カシオペアの丘で

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カシオペアの丘で(上) カシオペアの丘で(上)
重松 清講談社 2007-05-31
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カシオペアの丘で(下) カシオペアの丘で(下)
重松 清講談社 2007-05-31
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重松清著

「イヤダナ・・・いやだな・・・厭だな・・・」と頭の中でズーッと思いながら、なんとか読み終えたという感じがしました。
「幼馴染み」というキーワードに背負わされた重さと言ったら・・・
この関係にこれだけの重さを負わせていいのだろうか?いかに濃密な関係だったとしても?
これじゃぁ余りにこの関係がきついじゃないか・・・
幼馴染みのいる全ての人が自分の子供時代を思い出して・・・時間が限られている時に、追い詰められた時に、その思い出から優しさを目いっぱい汲み出そうとしたら・・・んなことはありませんね。
「これは夢物語です。」と念を押して心を宥めてあげたいような気分です。
「時間がいっぱいある」とすら思わないで普段生きています。
気が付かないうちにこの世で私はもう60年をぼんやり過ごしてきてしまいました。
特に誰かに何かを期待しないで(意識しないで)・・・でも普通の通りすがりの、袖摺りあった、友情を感じた、愛情を持った・・・人との間に通う気持ちはそれなりに大事にして。故郷への思いもまた同じです。
でも、期限が切られたら、明日が必ずしも来ないと知ったら、私はとてつもなく周りの人に故郷に期待し、要求し、採り尽くすのかしら?やはりそれにすがって足掻きまくるのかしら?
人は思い出から搾り取るのかしら?そう出来るのかしら?そしてそれは他人まで巻き込めるのかしら?その他人に「幼馴染み」という冠を被せたらなお更に?切れた絆を結びなおしても?そういう時が訪れたら人は自分の過去にしがみつくのかしら?それとも過去のほうから赦さなければいけないこととか、強くならなければいけないこととか、「色々あるでしょう?」などと働きかけをしてくるのかしら?過去は過去でおいておきたいでしょ?しまい込んでおきたいでしょ?違うの?
ミッチョとトシとシュンとユウちゃん・・・その記憶だけで本当は終ったはずのものだよね?でも悲しい事件が起こって、死病が宿って・・・過去は優しさと許しを汲み上げられる井戸になってしまったかのような。
過去にそんなに期待しないで、長く遠ざかり忘れたと思っていた人にそんなに期待しないで・・・と、思っていた私はヒョットするととてつもなく心が淋しい人なのだろうか?なんて厭な気持ちにさせられたりして。既に死んだトシの父母や炭鉱で亡くなった人たちも引きずり出して過去は反芻されつくして・・・そうすると優しさが生まれるのだろうか?私は怖いと思ってしまった。
幼馴染みのあの顔この顔・・・4人が紡いだ幼馴染みの時は、たいていの人にもあるにはあるだろうけれど・・・イヤこれはどうかな?やりすぎじゃないか?やらされすぎじゃないか?
思い出してしまった昔の幾つかの顔にとりあえず心の底で「元気でいてくださいね」と、呟いてみてはみたけど・・・
殺された少女と家族の話を上乗せすせることで生み出した苦しみまで被せてまでも・・・「赦し」?
語り手が変わるたびに語る人がどんどん優しくなって、感傷的になって、人の心を際限なく分かってあげていく?そう思われてしまうことに抵抗がある人はいないの?いてもいいでしょ?
私がシュンだったら・・・今いる周りの人と過ごすことで手一杯かもしれないなぁ。赦したいとか赦されたいとか思うことがないからかなぁ?大きな重い過去がないと優しくなれないのかな?それもイヤだな。心ってガラスの優しさ?本を閉じたら「フラジャイル」と大書してあるかも。
この本を読んで癒された許されたと思う人って多いのだろうか?心が洗われて優しくなれたと思う人って多いのだろうか?そう自分に問うて、多分多いのかもね?と、答える。
人が一人亡くなるということは周りの人にそれだけ重いことだということはよく分かるけれど。普通に成り行きで葬れないものかしら?おーやだ。

気になる部分

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気になる部分 (白水uブックス) 気になる部分 (白水uブックス)
岸本 佐知子白水社 2006-05
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「気になる部分」  岸本佐知子著

「時間が出来たら何を置いてもこの作家の作品を読もう!」と前作を読んだ時決意しましたが、実行しました!
図書館所蔵では翻訳作品以外はこの作家の作品はこの2冊しかないのです。
だから次に読む本を予約できないのが残念です。
それにしても、困ったなぁ・・・
素晴らしく魅力的なおかしな自分を見事にしっくり魅惑的に笑えるように書きあげることの出来る人ですよ!
でもお終いまで読んで彼女が「翻訳した作品も読みたい!」という気にはならなかったのが不思議ですが・・・なんかなぁ・・・本当に同類?
彼女の二冊に感じた同類感は確かなものですが・・・このまじめで面白みのない私に言われても・・・って、私も思いますが・・・底の底には人間色々なものを抱えていますからね、分かってください。
翻訳作品も彼女と同類人の作品なのかなぁ・・・読むのきつそうな印象も感じましたが。読まないと大失敗かも?
そういえば、寝ようと思って目をつぶった時、直ぐに眠れそうもない気がする時、私は目のもうひとつ奥のまぶたを開けます。
ところがどうやっても開くのは右目だけなんですね。左目の奥は開かずの扉に護られているのです。
そして開いた方の右目の奥のまぶたを開けると日替わりで色々な映像が展開します。それは・・・極彩色だったり墨絵だったりそのときそのときなのですが・・・絶対知らない物語が展開したり、全く会ったこともない人がにんまりしていたり・・・それをはてな?とじっと見定めようとすると見事に眠れるのですね。あの絵を岸本さんだったら実にうまく表現してしまうんだろうに・・・。
頭の中や心の中や無意識下の意識をナンデこんなに書き尽くせるのか・・・その才能はどうして育まれたのか?羨ましくて妬ましくて悔しいなぁ・・・!

でも絶対違うのは・・・彼女だったらこんないい加減な、不ぞろいのコピーはくっつけないってとこ。
 

犯人に告ぐ

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犯人に告ぐ 上 (1) (双葉文庫 し 29-1) 犯人に告ぐ 上 (1) (双葉文庫 し 29-1)
雫井 脩介双葉社 2007-09-13
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犯人に告ぐ 下 (2) (双葉文庫 し 29-2) 犯人に告ぐ 下 (2) (双葉文庫 し 29-2)
雫井 脩介双葉社 2007-09-13
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犯人に告ぐ 犯人に告ぐ
豊川悦司ポニーキャニオン 2008-03-21
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 雫井脩介著

もう一気読み!
その勢いで旦那に「凄いよ!」と言ったら、旦那も翌日から一気読み!図書館で何百人も待っていたら、その間に映画化までされちゃったようですね?映画は見ませんでしたが、どうだったんでしょう?
あのスリリングな最近流行りの劇場型?映画劇場に上手くマッチしたのでしょうか?湾岸署みたいに?相棒劇場版みたいに?
読み終わって、これは読んで、畳み込んでナンボ!っていう類の小説。読んで呻ける醍醐味がすべてっていう類の作品って気がしましたが?読む私たちの方が劇場型にはもうなれているのかもしれませんね。警察OBのコメンテーターなんて今更目新しくも無いのですから。そういう意味ではこの捜査方はもうお馴染みかも知れません。
ですからこの物語の場合、何より主人公が感情移入しやすい理解できる冷静な常識人っていうイメージを持っているのが強みでしょうか。何をしても、どんな場所に置いても、納得できる知性も理性も実行力もあって、仕事人間だけどそれを家族に受け入れてもらえるだけのフォローも出来るタイプの人間?それだけで尊敬できちゃいますものね。
つまり主人公の巻島がとても好感が持てる人物だったってことがこの物語の口当たりをとてもよくしているということを最初に書いておきたいです。こういう主人公を生み出したことでこの作品は成功したのだといいたいくらい。実際は彼が失敗を踏まえ、その失敗の中から不死鳥のように逞しく甦ったという設定そのものが読者には嬉しかったのです。
「ワシ」の事件が後味が悪く残っていたからこそ彼の身を捨ててもの覚悟を産み、それがTVでの生々しい目に見えるような事件の進行に緊迫感を与え、読む方にそれで?それで?と先を先をと言う欲求が生まれ・・・という連鎖に繋がり・・・つまり夢中で読んでしまったのです。
横山さんの心理的緻密な警察ものとは一線を画していますが、ある種の息もつかせぬ緊張を生み出した面白さという点では決して劣らないでしょうね。
この劇場型犯罪というセンセーショナルな場面を構築し、エンターテインメントとしてより面白く出来たのは、巻島に対する大悪党曽根と小悪党植草というキャラクターを重層で配したからでしょうか。
パージされた植草、全く怪我をしなかった曽根、いずれにしてもキャリアの世界を相変わらず生き抜いていくだろう二人がいてこそ、「警察ってこういうところか・・・納得」みたいなリアルさが通って、訳知りな満足感まで読む私に生まれる。
巻島が描かれそこなったら絶対にこの小説にはリアリティが生まれなかっただろう・・・という気がします。
「私が被害者の親だったとしたら・・・」という視点を巻島を丁寧に描くことで上手く封じ込められた感がありますが、それもちゃんと巻島の遭難という出来事でもう一歩罪障希釈されて、後味も悪くならなかったのでしょう。
「ワシ事件」があいまいなまま、またその被害者の苦しみが描きこまれたことによってなお更現実の社会が表現されて実に上手い面白い小説を読んだ!と言う満足感があります。
 

霧笛荘夜話

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霧笛荘夜話 霧笛荘夜話
浅田 次郎角川書店 2004-11
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  浅田次郎著

7話からなるひとつながりの物語。浅田さんはこういう物語を構想するのが本当に上手!こうなると、手馴れている分まるで職人さんだね。作品も量産していてしかもそれが皆高水準(って、読んだだけでも)!
時々絵を見に行くとその画家の生涯の事を考えることがある。本当に短い生涯だったり長寿だったり。その違いを例えば奥村土牛さんの絵などを見ていると「職人になれば長寿」、ゴッホなどを見ると「芸術家になると短命」なんて。浅田さんはなぜか土牛さんを思い起こさせる。大作も小品も上手過ぎる!ツボを知っている!確実に引き込んで描かれた世界を堪能させてくれる!これもそう。
霧笛荘には管理人の部屋を入れて7つの部屋がある。もう随分古い建物だが、ある頃のそこの住人の話が1話ずつ管理人の纏足のおばあさんの語りで語られていく。物語の始めが上手くてついまるで私がその部屋を借りに来た「まだ性根の座らないさ迷い人」のような気がした。ここにたどり着くときは私の鞄には「何が入っているのだろう?」かと。
纏足なんてもう長いこと聞くことの無かった言葉だ。パール・バック「大地」で始めて知ったんじゃなかったっけ?それだけで謎めいていて異国風で、港町の霧と雨の情景の中、ポットンとこの世界へ墜落する。
それはともかく?行き場がなくなってぎりぎりに追い詰められなければたどり着けないこの古アパートの住人は「よくもこんな人生を思いついたね?」と作家に言いたいくらいな背景を背負わされているのに、老婆は「皆幸せだった」と言うんだよね。どうして?と夢中で読んでしまう。どうしたらそういえるの?どうなるの?と。3人の女と3人の男プラス語り手の物語を。
そして最後に納得させられてしまったような気がするんだよね。
でも本当は納得していないの。だってこんなの悲しすぎるじゃないの・・・って思いながら読んだから。それは「作家が無理やり作った納得だろ?そう思わせるために仕組んだ作品だろ?」って、心の底では思っているの・・・それは「余りに上手すぎるから?納得しちゃったじゃないの」って思っている冷めた私が完全には消えないから。そこが限界かもって。
それなのに上手いって思うのは、物語を堪能したと思えるのは、テーマにそう信じたいと思わせる「実」があるから。だって誰だって「お金でかえないものがあると信じていたい!」んだもの。ヒョットすると誰かさんみたいに「金で買えない物はない」って普段思っているのかもしれないけれど。
だからそれを素直に簡単に「金で変えない物はある」と貫けちゃう人を差し出されるとクチャっと頭を垂れたくなっちゃう。それで「心からそう思っている私」でありたいんだねって気付かされる。
その上人は皆「自分の行き方で生きた!」って思いたいのだから。

鼓笛隊の襲来

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鼓笛隊の襲来 鼓笛隊の襲来
三崎亜記光文社 2008-03-20
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 三崎亜記著

いやいやいや・・・これはこれはこれは・・・なんとステキなホラーじゃないの?
聞いてないよ・・・って、誰からもこの本を読んだ話もまだ聞いてない!いやいやいや・・・この作家本当に好きかも!
しかもこの短編集好きな順に並べられる!だって殆ど好きだもの。
一話ずつ読み終わるたびに背筋がゾクリとしてふっと我を見つめてしまう。不思議な捩れやパラレル・スパイラルなんて言葉が浮かぶ世界で表現されている事象が現実の私の既視感を刺激し、私の未来予想に繋がっていくような。不安を掻き立てられるけれどこの静かな世界は安らぎもあるし刺激も程好い!
1話「鼓笛隊の襲来」には思わず「いい!」すごいシチュエーションなのにちゃんと現実と繋がっていて・・・可愛さと楽しさを併せ持つ異な意識。それに素直に「そうだよ、老人の理知常識が役立つ世界であって欲しいよ」なんて思って。現実には今若い人にどんどん教わり続けなければ生き難いんだもの。

9話「同じ空を見上げて」こんな不条理何故かひどく現実に起こりそうな気がして・・・それでも未来には希望もあるし、心は再生することも出来る。悲しいけれどありがたい。

6話『「欠陥」住宅』窓の外を見ると窓窓窓。
前も隣も後ろにも50階建てのビルの数え切れない沢山の窓が我が家を見下ろしているの。あの窓の一つにひょっとしたら昔の私の大事だった人たちが、二度と合うことも無く捩れた空間を介して向かい合っているのかもしれない・・・そしてその窓から外を見ている人はどんな景色を見ているの?リアルにゾクリ!こんだけ窓があるんだ現実に居るかもしれない・・・

2話「彼女の痕跡展」そうなの、何か心に引っかかることがあった後は頭の中で私が私とその出来事を話し合っているの・・・微妙に削除付け足し変更歪曲・・・出来上がった物は微妙に私には真実。そのとき削除した物は何処かで・・・ね、ほら背筋が・・・過去って唯過去ってだけで不安なのに、記憶って唯記憶だってだけで争いの種になるのに?人が記憶と思っているものを付き合わせたときどんな大きさのブラックホールが出来るんだろう?
と言った具合で・・・

7話「遠距離・恋愛」少女の部分をどう読めば?と思いつつもふと慣れた幸せ慣れた不幸は慣れているだけほっとする部分も。8話「校庭」誰のせいでもないこの存在・・・私も見たような・・・いや私がそうだった様な・・・全部記憶に残る物語!

8話・・・あった、あった、こういう存在・・・誰のせいでもなくて・・・3話、4話、5話・・・皆好きだな・・5話が最後に書かれたのだって唯私が男じゃないってだけで、管理社会の恐怖と共に誘惑のゾクリとする魅力とそれに抵抗する切なさ・・・は・・・この作品十年後に読み返してもきっと心が不思議な感じにスイングするのだろうな。

ぬしさまへ

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ぬしさまへ ぬしさまへ
畠中 恵新潮社 2003-05
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畠中恵著

はい!はい!やって来ました!シリーズ第二作がようやく読めました。平仮名で「ぬしさまへ」とある題名、果たしてこの「ぬしさま」はあの「主様」のことであろうか?・・・一寸三味線を入れて鼻声で「ぬしさまに・・・」とか「ぬしさんは・・・ありんすか?」なんて唸りながら待っていました。
恋文の宛名だったのですね?第1話でした。
でもこの本で一番嬉しかったのは「ねこのばば」を読み終わってから心配でならなかった仁吉の過去がやっぱり書かれていたことです。
案の定でしたね。長い長い片思いが丁寧に騒々しくなく語られて、この一編は仁吉ファンの私には嬉しい贈り物になりました。
この本の1話で語られた「あ、煙管の雨が降るようだぁ!」みたいな恋文の雨が降り続きそれを一顧だにしない仁吉の奥の奥に潜む初心さに嬉しくなりました。全く恋人にはこうあってもらいたいものですよ・・・って、それは罪だろ!可愛そうに、ねぇ?
何百年毎かに「恋と喪失」を繰り返す輪廻?そっちもきつそうだけどなぁ・・・と、ロマンスより安穏を選びかねない?私はちょっと思わないでもない・・・けど。人間の本質も妖の本質も変わらないんだね?
そんなわけでこの6話、好きな順に並べると・・・
「仁吉の思い人」
「空のビードロ」・・・え~困った。「松之助関係は柱の一つみたいでいろいろ知りたいのだけれど、この事件は先ず動物殺しからおぞましく、登場人物もおぞましい。いやな部分が多くて困るよ。
作品全体の読後感は悪くなかったのです。長崎屋はいつもの長崎屋ですし、一太郎は期待通りに頭の鋭い立派に体の弱い若旦那だし、妖たちはいつもの面々、何の不足も無く風景は同じです。
ただね、私的には兄松之助が登場するたびに長崎屋の大旦那が分からなくなるのです。「ホントはどんな奴だ?」って。
ですけれど主要な面々が既にもっと先の作品を読んで好きは好きになっているから?余り悲しい殺人事件はなしにして欲しいなって思ってしまうのでしょうね。悲しいだけならいい、おぞましいのはね。ついで「栄吉の菓子」かな?
「栄吉の菓子」は良く出来ていました・・・と、思います。
老人の孤独も、彼と栄吉の間に流れる細い糸のような交情も。でもこの老人の考えた賭けは他の作品でもよくある自殺して犯人をでっち上げ恨みを晴らすって筋書き風ですが、欲しかない人々しか身辺に集まらなかった(められなかった?)老人の孤独は悲しく思えてこの事件はやっぱり厭だな。
「ぬしさまへ」の殺人事件も犯人の少女も哀れすぎて・・・イヤだな。
「四布の布団」も「虹を見しこと」もそう。彼らの醸す雰囲気にはそぐわない・・・と、勝手に決め付けてしまいました。それなら自分で書けよと言われそう?そう、どうやら期待するものが私の中で勝手なイメージに膨らんで先走っていますね。
解決の上手さはあるし、妖との連携、会話、ユーモア(含ブラック)、情も好もしくちゃんと揃ってはいるのです。お江戸も今も事件は事件、猟奇的事件は同じく猟奇的、厭な世相は厭な世相と共通ですから仕方ない!か。
真綿の中で一本立ちの努力をする6話目の一太郎君がホント可愛い!
 

ぬしさまへ (新潮文庫) ぬしさまへ (新潮文庫)
畠中 恵新潮社 2005-11-26
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辰巳八景

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辰巳八景 辰巳八景
山本 一力新潮社 2005-04-21
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山本一力著

八景、八話、江戸情緒満点の深川を舞台のお話です。
深川近くの堀端に住んでいるから「読みたいでしょう!」とわざわざ知人が持ってきてくださった本です。作家さんも私と同じ区の堀端にすんでいらっしゃるらしいですね。
なるほど、私の地元の2・3百年以上前の情景満載!・・・って?うちはその頃海の中だわ。
風情・情緒は確かに江戸の気分満載で舞台も人々も時代をしっかり感じさせてくれます。でも、何かもう一つ物語りに乗れなかったのです。どの1話をとっても。気分良く情緒にポトンと浸れないんですね。言葉も情景描写も実にたくみにしっかり選ばれている感じ、時代考証もきっと確かなんだろうなぁ・・・という感じは濃厚に漂っているのに?
考えるに、むしろ時代考証をし過ぎて、それに囚われて話が年号でぶつ切りになるからかしら?何代目が何年に・・・とか言う記述で?でもその記述がなければ何十年、いや百年にもわたる一家の歩みは語れないだろうし・・・1話づつが本当は長編に仕立てるべき物を端折ってしまったからではないか?短編にするために?急ぐ余り何代目がどうして何代目がどう繋いで・・・という走り方をしたのが飲み込みにくい部分になってしまった?だから余りそういう部分に力を入れていない物語の方がまだおもしろく読めたのかもしれない。
一つの物語に書き込まれる商店の代々の変遷がこの物語一つ一つの眼目なのではあろうけれども、作家は江戸に何代も代を重ねた商家を縦線にそれに絡む江戸の庶民の哀歓をこそ描きたかったのだろう。
その縦線がある意味で物語の連綿性?を損なっているような気がして・・・だってその辺りが読みづらかったのだもの・・・と私はぼやいている。一つ一つのその屋の家業は面白かったのだけれども、共感しやすい庶民・町やの人々の物語を切ることになってしまったよう。
例えば一番読みやすくて好感を抱いた「石場の暮雪」はそういう商家の長話が無かったし、「やぐら下の夕照」もその点があっさりしていたせいか読みやすいと思い共感を感じられた。
さくらさんに好意を持った「木場の落雁」はさくらの成長話と商家の生き抜く智恵の両立が割合上手くいっているとは思うものの、やはり水に油が流れ込んでいる軽い違和感が読みにくさを読後に残した。ここまで描くならじっくりと長編乃至は中篇にまで育てても良いのではなかろうかと。
つまりこちらは短編として、読みやすい江戸情緒を単に求めていたのに対して作家には読者に江戸時代という時をきっちり意識させる時代物を書くぞという矜持がはっきりあったということかもしれない。私みたいに読みやすい作品、乗りやすい作品、溺れやすい作品を期待する読者は全くこの作家には迷惑な読者かもしれないなぁ?特にこの作品では。
周五郎さんや正太郎さん、周平さんとはまた違う丁寧さ・こだわり方がこの作家の持ち味なのかもしれない?この辺りが好き好きというところだろうか。
 

ねにもつタイプ

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ねにもつタイプ ねにもつタイプ
岸本 佐知子筑摩書房 2007-01
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岸本佐知子著

翻訳者さんだそうである。デ、この方の本を読む気になったのは何故か?勿論新聞の書評欄か下段の新刊広告のせいだろう?
もう忘れたというのは・・・この本も図書館に予約後1・2ヶ月は経っているからで、最近この手の記憶力がどんどん薄れていくようだ。予約して安心したが最後、何を予約したかなんて・・・キレイサッパリ?
でも笑っていられるのは、1にも2にもこの本のおかげ?
最初に「ニグ」を読み始めたとき・・・?「アラ、本の選択をまた間違えたらしい!」と、思ったのだった。
でも、そこで閉じてしまわないのが私の真骨頂でもあって、良いのか悪いのか?「うふっ」と笑い、「ニヤッ」と口の端を捻り、「郵便局にて」で、お友達の本だと認識したわけです。
その後はもう毎晩布団の中で数編ずつ(それ以上はいけません)読み進む事を自分への1日のご褒美にするということになりました。
読み終わって早速検索。図書館にはもう1冊しか(翻訳を除けば)著作は無いようです。ここのところ知人と父から「読め!」と届けられた本がうずたかく積もっているのもナンノカワ?この連休里帰りから帰ったらその1冊を予約するぞ!と、意気込んでいるところです。
それにしてもこんな妄想する人がいて、それを著述してしまう人がいるんだぁ!だってここはナイショの部分ですもん。
「郵便局にて」で、そう思ったのだから、「奥の小部屋」はあたしの頭の中そのまんまだし・・・「心の準備」も私の日常・・・「疑惑の髪型」ではとうとう声を放って笑い崩れてしまった。ナンデ・・・?
頭の中の行動様式は覗かれたか?と思うのだけれど(人は皆その人で、ユニークな存在なんだってば!)・・・表現の、ネーミングの、言葉の、突き詰め方の、なんとも途方も無い表出はやっぱり表現できる人の凄さだ!
だからあたしは「これ」をどう思っていたのかを改めて知るためにというか、私を追いかけるためにというか・・・まぁいいや、私を笑うために?彼女のこの後の、日記も、エブリディも、思い出も、最近も、すべて読ませてください!
それにしても、イラストがまたいい!つぼにぴたぁっとはまっていますね。

まんまこと

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まんまこと まんまこと
畠中 恵文藝春秋 2007-04-05
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畠中恵著

お待ちかね、畠中さんの江戸時代ファンタジーです・・・じゃないの?、残念なことにお約束じゃないのね?妖怪変化なーし!不思議なーし!ファンタジーにあらず!てっきりシリーズ外でもあやかし物だと思い込んでいました。
ファンタジーではなくよろず揉め事承り候?
なんて書くと周平さんの「平四郎活人剣」を思い出しそうですが、ま、それ系の走り書きかな?
明るく書かれていますが・・・それはそれなりに・・・彼らは彼らなりに・・・優しいんだもの・・・生きていくのは色々あらあな・・・でも智恵があればさ・・・あわせる力があればさ・・・人の世はそれなりに渡っていけるのだわね・・・なんて、事件は色々あっても何とかなって・・・
楽しく読ませていただけますね。北原亜以子さんの複雑読み込み心理ものとは北と南の違い。
主人公の醸すムードは畠中さんの世界のレギュラー陣?
やっぱりこれは言われちゃうのでしょうね「畠中ワールド!」
それはとてもステキなことですよ。なんにせよカラーは見つけるまでが大変なのですから。デ、見つけられれば・・・鬼に金棒!
安藤さんのコンクリート壁も、クリムトの金ぴか装飾も、ユトリロの白いモンマルトルも・・・でしょう?
だから「こころげそう」というのは妖が出るのか出ないのか?分かりませんが予約しました。150人待ちのようです。「ちんぷんかん」はやっと25人待ちになりましたし・・・楽しみにはしているのですよ。とにかく時代物を中心にと。でもちょっと「まんまこと」は薄味だったようなきがしないでもないんですね。トリオが楽しいけど一寸躁が勝ちすぎかな。もう少し熟成させて欲しいような?そういえば「はなしあいをもつ」とか「説明の場を持つ」とか・・・翻訳文を感じさせられたのですが・・・今じゃ当たり前ですか?「設ける」とかより現代的なんでしょうか。一つ一つ事件を解決して主人公は成長し、結婚へと、大人へと、階段を上る。成長譚は実に気持ちよくさわやかに読めるジャンルだわい!と、思いながらそれでもなんとなくものたりない気分で、やっぱり「一太郎さんを待とう」という気分の読後感なんですねぇ~。
 

オトナの片思い

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オトナの片思い オトナの片思い
石田 衣良角川春樹事務所 2007-08
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「ふむ・・・オトナとカタカナなのが気に掛かるけれど・・・」と、思いながら、随分長いこと実るも実らないも恋なんか袖も摺りあわない私ですから「片思いアンソロジー」?でもいいや、「ロング・グッドバイ」の後に軽い失恋話しでもつまんで見ますか・・・ってな気分でしょうか?
思ったとおり!軽い気分の短編集。
そして思ったとおり「オトナ」はやっぱり大人ではありませんでしたね。一寸がっかり。11作11人の著者はプロフィールに生年月日の入っていない数人も含めて多分一番年長が1955年生まれの佐藤正午さんでしょうか。殆どが70年代生まれという若さです。
それじゃァいかに想像力+創造力の権化?たちでも、まだ大人の片思いは無理でしょう・・・と、納得。
で、期待は外れましたが何作か記憶に残りそうな作品が!・・・って、失礼ですね。でも実際期待は軽い読み物だったのですからそれでもいいはずでしょ?作家先生たちにも?
最近読んだせいですか・・・三崎亜記さん「Enak!」と角田光代さん「若葉の恋」が印象に残りました。一寸いい感じかも!
山田あかねさんの「やさしい背中」と井上荒野さんの「他人の島」も心に残るかもしれません。
それにしても・・・「どこが大人だ?」いや「オトナ」か?とボヤキが出ます。主人公たちはまだほんのひよっ子じゃありませんか。
そんな年で、そんなことしていて、おとなになったつもりになるなよ!と思っています。
生きていれば普通にあるほんの心のさざめき程度の片?思い!ばっかですよ。これ痛いですか?修行が足らんよ、もっともっと痛いことは直ぐ後を追いかけてくるからね。デモネ、それとオンナジくらいオイシイこともあるからね。と、オバサンらしくつぶやいて閉じました。どっちにしてもおしゃれな気分を楽しめる間はまだまだコドモだね。装丁はちょっとじゃなく、おしゃれなおとなでした。

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