廃墟建築士 廃墟建築士
三崎 亜記集英社 2009-01-26
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 三崎亜記著

4作収録いずれも建物に題を取っていますが・・・不思議な小説です。
7階闘争、廃墟建築士、図書館、蔵守
いずれもありえない意識の軸を持っている作品ですが、共感とか理解とか好悪とか言うものとはまた一線を画す何かを読む心のどこかのすき間に乱反射させる魅力を持っています。これが不思議なんですが、理解したとか、想像がつくとか言うのと次元が違うボールが心乃至頭のどこか隙間でスカッシュのボールのようにぶつかり弾んでいるような印象があります。色々なものを想像させることはさせるのですが手当たり次第にぶつかってもぴったりしたものに納まって据わりがよくなることはないようです。どの作品にも共通してぶれない、ぶれなくなった人が出てきます。
「7階闘争」の私はぶれない7階の守り手に育ったように。
「廃墟建築士」の関川さんが「廃墟屋」の癒しの時を最後まで進んでいくように。
「図書館」では日野原さんが目標として見続ける社長のぶれない後姿として。
「蔵守」では蔵守りとして最後の時を向え「愛」を次世代に繋げた老いた蔵守りの姿として。
その姿の描き方が一つの魅力ですが。また、非常に乾燥した世界に非常にウェットな心が諦観を帯びて語られるこのスタイルが不思議な魅力でもありました。
「7階・・」では「となり町戦争」を思い出しました。不条理な世界が力がやってくる・・・それがどんなものでもあれそれに対する人の反応はそれぞれで・・・と普遍的なことがある意味何段階か落っこちたパラレルワールドで繰り広げられ照るような。
でも、好きだったのは連鎖廃墟のイメージと図書館の野生でしょうか。こんな本(失礼)を読むのは大抵活字中毒者。だから図書館が自室並といった人?だから絶対ここで喜ぶと思うんですよね。
「かって『彼ら』は・・・『本を統べる者』と呼ばれていた。ここにいたってワクワクと寝静まっておいた私の本好きの性が浮き上がってきちゃったんです。本が回遊をはじめ図書館の中を跳びまわる姿・・・想像しないわけにはいかないでしょう?そのイメージのためだけでもこの作品は好きですね。特に野生を感じさせた沢山の本の事を回想するときには。
「蔵守」の絶対姿勢にはなんだか心を打たれました。人間と細菌の終ることの無い戦いの様相にも似て・・・パンドラの箱を入子のようにした世界を思い描いたりして。蔵守りさんと後を継ぐ見習いの女性の姿が感傷的に想像されました。
だから「廃墟建築士」が廃墟のイメージの面白さが立ち上がってくるのに面白さが比例しなかったのが不思議です。ちょっと私の力が及ばなかった感じがします。廃墟を作っていく美意識が戦後に生まれて復興していった時代の意識に囚われたままの私の限界かも?なんて思ったりもしますが・・・?なにしろ廃墟から立ち上がってきた人間のほうだから。