刻まれない明日 刻まれない明日祥伝社 2009-07-10
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三崎亜記著

「失われた町」「廃墟建築士」などを踏まえた同じ世界ながら・・・読みながらこの作家の本質はロマンチストなんだなぁ・・・と、思っていた。
前作よりさらにロマンチックが止まらない?感じになっているようだ。
そこが前作より取り付きやすい感を与える。
不思議な世界は数々あれども・・・この人の不思議の世界には何か不思議な透明感がある。綺麗な薄いベールの向うに透けて見える、私の居る世界の隣に流れている世界・・・それを自然に垣間見ているような当たり前さ?
あたり前なんて絶対いえない設定の出来事が進行しているのに?
そう、それなのに受け入れている。だってしょうがないじゃないの隣の次元でそういう日常が流れているのですもの・・・みたいな?意識下で馴染みがあっちゃう世界。
そしてこの不思議な過去のある開発保留地区を内蔵していて、居留地への船の出る港町であって、異邦郭のあるこの市、7階撤去もすでに済んでいる町、この世界。
設定は三崎さんの先の作品でなじみになった世界。そあいてこの街には不思議な人々が横行している。道の意志を聞き道の概念の維持をする歩行技師、人々の思いをつなげる担当者、失われた町からのリクエストを取り次ぐラジオ局の住民対策班長、左の手で消えた町の夫と手を繋いでいる人、そしてまた右腕を封じ左腕だけで舞う舞人少年と繋がる音を統べ司る古奏器を操る共鳴士になろうとする少女、去っていった人から奏琴を受け継ぐもの・・・余剰思念を均一化した気化思念貯蔵プラントの管理者で記憶されない者となった人、彼らすべてを繋いだ継続観察対象者さん。過去と繋がる人々のかもし出す世界。彼らの間に通う愛、思いやりとも思い出ともいうもの。やっぱりロマンチックだ!
特に「道」という言葉の芳醇な豊かさを思えば、歩く人、道守り、歩行技師、その幡谷さんの魅力は計り知れない深さ。そしてその対に居る縁の下の力持ちになって記憶されない黒田さんと梨田さん・・・いいなぁ・・・!
そして予兆さんがいる。余りにも風化していくことが早すぎるこの時代を少しでも押さえようとするかのように、伝えなければならない物は伝えなければ、受け継がなければならない物は受け継いで・・・そうだよなぁ・・・と、ロマンに浸りながら私も呟く。受け継ぐ使命を持った者たち・・・いえ、多分人は皆何かを受け継いで伝えていく定めなんだとね?遺伝子だけかもしれないけれど・・・それだって難しいんだけど・・・