さざなみの家

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さざなみの家 (ハルキ文庫) さざなみの家 (ハルキ文庫)角川春樹事務所 2002-09
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連城三紀彦著

友人が「ねぇ、面白い本読んだの。で、色々考えちゃって、あなたの感想を聞いて見たいのよ。読んでみてくれない?」と言う。
この作家の名前は知っているが1冊も読んだことはない。でも、そういわれると読みたい病がむくむく立ち上がった気配。読むのは好きだし、それについて語れるのは大歓迎。彼女も図書館で見つけたというし、で早速図書館へ。
とても面白く読み終えたけれど・・・何処か胡散臭い。
丁度嫁姑物をTVドラマで見るみたいに、何処かにごまかしを隠して甘めの衣で包んで、人ってねぇ・・・って、なだめられているような・・・この薄物を剥ぎ取れたら何が出てくるんだろう?何も出てこないよ。だって「ほんとう」を見ないようにしているんだもの・・・みたいな?
ただ物語りは実に上手いのです。面白い設定から入って家族の肖像画が描かれて、それぞれにそれぞれのそれぞれなりの言い分がちゃんとリアルっぽく描かれて・・・なんと大らかな家なんだろう!
なんてそれぞれのキャラクターがその凸凹がパズルのようにうまくはめこめるんだろう。彼女の出っ張りと彼のへっこみがなんてうまくはまるんだ?
ほどのいい意地悪と、ほどのいい裏切りと、ほどのいい思いやりと、ほどのいい誠実さと・・・何より程の良い家族思い。
私って身びいきなの。よそから見て何がわかるの、この大家族の良さとその裏に隠れた苦労と許しと思いやりが?みたいに、そう大向こうから正面切って大目玉でギョロリと睨まれた感じ。
「毎日少しづつ疲れていくと、その疲れに慣れて、疲れを疲れと認識しなくなるものよ。そう大家族もやってみるといい味でるわよ。家族の丁々発止は無いと薬味のない蕎麦みたいなもんよ。やったんさい!」そういわれても・・・毎日慣れて行く重みを見つめちゃうと・・・その果てしない努力は(いや、果てはあるんですけれど)いや、私は考えただけで疲れそう。だってこれ「ほどのいい」っていうキーワード付きだけど、実生活では「ほど」は取っ払われているんだもの・・・
さて、彼女はどんな感想を期待しているのかな?
 

伊勢奉行8人衆

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伊勢奉行八人衆 (時代小説人情シリーズ) 伊勢奉行八人衆 (時代小説人情シリーズ)PHP研究所 1996-10
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佐江衆一著

お伊勢さんは夫の実家のある三重県にある。結婚して舅に初めて連れて行かれたのが伊勢神宮だったということもあり、つい最近その舅の17回忌の法事の帰りに伊勢へ参って来た。
だから、図書館で本を物色していた時この背表紙の文字が目に飛び込んできたのだろうか。

丁度初めて佐江さんの小説を読んだところである。佐江さんを紹介してくれた人は、職人を描いたものが面白いといっていたのだから、そちらを先に読むべきか?しかし読みたいかどうかは縁による?表紙の装画のお奉行様が若い頃の加藤剛さんみたいだと思いながら、目次を眺めぱらぱらとめくってみたら・・・大岡忠相の名があった。で、面白そうだと借りてきた。
題名通り、8人の伊勢奉行の事跡を描いている。江戸時代を通じて、伊勢の奉行は48代続いたそうだが、その中の8人を選り抜いて描いている。
どちらかといえば正直に?文献を当たって、忠実に描こうとした作品のようで、いってしまえば小説としては面白くない。
どの挿話もそれなりに興味深くは描かれているのだが、小説としての熟成は浅い。その時代その時代に困難を抱えたり、それを切り抜けるための努力に翻弄されたり、事実と違って悪名を負ったり。
そうして、その挿話を通じて、江戸時代を通して神都としての特殊な性格を持っていた町を抽出しようとしたことは読み取れる。
実際あの伊勢が・・・このように特殊な土地だったとは、今観光客で賑わっているだけの表面的な景観からはもうこれっぽっちも窺うことも出来ない。
伊勢神宮というもの、内宮と外宮の間の複雑な関係、政治権力との微妙なもたれあい、政治に利用されまた利用しようとするしたたかさ、その伊勢に参る庶民の事情、不安、社会情勢。拾い上げられたエピソードから伊勢が浮かび上がってくる。
色々なことが知識としてわからせられた感じがする。まるで良く出来た教科書を読んだようだ。副読本にどうかしら?
特に最後の奉行、本多忠貫の苦衷。あの明治維新に?・・・そういえば神道の大元だったんじゃないの、伊勢は。と、ようやく気がつくお粗末。
明治維新の様々な駆け引き流れのなかに、このような水戸天狗党との騒動があったなど、今まで聞いた事も無かった。いかに神が人の心から遠ざかったことか?と、そっちの方に驚いているところです。
今、事を成すに当たってまず神を奉じて、薬籠中のものにして?・・・などと考える人々・党ってあるのでしょうかね?それにしても水戸というのは解からない。あの時期変な迷走をしたとしか思えないのですが?

武家用心集

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武家用心集 (集英社文庫) 武家用心集 (集英社文庫)集英社 2006-01-20
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  乙川優三郎著

この人の作品は・・・5・6冊読んでいるのですが・・・悪くないのです。
でも、もう一つ好きになれないのです。というか絶対作家の方で好きになってくれなくて結構!という姿勢でいるに違いないっていう気がしています。今まで読んだ本は、表現も、使う言葉も、とても吟味して丁寧に書かれていると思いました。それだから?隔てられているという気がしてしまうのかなぁ?と、思っています。親しくなれない感じです。
主人公たちもとてもシャイで謙譲の精神が漲っている?
「心の本当の所は明かせないのよ」とつぶやいて、いや嘯いているような気を感じるのです。知ってもらいたくて描いているんじゃないの?その態度は何よ!と言いたいもどかしさを感じるんですね。
庶民のものでもそう感じさせる作家の武家ものですから・・・さて、どうでしょう?短編8編・・・で、結論から言うと、やっぱり隔てを感じました。
節制、抑制、利いています。武家が用心するのですから・・・やはり垣根越しですかね。それが主題とシンクロしている部分も確かにあって、今まで読んだ中ではその点でこの題材はこの作家にはしっくりしているのではないかなどと不遜な事を思いました。
心配りのいい人とか、察しのいい人とか、気が利きすぎる人とか・・・皆ニュアンスは違いますが、私にとって怖い人たちです。読まれるって厭ですけど、読もうとする心ってもっと厭だと思うんですね。
この作品の人々はその気配が濃厚な心配り過ぎて息を詰めている繊細な人々のようです。
でも、清清しさを感じさせてくれるところがあるのが救いです。ただしそこにたどり着くまでの過程を楽しめるかどうかが乙川さんのファンになるかなれないかの分かれ目かも。

動かぬが勝ち

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動かぬが勝 動かぬが勝
佐江 衆一新潮社 2008-12
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 佐江衆一著

先日「動かぬが勝ち」を朗読会で聞きました。
実に見事な朗読で、魅せられてしまいました。最もその魅力の8割までが演者の力だったような気がしています。が、でも、この作家さん、名だけは知っていても読んだことが無かったのです。で、どうかな?読んでみるものだろうか?
職人物で定評のある作家さんのようですが、そういうわけで私が最初に取り上げたのはこの作を含む7編(うち剣術ものが前三作、市井ものが後四作)
朗読で聞いた「動かぬが勝ち」が確かにこの中では一番印象が強い纏まった作品でした。何しろ主人公の上州屋幸兵衛がなかなかいい親爺です。娯楽的な作品の魅力の一は主人公に共感できるか?愛せるか?にあります。その点只今同じ老後を養う身としては・・・こういう風に意気高くいきたいものですよ。
「峠の剣」はあだ討ち物ですが、十歳の孫の父のあだ討ちを祖父と曽祖父が助けるという珍しい条件です。これを居合わせた湯治客の婦人の目から描くのかと思いきや・・・ちょっと視線がぶれる感じで甘くなったようです。
「最後の剣客」は一人の剣客の数奇な生涯を描いて、悲しいながらもいいものを味わせてくれたと思ったら・・・剣客の執着の凄まじさ・・・銃声の後味の悪さ。しかしこの作品がこの集の2番かな、私には。
残りの市井物は小品が揃った。色々の味わいがあるが割合情緒的でさらりとしている風だ。どちらがこの作者の持ち味なのだろうか?
饒舌でもないし無口でもないほどのよさを感じる。汲み上げる情感に共感もする。特に最後の「永代橋春景色」の主人公の変わっていくさまは丁寧に描写されていて、読後感もとてもよかった。最後にこの作品で、またこの人の作品を読みたいかも・・・と、思えた。

忍びの国

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忍びの国 忍びの国
和田 竜新潮社 2008-05
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和田竜著

「のぼうの城」の作者の二作目の小説です。前作が本当に面白く読めましたから、直ぐ予約して待っていました。期待に違わぬ力の入った作品でした。
が、「のぼうの城」とは全く違う性質の舞台、主人公でした。文章の力強さ、骨格のしっかりしているところ・・・やっぱり畳み込まれてしっかり読まされてしまいました。
ただ、主人公はやはり「無門」という百地三太夫の下人なのでしょうが、伊賀忍者集団とも受け取れなくもないのですが、そして集団と見た場合、私も信長ではなくともこの「人でない者」たちは実に無気味でしたね。
最終的にはこの無門という男に共感が持てなかったことが決定的でした。
お国との経緯にはほほえましい部分や人らしい部分があるのに、それが却って彼の個人の気味悪さを増長させるようなところがありました。
勿論育ってきた環境などの説明はありましたし、想像力のすべてを動員して分かろうとしてみたいのに、分かったとしてもなおかつ共感は覚えられそうにありません。その育ちを知れば知るほどこの集団の気味悪さはどうでしょう!
確かに、それほど異質な‘人’を、またそういう人間たちのおぞましい集団を、実に見事に描いているとは思いました。銭と彼らの関係を実に見事に描ききっていると感心してしまいましたが・・・その主体となる部分は読んでいて楽しくはなかったなぁ。
丸山城築城落城の経緯などを別とすれば、本当の意味で楽しめた部分は日置大膳と長野左京亮と信雄のやりとりとその関係の部分と柘植三郎左衛門と下山平兵衛のような集団を外れた者たちの部分だったように思います。
昔、子供の頃に読んだような忍者物の楽しみは皆無のようでした。スピード感もあり、戦闘場面の描写は見事なだけに、厭なものも抱え込んでいるようで・・・。忍者者にはどうしても「猿飛佐助」「霧隠才蔵」とかワクワクする意表を突く冒険の楽しさを何処かで求めてしまうんですかね?
忍術?の凄さもちゃんと描かれていたのに・・・ちょっと郷愁・・・昔の忍者に。アレは楽しかったなぁ・・・真田十勇士とか?
最終場面の大膳の言葉がこだまするんですよ。
「虎狼の族の血はいずれ天下を覆い尽くすこととなるだろう。・・・・・・その血は忍び入ってくるに違いない。・・・自らの欲望のみに生き、他人の感情など歯牙にも掛けぬ人でなしの血は・・・浸透する。」
これが書きたかったんでしょうね。そしてこれがこの作品におぞましさを付加したものの真の正体かも?周りを見回して御覧なさい・・・ね?今の社会は・・・乗っ取られちゃったんだ・・・あの血筋の者たちに!
 

のぼうの城 のぼうの城
和田 竜小学館 2007-11-28
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幸田文きもの帖

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幸田文 きもの帖 幸田文 きもの帖
青木 玉平凡社 2009-04-07
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幸田文・青木玉著
「父・こんなこと」を読んだときにこの作品がある事を知りました。
つい先日も着物を着てお芝居を見に行ったところです。
生前、母は私に「着物を着ない?」と何度も聞いていました。「着ることはないと思うわ」と私は常に答えていましたが・・・母は残念そうに「二人のお嫁さんも着ないって言うのよね・・・ってことは孫も着ないわね?」と。私には娘はいないのですが、母には息子の所に2人の孫娘がいました。
「着物は十分孫の時代にも保つと思うのだけど・・・仕方ないわね」と処分にかかりました。「大島などの紬類は引き取り手があった」と聞いた時も私はなんとも思いませんでした。
それなのに最近着物を着ることが増えてきました。こうなってはじめて母の処分した着物が本当に惜しいと思われるのです。「母の着物を着たかったなぁ・・・」と。
先だってもう三十年以上も着物をきたことのない姑に、姑は娘が三人もいますから当然娘に残したいでしょうから、姑のではなくて、祖母の着物が箪笥の中にそのままになっている事を知っていましたから「要らなかったら・・・?」と、聞いてみましたがやっぱりいただけませんでした。着物というのは何故か血筋の者に受け継いでもらいたいもののようです。その女の心がそれだけ入っているということでしょうか?
幸田さんのこの作品を読んで、女が着物に掛ける情をつくづく知りました。小物一つに至るまで隅々にまでその人その人の美意識も・・・その人そのものが息づいているものなのだと。それだけに私のこの変化が悔しくて堪りません。母が生きているときに母の着物を着てあげる、受け継ぐと言ってあげていたら・・・と思います。しかし処分にかかったのは亡くなるほんの1・2年前のことでした。あれは着物が着てくれる人を見つけてとせがみでもしたのでしょうか?
この間友人が、あなたこの頃着物を着るからと「母ので、今のあなたにはじみすぎるけれど・・・無駄にするのはあまりに惜しいから」と濃い鼠色の着物とそれに合う帯を一組下さいました。私の紅型の娘の頃の帯を合わせるといい感じに映えるようでした。
この作品ににじむ幸田さんの着物への愛情が心にしみるようでしたから、そして着る人のいない着物を哀れに思う気持ちが良く分かるようになりましたから、ありがたく使わせていただこうと思っています。
 

神去なあなあ日常

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神去なあなあ日常 神去なあなあ日常
三浦 しをん徳間書店 2009-05
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三浦しをん著

あああぁぁぁ・・・と、胸をなでおろしました。・・・って言っても、作家さんは喜ばないとは思いますけれど。
しをんさんの作品「風が強く吹いてる」「まほろ駅前多田便利軒」「むかしのはなし」「仏果を得ず」と、気持ちよく楽しく大好きだわ~と大好き作家に小気味よくこのお名前を登録していたのが「光」の登場でしょう?まっさかさま・・・ヒューって気分でした。ですからこの本の広告が新聞に載った途端、図書館に飛んでいきました。
話は跳びますが、先日新聞に私の知らない作家の方が書いていました。
「作家は読まれるのが嬉しいのだから・・・でも読みたいと思った本を直ぐ読まないで順番を待って読むってことは読書人としていかがなものか?」みたいなこと。全くね!経済的事情と場所的事情を鑑みても・・・お恥ずかしい・・・みたいな気持ちになっちゃいましたよ。
でも、飛んでいったお陰で?20人ほどの待ちで・・・今申し込むと145人待ちですと。
台風が通り過ぎた後の快晴の空のように、澄み渡った心の中に生まれた作品のようでした。もうほんと、楽しくいそいそ林業の知識も頭に取り込みながら・・・今度は林業なのね、文楽もよかったけれど、うんうん林業は大事よね、日本にとって。などと、頷いていたらこの数日の雨で福岡県では大規模な山崩れがあったとか。原因について色々TVでは言っていましたが・・・林業よ、山をちゃんと手入れしていれば・・・なんて思っていました。山が崩壊しつつあるって感じは山に登るたびに思います。それも里山で、です。土が乾ききって下草も生えていない杉林、下枝など刈られたことの無い細々とした杉が情けなく立っている村の裏山をどれだけ見たことか!
三重県大台ケ原の奥の方かしら?もっと奈良よりかしら?松坂から行くとすると・・・美杉?と、地図を広げて彼がいる辺りを探しているのです。三重県から紀州に抜けるとき、心細いような道で天岩戸に出会ったことがあります。神話的な気分を感じさせる幽遠な土地でした。あの辺りを想像しながら読むのは楽しかったです。
熊やんみたいな先生がいて、自分の将来を考え付かないまま社会に放り出される子がいないと良いのに・・・と、思います。学校の先生にここまで求めるのは無理としても、その子の特性を考えてやれる大人、子供に可能性を見出す方向を示してあげられる社会を切に求めます。
私も学校をでる時、自分が何に向いているのか、どんな仕事がしたいのか、それさえも解かっていなかったことを思い出します。
たまたま就職できた会社があったけれど、そのたまたま出合った場所が居心地悪く自分を必要としていないと思えたら、どうしていたでしょう?
平野勇気君みたいな子はごく平均的でしょう?こんなやる気の無い子を受け入れて丁寧に仕事を叩き込んで仕事への愛情を示してお手本と成ってくれる大人が本当に欲しいと思います。
こういう山奥での生活に彼が美しさと愛着を抱いていく様が、村人との交流の中にはぐくまれていく様が、本当に小気味よかった!
ああ、こんな本にいっぱいめぐり会いたいなぁ・・・と、思いますが、それ以上に若者をこうやって育てていってくれる社会が欲しいなぁ・・・と、思います。こんな風に破綻した山々をも生かして人間も生きていくことってできないものでしょうか?

まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫) まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)
三浦 しをん文藝春秋 2009-01-09
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風が強く吹いている 風が強く吹いている
三浦 しをん新潮社 2006-09-21
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むかしのはなし (幻冬舎文庫) むかしのはなし (幻冬舎文庫)
三浦 しをん幻冬舎 2008-02
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仏果を得ず 仏果を得ず
三浦 しをん双葉社 2007-11
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廃墟建築士

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廃墟建築士 廃墟建築士
三崎 亜記集英社 2009-01-26
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 三崎亜記著

4作収録いずれも建物に題を取っていますが・・・不思議な小説です。
7階闘争、廃墟建築士、図書館、蔵守
いずれもありえない意識の軸を持っている作品ですが、共感とか理解とか好悪とか言うものとはまた一線を画す何かを読む心のどこかのすき間に乱反射させる魅力を持っています。これが不思議なんですが、理解したとか、想像がつくとか言うのと次元が違うボールが心乃至頭のどこか隙間でスカッシュのボールのようにぶつかり弾んでいるような印象があります。色々なものを想像させることはさせるのですが手当たり次第にぶつかってもぴったりしたものに納まって据わりがよくなることはないようです。どの作品にも共通してぶれない、ぶれなくなった人が出てきます。
「7階闘争」の私はぶれない7階の守り手に育ったように。
「廃墟建築士」の関川さんが「廃墟屋」の癒しの時を最後まで進んでいくように。
「図書館」では日野原さんが目標として見続ける社長のぶれない後姿として。
「蔵守」では蔵守りとして最後の時を向え「愛」を次世代に繋げた老いた蔵守りの姿として。
その姿の描き方が一つの魅力ですが。また、非常に乾燥した世界に非常にウェットな心が諦観を帯びて語られるこのスタイルが不思議な魅力でもありました。
「7階・・」では「となり町戦争」を思い出しました。不条理な世界が力がやってくる・・・それがどんなものでもあれそれに対する人の反応はそれぞれで・・・と普遍的なことがある意味何段階か落っこちたパラレルワールドで繰り広げられ照るような。
でも、好きだったのは連鎖廃墟のイメージと図書館の野生でしょうか。こんな本(失礼)を読むのは大抵活字中毒者。だから図書館が自室並といった人?だから絶対ここで喜ぶと思うんですよね。
「かって『彼ら』は・・・『本を統べる者』と呼ばれていた。ここにいたってワクワクと寝静まっておいた私の本好きの性が浮き上がってきちゃったんです。本が回遊をはじめ図書館の中を跳びまわる姿・・・想像しないわけにはいかないでしょう?そのイメージのためだけでもこの作品は好きですね。特に野生を感じさせた沢山の本の事を回想するときには。
「蔵守」の絶対姿勢にはなんだか心を打たれました。人間と細菌の終ることの無い戦いの様相にも似て・・・パンドラの箱を入子のようにした世界を思い描いたりして。蔵守りさんと後を継ぐ見習いの女性の姿が感傷的に想像されました。
だから「廃墟建築士」が廃墟のイメージの面白さが立ち上がってくるのに面白さが比例しなかったのが不思議です。ちょっと私の力が及ばなかった感じがします。廃墟を作っていく美意識が戦後に生まれて復興していった時代の意識に囚われたままの私の限界かも?なんて思ったりもしますが・・・?なにしろ廃墟から立ち上がってきた人間のほうだから。
 

春にして君を離れ

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春にして君を離れ (クリスティー文庫) 春にして君を離れ (クリスティー文庫)
中村 妙子早川書房 2004-04-16
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アガサ・クリスティ著

先日NHKでアガサ・クリスティの番組をしていて、この本が話題になっていた。ポワロとミス・マープルとトミーとタッペンスなどのシリーズは多分全部読んでいるが、気にはなりながらウェストマコット作の作品は無意識に避けていた節がある。作家の自叙伝という物は読書の助けになるという人が居るが私はなるべく避けたい。伝記というものが子供のときから何故か好きではなかったからかな?舞台裏を見たくない心境と通じるのか?ところがその本が友人からすばやく!廻ってきた。正直言うとその番組のせいで読みたくなってはいたのだ。
解決の無い、死体の無い、人間性への難問?そんな印象を語っていた人から受けたからだ。そして実際は怖いミステリー小説だった。自伝的という人もいて、実際そんな印象も受けないではないが私は小説として読みたい。こんな砂漠での数日が無かったら、きっと一生自分と向き合わなかったジョーン・スカダモアの自分を見つけ出すミステリーでありサスペンス。昔の友人ブランチに出会ったことから生じた謎。過去の何かを思い出すたび、記憶に隠れていたものを広い出すたび、打ち震えるジョーンの心の世界のミステリー。
届けてくれた友人は「本当に主人公最低に厭な女よ。あんなときを経ても変わらないのよ」と言いおいて帰ったが、私はそうは思えなかった。
あれだけ自分と向き合った挙句にジョーンが変わらなかったのは、変われなかったのは・・・?
ジョーンが家に帰ったとき「許して」というつもりでいたとしても利口なジョーンは本能的にそれでも夫が必要としているのは夫が「プアー・リトル・ジョーン」といえる彼女だと言う事を察したから?
「風と共に去りぬ」のアシュレイを私は思い出していた。ロドニーはその手の恋をする男じゃないか?
彼はレスリーの事を恋していたとズーッと思い「その恋を踏みとどまる知性を家族のために雄雄しく発揮した」男のつもりで、それを心に秘めていればそれなりにロマンチックな世界に夢見て住んでいられる男なのだ。仕事もそういうこと。
実際ジョーンが留守にすれば幸せ感・開放感で浮き立つかもしれないが・・・若いときの本当の夢を本気で妻に説得できなかった男が・・・実際夢に突入していたら・・・?本当に一人になったら?
子供たちも同じこと。理屈をつけたり感情的に反発したり母に対して取る態度は大抵の子供が一度は通る道筋。それを幾つになってもそこで止まっている幼児性もあり、また自分の生活を作ることで自然に親から独立していけもするエイヴラルもトニーもバーバラも、母を有能な雑用係とすることで何不自由なく生きてきた。ほかに何を望める?
後十年たったらジョーンの自己探求のミステリーは違ったものに成るだろう。その時その時点ということがその作品の力にもなる。まさしくその年にその数日があったということが・・・よしんばそれがアガサにあった時間だったとしても・・・この小説が多分全ての女性の一つの指針にもなり恐怖にもなるということは変わらない。
自分をじっくり覗き込む時間は無い方が幸せかも・・・でも必ずこういう時間は誰にでも来る。ロドニーのその時間は多分ジョーンのより甘いそれになるのではないか?・・・と、思ったのだけど。別に男の方が女よりロマンチストだとは思っていないけれど。

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光
三浦 しをん集英社 2008-11-26
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三浦しをん著

「嘘ッ!」と読み始めて直ぐ思った。毒される前に読むのを止めようか?と迷った。
三浦さんの本を読んでこう思うことがあるとは・・・思わなかった。といっても、まだ?5作目です。
私の知らない・・・と言うより私の知っているしをんさんと対極にある別のしをんさんでした。驚くねぇ。
先日の道尾さんのこともあるから?新しい本を読むのを止められません。死ぬまでに読みたい本全部読めるでしょうか?考えるだけ野暮ってモンですか。そして時にこういう本にも出会ってしまいます。リスクです。
人にも時にも何の期待も抱けない話でした。作家にはよくこういう思いをさせられることがあります。安心していたのに・・・。こういうときに読む作家だったのに・・・。みたいな?
そして実際のところ作家の方にもあるようですね。自分の書くものに倦む時。自分の連作登場人物に縛られすぎて息が詰まる時。片側に偏った分銅はもう片側にも同じ錘をね?だからきっといつかこの作家の暗い話にあうだろうと思っていても良かったのですが・・・不意を突かれました。それも手ひどく。
主人公といって良いのかな?信之、輔、南海子、それに核になるのが美花。その親その子その人生どこにも光は射さない。信之の美花への忠誠心にさえそれは求められない。子供の執着以上の成熟はないのだから。島で育っていた時までの、あのつなみが来るまでに出来た精神形成がすべてで、人間関係も時に触発されて発展、成長することは無い。全ての人が何らかの暴力を振るいすべてが何らかの暴力の支配下にある。助けは来ないし、自助努力もない。彼らは本気で成長も成熟も脱出も望んでいない。で、暴力を含めた古い関係に依存している。こんな話イヤダ!という反応しか出てこなかった。
会社に勤め、アルバイトをし、幼稚園児の母という社会もありながら、ここに出てくる誰一人社会の一人になろうとか、心を開こうとか、他人という人間が居る事をうけいれない。自分のことしか考えずそこで終結している。人の世で生きていくことは彼らにはありえない・・・どうしてあげようも無く、受け入れようも無い。ここにはなにも無い。厭なものを覗いてしまった!

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