当マイクロフォン

題名INDEX : タ行 358 Comments »
当マイクロフォン 当マイクロフォン
三田 完角川グループパブリッシング 2008-06-28
売り上げランキング : 134659
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

toumaikurophon.jpg

三田完著

中西龍さんというアナウンサーを知っていますか?
私は全くラジオというものを聞かないので、この方をNHKのアナウンサーとしては全く知りませんでした。
アナウンサーの事を書いた本なら「読み」について何かいい示唆がえられるかもしれない・・・くらいの気持ちでした。
でもこの方の名、覚えがあります。鬼平犯科帳のナレーションに名前がありました。独特の声―美声、美声と本には書かれていましたが、私にはなんと癖のある特徴的な声だろうとは思っても美声として聞いた覚えはありません。鬼平のナレーションで、この人どこから持ってきたのだろう?知らない名だけれど、演歌の紹介するような司会業みたいな人かなぁ?ドサ回りの劇団の呼び込みとかアナウンス向きだぁ!なんて思った事を思い出しましたが、失礼でしたねぇ・・・でも、あながち全く間違えたと言うわけでもなさそうだな・・・と、読み終わって思いました。
個性というのは諸刃の刃ですよねぇ・・・。私はやはり女性の立場で読んでしまいますから、彼を通り過ぎていった多くの幸せにならなかった女性たちの事が思われます。葬式の前に殴られるたび一つ一つと増えていった指輪を見る奥様の心を見つめてしまうのです。
それでも彼女はどんな人間か知った上で、かなりよく知りぬいた上で結婚しているのです。龍さんの魅力のというか魔法の一端が見えるようで怖かったですね。使っている言葉の品(しな)と彼の性癖の間にある落差は業という厭な字をイヤでも思い出させます。
序章と終章を家族の立場から描き、真ん中は龍さんのドキュメンタリーと二村さんというNHK職員からの視線を交互にリレーしています。二村さんと(だけではないけれど)の会話で見せる「でございます」調と紅灯の巷で酔い遊ぶ姿態との落差は人間を怖いものにも、すごいものにも見せます。彼の詩には情があり、彼の短歌には気障があるけれど人の心を捉える心も同じだけある。だけど多分・・・と色々考えて、考えても及ばない闇を感じる。しかもその闇は愛情も打算も強欲も無常も無慈悲もなんとも濃いごったなもので練り上げられている臭さを秘めていて、これが中西ファンを生み出したのだろうなぁ・・・
アナウンサーとしてのお仕事に接することが無かったのを本当に残念に思いました。
せめて一生懸命あの鬼平のナレーションを頭の中に呼び出しているところなのです。
「咳、声、咽喉に浅田飴」 うーん、確かに、まだ記憶している。人の頭に刻み込まれる声を確かにお持ちだったのでしょうね。
しかしNHKというのはなんか厭なところだなぁ・・・ずーっと支払い続けてきたのはいいことだったんだろうか?とも。

歌酒場 ナレーション 中西龍 歌酒場 ナレーション 中西龍
中村泰士 古賀政男 吉幾三

コロムビアミュージックエンタテインメント(株) 1995-05-20
売り上げランキング :

Amazonで詳しく見る by G-Tools

最新ヒット曲集「流行うた」~ナレーション中西龍~
最新ヒット曲集「流行うた」~ナレーション中西龍~

Amazonで詳しく見る by G-Tools

赤めだか

題名INDEX : ア行 26 Comments »
赤めだか 赤めだか
立川 談春扶桑社 2008-04-11
売り上げランキング : 399
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る by G-Tools

立川談春著

談志さんの飼っている金魚がいくら餌をあげても大きく育っていかない。だからあれは「赤めだか」なんだ・・・という赤めだかが題になっているようです。談志さんの弟子も師匠を越えてでかくならない?そんなご謙遜を。
私が始めて談志さんを聞いたのは病気で舞台を休む手前だったので、聞こえたり聞こえなかったり・・・体が揺らぐとマイクから離れる・・・そうするともう声が通らない・・・っていう残念な状況でした。
勿論その昔TVなどでは随分個性的な発言を聞いていて、変わった人だと・・・どちらかというと好きでは無かったですね。話し方、言葉の使い方、声質そのもの・・・色々ね。
ところがそういう人にこんなにほれ込む人たちが居たんですねぇ。
この談春さんの舞台は残念ながら見たことも聞いたことも無いのに何でこの本を読む気になったか?ということの方が不思議ですが。「劇団ひとり」さんの小説も非常にある意味まじめなまともな!小説だったのですね。だからひょっとしたらこの人の本もまじめないい話が書いてあるのではないか?談志さん一門には鬼才・奇才の方がいるんじゃないか?といったところでした。
安鶴さんの本を読んだ後、個性的な芸人さんに対する好奇心、尊敬心?うずうずしております!
志の輔さんなんてとってもまともそうですけれど本当に多才の人ですしね。この一門どんなのかなぁ・・・?そして当たり!でした。まじめな修行時代の一門の人々もですが談志さんが息づいていました。
本当にちょっと見、ちょっと聞、で人をとやかく思うことの恐ろしさを感じましたね。こんな師匠がいて、こんな世界があって、こんな慕う弟子たちがいて・・・怖い人がいる、憧れる人がいる、目標になる人がいる、乗り越えたい人がいる・・・大好きな人がいる、そういう人のいる人のうらやましさ!見つけた人のうらやましさ!
そしておかしさも悲しさもとっぴさも情けなさもあらゆる気持ちを動員して、まじめなこの修行時代を一気読みしてしまいました。
それでも、安鶴さんの時代よりやっぱり少し?当たり前?になっている落語の世界に物足りなさを感じる勝手を許してください。
このおかしげな弟子さんたちももう多分師匠の色々な意味での凄さを越えるとりわけの何かをもう持っていないでしょうし・・・。
大体そういう理不尽さえもまかり通る世界を生きて行く逞しさを持てない時代なのかもしれませんし。談春さん自身の去って行った弟子たちのように?だからこそこの本が、この本で書かれた談春さんの修行時代が愛しく魅力的に読めたのでしょうか?少しづつ後ずさりしながら日本から消えていく師と弟子の世界への郷愁。
 

ちんぷんかん

題名INDEX : タ行 95 Comments »
ちんぷんかん ちんぷんかん
畠中 恵新潮社 2007-06
売り上げランキング : 3962
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

tinpun.jpg

tinpun1.jpg tinpun4.jpg

tinpun3.jpg

tinpun2.jpg tinpun5.jpg

 畠中恵著

「しゃばけ」シリーズの6になるのかな?順番通りに読んでいないと頭の中であいまいになる。
作者もこれだけ書いてくると本当に書きたいのかあいまいになるのかな?熱狂を持って待たれるシリーズ物を書く作家に必ず生じる葛藤?そこまで、まだ続いていないか・・・と、読みながらちょっと頭をかしげた。
妖を使うお話だけに作中人妖を思い通りに動かせるつもりが煙に巻かれた?とにかく読み始めは「?」付きで、何か足りないぞと思いながら読んでいた。1話「鬼と小鬼」はまさしく煙に巻かれた挙句の三途の川の鬼話だし?だけど2話目は表題になっている「ちんぷんかん」。当然この作品中の目玉?広徳寺の寛朝様は前出ですが、寛朝様の弟子秋英さんの成長話です。9歳の時に小坊主になって今この話の時には秋英さんは22歳になっている。だけどここでちんぷんかんになったのはお話が急に13年経ったように思えないところで生じたのではないかな?9歳と22歳の秋英さんに違いが見つからない。成長していないじゃない。この秋英さんは9歳のままの心を持っているから?時の経過が腑に落ちないので多分このホット?心を和ましてくれるに違いない秋英さんのキャラクターが今一心に浸透してこないのかな・・・惜しいなぁ・・・
こういう雑誌に掲載された小品を一冊の本に編む時、設定部分の繰り返しを整理してくれるとありがたいなぁと思います。
繰り返される設定説明がわずらわしく感じられるのです。このシリーズだけのことではないのですけれど。軽妙に読み進み楽しみたいものにこそ、そういう配慮はあってしかるべき・・・なんて。
「男振り」はこのシリーズのファンとしては楽しみな昔語り。お母さんのおたえさんの若き日の恋?と父藤兵衛さんとの結婚のなりゆき。なるほどなるほど・・・なのですが妖の血が半分も流れている(若旦那より濃い)お母さんのお話にしては期待より薄かったかな?
藤兵衛さんのキャラクターが面白そうなので、今後お兄さんの現実化してくる縁談にどう関わってどんな心を見せるのか?興味がありますがねぇ。
「今昔」も余り楽しくなくて・・・やっぱり?と思ったら「はるがいくよ」でほっとしました。このお話は若旦那らしくて他の皆も皆らしくて桜の春とリンクする小紅の一生のはかないお話と惜しむ心が素直に読む心に届く佳作でした!これが私の期待する畠中さんのしゃばけだわ!そういうわけで次が早くとまた、待たれる心地で、よかった。

イラストのファンになっちゃった。

牛込御門余時

題名INDEX : ア行 1030 Comments »
牛込御門余時 (集英社文庫 た 38-2) 牛込御門余時 (集英社文庫 た 38-2)
竹田 真砂子集英社 2008-08
売り上げランキング : 443375Amazonで詳しく見る
by G-Tools

usigomegomonyoji.jpg

竹田真砂子著

牛込御門に何かしかのつながりのある家、人、の物語を8作集めた短編集です。面白い趣向だと思いましたね。さりげなくどこかで牛込御門が出てきます。私の住んでいた牛込薬王寺町付近の町名がころころと転がり出てきて・・・つくづく市谷近辺は羨ましい!こまかい町名がちゃんと残っているのですものね。浅草からはとうに懐かしい町名が消えました。最近益々古い名前が無くなっていきます。そこが谷だったのか台地だったのか・・・どんな歴史があったのか・・・地名から過去を知るのはどんどん難しくなっていきます。いいんでしょうかねぇ?どこもかしこも「何とか丘」。 そういえば地名に関して印象的な話を聞いたことがあります。札幌でこの頃地名の本家還り?またその反対?が。読み方が変わっていくのです。「月寒」はツキサップと習いましたが今はツキサムらしいですし、秩父別はチチブベツと習いましたが今はチップベツというらしいです?で、札幌の知り合いのオバサンが言っていました。「やっと先祖が苦労して日本名にしたものを・・・」と。「なるほどそういう立場もあるか!」でしょう?それは寄り道。
「千姫と乳酪」の舞台、千姫御殿・またの名吉田御殿とは歴史物の本が好きな人たちにはよく知られている御殿だと思いますが、その御殿が牛込御門近くだったとは知りませんでした。  この話と最後の8話「本多様の大銀杏」でこの物語は牛込辺りに住んでいたと思しき父親の昔語りを懐かしく娘が思い出していたんだ・・・とこの本の趣が腑に落ちたのです。だからか「本多様の大銀杏」は現代の父をしのぶ話のところが心にしみました。
この作品群の中では「奥方行状記」が面白く読めました。久乃の才も沢之丞の芸も夫婦の機微も、心の行き惑いに華やかな衣装をうち掛けたような趣がありました。他の作品もそれぞれに面白い話題を書いているのですがなにか心に訴えてくるものが寂しい感じがあります。
妻のあり方としてこの「奥方行状記」と「本多様の大銀杏」は丁度対極にあるようです。今のサラリーマンの妻の状況と同じですね。
妻というものが随分変化しているこのご時世にあってもまだ通じる余地はあるようです。自分を表現できないまでも、「一人を生きる術」を持たないと、生きて行くのは大変なのは今も昔もでしょうか。
「9枚の皿」とか「献上牡丹」「繁盛の法則」の読後感はいやですね。「やせ男」は丁度このところおなじみの江戸の狂歌師、「そろそろ旅に」「戯作者銘々伝」の中に出てきた人々の話でもあり江戸の人々の明るさを興味深く読みました。
とにかく地名に楽しませていただいた作品集でした。

戯作者銘々伝

題名INDEX : カ行, 未分類 448 Comments »
戯作者銘々伝 (ちくま文庫) 戯作者銘々伝 (ちくま文庫)
井上 ひさし筑摩書房 1999-05
売り上げランキング : 715841Amazonで詳しく見る
by G-Tools

meimeidenn.jpg

meimeidenn2.jpg meimeidenn1.jpg

井上ひさし著

この夏、民藝の朗読で井上さんの「父と暮せば」を聞きましたが、先日また井上さんの「新釈・遠野物語」と「おゆき」を聞きました。
全部傾向の全く違う、それでいて心を打ったり笑わせたり人を翻弄する凄い作品です。
一度講演会でご本人のお話を聞きましたが(お約束?遅刻なさいました)言いたい事をとても見事に尽くした公演で感歎しました。
凄い方だなぁ・・・と、「モッキンポット師」を読んだ時には既に思っていましたが、本当に才能にオーラがかかりまくっています!
ここのところ芸人さん関係(安鶴さん)を読んでこの方面にはまりかけていますから・・・「そろそろ旅へ」もそんな系でしょ?(ってちょっと違う)だから図書館でこの作品を見つけた時は今読むには絶好!と思ったんです。
で、予想通り!面白かった!興味深かった!
「そろそろ旅へ」で読んだばかりの山東京伝さんや式亭三馬さんの違う方面からのアプローチがそれこそツボにはまったみたいにバッチリ面白く興味深く読ませていただきました。
戯作者の皆さんならず、一芸で名を残された人々の凄さって、人生って(安鶴さんの作品を思い出して)、本当に!この平凡極まりない野次馬根性だけの私の目には興味の底なし沼のようでした。
才能はそれを授かった人に、普通の暮らしをきっと許さないんだって思いましたね。当人が望むと望まないに関わらず。才能は運命なんですね。あの逆の逆を行った変人中の変人「唐来参和」!     彼の生き様の哀れに趣のあること「おもしろきもの」の世界です。最も彼の妻になってしまったお信さんには笑い事ではない人生だったのでしょうが。このお信さんには妙な魅力がありましたね。振り回されていても心の底に彼を受け入れている、翻弄される自分の人生を受け入れている不思議なからっとした何かが。諦念というか、それも一つの情だったのでしょうか。
橋から飛び込むときの彼はきっとなす術のなかった自分の人生にあきれ果てていたでしょうか?それでも世に残った作品に満足はあったでしょうか?関係なかったんでしょうね。作品は私みたいな普通の人の、才能を授けられなかった人のためのものでしょうから。
彼らは才能と言う運命に翻弄されて働かされたのでしょうね。
井上さん自身の人生もきっと後で、(ヒョットするともう?)誰かに書かれるのでしょう。非常な才にこき使われた人として。だって、本当に多芸で多能で多作で・・・忙しさ極まりないお方のようですもの。そしてこの作中の人物の系譜に繋がる人なんでしょうね?と、勝手に思わせていただいています。
 

ビター・ブラッド

題名INDEX : ハ行 126 Comments »
ビター・ブラッド ビター・ブラッド
雫井 脩介幻冬舎 2007-08
売り上げランキング : 87529
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る by G-Tools

雫井脩介著

この作家の二作目です。「犯人に告ぐ」が面白く読めましたから、直ぐこの作品を予約しました。私って警察・探偵ものに本当に目がないなぁ・・・と、自分にあきれながらです。で、結果、端的に言えば主人公が(夏輝刑事君は人が良くて好感度は抜群ですが)刑事としてはちょっと魅力が薄かった気がしてその分「迫力が無かったなぁ」ですか。でも、面白く読んだんですよ。ちょっとコミカルな部分の強調が話の陰惨さを薄めて家族の葛藤をも好感度アップして・・・その分問題?も甘くなっちゃった感はあるのですけれど、その分軽やかな味?になったかな。って、ちょっと褒めすぎかな?進行が甘すぎたところが作品の甘すぎになったかな。
ジェントル・シニアとジュニアってなんだかな・・・ですが、刑事って大変なのね。実際の刑事さんも離婚の多い職業なのかな?家の旦那が勤めていた会社の営業さんも離婚の多い職種だったようですが?
アメリカの映画で良く見るじゃないですか、結婚記念日に仕事していた旦那に家族を顧みないと離婚を突きつける妻。そういえば家族を大事にしたいからと大臣辞めた人も?ホワイトハウスの補佐官の離婚劇可哀想だったな・・・なんて、余計なこと考えたりして。
新米刑事の成長譚としても読めるし、警察群像劇としても読める。
うん、その部分でも欲張った分あいまいになって・・・って感も。
とりあえず刑事に付いたあだ名が笑えて、笑った分当然シリアス感が減少していって、五係、六係の因縁?刑事の腐敗、情報屋の使い方、面白くなる要素はあるのに(相星さんとの関係は出来すぎ!)、サスペンス的には?惜しい!・・・って、感も。
劇場系の後は劇画系?って、作品制作年代は調べていないから反対かな?
「・・・って感も、・・・って感も?」って、読みながらちょこちょこ思っていましたが、この作家「クローズド・ノート」の作家なんですね?って、それって映画化された?恋愛系?見ていませんが・・・それって警察系じゃないのでしょう?ふうむ、事件もの専門じゃないのかな?警察物が他にあるか探してもう一作とりあえず読んで見ましょうか。

あこがれのため息

題名INDEX : ア行 220 Comments »

あこがれのため息

あこがれのため息
有吉 玉青幻冬舎 1998-09
売り上げランキング : 567818Amazonで詳しく見る
by G-Tools

akogareno.jpg

akogareno11.jpg

有吉玉青著

エッセイ、また随分と正反対のエッセイを読んでしまったなぁ・・・と言う思いがあります。佐野洋子さんの本を読んでしまった後では、いかにこの手のエッセイが「毒にも薬にもならないか」がわかってしまった感じがします。
でも本当はそんなことは無いのです。この多分まじめで丁寧に観察なさるエッセイストはとても現実的に人生に示唆を与えてくれる本を書いていらっしゃるのです。ただ、安全なところで、豊かなところで書いていらっしゃるので、たったちょっと前に読んだ本との余りに対照的な世界にめまいがしそうなほどです。佐野さんに圧倒された後ですから。
私より10歳年上の佐野さん、戦前の困難な生活を記憶に刻みつけ、困窮の中で亡くした家族の記憶にうなされて生きて、一人で生活を立ててきた人と、私より15歳若く恵まれた環境と豊かさの中で伸び伸びと教育を受けて育った人の目線の方角も在り様も比べることなどできよう筈も無くて、ただ佐野さんの世界から帰ってこれた安堵感を読みながら感じてしまいました。
「お嬢さんでよかったわねぇー」なんていったら、いけないでしょうね。でも、戦後の平和の延長が実に「ありがたい!」ってことが思われるのはこんなエッセイを読んだ時でなくて何時でしょう?なんて気になってしまいました。
あこがれることが出来るものに取り巻かれてつくため息のなんと甘美なこと!衣食足りての礼節部分の好き嫌い良し悪しって贅沢の一種ですかしら。多分、ぽっと読んだ以上に今そう感じられるのは「役にたたない日々」を読んだ後だからですね。その意味では私にとって読むタイミングに恵まれない本でした。
ほんとだったら素晴らしいデザートのようなお楽しみの本になるはずじゃなかったかな?と言う気もするのですけれど。


 

役にたたない日々

題名INDEX : ヤ行 147 Comments »
役にたたない日々 役にたたない日々
佐野 洋子朝日新聞出版 2008-05-07
売り上げランキング : 3604
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る by G-Tools

yakunitatanaihibi.jpg

佐野洋子著

「シズコさん」を読んで、あんなにきついと思ったのに、気が付くとまた佐野さんの本を予約していました。それも「またきつそうだな?」と思われる題の本をよりにもよって?
たまには等身大で?自分を広げて晒してくださる人の日常を読ませていただくのも何か一種、人生の覚悟に繋がるのかも・・・という気がして。そしてやっぱり「案の定きつかった!」                                            目次を見ると分かるとおり、エッセイというか日記のようです。ですけれど、やっぱりこれは作者の時々の、折々の書かずに入れれないような何かの発露の様でもありました。でも何故か随想とか随筆という言葉は重い内容をもっと重たくしそうで使いたくないな、って感じがします。
エッセイを読む時って大抵は自分と引き比べて、「へー、そう思うんだ?」とか「なるほどそうだよねぇー?」とか「ほう、そういう見方も出来るか?」とかみたいな?が普通。
でも佐野さんのこの本に関する限り一切自分と引き比べることが出来ない感じがしました。
勿論していること、思っていること、考えていること、過ぎていく日々の有様、その中に何かしらの同感・共感を抱いてはいるのだけれど、「あぁ、私にもこんな日があるなぁ・・・」なんてことも思うのに、ここまで自分を晒して開き直っている人に安直に「本当ね」なんて言えやしない。余りにも壮絶すぎて余りにも後が無くて、退路を断っていて。この方は今誰にも何をも求めていないんだな。ただ生きてきて最後の時がわかって、「こんな人が一人ここに居たよ!」って言っておきたいんだな。なんて、感じられたので。
感嘆するような事を書いていても、馬鹿な事を書いていても、頷きたくなるような事を書いていても、呆れるような事を書いていても、その全部に「・・・それにしても凄いなぁ!」をくっつけざるを得ないって感じなんです。
「義務はみな果たし、したい仕事も無い」そんな風にして死を迎えられるのは、その覚悟がつくのは・・・本当の所どんなことなのか私にはまだ分からないのです。でもやっぱり凄いな!って感じは感じちゃうのです。「シズコさん」と「役にたたない日々」を読んで「役にたつ自分」を生きた一人の女性の姿を感じたところです。彼女は人生で非常に格闘した人なんですね、と。

そろそろ旅に

題名INDEX : サ行 291 Comments »
そろそろ旅に そろそろ旅に
松井 今朝子講談社 2008-03
売り上げランキング : 65998
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

tabi1.jpg

tabi2.jpg

 松井今朝子著

松井今朝子さんの「吉原手引き草」を読んで、「仲蔵」に魅せられて、この作家は絶対好き!だと思って、その他の本も読もうと思って第3弾がこの本です。
十返舎一九(学校で習った頃はただの駄洒落まがいの名だと思ったのが意外な?というかちゃんとステキな?意味のある名前だった)の「東海道中膝栗毛」にたどり着くまでの前半生が実際の旅と自分探しの旅をあわせて「そろそろ旅へ」という題で書かれたものでした。したい事を見つけるまでのお尻の落ち着かなさがこの題そのものでした。いつも駆り立てられていたような?
教科書にあったのか先生が言ったのか「この世をば どりゃお暇と線香の 煙と共に灰さようなら」の辞世の狂歌も覚えています。
生涯、あの頃としては驚異の17回もの旅をしたと書かれていましたが、まさに心も体も旅の人だったのだなぁと、読み終わって感嘆しています。
見てきたような松井さんの筆の勢いもキッパリと微に入り細を穿つて描かれる一九の人生が妙にそぞろおかしくも悲しく哀愁を帯びて語られて、この分量!一生涯は書ききれないわねぇ・・・と、思えども、時代の景色と共にあの時代の浮世絵・読み本の興隆の流れまで丁寧で実にたっぷりと読み応えも手ごたえもあって本に頭を突っ込んでしまいました。普遍の青春の彷徨の記録になりました。
彼の生み出した弥次郎兵衛(弥二郎兵衛)と北八(喜多八)とが予七郎と太吉と重なるけれど、生涯切れなかったに違いない太吉とのかかわりは今で言うトラウマかと思えば何故か悲しい。それが吹っ切れた時に結実したのでしょうか?などと・・・
つい最近?も「やじきた道中てれすこ」という映画で弥次さん喜多さんにお目にかかっているというくらい私たちの中には普遍永遠の人物像です。多分日本人が日本人である間は決して消え去らない人々でしょう。軽くておばかでおっちょこちょいでずるくて色気づいていてお人よしで憎めないって像が出来ていますが、実際私がちゃんと読んだ部分はほんの最初、小田原ぐらいまでだったんではないかなぁ・・・と記憶を辿っていますが・・・いまはもう霧の中。
それでも読んでいなくとも彼らの像は誰の頭の中にも生きているという凄さです。その一九さんはあんなに人好きがして愛されたのに足掻き続けたんだって、なんかいいんです。だからあの作品もこんなに愛されて伝わっているんだって納得させられる一九サンの人物像でした。

仲蔵狂乱

題名INDEX : ナ行 235 Comments »
仲蔵狂乱 (講談社文庫) 仲蔵狂乱 (講談社文庫)
松井 今朝子講談社 2001-02
売り上げランキング : 106199
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

nakazou1.jpg

松井今朝子著

松井今朝子さんの二作目。
益々この作家の世界に引きずり込まれていきそうだ。まるで知ったが最後抜け出せない年増の深情けの世界の様。
濃厚で濃密で脂粉、肢体、体臭などに絡め取られそうな深みがある。
最後のページの仲蔵が舞い狂う空から桜の花びらが舞い落ちて渦を巻く様が目に見えるよう、その花の渦の中をまた仲蔵が舞い昇っていくかのような様が目の前に繰り広げられるような・・・圧巻だった。
色彩のみならず匂いまで5感を総動員して読んでしまった、いや5感を呼び起こされてしまったという感じだろうか?
一昨年から父のお供で歌舞伎座に度々行ったことが幸いして、演目も既に失われたか、昨今演じられなくなったものもあるようだが、見た事のあるものもあるのが嬉しい。特に「定九郎」はまさに一昨年梅玉の定九郎を見たとき父が仲蔵の工夫の話をしてくれていた。今は定番?になったその扮装の話を聞いた時も、浮世絵展で仲蔵の役者絵を見た時も・・・あの頃はまだこの作品のある事を知らなくて、「ふう~ん」って、感じだったのに・・・一気に知識に色が付いた。
その仲蔵の一代記である。
歌舞伎の世界を背景に極彩色にならないわけが無い。
しかも孤児の境遇からのその酷な生い立ちから役者として座頭を務めるようになるという華々しい異例の出世までの、並々ならぬ苦労の一生がその極彩色にときに効果的な白黒の気配をも対照させて絵巻物の様にさーぁーっと一気に繰り広げられたような勢いの良さも、彼の狂乱の舞を際立たせて、こちらの心も波立たせる。
力強い筆致だなぁ・・・男性の様だ・・・と思えるくらいで、心を振り回されるような力技を感じるのだが、時に繊細な描写は針の先の鋭さも宿していて心の中の痛点をピシリと突いても来る。
芸人の世界のなんともぬめっとした一門意識・人間関係の底知れぬ不気味さ怖さ。現在の役者さんの談話にも「どこそこの兄さん」とか「なんとか屋のおじさん」とか言うせりふがよく聞かれるが・・・あの言葉の底には・・・なんていう楽屋雀並の好奇心まで・・・あぁあ、掻き立てられちゃって・・・。あんなにしごかれた養母の思い出が段々暖かくいいものに仲蔵の心の中で変わっていく様にほっとさせられ、この人の人間的な甘さとも優しさとも偉さとも思えて嬉しい場面だった。
田沼時代の奢侈の世相の前後と足並みを合わせるかのような歌舞伎の幾つもの座の栄枯盛衰も合わせて面白い。時代が立ちあがってくるなぁ。
 

Design by j david macor.com.Original WP Theme & Icons by N.Design Studio
Entries RSS Comments RSS ログイン