つばくろ越え つばくろ越え新潮社 2009-08-22
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志水辰夫著

これは又前日読み終わった気楽で楽しい時代物とは正反対。とはいっても実に見事な時代小説だったと満腹しているところです。
志水さんの時代物は「みのたけの春」に続いて二作目です。
前作は長編でありながらテイストとしては志水さんの現代物の短編集に感じられる静かさが身上といったらおかしいかしら?巧いなぁ・・・と思わせられる部分はいっぱいあるのにそれがとりわけむきつけでは無い床しさが好きなのですが。この作品は短編(中編かな)4作、特殊な飛脚が生業の蓬莱屋の飛脚人が主人公の連作物ですが、むしろ志水さんの長編ハードボイルドの趣が強く窺われます。人や物の動きにきっちりと目のいく鋭い男たちはこの作者の小説でお馴染みです。時代が江戸になっても同じ匂いのする男達はいて、暗い色をまとってはいても実に魅力的で私は彼らの磁力に引き付けられてしまいます。
こんな男達のそばにうっかり行こうものなら焼け死んでしまうだろうな・・・などと思いながら焼け死んでもいいやと思わせるに違いない男達です。渋くてパットしなくても心で迫ってくるのですね。
しかもこの困難な旅路の詳細な道筋の記述が実に楽しいです。
こんな難路を選び大事な預かり物を先様に届けるそのありようだけでも物語になるのにそこに入ってくる枝葉のわき道。難事に関わらざるを得なくなる心の機微がいいんですね。この男達はしっかり見るべき物を見ている。見てしまった物を見捨てにはできない。納得がいくまで関わってしまう。関わったらきちっと始末をつけなくてはいられない。こんな男、男の中の男でしょうと読む女は思いますよ。
そしてその一編ずつのおしまいがいいですね。1話の〆「やろう、豆を食ってやがった。」なんてもう凄くいい!ヨッ!って感じ?仙造がぽとっと腑に落ちます。