たそがれ長屋―人情時代小説傑作選 (新潮文庫) たそがれ長屋―人情時代小説傑作選 (新潮文庫)
池波 正太郎新潮社 2008-09-30
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池波さんの「疼痛二百両」山本さんの「いっぽん桜」が未読でした。
5作のうち2作だけ読んでいなかったので、わざわざ図書館で借りるべきか?と思ったのですが、この前2作の長屋アンソロジーはなかなかいいチョイスでアンサンブルを楽しむことが出来ましたから、この選者の撰で続けて久しぶりに読んでみるのもいいだろう・・・と、思ったのです。
が、結果この池波さんのだけははずれでした。
「たそがれ」と頭に付いたように、人生のたそがれに踏み込んだ人々の哀歓を綴った作品群です。
北原さんの「ともだち」は「澪通り」で読んでいますが、この二人の老境を感じさせるおばさんたちは実は今の私よりずーっと若いのです。
でも彼女たちが抱える不安はまさに今の私たち世代のものです。同じ年代の人だけにわかる心細さを抱える生活の様々な機微が見事に描き出されて、身につまされると言うより自分たちの仲間状況をそのまま見るようでした。それだけにこの作品は非常に重い物を抱いています。でも女は明るくて強いんですよ・・・というメッセージも同時に受け止められるのですが・・・ま、なるようにしかならんのですよ?
周五郎さんの「あとのない仮名」は若い時は厭な小説でした。今も厭なことには変わりません。若いときには色々考える余力があったのですが、今はそんな時間も無いわ!で、今現在の世相にピッタリの人物造形じゃないの・・・と、思うことにしました。不条理だの絶望だの人や世を見切ったのなんのを言う前にポコッと鬱のエアーポケットに落ち込んだ、周りの人には見えない何かの穴に足を取られたまじめだった人?みたいな。友人が「お隣の奥さんが町内で六人目のうつ病患者になって入院した」「六人?」素っ頓狂な声を上げた私ですが・・・「今は10人に一人よ」だそうです。で、源次もかも?違う世間に行ってしまった人?
「静かな木」は大好きな三屋清左衛門を思い出させます。世を知り人を知れば百戦危うからず!こんな親になりたかったのよー!
で初めて読んだ山本作品は読んで心にしみるものを抱いていました。頑固になる事も含めてこれは回りにいるオジサマ方です。立派に誇りを持って生きてきたオジサマたちです。とてもよく分かるようで、彼が新しく胸を張るところでなんともいい気分にしていただきました。
池波さんはいかにも慣れて闊達に描いていますが、私の嫌いな面が出てしまっている作品です。艶のある、枯れないでも心の底はしっとりと枯れている、反対語みたいですけれど・・・そういう「男があこがれる男」を書けるのが池波さんですが・・・?若気が厭な感じで出たなという気分ですっきりしませんでした。