むかしのはなし むかしのはなし
三浦 しをん幻冬舎 2005-02-25
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三浦しをん著

「まほろ駅前多田便利軒」「風が強く吹いている」に次いで三作目の三浦しをんさんです。
そして改めて3作が3作とも見事に楽しませてくれたことに感心!しています。凄いや!全く違うテーストなんです。この方の作品順次読んでいっても良いかも!と思っているところです。
この作品はてっきり短編集かと思ったのです。
どれも昔話から想を得た独立した短編だと。
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でも、違いました。親子二世代の時空を超えて輪になって物語が結び合いました。そしてその各物語を橋渡しする軸が一本ありました。
でも1話簡潔だとしてもちゃんと纏まっていてそれぞれに面白いです。
昔話は各章の冒頭にかいつまんで書かれています。その話を知らない人は多分いないでしょう、少なくとも私ぐらいの世代では。
「かぐや姫」には「ラブレス」
「花咲か爺」」には「ロケットの思い出
「天女の羽衣」には「ディスタンス」
「浦島太郎」には「入江は緑」
「鉢かつぎ」には「たどりつくまで」
「猿婿入り」には「花」
「桃太郎」には「懐かしき川べりの町の物語せよ」
という具合にです。
それぞれは物語的には何のつながりもなさそうながら、匂うもの、なんとなく思わせる言葉などはあるようです。「ウン、アイデアだな?」

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1章読んで、2章目読んで、どういう風に響き合わせるのだろう?と私は首を傾げています。「昔話はいわば借景に過ぎないのだろうか?」と。三作目でフット気が付きます。最初の章で主人公は「明日、隕石が地球に・・・」と「俺」の感情を話す場面がありました。で、2章が「ロケット」?で、3章が「ディスタンス」?お伽噺の世代から時空を越えて・・・風?・・・繋がり?なんて薄ぼんやりです。
「入江は緑」でやっと「隕石がぶつかるのか?ここへ来たか?」・・・という風でした。その一章ごとに「この話いやだなぁ・・・でも、この話一寸良いよね」でもよさそうはよさそうなのですが。最後まで読んで「ああそうか!」それで今私はももちゃんがあの短命のホストの子なのか、彼を始末してしまったのに違いない城之崎組の田山の子なのか知りたくてたまらないのです。田山の考え方の捩れ・・・「こいつ生きてるよ不条理の世界で十分」なんて・・・やっぱりももちゃんと響きあってる・・・親かも?だとすると・・・大変だぁ?
入江で今日も緑をみている「ぼく」も、都会で今日もタクシーを転がしている「私」も、地球の運命を軌道を回って待っているだけの人々も、エウロパと木星の基地に降り立てたカメちゃん、サルとドームの中で花の香に包まれている「私」も皆案じられるけれども・・・やっぱりももちゃんだ。
不思議なことにももちゃんのことはあまりわかっているとも思えないのに、一番気になるのはひょっとしたら桃太郎のせいかもしれない。多分一番なじみの深いお伽噺の摺りこみによって?
そしてその昔お伽噺を夢中で聞いていたかもしれない大多数のチケットを預けられたかもしれない卑怯な「僕」たち「私」たちを思ったりして。それが普通なんだろうねぇ。でも今日も入江の緑を見ていたり、タクシーを転がしたりして自分の居場所を知っている人間でいたいなぁ。
星新一さん没後10年だなぁ・・・また読んでみようかな?なんてぼんやり思ったりして。