逍遥の季節 逍遥の季節新潮社 2009-09-19
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 乙川優三郎著

この作家にはため息を付かされる。
本当になんだって何時もいつもこうなんだ?と、愚痴りたくなる。
物語・・・この作家が語ろうとする物語りも人も世界も皆・・・いってみれば・・・つまり私としては・・・キライではない。いやむしろ好きな・・・と、いっていいだろう。・・・と、思う。と、私もハギレが悪くなる。
その私以上にこの作家は歯切れが悪い。丁寧なんだろう、細かく細かく嘘なく描きたいんだなぁ・・・女性の心を。だけど心は結局描けない。本当は分からない。でも分かったように微細に顕微鏡で見てその分からない微細さをとらえどころの無い揺らぎを全部書きたいんだと・・・彼は頑張っている・・・?それが読んでいる私には少々手をかけすぎだよ・・・と、疲れる。
だって、周五郎さんも、周作さんもあんなに人を描いて満腹させてくれるけれど・・・こんな顕微鏡はつかわなかったもん!と、思ってしまうのだ。彼の緻密さが疲れさせる。人間皆そんな風に日ごと時間ごと秒刻みで揺れているのよ・・・当たり前じゃない。で、どう選んだか、どう一歩を踏み出したか、どう生きたか・・・でしょう?
情緒的な世界を描いているのだが、でもこの作家の真骨頂はその中での女性のゆれを描くところにあるのだから・・・まぁ、それを読ませていただこうか・・・と、苛々するのを承知で読むところがある、わたし。
文句言ってちゃバチが当たる。
この七作品の中の女性達はその中でも極め付きに人生の迷路の中にどっぷり居る。それでも彼女達には芯がある、強い。先だって朝日新聞連載「麗しき花実」で読んだ人々とお馴染みの名もちらほら、で、既視感・親近感もある。芸能芸術手職に生きようとする女性達。この時代に先駆ける自立した人になろうと足掻く女性達。しかもまさしく彼女達は先駆しているけれど、紛れもなく時代の女性達で・・・現代より生きにくい世をいきなければならない。それだけに心かき乱されて、応援したいのだけれど、甘い共感など拒絶される気がする。なぜなら彼女達は自分の心の混沌の中で十分すぎるほど逞しく足掻いているから。
「竹夫人」の奈緒は幸二と三味線の世界の踏み出せたし・・・、「三冬三春」の阿仁はぶれない画家への道を見出したし・・・、「細小群竹」のすずは重荷を負いながらも自立の業を身につけたし・・・「逍遥の季節」の紗代乃と藤枝の絆は明るいし・・・何とかほっとさせられたけれど、心が暗がりを見ているところで放り出されると・・・つらい。
すると、こんなに・・・分け入らなくてもいいでしょうに・・・と、また思う。