが、ある意味聞くことの中にある醍醐味は奥さんに伝わったのかもしれませんね。この仕事は尽きぬ井戸のようなものです。作家の覚悟次第では物語は永遠に続いていくという気がするのですが・・・
人は聞いてくれる人を常に必要とし、また人に必要とされる事をしたいと願う人も常にいる・・・それが人間の営みのようですから。

桜花を見た

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桜花(さくら)を見た (文春文庫) 桜花(さくら)を見た (文春文庫)文藝春秋 2007-06
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宇江佐真理著

短編5作。ま、そんな事情で宇江佐さんが続きます。
この5作は少々長い。そう感じさせたのは2編「桜花を見た」と「別れ雲」この2作はなんていうか書きたいことがあって書いているというより書くために書き連ねた・・・という感じを受けたからかしら。主人公が迷っているのが・・・そのゆらぎを書くために費やす言葉が言葉に過ぎなくなって、そのために書いているような冗長さを感じてしまったのだ。
同じうっかりすると冗長と取られかねない長さなのに後の3作がそうはならずに読む満足感を与えてくれたのは、作家が書きたい人物を書いていたからではないだろうか?
「酔いもせず」のお栄は・・・北斎とお栄を描いた作品は何作か読んでいるが、この作者のお栄は画家としての意地と父への尊敬献身の間の揺らぎを書き込もうと奮闘しているのだという印象が迫ってきて、お栄の感情をかなりこねくり回しているにも関わらずなんだか痛々しく理解できるような気がする。お栄の人生、生きる道筋に愛情が持てる。
あとの松前藩を舞台にした作品はこの作家の作品としては重みが違う。
書きたい気持ちを感じる。特に「シクシピリカ」はいい。先日「たば風」の中の「錦衣帰郷」でこれだけの作品を書くなら徳内の一代記を書いてもらいたいと思ったくらいであるが、この作品は徳内の側からの彼の人生を描いて「錦衣・・・」を補筆している。・・・と、書いて・・・・・あれ?どっちが先の作品なんだ?と疑問に思った。作品の出来から考えると・・・「錦衣・・・」が後っぽいが。で、調べた。「たば風」05年5月。「桜花・・・」04年6月。
「シクシピリカ」を書いてから・・・やっぱり物足りなくて?意欲が湧いて?「錦衣帰郷」を描いたんだ。凄く納得!

神田堀八つ下がりー河岸の夕映え

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神田堀八つ下がり―河岸の夕映え (徳間文庫) 神田堀八つ下がり―河岸の夕映え (徳間文庫)徳間書店 2005-06
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宇江佐真理著

初めてこの作家の作品を読んだ時には正直この作家の作品を好んで読もうとは思いもしなかった。それがたまたまサークルで取り上げられて有無を言わさず?回ってくるようになって・・・いい作品を見つけた。
今は回ってくるのを楽しみにしているくらいだ。
前に書いたが「たば風」が転機?になったと思う。その前にもこの作家は短編がよさそうだとは思ったが・・・「錦衣帰郷」で違う一面を見たように思った。こんな事をいうのもなんだが・・・この作品をしっかり書き込んだら、帰郷というその一面だけでなく徳内のすべてを描いたら、素晴らしい作品になってこの作家も男性の時代作家に肩を並べる・・・いや骨太の作家になるのではないかという気がした。次いで回ってきたのがこの作品。短編6作。「おちゃっぴぃ」と同じく長屋物。堀尽くし。登場人物のその後も入るので馴染みやすい。
先日宇江佐さんの作品の話をしていたときにある人の感想は「いかにも女が藤沢さんや山本さんの世界に女の情感を押し込んで書いているって感じが、女を感じすぎていやなの」だった。
そうか・・・と思った。「恋いちもんめ」を初めて読んだときの私の感想はそれに近いものがあったのかもしれない。だから彼女に「たば風」を読む事を薦めてみた。「違う印象を持つわよ」と。
しかしここ数冊の短編集の中には特に女性作家を感じさせない作品がある。しっかりした江戸の下町世界を堅実に構築している印象もある。確かに女性ならではの視線はあるがそれはそれでいい視線だと思う。
この6作の中では「浮かれ節」は既読。「どやの嬶」「身は姫じゃ」を楽しく読んだ。「身は・・・」のほうには落語の雰囲気もある。それが女性らしい視点で描かれているのが功を奏している。「八つ下がり」の友情もむきつけじゃ無くていい。しかしこういう話には確かにあるピリッとした何かが欲しいという気もする。そこがすこし惜しいような・・・。
 

相談屋マスター

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相談屋マスター (ランダムハウス講談社文庫) 相談屋マスター (ランダムハウス講談社文庫)ランダムハウス講談社 2008-05-10
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吉川潮著
なんか妙に普通だ!という気がして・・・おかしいわ、そんなはず無いのに・・・と思った。
普通、銀座でバーテンとして成功してホステスと結婚して離婚して一人息子を恋しく思いながら独立して店を持った男・・・というと、あんまり普通って言葉とは相容れないと言う気がするものだが。
しかしこの主人公相談屋と言われる男が醸す雰囲気、与える印象は「普通」。極々常識的な地道な男に思えるのが不思議。商売で成功する人って本当はこういうものなのかもねぇ・・・?
この作家の私にとっての最初の1作目なんですが・・・そういえば・・・と、思いだしたのですが・・・小路幸也さんの「東京バンドワゴン」・・・この作家の本もこれ1作しか読んでいないのですが・・・を、思い出しました。
あれもこれもまっとうに考えれば普通じゃないのに極々普通に感じられる作品なのです。
この主人公のマスターのいる店に常連さんが持ち込む様々な問題がある意味普遍的な常識ハズレ過ぎない?問題だからでしょうか。
相談に乗って解決にというか、いい方向に道を見つけるマスターが、不思議に本当に常識ある回答を見つけるからでしょうか。大体相談事はきっちり身を入れて聞いてもらえればそれだけで7割がた?解決したようなところがありますものね。
快刀乱麻なんていうお話ではなくて、うんうん日常っておおげさに話せばこんな風に語ってしまうような難問って多いよね・・・そう!そういう時はそんな感じで考えると・・・みんなにとっていいことだよね・・・みたいな!
で、ほっとして、幸せな何処か既視感があるような安心感が漂っているんだ。 だからほっとしたい時にこの本を引っ張り出せば、あの「東京バンドワゴン」みたいに安心して読めるよね。私の日常ではないんだけど、でも日常だよね・・・みたいな。素直で優しい本なんだな。

みじかい眠りにつく前に

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金原瑞人YAセレクション みじかい眠りにつく前にI 真夜中に読みたい10の話 (ピュアフル文庫 ん 1-10) 金原瑞人YAセレクション みじかい眠りにつく前にI 真夜中に読みたい10の話 (ピュアフル文庫 ん 1-10)
中島 梨絵ジャイブ 2008-11-10
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 真夜中に読みたい10の話
              金原瑞人YAセレクション

十作家による十作品
有島武郎の「小さき者へ」は別格として、いしいしんじ著「サラマンダー」と恩田陸著「飛び出す、絵本」は既読。二つとも好感の持てる作品で覚えていました。
他は初めて。
で、取り立てて心に残るだろう・・・と、思うのは1作。寺山修司「踊りたいけど踊れない」
寺山修司さんの名は本当に良く知っていながら・・・私は読んだことが無い。全く作品に接したことのないまま、多能多芸多作多趣味の変人風なイメージがあって作品に出会いたいとすら思ったこともありませんでした。それがこんな小さな作品でばったり出会って・・・不思議な感じでした。
知らないまま作られていたイメージと随分違ったので。
どちらかと言うと青年期の記憶に似ています。自分が分からなかった頃というより自分を分かろうとしていたなぁ・・・知ろうと足掻いていたなぁ・・・という時に近い。今は自分がちっとも分かって居ないけれど自分がなんであろうともまぁいいやぁ・・・そんなものじゃないの・・・違ってても別にいいのよ・・・みたいにいい加減になっているけれど、いい加減ではいられなかった頃の記憶・・・それを呼び覚まされたような懐かしさ。
なんとなく抱いていたイメージより正直な人だったのかも?と、たった一つの可愛らしい作品でふと思ったのですが・・・

嘘をもうひとつだけ

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東野圭吾著

この作家のいわゆる「ガリレオシリーズ」はかなり読みましたが・・・「探偵ガリレオ」「予知夢」「容疑者Xの献身」「聖女の救済」「ガリレオの苦悩」と5冊?
たまたま、この本を借りてまたこの作家に「加賀恭一郎シリーズ」といわれるものがあるのを知りました。で、このシリーズで私が読んだ最初の作品は五作品の短編集でした。まだ1冊だけですから湯川さんと加賀さんのどちらがより好きかということは断定できません。私の性格からいっても?多分断定は出来ないかも・・・と、まぁ今の状態では思っているところですが。なにしろこういう探偵ものは読めるだけで、存在してくれるだけでありがたいとさえ思ってしまう私ですから・・・。そういえば今朝の朝刊にコーンウェルの新刊の広告がありました。満を持して?題も「スカーペッタ」!読みたい!
加賀さんはなかなか男前の気配ですが・・・なんとなくコロンボが手帳をひっくり返しているところを連想してしまいました。質問を重ねる口調まで。追いつめるしつこさも。彼も1匹狼系?刑事二人でつるんで聞き込みに回るタイプではなさそうです。この本面白かったので慌てて検索。ガリレオさんを超える8冊が出ているのですね。それで加賀シリーズとこの本の終りに書いていなかったらうっかり気が付かないところでしたが・・・記憶の何処かを軽く刺激する聞いた名のような気がしましたよ・・・「赤い指」でもう既にお目に?かかっていたのでした。うかつ者!
さて、この5つの短編・・・「嘘を・・・」は美千代さんの動機にみえる矜持があわれです。「冷たい灼熱」は多発する同種の事故を思いますね。何でああいうことになるのか?その一つの心理を描いていますが妻の嘘はともかく子どもの死体の処理が厭でした。ほかの作品も皆・・・全く女は・・・と思いながらこの作品の女性達にため息をついたのですが、加賀さんの推理は見事です。加賀さん登場の最初の作品から図書館に予約しました。この若さで、このスタイルで・・・コロンボねェ・・・? 「赤い指」ではそんな風ではなかったので期待して待ちましょう。
 

逍遥の季節

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逍遥の季節 逍遥の季節新潮社 2009-09-19
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 乙川優三郎著

この作家にはため息を付かされる。
本当になんだって何時もいつもこうなんだ?と、愚痴りたくなる。
物語・・・この作家が語ろうとする物語りも人も世界も皆・・・いってみれば・・・つまり私としては・・・キライではない。いやむしろ好きな・・・と、いっていいだろう。・・・と、思う。と、私もハギレが悪くなる。
その私以上にこの作家は歯切れが悪い。丁寧なんだろう、細かく細かく嘘なく描きたいんだなぁ・・・女性の心を。だけど心は結局描けない。本当は分からない。でも分かったように微細に顕微鏡で見てその分からない微細さをとらえどころの無い揺らぎを全部書きたいんだと・・・彼は頑張っている・・・?それが読んでいる私には少々手をかけすぎだよ・・・と、疲れる。
だって、周五郎さんも、周作さんもあんなに人を描いて満腹させてくれるけれど・・・こんな顕微鏡はつかわなかったもん!と、思ってしまうのだ。彼の緻密さが疲れさせる。人間皆そんな風に日ごと時間ごと秒刻みで揺れているのよ・・・当たり前じゃない。で、どう選んだか、どう一歩を踏み出したか、どう生きたか・・・でしょう?
情緒的な世界を描いているのだが、でもこの作家の真骨頂はその中での女性のゆれを描くところにあるのだから・・・まぁ、それを読ませていただこうか・・・と、苛々するのを承知で読むところがある、わたし。
文句言ってちゃバチが当たる。
この七作品の中の女性達はその中でも極め付きに人生の迷路の中にどっぷり居る。それでも彼女達には芯がある、強い。先だって朝日新聞連載「麗しき花実」で読んだ人々とお馴染みの名もちらほら、で、既視感・親近感もある。芸能芸術手職に生きようとする女性達。この時代に先駆ける自立した人になろうと足掻く女性達。しかもまさしく彼女達は先駆しているけれど、紛れもなく時代の女性達で・・・現代より生きにくい世をいきなければならない。それだけに心かき乱されて、応援したいのだけれど、甘い共感など拒絶される気がする。なぜなら彼女達は自分の心の混沌の中で十分すぎるほど逞しく足掻いているから。
「竹夫人」の奈緒は幸二と三味線の世界の踏み出せたし・・・、「三冬三春」の阿仁はぶれない画家への道を見出したし・・・、「細小群竹」のすずは重荷を負いながらも自立の業を身につけたし・・・「逍遥の季節」の紗代乃と藤枝の絆は明るいし・・・何とかほっとさせられたけれど、心が暗がりを見ているところで放り出されると・・・つらい。
すると、こんなに・・・分け入らなくてもいいでしょうに・・・と、また思う。
 

刻まれない明日

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刻まれない明日 刻まれない明日祥伝社 2009-07-10
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三崎亜記著

「失われた町」「廃墟建築士」などを踏まえた同じ世界ながら・・・読みながらこの作家の本質はロマンチストなんだなぁ・・・と、思っていた。
前作よりさらにロマンチックが止まらない?感じになっているようだ。
そこが前作より取り付きやすい感を与える。
不思議な世界は数々あれども・・・この人の不思議の世界には何か不思議な透明感がある。綺麗な薄いベールの向うに透けて見える、私の居る世界の隣に流れている世界・・・それを自然に垣間見ているような当たり前さ?
あたり前なんて絶対いえない設定の出来事が進行しているのに?
そう、それなのに受け入れている。だってしょうがないじゃないの隣の次元でそういう日常が流れているのですもの・・・みたいな?意識下で馴染みがあっちゃう世界。
そしてこの不思議な過去のある開発保留地区を内蔵していて、居留地への船の出る港町であって、異邦郭のあるこの市、7階撤去もすでに済んでいる町、この世界。
設定は三崎さんの先の作品でなじみになった世界。そあいてこの街には不思議な人々が横行している。道の意志を聞き道の概念の維持をする歩行技師、人々の思いをつなげる担当者、失われた町からのリクエストを取り次ぐラジオ局の住民対策班長、左の手で消えた町の夫と手を繋いでいる人、そしてまた右腕を封じ左腕だけで舞う舞人少年と繋がる音を統べ司る古奏器を操る共鳴士になろうとする少女、去っていった人から奏琴を受け継ぐもの・・・余剰思念を均一化した気化思念貯蔵プラントの管理者で記憶されない者となった人、彼らすべてを繋いだ継続観察対象者さん。過去と繋がる人々のかもし出す世界。彼らの間に通う愛、思いやりとも思い出ともいうもの。やっぱりロマンチックだ!
特に「道」という言葉の芳醇な豊かさを思えば、歩く人、道守り、歩行技師、その幡谷さんの魅力は計り知れない深さ。そしてその対に居る縁の下の力持ちになって記憶されない黒田さんと梨田さん・・・いいなぁ・・・!
そして予兆さんがいる。余りにも風化していくことが早すぎるこの時代を少しでも押さえようとするかのように、伝えなければならない物は伝えなければ、受け継がなければならない物は受け継いで・・・そうだよなぁ・・・と、ロマンに浸りながら私も呟く。受け継ぐ使命を持った者たち・・・いえ、多分人は皆何かを受け継いで伝えていく定めなんだとね?遺伝子だけかもしれないけれど・・・それだって難しいんだけど・・・
 

家守綺譚

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家守綺譚 (新潮文庫) 家守綺譚 (新潮文庫)新潮社 2006-09
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梨木香歩著
久しぶりに「私の本だ!」と同類感を満腹させてくれた小説に出会った!
これだけ心にぴたっとフィットする本にはなかなか出会わない。先回であったのは・・・吉田篤弘さんの「つむじ風食堂の夜」
庭のうろの大きなサルスベリに懸想された主人公もいいし、隣家の何事にも動じない物知りのおばさんもいいし、掛け軸の白鷺を追い立てて舟を漕いで何気なく?現れる高堂もいい、狸にしょっちゅう成り代わられる和尚さんもいいし・・・河童やサルスベリと格闘する花の咲いた竹もいいし・・・ゴローもいい・・・すべてが奏でる世界がいい!
ある夏、南禅寺の妙にしらっと明るい庭にサルスベリが印象的に咲いていたのを見たことがある。桃より濃い色のピンクが見事に咲き誇っていた。あの光景と裏の水路閣~蹴上げの風景を頭に思い浮かべながら楽しく不思議な物語を読みました。
描かれた風景と主人公の青年征四郎君の佇まいと彼の周りで関わってくる動植物の織り成す日々を豊かに楽しませてもらってそれでいいなぁ・・・。目次の純和風の植物名がいいでしょう?
適当にのんびり開いたところから1節づつ声に出してゆっくり読むのもいいなぁ。ただね最初の「サルスベリ」を読まないと話が見えないのね。それが惜しい!久しぶりに買ってしまいました!
子どもの時から図書館で読んで二度読みたい本だけ買うというのが私の石橋をたたく性格。それが久しぶりに出ましたなぁ・・・嬉しい!
実を言うと諦めきれずに年末の朗読会で「1章サルスベリ」を読みました。意外なことに?何人もの方から面白かったと声を掛けていただきました。読んでみたいと作家の名と作品名を確認された方々がいて・・・我が意を得たり!
 

利休にたずねよ

題名INDEX : ラ行 588 Comments »
利休にたずねよ 利休にたずねよPHP研究所 2008-10-25
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山本兼一著
実に面白く読みましたね。年が明けて書く読書録としては最高の本にあたったかもしれません・・・と、満足して・・・2回読み直したところです。ほんとのところ図書館から借りて週明けには返さなければならない本に追われているので、読み返す時間などないのですが、それでも読み返してしまいました。京都で三千家の佇まいを日常目にしていた私には利休という名は偉大で意外に身近です?一応お茶の経験もありますしね。歴史上の偉大な文化人という扱いでしょうか。でも政治家という側面も感じていました。
なにしろお茶のというか茶道の話をするとなれば・・・特に利休の侘びち茶の話となると・・・美しい物寂しい言葉が多出します。文を読んでいるだけで一つの世界にたゆたう楽しさを満喫できます。日常忘れていた美しい日本語にいっぱい出会えました。
それに利休の行きた時代の息吹!お茶を通しての武将、高僧、女性たちと利休のつながりがそれぞれの人から語られて生き生きと利休が立ち上がってきます。利休の色々な時の色々な横顔が。時代にのしかかるような一人の巨大な男、利休の生きた道筋が見えてきます。語る一人一人の人の心に大きな何かを刻みつけて逝った男、利休。それでもなお利休は一個の大きな不思議です。
聡過ぎる利器、利休。人の心の機微を底の底まで覗いてしまえる、利休。貪欲きわまりない豪腕、利休。あらゆる物を置き去りにして美のみを見つめられる情念、利休。畳の目一筋も読みきる繊細な美意識に支配される、利休。一人の女性に囚われて見果てぬ夢に絡み取られて枯れられない、利休。尊敬と憎悪に取り巻かれた、利休。様々な利休が様々な横顔を見せて大きな背中で坐っていました。家康のような(私は嫌いなので)策士が利休の掌の中で独り相撲を取っているみたいに心が右往左往するのが痛快でした。
あの緑釉の香合が宗恩の手によって粉々に砕け散った時、女としてはそうあるべきだと思いながら宗恩の見果てぬ夢を悲しく読み終わりました。誰の手にも余る男だったのかもなぁ・・・と。敬い尊ばれても当人は誰からも理解はされたくはなかった・・・そんな男を見せてもらったような気がします。
 

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