犯人に告ぐ 上 (1) (双葉文庫 し 29-1) 犯人に告ぐ 上 (1) (双葉文庫 し 29-1)
雫井 脩介双葉社 2007-09-13
売り上げランキング : 18717
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools
犯人に告ぐ 下 (2) (双葉文庫 し 29-2) 犯人に告ぐ 下 (2) (双葉文庫 し 29-2)
雫井 脩介双葉社 2007-09-13
売り上げランキング : 8408
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools
犯人に告ぐ 犯人に告ぐ
豊川悦司ポニーキャニオン 2008-03-21
売り上げランキング : 7417
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

hannin11.jpg hannin21.jpg

 雫井脩介著

もう一気読み!
その勢いで旦那に「凄いよ!」と言ったら、旦那も翌日から一気読み!図書館で何百人も待っていたら、その間に映画化までされちゃったようですね?映画は見ませんでしたが、どうだったんでしょう?
あのスリリングな最近流行りの劇場型?映画劇場に上手くマッチしたのでしょうか?湾岸署みたいに?相棒劇場版みたいに?
読み終わって、これは読んで、畳み込んでナンボ!っていう類の小説。読んで呻ける醍醐味がすべてっていう類の作品って気がしましたが?読む私たちの方が劇場型にはもうなれているのかもしれませんね。警察OBのコメンテーターなんて今更目新しくも無いのですから。そういう意味ではこの捜査方はもうお馴染みかも知れません。
ですからこの物語の場合、何より主人公が感情移入しやすい理解できる冷静な常識人っていうイメージを持っているのが強みでしょうか。何をしても、どんな場所に置いても、納得できる知性も理性も実行力もあって、仕事人間だけどそれを家族に受け入れてもらえるだけのフォローも出来るタイプの人間?それだけで尊敬できちゃいますものね。
つまり主人公の巻島がとても好感が持てる人物だったってことがこの物語の口当たりをとてもよくしているということを最初に書いておきたいです。こういう主人公を生み出したことでこの作品は成功したのだといいたいくらい。実際は彼が失敗を踏まえ、その失敗の中から不死鳥のように逞しく甦ったという設定そのものが読者には嬉しかったのです。
「ワシ」の事件が後味が悪く残っていたからこそ彼の身を捨ててもの覚悟を産み、それがTVでの生々しい目に見えるような事件の進行に緊迫感を与え、読む方にそれで?それで?と先を先をと言う欲求が生まれ・・・という連鎖に繋がり・・・つまり夢中で読んでしまったのです。
横山さんの心理的緻密な警察ものとは一線を画していますが、ある種の息もつかせぬ緊張を生み出した面白さという点では決して劣らないでしょうね。
この劇場型犯罪というセンセーショナルな場面を構築し、エンターテインメントとしてより面白く出来たのは、巻島に対する大悪党曽根と小悪党植草というキャラクターを重層で配したからでしょうか。
パージされた植草、全く怪我をしなかった曽根、いずれにしてもキャリアの世界を相変わらず生き抜いていくだろう二人がいてこそ、「警察ってこういうところか・・・納得」みたいなリアルさが通って、訳知りな満足感まで読む私に生まれる。
巻島が描かれそこなったら絶対にこの小説にはリアリティが生まれなかっただろう・・・という気がします。
「私が被害者の親だったとしたら・・・」という視点を巻島を丁寧に描くことで上手く封じ込められた感がありますが、それもちゃんと巻島の遭難という出来事でもう一歩罪障希釈されて、後味も悪くならなかったのでしょう。
「ワシ事件」があいまいなまま、またその被害者の苦しみが描きこまれたことによってなお更現実の社会が表現されて実に上手い面白い小説を読んだ!と言う満足感があります。