伊勢奉行八人衆 (時代小説人情シリーズ) 伊勢奉行八人衆 (時代小説人情シリーズ)PHP研究所 1996-10
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佐江衆一著

お伊勢さんは夫の実家のある三重県にある。結婚して舅に初めて連れて行かれたのが伊勢神宮だったということもあり、つい最近その舅の17回忌の法事の帰りに伊勢へ参って来た。
だから、図書館で本を物色していた時この背表紙の文字が目に飛び込んできたのだろうか。

丁度初めて佐江さんの小説を読んだところである。佐江さんを紹介してくれた人は、職人を描いたものが面白いといっていたのだから、そちらを先に読むべきか?しかし読みたいかどうかは縁による?表紙の装画のお奉行様が若い頃の加藤剛さんみたいだと思いながら、目次を眺めぱらぱらとめくってみたら・・・大岡忠相の名があった。で、面白そうだと借りてきた。
題名通り、8人の伊勢奉行の事跡を描いている。江戸時代を通じて、伊勢の奉行は48代続いたそうだが、その中の8人を選り抜いて描いている。
どちらかといえば正直に?文献を当たって、忠実に描こうとした作品のようで、いってしまえば小説としては面白くない。
どの挿話もそれなりに興味深くは描かれているのだが、小説としての熟成は浅い。その時代その時代に困難を抱えたり、それを切り抜けるための努力に翻弄されたり、事実と違って悪名を負ったり。
そうして、その挿話を通じて、江戸時代を通して神都としての特殊な性格を持っていた町を抽出しようとしたことは読み取れる。
実際あの伊勢が・・・このように特殊な土地だったとは、今観光客で賑わっているだけの表面的な景観からはもうこれっぽっちも窺うことも出来ない。
伊勢神宮というもの、内宮と外宮の間の複雑な関係、政治権力との微妙なもたれあい、政治に利用されまた利用しようとするしたたかさ、その伊勢に参る庶民の事情、不安、社会情勢。拾い上げられたエピソードから伊勢が浮かび上がってくる。
色々なことが知識としてわからせられた感じがする。まるで良く出来た教科書を読んだようだ。副読本にどうかしら?
特に最後の奉行、本多忠貫の苦衷。あの明治維新に?・・・そういえば神道の大元だったんじゃないの、伊勢は。と、ようやく気がつくお粗末。
明治維新の様々な駆け引き流れのなかに、このような水戸天狗党との騒動があったなど、今まで聞いた事も無かった。いかに神が人の心から遠ざかったことか?と、そっちの方に驚いているところです。
今、事を成すに当たってまず神を奉じて、薬籠中のものにして?・・・などと考える人々・党ってあるのでしょうかね?それにしても水戸というのは解からない。あの時期変な迷走をしたとしか思えないのですが?