霧笛荘夜話 霧笛荘夜話
浅田 次郎角川書店 2004-11
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  浅田次郎著

7話からなるひとつながりの物語。浅田さんはこういう物語を構想するのが本当に上手!こうなると、手馴れている分まるで職人さんだね。作品も量産していてしかもそれが皆高水準(って、読んだだけでも)!
時々絵を見に行くとその画家の生涯の事を考えることがある。本当に短い生涯だったり長寿だったり。その違いを例えば奥村土牛さんの絵などを見ていると「職人になれば長寿」、ゴッホなどを見ると「芸術家になると短命」なんて。浅田さんはなぜか土牛さんを思い起こさせる。大作も小品も上手過ぎる!ツボを知っている!確実に引き込んで描かれた世界を堪能させてくれる!これもそう。
霧笛荘には管理人の部屋を入れて7つの部屋がある。もう随分古い建物だが、ある頃のそこの住人の話が1話ずつ管理人の纏足のおばあさんの語りで語られていく。物語の始めが上手くてついまるで私がその部屋を借りに来た「まだ性根の座らないさ迷い人」のような気がした。ここにたどり着くときは私の鞄には「何が入っているのだろう?」かと。
纏足なんてもう長いこと聞くことの無かった言葉だ。パール・バック「大地」で始めて知ったんじゃなかったっけ?それだけで謎めいていて異国風で、港町の霧と雨の情景の中、ポットンとこの世界へ墜落する。
それはともかく?行き場がなくなってぎりぎりに追い詰められなければたどり着けないこの古アパートの住人は「よくもこんな人生を思いついたね?」と作家に言いたいくらいな背景を背負わされているのに、老婆は「皆幸せだった」と言うんだよね。どうして?と夢中で読んでしまう。どうしたらそういえるの?どうなるの?と。3人の女と3人の男プラス語り手の物語を。
そして最後に納得させられてしまったような気がするんだよね。
でも本当は納得していないの。だってこんなの悲しすぎるじゃないの・・・って思いながら読んだから。それは「作家が無理やり作った納得だろ?そう思わせるために仕組んだ作品だろ?」って、心の底では思っているの・・・それは「余りに上手すぎるから?納得しちゃったじゃないの」って思っている冷めた私が完全には消えないから。そこが限界かもって。
それなのに上手いって思うのは、物語を堪能したと思えるのは、テーマにそう信じたいと思わせる「実」があるから。だって誰だって「お金でかえないものがあると信じていたい!」んだもの。ヒョットすると誰かさんみたいに「金で買えない物はない」って普段思っているのかもしれないけれど。
だからそれを素直に簡単に「金で変えない物はある」と貫けちゃう人を差し出されるとクチャっと頭を垂れたくなっちゃう。それで「心からそう思っている私」でありたいんだねって気付かされる。
その上人は皆「自分の行き方で生きた!」って思いたいのだから。