つばくろ越え

題名INDEX : タ行 118 Comments »
つばくろ越え つばくろ越え新潮社 2009-08-22
売り上げランキング : 65256

Amazonで詳しく見る by G-Tools

tubakurogoe.jpg

志水辰夫著

これは又前日読み終わった気楽で楽しい時代物とは正反対。とはいっても実に見事な時代小説だったと満腹しているところです。
志水さんの時代物は「みのたけの春」に続いて二作目です。
前作は長編でありながらテイストとしては志水さんの現代物の短編集に感じられる静かさが身上といったらおかしいかしら?巧いなぁ・・・と思わせられる部分はいっぱいあるのにそれがとりわけむきつけでは無い床しさが好きなのですが。この作品は短編(中編かな)4作、特殊な飛脚が生業の蓬莱屋の飛脚人が主人公の連作物ですが、むしろ志水さんの長編ハードボイルドの趣が強く窺われます。人や物の動きにきっちりと目のいく鋭い男たちはこの作者の小説でお馴染みです。時代が江戸になっても同じ匂いのする男達はいて、暗い色をまとってはいても実に魅力的で私は彼らの磁力に引き付けられてしまいます。
こんな男達のそばにうっかり行こうものなら焼け死んでしまうだろうな・・・などと思いながら焼け死んでもいいやと思わせるに違いない男達です。渋くてパットしなくても心で迫ってくるのですね。
しかもこの困難な旅路の詳細な道筋の記述が実に楽しいです。
こんな難路を選び大事な預かり物を先様に届けるそのありようだけでも物語になるのにそこに入ってくる枝葉のわき道。難事に関わらざるを得なくなる心の機微がいいんですね。この男達はしっかり見るべき物を見ている。見てしまった物を見捨てにはできない。納得がいくまで関わってしまう。関わったらきちっと始末をつけなくてはいられない。こんな男、男の中の男でしょうと読む女は思いますよ。
そしてその一編ずつのおしまいがいいですね。1話の〆「やろう、豆を食ってやがった。」なんてもう凄くいい!ヨッ!って感じ?仙造がぽとっと腑に落ちます。

喋々喃々

題名INDEX : タ行 534 Comments »
喋々喃々 喋々喃々ポプラ社 2009-02-03
売り上げランキング : 27246
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 小川糸著

「食堂かたつむり」というのを予約しようと思って図書館検索をして見つけました。肝心の「食堂・・・」の方はまだ当分届かないようですが・・・
意外なめっけもの!でした。なんてったって舞台が谷中のアンティーク着物屋さん。この頃街を歩いている時にアンティーク着物とかリサイクル着物とかの店を見かけると、なかなか素通りできない私です。
しかも子供の頃の私の行動範囲と少し被る谷中から鶯谷・日暮里・湯島と、なじみの有る通りや店屋が・・・「ああ、あそこだな?土手の伊勢屋?」
「ああ、美味しいけど並ぶんだ、あそこ。そういえば暫く行っていないなぁ、けとばしや」
「お、三社祭の日に丁度父といったところよ、アンヂュラス」
みたいにちょこちょこ出てくるのですから・・・嬉しい!
それにしても息子と同い年ぐらいの作家さんの作品に郷愁を感じさせられるってのも・・・なんとなく照れますなぁ。
昔の記憶の中の下町よりもう少しテンポのユルーイ感じの人々が行きかい、柔らかな時間が流れているような気がしますが、イッセイさんが纏う雰囲気には昔の町内のおじさんの匂いが嗅げたような。
しかし、こういうステキな町に生きていても、人生は儘ならないものですなぁ?ため息!それでも栞さんの生き方には他のどこより谷中辺りは似合うなぁ・・・こういう若い人の店増えているしなぁ・・・
栞さんのお店は別として、中途半端におしゃれな?軽い!店が浅草には随分増えたなぁ・・・頭をかなり絞っても、「この店の前身はあ~~~なんだったかな?どんな店だったっけ?」と思い出せないくらい微妙に少しずついつの間にか変化しているんですね。変わらないと思っていた故郷も。
だからこんな本はステキな息抜き・・・とはいっても栞さん・・・不安です。「今」はいつだって大事です!けれどねぇ・・・

凸凹デイズ

題名INDEX : タ行 222 Comments »
凸凹デイズ (文春文庫 や 42-1) 凸凹デイズ (文春文庫 や 42-1)
山本 幸久文藝春秋 2009-02
売り上げランキング : 221101
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 

山本幸久著

「カイシャデイズ」「ある日、アヒルバス」に告ぐ三作目。で、会社というのか業界と言うのか、それ物の一つです。この作家はこういうシリーズでいくのでしょうか?
働きたくないとか、生きがいの感じられる仕事場が無いとか・・・グニョグニョ言っている人たちがこれを読んだら、いや山本さんの作品群を読んだら・・・どんなに羨ましく感じるでしょうね?
って、言うより仕事や仕事場が好きになるってことの意味考えちゃいますね。
凪海さんを見ていると・・・結局元は全部自分なんだって、自分の姿勢と言うか‘気’なんだ!って思えますよね。
そんな精神論・・・って、普段は思っていても、素直にそこが、今が、素晴らしいものになるかどうかは・・・自分次第なんだって。給料が安かろうが、変人に取り巻かれていようが?そう、そうなんだ!って姿勢がどんどん肯定的に、積極的に、明るい方へ、高い方へ登っていく感じがします。
これがこの作者の作り出した「カイシャ」の素晴らしさです!
タカ・クマ・シノさんが好きになったように、デコさんが好きになったように、凪海さんも、大滝さんも、黒川さんも、磐井田さんも、醐宮さんも、その個性素晴らしいじゃないですか。
この個性的な人々を何気なく読んでしまえるということは・・・この世の中の人、大抵は「その個性ステキじゃないですか」って、言ってあげられるものなのかもしれないなんて思ったりして。失敗しても落ち込んでも、明日も行きたいと思える会社があって、働けることって、なんてステキなんでしょう。仕事を探している人皆に、したい仕事を選べる自由と権利をあげたいな。そしてこの年でも働けたら、働ける場所があったら、ほんとうにいいのにな・・・って思いながら本を閉じました。
「ココスペース」という会社、「アヒルバス」という会社、そしてもう一つ「凹組」大好き!最後の「ほろっ」まで、ホント、上出来!ワンダーランド!
 

ある日、アヒルバス ある日、アヒルバス
山本 幸久実業之日本社 2008-10-17
売り上げランキング : 269904
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る by G-Tools

カイシャデイズ カイシャデイズ
山本 幸久文藝春秋 2008-07
売り上げランキング : 107212
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る by G-Tools

たそがれ長屋 人情時代小説傑作選

題名INDEX : タ行 140 Comments »
たそがれ長屋―人情時代小説傑作選 (新潮文庫) たそがれ長屋―人情時代小説傑作選 (新潮文庫)
池波 正太郎新潮社 2008-09-30
売り上げランキング : 34361Amazonで詳しく見る
by G-Tools

tasokare.jpg  

tasogare.jpg
池波さんの「疼痛二百両」山本さんの「いっぽん桜」が未読でした。
5作のうち2作だけ読んでいなかったので、わざわざ図書館で借りるべきか?と思ったのですが、この前2作の長屋アンソロジーはなかなかいいチョイスでアンサンブルを楽しむことが出来ましたから、この選者の撰で続けて久しぶりに読んでみるのもいいだろう・・・と、思ったのです。
が、結果この池波さんのだけははずれでした。
「たそがれ」と頭に付いたように、人生のたそがれに踏み込んだ人々の哀歓を綴った作品群です。
北原さんの「ともだち」は「澪通り」で読んでいますが、この二人の老境を感じさせるおばさんたちは実は今の私よりずーっと若いのです。
でも彼女たちが抱える不安はまさに今の私たち世代のものです。同じ年代の人だけにわかる心細さを抱える生活の様々な機微が見事に描き出されて、身につまされると言うより自分たちの仲間状況をそのまま見るようでした。それだけにこの作品は非常に重い物を抱いています。でも女は明るくて強いんですよ・・・というメッセージも同時に受け止められるのですが・・・ま、なるようにしかならんのですよ?
周五郎さんの「あとのない仮名」は若い時は厭な小説でした。今も厭なことには変わりません。若いときには色々考える余力があったのですが、今はそんな時間も無いわ!で、今現在の世相にピッタリの人物造形じゃないの・・・と、思うことにしました。不条理だの絶望だの人や世を見切ったのなんのを言う前にポコッと鬱のエアーポケットに落ち込んだ、周りの人には見えない何かの穴に足を取られたまじめだった人?みたいな。友人が「お隣の奥さんが町内で六人目のうつ病患者になって入院した」「六人?」素っ頓狂な声を上げた私ですが・・・「今は10人に一人よ」だそうです。で、源次もかも?違う世間に行ってしまった人?
「静かな木」は大好きな三屋清左衛門を思い出させます。世を知り人を知れば百戦危うからず!こんな親になりたかったのよー!
で初めて読んだ山本作品は読んで心にしみるものを抱いていました。頑固になる事も含めてこれは回りにいるオジサマ方です。立派に誇りを持って生きてきたオジサマたちです。とてもよく分かるようで、彼が新しく胸を張るところでなんともいい気分にしていただきました。
池波さんはいかにも慣れて闊達に描いていますが、私の嫌いな面が出てしまっている作品です。艶のある、枯れないでも心の底はしっとりと枯れている、反対語みたいですけれど・・・そういう「男があこがれる男」を書けるのが池波さんですが・・・?若気が厭な感じで出たなという気分ですっきりしませんでした。

つむじ風食堂の夜

題名INDEX : タ行 224 Comments »
つむじ風食堂の夜 (ちくま文庫) つむじ風食堂の夜 (ちくま文庫)
吉田 篤弘筑摩書房 2005-11
売り上げランキング : 34540
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

tumiji.jpg

 

tumujikaze.jpg

吉田篤弘著

例えば寒くなってきた早朝、というか夜中うんと遅くにふと忘れていたことに気が付いてベランダの花に水をやりに出る。月が凍っている。ため息をつくと小さな魂がふわっと白く憧れ?いずる。その大きさに見合った、というか、その枠にすっぽりと収まったような本だった。丁度私のサイズ!めぐり合ったのは当然のような、奇跡のような。でも見つかった!という感じ。同類だ。
この作家の本はまだ読んだことが無かった。ただ「極上掌篇小説」という30人もの作家の本当に掌篇作品を30も並べた短編集でこの作家の作品を見たことがある。・・・そしてその作品は・・・記憶に残っていない。少なくともその作品を読んでこの作家の小説を図書館で探そうとはしなかったのだ。
なのに、この作品は私のつぼに填まった。ぴたりと!どの部分を取り出してもOK!こんなことはめったに無い。
いちいちこだわって感想を言わずにすむありがたさ。そう、そのまま読んで味わえばいいのだもの。つむじ風食堂の灯を。月舟町の人々を、その店に集ってなんとも嬉しい会話をする人たちを、夜の街に明りを灯す果物を。雨降りの先生の過去も今も、ひょっとしたら未来も。
ところで困ったのはこの作家のほかの作品、読んでみるべきでしょうか?この作品だけをお友達と呼んで大切に心の隣にそっと置きますか?読めば・・・芋蔓式にお友達がふえるでしょうか?

トリップ

題名INDEX : タ行 124 Comments »
トリップ (光文社文庫)
トリップ (光文社文庫) 角田 光代おすすめ平均
stars普通(?)の人たち
stars現実とファンタジーの境界線を楽しみたい。
starsここではない自分の居場所

Amazonで詳しく見る by G-Tools

trip-2.jpg

trip-1.jpg

 角田光代著

東京近郊の町で繰り広げられる日常。彼女を彼女が見て、その彼女を彼が目撃し、その彼を・・・と言う風に短編で次々に一人一人の人生の断片が・・・と言うか・・・断章を10、私が読んだわけですが・・・この不思議な日常。
日常に過ぎないのだけれど・・・この浮遊感?・・・いや、なんだろうこの感じ・・・と、捕まえ得ないじれったいような・・・靴下数枚重ねた上から足の裏を掻くような遠さ?いや本当に遠い!
いやいやいや・・・この人たち・・・どこへ行くのさ?行きつくことないんだろうなぁ・・・の「・・・」部分がすべて?みたいな?の「みたいな?」の「?」部分?に形を当てはめようとしてみたらこんな人々になった・・・みたいな。で、これが凄く今っぽいから困っちゃう。
私ってこういう世代から遊離しているの?それともアッチが浮遊しているの?さぁ、そこのところの不安がじりじり背中に這い上がってくる。
こんなごくそこにいるような人たちの内部がこんなで・・・袖摺り合わせて行き合って、しかもお互いに「生きあって」いるなんて変!
彼らが自分の周りを見て描写する自分の世界の断片の無機質さがもう「私たち」では無い事をじりじり場所取りして迫ってくる主張になっている。
しかしそれでも彼らは彼らを見ている。見ていて何か思うことによってその人の生を何とか形作っている。非常に消極的な否定によって?いや、やっぱり理解は出来ないかも・・・心の底をさらいつくして見れば何処かに洗いざらしたカスになってこびりついているかもしれない?イヤだな!
「ここにいる理由を見つけられないらしい。」「許可を得ていないと感じる」そうか?理由が無ければいられないのか、許可が無ければいられないのか・・・それってそもそも得ている人っているんだろうか?
「秋のひまわり」のテンちゃん、「あなたは、あなただけは居場所を確保してね。」と祈ってしまった。
こんな風に見えちゃってそれをこんな風に豊かな文章で書きこめるって・・・どんな神経なんだろうなんて・・・変にワクワクしてしまう。
前に1作読んでいるのだけれど、この作家好きか嫌いか決められなかったので、短編を選んでみたのだけれど・・・どこか目を離せない、でもどちらかというと目を離していたい・・・
目を宙に浮かして、カラッと軽い声で、裏声の手前の高さで、抑揚を捨てて・・・読んでみる?
心の襞って襞だからいいんだよね。伸ばしてアイロン当てちゃったら目も当てられない。

当マイクロフォン

題名INDEX : タ行 358 Comments »
当マイクロフォン 当マイクロフォン
三田 完角川グループパブリッシング 2008-06-28
売り上げランキング : 134659
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

toumaikurophon.jpg

三田完著

中西龍さんというアナウンサーを知っていますか?
私は全くラジオというものを聞かないので、この方をNHKのアナウンサーとしては全く知りませんでした。
アナウンサーの事を書いた本なら「読み」について何かいい示唆がえられるかもしれない・・・くらいの気持ちでした。
でもこの方の名、覚えがあります。鬼平犯科帳のナレーションに名前がありました。独特の声―美声、美声と本には書かれていましたが、私にはなんと癖のある特徴的な声だろうとは思っても美声として聞いた覚えはありません。鬼平のナレーションで、この人どこから持ってきたのだろう?知らない名だけれど、演歌の紹介するような司会業みたいな人かなぁ?ドサ回りの劇団の呼び込みとかアナウンス向きだぁ!なんて思った事を思い出しましたが、失礼でしたねぇ・・・でも、あながち全く間違えたと言うわけでもなさそうだな・・・と、読み終わって思いました。
個性というのは諸刃の刃ですよねぇ・・・。私はやはり女性の立場で読んでしまいますから、彼を通り過ぎていった多くの幸せにならなかった女性たちの事が思われます。葬式の前に殴られるたび一つ一つと増えていった指輪を見る奥様の心を見つめてしまうのです。
それでも彼女はどんな人間か知った上で、かなりよく知りぬいた上で結婚しているのです。龍さんの魅力のというか魔法の一端が見えるようで怖かったですね。使っている言葉の品(しな)と彼の性癖の間にある落差は業という厭な字をイヤでも思い出させます。
序章と終章を家族の立場から描き、真ん中は龍さんのドキュメンタリーと二村さんというNHK職員からの視線を交互にリレーしています。二村さんと(だけではないけれど)の会話で見せる「でございます」調と紅灯の巷で酔い遊ぶ姿態との落差は人間を怖いものにも、すごいものにも見せます。彼の詩には情があり、彼の短歌には気障があるけれど人の心を捉える心も同じだけある。だけど多分・・・と色々考えて、考えても及ばない闇を感じる。しかもその闇は愛情も打算も強欲も無常も無慈悲もなんとも濃いごったなもので練り上げられている臭さを秘めていて、これが中西ファンを生み出したのだろうなぁ・・・
アナウンサーとしてのお仕事に接することが無かったのを本当に残念に思いました。
せめて一生懸命あの鬼平のナレーションを頭の中に呼び出しているところなのです。
「咳、声、咽喉に浅田飴」 うーん、確かに、まだ記憶している。人の頭に刻み込まれる声を確かにお持ちだったのでしょうね。
しかしNHKというのはなんか厭なところだなぁ・・・ずーっと支払い続けてきたのはいいことだったんだろうか?とも。

歌酒場 ナレーション 中西龍 歌酒場 ナレーション 中西龍
中村泰士 古賀政男 吉幾三

コロムビアミュージックエンタテインメント(株) 1995-05-20
売り上げランキング :

Amazonで詳しく見る by G-Tools

最新ヒット曲集「流行うた」~ナレーション中西龍~
最新ヒット曲集「流行うた」~ナレーション中西龍~

Amazonで詳しく見る by G-Tools

ちんぷんかん

題名INDEX : タ行 95 Comments »
ちんぷんかん ちんぷんかん
畠中 恵新潮社 2007-06
売り上げランキング : 3962
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

tinpun.jpg

tinpun1.jpg tinpun4.jpg

tinpun3.jpg

tinpun2.jpg tinpun5.jpg

 畠中恵著

「しゃばけ」シリーズの6になるのかな?順番通りに読んでいないと頭の中であいまいになる。
作者もこれだけ書いてくると本当に書きたいのかあいまいになるのかな?熱狂を持って待たれるシリーズ物を書く作家に必ず生じる葛藤?そこまで、まだ続いていないか・・・と、読みながらちょっと頭をかしげた。
妖を使うお話だけに作中人妖を思い通りに動かせるつもりが煙に巻かれた?とにかく読み始めは「?」付きで、何か足りないぞと思いながら読んでいた。1話「鬼と小鬼」はまさしく煙に巻かれた挙句の三途の川の鬼話だし?だけど2話目は表題になっている「ちんぷんかん」。当然この作品中の目玉?広徳寺の寛朝様は前出ですが、寛朝様の弟子秋英さんの成長話です。9歳の時に小坊主になって今この話の時には秋英さんは22歳になっている。だけどここでちんぷんかんになったのはお話が急に13年経ったように思えないところで生じたのではないかな?9歳と22歳の秋英さんに違いが見つからない。成長していないじゃない。この秋英さんは9歳のままの心を持っているから?時の経過が腑に落ちないので多分このホット?心を和ましてくれるに違いない秋英さんのキャラクターが今一心に浸透してこないのかな・・・惜しいなぁ・・・
こういう雑誌に掲載された小品を一冊の本に編む時、設定部分の繰り返しを整理してくれるとありがたいなぁと思います。
繰り返される設定説明がわずらわしく感じられるのです。このシリーズだけのことではないのですけれど。軽妙に読み進み楽しみたいものにこそ、そういう配慮はあってしかるべき・・・なんて。
「男振り」はこのシリーズのファンとしては楽しみな昔語り。お母さんのおたえさんの若き日の恋?と父藤兵衛さんとの結婚のなりゆき。なるほどなるほど・・・なのですが妖の血が半分も流れている(若旦那より濃い)お母さんのお話にしては期待より薄かったかな?
藤兵衛さんのキャラクターが面白そうなので、今後お兄さんの現実化してくる縁談にどう関わってどんな心を見せるのか?興味がありますがねぇ。
「今昔」も余り楽しくなくて・・・やっぱり?と思ったら「はるがいくよ」でほっとしました。このお話は若旦那らしくて他の皆も皆らしくて桜の春とリンクする小紅の一生のはかないお話と惜しむ心が素直に読む心に届く佳作でした!これが私の期待する畠中さんのしゃばけだわ!そういうわけで次が早くとまた、待たれる心地で、よかった。

イラストのファンになっちゃった。

東京バンドワゴン

題名INDEX : タ行 191 Comments »
東京バンドワゴン (集英社文庫 し 46-1) 東京バンドワゴン (集英社文庫 し 46-1)
小路 幸也集英社 2008-04
売り上げランキング : 16147
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

banndo2.jpg

tokyo.jpg

小路幸也著

まず温かいなぁ・・・懐かしいなぁ・・・良い感じだなぁ・・・と思いました。語り口も素朴だし、登場人物も皆型にはまったように良い人ばかり。こんな本を読むのもたまには良いなぁ・・・
紹介文には「一癖も二癖もある面々が・・・」とあるのだが、これは一癖なんてものではありません。殆ど“まっとう”です。私にはごく普通の下町の人々に思えましたが・・・それを言ったら、昔私の家の周りに住んでいたご近所さんたち、おじちゃんおばちゃんの方がずーっと一癖も二癖もありましたって!それだけ今は私たちの周りにはまっとうな人がいなくなったってことかもしれませんね。
丁度この「バンドワゴン」という店のあるような町で育ったので、少なくとも私の子供の頃は玄関はいつも開けっ放し、横の台所への通路にはしょっちゅう「おもらいさん」が何か無いかと覗きに入ってきましたっけ。でも誰もその人たちに驚きもせず「あー、来たの?何かあったかしら?」って感じでしたっけ。そんな昔の事を思い出してしまいました。いまじゃ友達もご近所さんも電話で約束しなくちゃ訪ねあいもしません。今は玄関ロックがあって、さらに各部屋は昼でも鍵を掛けドアチェーンをしているという体たらくです。どこで何が違ってしまったのでしょうね?なんて。核家族で育った私は主人の田舎の三世代同居に一週間ごとに?音を上げていましたが、子らの世代はその二世代すらも考えたことないかもしれませんね。
堀田家はここだけ次元が狂った一昔前の夢の落とし穴みたいです。「東京」の「京」の字の口が日なんです。しかも語り手が死後もこの家にとどまっているおばあちゃんで子や孫の中にはその存在に気付いている者もいるという素晴らしさです。色々な出来事はありますが、でもそれは出来事ではないのです・・・タダの日常?そう、人がご近所さんたちとまっとうに付き合っていたら普通に起こるに違いない程度の出来事なんです。でも気の利き具合、感の良さ加減、対処の落としどころ、すべてがGood!って感じ?その気分がとても気持ちよいのですが、じゃァ「うんと若返らせて美人にしてやるから」といわれてもとても亜美さんにもすずみさんにもなれるとは爪の先ほども思いませんけれど・・・
でも読む分には最高の居場所です。
それにしても、題だけではこんなホームドラマだなんてわかりませんね。最初てっきり音楽関係のエッセーかと思いましたもの。ま、Loveを叫ぶ伝説の?ロッカーはいるのですけれど。

父・こんなこと

題名INDEX : タ行 297 Comments »
父・こんなこと (新潮文庫) 父・こんなこと (新潮文庫)
幸田 文新潮社 1967-01
売り上げランキング : 66915Amazonで詳しく見る
by G-Tools

titikonnakoto.jpg

titi1.jpgtiti.jpg

 幸田文著

これも齋藤さんの本「読書入門」で知って読み始めたのですが、紹介文が良かったのです。掃除の仕方を教え込むお父さんって・・・それもあの厳しさ?って、なんかよくない?って気がしたものですから。幸田文さんは次女さんで、露伴の晩年子供を連れて父の所に帰ってきて、そのまま娘と共に父を看取った方で、そのときの事をまとめた作品と、その後の父の思い出を集めた作品集です。
身につまされて心に迫り、痛々しいと心から思ったのは私の行く道でもあるからかもしれません。今私も老いていく厳しかった父を見つめているからでしょうか。
「父に愛されない娘だった」と述べていらっしゃるのですが、それだけになお更父との様々なことがきりりと心に刻み込まれたのかもしれません。愛された子供は安心感の中で神経が休まるからでしょうか思い出がほんわかしてきつく刻み込まれないような気がするのです。細かな描写が出来るほど、様々な状況が生き生きと書き綴られれば書き綴られるほど、彼女の心への刻まれ方が想像されるようです。
しかも刻まれた分彼女はそこから記憶を丁寧に丁寧に汲み上げ続けたのでしょうね・・・そこが痛々しさの生じる所以かもしれません。
しかし読んでいると露伴がこの娘をとても理解していたように思われてなりません。露伴はこの娘をわかってその性に応じて教育したつもりなのではないでしょうかと、思われてならないのですが。
母を失った娘にあれだけの家事指南をする、様々な遊びの記憶を残してやる・・・文豪の顔ではない父の顔がとても愉快に浮かび上がってきました。といっても私は露伴の作品は読んでいないのです。
今更・・・と思う反面、こんなオヤジが?どんな作品を残したのか、興味をそそられてもいます。それにしても水拭き掃除の仕方のところはとても懐かしかったですね。私が母と廊下の雑巾がけをしていた頃よく注意されたことでしたが、その雑巾がけというものをしなくなってどのくらい経つのでしょう?今はフローリングの床といえども雑巾での水拭きをするお宅は少ないでしょう。今我が家には畳の部屋も無い。幼い頃に教わってきたことのあらかたが必要が無くなってしまったのですね。八雲の「ちんちん小袴」なんぞもふと遠くなってしまった教えだなぁ・・・と懐かしい気持ちは湧き上がってくるのですけれど、わが子の世代にはもうこの作品の機微に心を揺さぶられる私の感傷はもう理解不能だろうなぁ・・・という感慨の方が強くなってしまいます。
「面倒がる、骨惜しみをすると言うことはケチだ」この言葉は前日読み終わった志村さんの本からも漂ってきた精神です。日本の女性たちは骨惜しみをしなかったから美しかったのだと妙に納得のいった今週の読書でした。見た目には今の女性たちの方が美しく見えるかもしれないのにねぇ・・・。志村さんの本の中の、以前は「豊かに貧乏してきた」それに比べて今は「心貧しく富んだ生活をしている」という一節がここでも甦ってきたのです。
 

Design by j david macor.com.Original WP Theme & Icons by N.Design Studio
Entries RSS Comments RSS ログイン