つくもがみ貸します

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つくもがみ貸します つくもがみ貸します
畠中 恵角川書店 2007-09
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畠中恵著

「しゃばけ」シリーズではありませんが、これも妖怪時代ファンタジー?の1冊です。
そしてやはり楽しい読み物ですと言っていいでしょうね。
「付喪神=器物の怪で、生まれし後、百年の時を経て精霊を得るものがいる。もはやただの“もの”ではなく、物の怪の名が付く妖だ。」
と本に書かれています。その付喪神が沢山住み込んで?いる損料屋出雲屋が舞台です。このなかなか一筋縄ではいかないが人の良い?付喪神が結構な働きをしてくれて、ま、一件落着となるまでがお楽しみです。
最初の序で付喪神の立場が明かされ、第1章で彼らが活躍して一つの事件が解決され、その章でまたこの物語を通しての中心となる一つの謎が提出されます。残りの章は順番に活躍する幽霊や道具の名が当てられているのですが、それが全部色の名だというのが妙ですね。謎の「蘇芳」は色の名であり、香炉の銘であり、探すお人の俳号でもあるのですが畠中さんは蘇芳色がお好きなのでしょうか?と、ふと思ったのは私の母が花蘇芳が好きだった事を思い出したからです。余談。
私はこの本を読み出した時、この1章目でてっきり付喪神が活躍する一種の探偵小説の短編集だと思いかけました。でも蘇芳で物語が繋がっていくのがわかって、じっくり腰を据えました。でも読み終わって何故かかえって少しがっかりしました。
短編で、彼ら付喪神の働きを小刻みに色々なバージョンに工夫して見せてもらえた方が面白かったんじゃないかな?という気がしました。一つ一つのお道具がそれぞれに活躍する探偵物?
蘇芳を追っていく道筋が妙にまだるっこく思えたからでしょうか。1章の勝三郎の事件を解決したスピードの方が捨てがたい。それは確かに手軽すぎるかとも思わないでもないけれど、付喪神の出し入れ(貸し出し回収の工夫も読みたい!)が、またその報告の面白さが、その方が生きたのではないかという気がするからです。この後の章で清次とお紅の気持ちが中途半端に分からない(読むほうは先刻承知!)のをずーっと引きずっていくのが妙にまだるっこしく思えてね。その分清次の動きが鈍くなりました。
「江戸っ子でしょ?しゃきっとしなさい!シャキット!」みたいな気分でいらだっちゃったのです。ちゃっちゃと動けばチャチャッと解決できるでしょうに?
付喪神がそれぞれ個性を持って描き分けられているのだから、こうもりの根付の野鉄みたいに飛べたりするものまでいるのだから、話もスピードアップできるんじゃないの?なんて。皆これもあれも、主人公の二人がきりりとしない所為ですよ。
何はともあれめでたしめでたしになったこの出雲屋の二人のためにも、すっかりやる気十分になっている付喪神さんたちの為にも、粋な威勢のいい、きりっとしたお話をと、楽しみに待っています。
 

青い鳥

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青い鳥 青い鳥
重松 清新潮社 2007-07
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  重松清著
この作家の2冊目です。
で、簡単に、「ブランケット・キャッツ」より好きでーす!
「物凄くよかったでっす!」と、小学生みたいに言っちゃいます。
このところいい本に「当たり!」通しです。
「まほろ駅前多田便利軒」並によかったです。
「他に切り口は無いの?」って自分に突っ込みたいくらいですが・・・
「カシオペアの丘で」というのを今待っているところなのですが、これは私には初のこの作家の長編です。この本が余りに感動的だったので、ワクワクして首を長くしているところなのです。
さて、この青い鳥は8話で構成されているのですが、柱は村内先生という吃音の、だけど生徒に寄り添うことをのみを考えている先生です。
小学校から高校まで、いや現在ではまだ子供としか思えない大学生までかな?各クラスに是非とも一人配置していただきたい先生です。そうできれば・・・!
問題を抱えている生徒の所にまるで降ってわいたように!誂えたように?この先生が現れます。
そしてその生徒とこの先生の織り成す数日のふれあいが奇跡のような感動をもたらすのです。勿論出来すぎです。でもその生徒のために本当にこうあって欲しいなという祈りが通じたような嬉しさを感じつつ読み進みました。
先生の伝えることは「そばにいるよ」ということ!
上手くしゃべれないから本当に「大切なことしか言わない!」こと!
色々な意味で糸が切れ掛かっている子をそれぞれの人生にしっかり結びつけて先生は去っていきます。
本当に危機に現れて乗り越えられる見込みが付くと「間に合った!」と安堵して先生は去っていきます。
私自身はここまでの危機に陥ったことが無く学校を卒業してしまったので、先生にもめぐり合わなかったのだなぁ・・・と、少々がっかりです。
でもそこまで行かなくても、問題を抱えていなくとも、この先生が8話の間でそれぞれの生徒に伝えたことを読むだけでも何か得るところがあるのではないか?いつか何かの時の一助になるのではないか?とありがたく思えてしまった本です。
先生が真っ赤になってつっかえつっかえ言う言葉はスルスルと流れてくる言葉より耳にしっかり引っかかります。伝えようとする人の必死さが伝わらなければ、自分にかまけきって溺れかけている人には聞こえっこありません。
どんないい言葉を言われても、耳に残らなくてはお終いですものね。
耳に痛かったり、刺さったりした言葉は忘れられないものです。それと同じことかもしれませんね。
でも先生が言うことは大切なことだけなんです。大切なことってそんなに多くはないんですね。
これはありきたりの筋書きかもと思いながらも「カッコウの卵」では先生に後光が射しました。ありがたいと涙で先生が去っていくバスを見送りました。
こういう先生を養成する教育課程って出来ないものですかねぇ・・・絶対必要。

ブランケット・キャッツ

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ブランケット・キャッツ ブランケット・キャッツ
重松 清朝日新聞社 2008-02-07
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重松清著

お名前は本屋さんでよく見ていました。でも最近「極上掌篇小説」でこの方の短編読まなかったら、多分まだ取り付いていなかったかもしれません。
出版関係の会社に勤めている甥が「ほのぼの系が好きならお薦め。」と、言っていましたっけ。全編を通じて感じられる柔らかさがこの方の持ち味かしら?
大体私は猫より犬派です。
赤ん坊の時の猫の可愛さは確かに・・・認めるのにやぶさかではありません。以前ダンボールにもう抱きしめたくなるような猫の子が6匹、「どなたか飼ってください!」と描かれて道端に置いてありました。通る人皆思わず「可愛い!」と、抱き上げるのですが・・・。
「猫も必死だから、産まれたときは本当に最高に可愛くなるのよ。」と通りかかったオバサンが言っていました。
私は猫を飼ったことが無いのですから猫の眼差しについて言える立場ではありません、が、犬のことなら・・・犬の目は最高です!と自信を持って言えます。動物というものを家の中で飼うということに常に「?」を持っていなかったら、またこれほど旅好きで家を空けることがしょっちゅうでなかったら、絶対犬を飼っているところです。

最近は外を全く知らない猫が居るらしいですね。友人の息子さんは一人暮らしで猫を飼っていますが、飼ったときから1度も外に出したことが無いそうです。「家の中しか知らないのだから、問題ないのよ。」と、彼女は言いますが、可哀相でならないと思うのは私の先入観のせいでしょうか?
さて、この物語に出てくる猫は本当に凄い!です。どんな親友よりも、どんな戦友よりも、利口で頼りになります。心を解いてくれもしますし、生きる道を教えてもくれます。猫に出来ないことは無い?
猫好きの人なら、我が意を得たりと文句無く肯定するのでしょうか?
1話では切なく、2話では悲しく、3話では淋しく、4話では切なく、5話では頼もしく、6話では素晴らしく、7話ではいじらしく・・・物語は猫の周りで展開します。
それにしても、そもそもレンタル・キャットって本当にあるのですか?寡聞にして私はこの商売を知らないのですが・・・私も助手席に乗せるどっしりとした年老いたブランケット・キャットがいてもいいな。運転しなくなってもう7年経つけれど・・・北海道の真っ直ぐに続く道を気の合う落ち着き払った猫ちゃんとならまたドライブできるかも・・・なんて。年取った猫というと直ぐに昔の化け猫の映画を思い出すんですけどね・・・ホントは。
1話ずつ、1匹ごとに、ふうっと猫が身近に寄ってくる感じ。
ひょっとして私猫好きだったのかも・・・なんて錯覚が錯覚じゃなく思えたりして。
犬だったらもっと会話しちゃって湿っぽくなってしまうのかもしれない。犬は確実に同情してくれちゃうもの。だから私はこの物語の中では旅に出たブラウンクラシック・タビー、アメリカン・ショートヘアーの猫がなんとも好きだな。男気があるじゃないの!
猫も犬も野生の呼び声に目覚める時がやっぱりあるのだろうか?そして1度目覚めて放浪の味を知ったこのタビーは「旅―」となってもうレンタル猫では居られないんだ。そうさ、そうでじゃなくちゃ
猫とはいえないでしょ?なんて思いつつ、一寸猫に詳しくなったかしら?いえ、これは特別中の特上の夢の猫さんたちで、猫好きの人にも憧れの猫さんのはずだよ・・・。ペットが見させてくれる夢の中でも極上の夢を7匹の猫さんに見させていただきました。

むかしのはなし

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むかしのはなし むかしのはなし
三浦 しをん幻冬舎 2005-02-25
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三浦しをん著

「まほろ駅前多田便利軒」「風が強く吹いている」に次いで三作目の三浦しをんさんです。
そして改めて3作が3作とも見事に楽しませてくれたことに感心!しています。凄いや!全く違うテーストなんです。この方の作品順次読んでいっても良いかも!と思っているところです。
この作品はてっきり短編集かと思ったのです。
どれも昔話から想を得た独立した短編だと。
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でも、違いました。親子二世代の時空を超えて輪になって物語が結び合いました。そしてその各物語を橋渡しする軸が一本ありました。
でも1話簡潔だとしてもちゃんと纏まっていてそれぞれに面白いです。
昔話は各章の冒頭にかいつまんで書かれています。その話を知らない人は多分いないでしょう、少なくとも私ぐらいの世代では。
「かぐや姫」には「ラブレス」
「花咲か爺」」には「ロケットの思い出
「天女の羽衣」には「ディスタンス」
「浦島太郎」には「入江は緑」
「鉢かつぎ」には「たどりつくまで」
「猿婿入り」には「花」
「桃太郎」には「懐かしき川べりの町の物語せよ」
という具合にです。
それぞれは物語的には何のつながりもなさそうながら、匂うもの、なんとなく思わせる言葉などはあるようです。「ウン、アイデアだな?」

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1章読んで、2章目読んで、どういう風に響き合わせるのだろう?と私は首を傾げています。「昔話はいわば借景に過ぎないのだろうか?」と。三作目でフット気が付きます。最初の章で主人公は「明日、隕石が地球に・・・」と「俺」の感情を話す場面がありました。で、2章が「ロケット」?で、3章が「ディスタンス」?お伽噺の世代から時空を越えて・・・風?・・・繋がり?なんて薄ぼんやりです。
「入江は緑」でやっと「隕石がぶつかるのか?ここへ来たか?」・・・という風でした。その一章ごとに「この話いやだなぁ・・・でも、この話一寸良いよね」でもよさそうはよさそうなのですが。最後まで読んで「ああそうか!」それで今私はももちゃんがあの短命のホストの子なのか、彼を始末してしまったのに違いない城之崎組の田山の子なのか知りたくてたまらないのです。田山の考え方の捩れ・・・「こいつ生きてるよ不条理の世界で十分」なんて・・・やっぱりももちゃんと響きあってる・・・親かも?だとすると・・・大変だぁ?
入江で今日も緑をみている「ぼく」も、都会で今日もタクシーを転がしている「私」も、地球の運命を軌道を回って待っているだけの人々も、エウロパと木星の基地に降り立てたカメちゃん、サルとドームの中で花の香に包まれている「私」も皆案じられるけれども・・・やっぱりももちゃんだ。
不思議なことにももちゃんのことはあまりわかっているとも思えないのに、一番気になるのはひょっとしたら桃太郎のせいかもしれない。多分一番なじみの深いお伽噺の摺りこみによって?
そしてその昔お伽噺を夢中で聞いていたかもしれない大多数のチケットを預けられたかもしれない卑怯な「僕」たち「私」たちを思ったりして。それが普通なんだろうねぇ。でも今日も入江の緑を見ていたり、タクシーを転がしたりして自分の居場所を知っている人間でいたいなぁ。
星新一さん没後10年だなぁ・・・また読んでみようかな?なんてぼんやり思ったりして。
 

極上掌篇小説

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極上掌篇小説 極上掌篇小説
いしい しんじ 石田 衣良 伊集院 静角川書店 2006-11
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1冊にこんなに沢山の短編が入っている小説を読むのは本当に久しぶりですよ。たまたま図書館で眼に留まったのです。この頃図書館予約可の30冊が次々にやって来る?ので、それに追われてその場で出会った本を読むということが少なくなりました。
この沢山の短編を読もうと思ったのは、中にぴかぁっと光る掌編にめぐり会えるかという期待が大きかったってこともありますが、この沢山の作家の名前に心辺りが余り無かったからでも有ります。
このところ初めての作家に挑戦している私ですからね。
読んだことがあるのはこの中では筒井康隆さんだけという寂しさ?
「これはいい、この感じがいい」と思った人の作品を読むっていうの・・・いい案でしょう?
それに声に出して本を読むとすると、私の集中力が続くのは大体15分くらいですから、この短編なら大体その範囲に収まりそうです。いい話があったら声に出して読んでみましょうという心算もあったんです。
結果・・・惨敗!ってこともないか?30人3〇掌編の中から2つほど救い出しました。おまけして5つ?好きになれそうな作家。しかしやっぱりこれだけ短いとその判断もつきかねますね、本当のところ。
それに読み終わってこれがどういうコンセプトで編まれた小説集なのか見当もつかないんです。もうね、バラバラ?
だからとりあえず好きになれた、または面白く読めた作品だけ挙げておきましょう。
大崎善生「神様捜索隊」
片岡義男「目覚まし時計の電池」
いしいしんじ「ミケーネ」
重松清「それでいい」
筒井康隆「出世の首」
「神様捜索隊」だけはこの際花丸印です。この作家の代表作?とでも言うものを先ず読んで見ましょうかと思っています。
この作品のテイストがあるといいけどなぁ。
こういう柔らかさ、のどかさ、緩さの中のきらっと輝くもの、ふっと笑顔がこぼれそうになるもの。そんなものを、そういう作家を発掘できたらなぁ・・・。
そう思ってこの本を返しに行こうと思ったら、先日新聞の書評で見た重松清さんの本が届いたと図書館からメールが来ました。
重松さんの本は始めてです。この掌篇集で「それでいい」を読んだ作家です。とりあえずこの作品には好感を持てたので受け取って読むのが楽しみです。

吉原手引草

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吉原手引草 吉原手引草
松井 今朝子幻冬舎 2007-03
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松井今朝子著

久しぶりに?「読んだぁ~ぁ!面白かったぁ~ぁ!!」と、充実感がたっぷり、おつりを上げたいくらい満足感に浸っています。
「吉原」が書名に付く本は図書館にざっと300冊あるそうです。
話の種はゴマンとあるでしょうね?成り立ちから終焉まであの小さな土地で生き死にしていった人々の哀歓を思うと・・・。
江戸モノの物語には欠かせない?土地であり人々です。
新聞の書評で見て図書館に予約した時点で200人ほどの待ちがあってようやく届きました。江東区の図書館で19冊も所蔵していると言うのに・・・。現時点でまだ300人の人が予約を掛けています。その人たちに、「待つ甲斐ありますよ!」
目次を広げた時点からもう物語の世界に引き込まれます。

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「いやいやいや・・・これは藪の中か?わぉ、紐解き甲斐が有りそう・・・」と、ワクワクするではありませんか?
私が住んでいたのが今はもうない千束町、花園通りを隔てて向こう側は吉原、日本堤の方へ歩いていくと吉原大門がありました。
当時既に全くこの物語の雰囲気を忍ぶ縁もありませんでしたが、大門内の入り口近くに同級生が住んでいて、時々友人と遊びにいっては両方の親から足を踏み入れるなと叱られましたっけ。昼間のそこは唯人気の全く無いしらけた大通りが延びているだけでしたが。
あの通りがこんなにも異界だったとは・・・その後吉原を描いた本を読むたびに不思議だったものです。
この物語の中の人々は実に逞しくその世界で生きています。一人が語るたびに吉原が色を帯びてきて彩色されていくかのようです。
花魁「葛城」に何かが起こったんだ・・・それはなんだろ?・・・誰が堂関わってくるのだろう・・・この人の話は本当だろうか・・・あァ、何があったんだろう・・・と一人の話を読むたびに次が次がと急がれて・・・読み通してしまいました。
そう、最後の章にいたるまでに花魁「葛城」が少しずつ立ち上がって姿を見せてきます。彼女を取り巻いていた人々の思惑、打算、情すべてを受けて。それと共に語り手の人となりも浮かび上がって、最後には私は聞きまわっているこのいい男の聞き手を拝みたい気分にも。
そしてあの異界を見事に泳ぎ切って、首尾よく本望を遂げた花魁に喝采を送りたくなります(それにしても払った代価は高すぎる!)。
引手茶屋のお延さんに教えられて吉原には少々詳しくなりましたが(実に上手い導入ですねぇ)惣籬の花魁はいわばこの異界の上流社会でもありますね。その一番華やかな世界を垣間見ると同時にそこに居ざるを得ない男女の訳ありの事情の悲しさが浮かび上がって・・・人間社会の高度に濃縮された縮図が広げられた感じでした。
それにしても吉原に住む人々の語り口、江戸の町人の語り口・・・みんないいですねぇ・・・油を塗ったようにぺらぺらと・・・?話下手とか口下手ってのは江戸じゃありえないのかも?そういう私も早口で知られております?本当に濃密なお江戸の一端でした。
でもとりあえずはどう修業したらこんなに聞き上手に成れるんでしょ?そこが一番知りたいかも。それに葛城さんどこにどうしていやるかと?

ねこのばば

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ねこのばば (新潮文庫) ねこのばば (新潮文庫)
畠中 恵新潮社 2006-11
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「しゃばけ」シリーズの三作目です。
私にとっては「しゃばけ」「おまけのこ」に続いて三作目が図書館からやってまいりました。わーい!ってくらい、楽しみになったこのシリーズ。
若旦那とお仲間の妖のお話・短編が5つ楽しめました。

「茶巾たまご」「花かんざし」「ねこのばば」「産土」「たまやたまや」
 
私の好きな順に並べ替えると「産土」「たまやたま」「ねこのばば」後の二つはどっちでもいいのだけれど「茶巾たまご」と「花かんざし」です。
正直なところ取り分けて感想を書き記しておかなくてもいいようなものですが、唯楽しませてもらった・・・でいいような。
相変わらずの若旦那は相変わらず病弱ですけれど、相変わらずのお仲間たちと相変わらずほのかな和みの風に吹かれているようです。
勿論それだけじゃありません。若旦那の一太郎の頭と心が活躍しますし、妖たちは行動します。
「産土」が好きなのはあの佐助・犬神の長い長い妖生?の一端が明らかになって妖は妖なりにこの世を渡っていくのは辛いんだなぁ・・・なんてほろとさせられた上に、おかしいな?と首を捻らされたからです。勿論読めば直ぐ分かりますよね・・・でも一瞬、私夢を見させられているのかな?ありえないことが起こっているぞ?ってほっぺを抓りたくなっちゃいました。このシリーズの足元を固める?大事な1篇です。第二作をまだ読んでいないわけですが、ヒョットすると仁吉の過去が書かれているのじゃないかと・・・気になりだしたところです。急いで予約確認しなくちゃ。
「茶巾たまご」が福神出現?妖の巣みたいなところに神も同居か?っていう楽しさがありながら上位にいかなかったのは、お秋殺しが後味の悪い事件だったから。「豆腐百珍」なら知っていますが「海苔百珍」ね?折角の名案もあんなふうに血塗られるとねぇ・・・?
同様なわけで、「花かんざし」も於りんちゃんのお母さん?おたかの病気が気に染まない!厭な気分だなってわけです。お雛さんここが初出なのね。こういうわけで知り合ったのか・・・と「おまけのこ」に繋がりました。(順番に読め!ですね)
「ねこのばば」が桃色雲の雲隠れ探索話や猫又救出作戦なら面白く安心して読めるのに・・・題一作の「しゃばけ」が血塗られた?話でも面白く読んだのに・・・何故か若旦那を知れば知るほど、若旦那には殺しは似合わないなっていう気持ちになってきて・・・。
「たまやたまや」はその点、この年になって?初恋にもならない淡い思いはいかにも若旦那らしいけれど?この年でこれじゃやっぱり思いやられて仁吉・佐助じゃないけれど若旦那心配で私も凝り固まりそう!でもこの薬種問屋の長崎屋の風には似つかわしい、ほのぼのさ!がやっぱりいいなぁ。

アサッテの人

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アサッテの人 アサッテの人
諏訪 哲史講談社 2007-07-21
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諏訪哲史著

さてなぁ・・・?読み終わったからといって何か書けるか?という、雰囲気を心に残す作品。
例えて言えばこちらの立場に応じて大きさやビブラートが微妙に違って返ってくるこだまのような本とでも?
読み終わってからの数日で牛のように反芻していると、毎日私の評価?が日替わり弁当のように変わる。
読み易かった。文そのものは平易だった。構成も分かり易かった・・・「僕」がどのように構成したら分かりやすいか・・・という構成のありようをちゃんと語っているのを素直に受け入れればのことだが。
これが一度引っかかってしまうと難しくなるのかも知れない・・・チェッ衒いやがって・・・風に?
用語に引っかかってしまうと・・・チェッかっこつけやがって・・・風に?
でも素直に叔父を紐解こうとする、最も身近だった僕の試みとして読めば、そこにアサッテの方向に折れ曲がっていった叔父の軌跡が浮かびあがってきて、一つの小説を読み終えることが出来る。
そうしてそうだったと思った日には、私は面白い試みの小説だったなぁ・・・と、満足して読み終わった本を眺められた。
でも使われた言葉に意識が捕らえられた日には、私はしかめっ面になり、これは小説としてというより「存在した一つの意識」への案内と解析の書として文章を再吟味に掛けねばならないと思い直す。
ヤレヤレこの短めな本はある意味面白すぎたのかもなぁ・・・なんて。
この私の読後感想では引用はあまりしたくないのだけれど、気になって頭から去らないものがどうしても有るのだ。
「律のないところでいくら逸脱しても、それは逸脱ではない。・・・
逸脱の本懐がある。(148P)」から書き起こされる「日常の抑圧を排したところにアサッテもまたありえない・・・」まで。
また、P156の「・・・自分の周囲に絶え間なく生起し続ける日常の凡庸さを、より意識して見つめる習慣をつけることであった。現実を覆う凡庸は、意識されることで鍛えられ・・・その定型の強度に対する生理的反動がアサッテを呼び込み・・・」云々で、否応なく日常の凡庸さにどっぷりハマって居心地良く過ごしている私をどきりともさせる。しかしここでアサッテがより明確になり、アサッテの方角へ引き寄せられる生のありように理解が及ぶ。
だけど、だけど、本音を言えばもうこの人生で爆発的な生の覚醒をもたらされたら・・・事だぞ・・・的意識が鎌首をもたげて・・・慌てて本を遠ざけるのである。参ったなぁ・・・。

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これってどういう働きが有るのでしょう。私は先生によく怒られます。「その駄目押しは何?自信がないから余計な駄目を押さなきゃならなくなる!」って。

赤い指

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赤い指 赤い指
東野 圭吾講談社 2006-07-25
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 東野圭吾著

「容疑者X・・・」でこの作家を初めて読んで、ガリレオさんしか知らなかったので、この本はちょっとした驚きでした。
「ガリレオシリーズ?」が面白かったので彼の作品、他の何かを読んでみようと図書館で検索して一番待ち人が多かったのがこの作品でした。だから結構待ったのです。
昨夜夜中に読み終わってから「選べないもの」の事を考えています。
先日電車に乗っていた時、友人が「家の娘はあんなことしないと思っているけれど・・・」と、不安げに囁いたのです。
私も信号待ちをしていた車のドァが開いて、伸びてきた手が灰皿をひっくり返して道に吸殻の山を作って走り去ったのを見た時「家の息子もまさかあんなことしないと思うけれど・・・」と、思いましたから、彼女の気持ちは良く分かりました。
電車の向かいでは女の子がピラーから化粧全行程進行中で、隣ではドーナツ齧りながら携帯親指猛烈作業中、しかも優先席という状態でしたから。
この物語の直巳という息子がどうしてこう育ってしまったのか、わけの分からない父親とさして変わりなく、大抵の親は子がどう育っているか知らないものなのかもしれません。子は親と別の何かによって?育って行っちゃったに過ぎない?実際学者の息子がアメリカの大学から引っ張りだこで帰ってこないといつも嘆いてみせる友人は「自慢か!」と羨ましさを友人たちに掻き立てますが・・・「実は・・・」がないとも言いきれません?

親の自慢の種になる息子と直巳の間の線はどこにあるのでしょう?親も子を選べないように、子も親を選べません。刑事の加賀が父母を選べなかったように、また松宮が親を選べなかったように?
痴呆になる親とならない親とはどこで線が引けるのでしょう?
親とて自分の死に至る病を選べないように、子も親の死を選べませんものね。先日95歳の母親を抱えている友人が「不思議なものよね、本も読まず、芸術も愛さず、意地悪が悪くて、怠け者で、恥ずかしい親だったのに、ボケる気配全く無いのよ。私たちの反面教師だったのよ。何でだろう?」と、ため息をつきました。でも、全てのそういう人がボケないとは言えませんしね。何ででしょう?どこの何がどう分けるのでしょう?
子の出来を自慢する親と反対に子を恥じる親との間に引ける線ってあるのでしょうか?どこがどう違ったのでしょう?
物語の中の息子を思いやって究極の?選択をして痴呆を装う母親は、似たような父親を浅田次郎さんの「椿山課長・・・」でもお目にかかりましたが・・・こんなことって2作もの小説で読むと「事実は小説より・・・」なんて世間では意外に転がっているのだったりして・・・と、暗澹としたりして。
謎解きの面白さはありませんでしたから、どうやら深沈と親子関係に思考がのめりこんだみたいで、読後感は終末の救いの情景を他所に後味の悪いものでした。
人生って一本の線の向うに落ちるかこちらに落ちるか・・・その理由のわからない不条理なものだと・・・夜中だったので落ち込みました。
朝が明るかったので直ぐ立ち直るのが私の取り柄で・・・助かった!

表紙の指はさほど気にしなかったのに、中表紙の細い赤い指にはギョットさせられました。何処かで誰かがあんな指を伸ばして・・・それはヒョットすると・・・?

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月のころはさらなり

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月のころはさらなり 月のころはさらなり
井口 ひろみ新潮社 2008-01
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井口ひろみ著

こんな大事な本の感想を書けるなんてもうそれはそれは嬉しさでいっぱいです。私の親友のお嬢さんが書かれた本なんですよ。
「新潮エンターテインメント大賞受賞作」です。
友人から受賞の知らせが届いてから私まで舞い上がっていました。
こんな身近で?こんな快挙!ってありえませんもの、普通。
しかも授賞式の翌日にサイン入りの本を直接いただけましたし。
発売日の本屋さんの山積みの写真まで撮って!
帰ってきてから着物を着て(心ばかりの作家デヴュー作への敬意!)背筋を正して読ませていただきました。
題を聞いた時から古典に造形の深い友人のさすがにお嬢さんだなと思いました。
田舎の月の夜道の描写がとてもいいです。
私は東京生まれで真っ暗な夜空の夜(って言い方はおかしいんでしょうね?)なんて縁がありませんでした。結婚して夫の生家で、まさしくこの本にあるように、庭を突っ切ってお風呂屋や、やはり庭の隅にある便所(あれはトイレなんていうものではありません)で、悟の様に庵の始めての夜と同じ体験をしています。
その家ももう建て変わり、あの真っ暗な庭、萱の茂みのざわざわ騒ぐ横手を通り過ぎる恐怖、人気のない風呂屋の孤独な胸のざわめき等ももうすっかり忘れていました。
冬の月のない夜など、便所に行くのがいやでいやでぎりぎりまで我慢しすっかり重症の便秘になって帰ったことなど(笑)・・・今の子供たちには分からないことかもしれないなぁ・・・と、妙に郷愁に囚われていました。
が、夜が夜であったということはとても大事なことだったのかもしれません。夜には闇があり、月の白さがあり、夜と友達になるということ、つきと親しくなること、闇の息使いを聞くこと、などの中には人を人足らしめる情緒を発育させる何ものかがあるということを感じていました。
民話的なテイストを持ったミステリアスなファンタジーで物語の世界が完全に構築されているので、この世界の住人が不思議なのに違和感がなく素直にいいのです。この主人公3人のかもし出す空気感が柔らかさに満ちていること・・・。そしてその後ろに隠れている母の辛い世界への心遣いに伺われる主人公の心の成熟・・・。この庵での数日間がこの後に帰らなければならない世界への励ましになると信じられる明るさ・強さ・・・。
都会の子供たちがこの情緒を汲んでこの本を楽しんでくれるといいな・・・と思いながら読んでいました。都会の子供たちにこそと。
 

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