赤い指 赤い指
東野 圭吾講談社 2006-07-25
売り上げランキング : 4337
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 東野圭吾著

「容疑者X・・・」でこの作家を初めて読んで、ガリレオさんしか知らなかったので、この本はちょっとした驚きでした。
「ガリレオシリーズ?」が面白かったので彼の作品、他の何かを読んでみようと図書館で検索して一番待ち人が多かったのがこの作品でした。だから結構待ったのです。
昨夜夜中に読み終わってから「選べないもの」の事を考えています。
先日電車に乗っていた時、友人が「家の娘はあんなことしないと思っているけれど・・・」と、不安げに囁いたのです。
私も信号待ちをしていた車のドァが開いて、伸びてきた手が灰皿をひっくり返して道に吸殻の山を作って走り去ったのを見た時「家の息子もまさかあんなことしないと思うけれど・・・」と、思いましたから、彼女の気持ちは良く分かりました。
電車の向かいでは女の子がピラーから化粧全行程進行中で、隣ではドーナツ齧りながら携帯親指猛烈作業中、しかも優先席という状態でしたから。
この物語の直巳という息子がどうしてこう育ってしまったのか、わけの分からない父親とさして変わりなく、大抵の親は子がどう育っているか知らないものなのかもしれません。子は親と別の何かによって?育って行っちゃったに過ぎない?実際学者の息子がアメリカの大学から引っ張りだこで帰ってこないといつも嘆いてみせる友人は「自慢か!」と羨ましさを友人たちに掻き立てますが・・・「実は・・・」がないとも言いきれません?

親の自慢の種になる息子と直巳の間の線はどこにあるのでしょう?親も子を選べないように、子も親を選べません。刑事の加賀が父母を選べなかったように、また松宮が親を選べなかったように?
痴呆になる親とならない親とはどこで線が引けるのでしょう?
親とて自分の死に至る病を選べないように、子も親の死を選べませんものね。先日95歳の母親を抱えている友人が「不思議なものよね、本も読まず、芸術も愛さず、意地悪が悪くて、怠け者で、恥ずかしい親だったのに、ボケる気配全く無いのよ。私たちの反面教師だったのよ。何でだろう?」と、ため息をつきました。でも、全てのそういう人がボケないとは言えませんしね。何ででしょう?どこの何がどう分けるのでしょう?
子の出来を自慢する親と反対に子を恥じる親との間に引ける線ってあるのでしょうか?どこがどう違ったのでしょう?
物語の中の息子を思いやって究極の?選択をして痴呆を装う母親は、似たような父親を浅田次郎さんの「椿山課長・・・」でもお目にかかりましたが・・・こんなことって2作もの小説で読むと「事実は小説より・・・」なんて世間では意外に転がっているのだったりして・・・と、暗澹としたりして。
謎解きの面白さはありませんでしたから、どうやら深沈と親子関係に思考がのめりこんだみたいで、読後感は終末の救いの情景を他所に後味の悪いものでした。
人生って一本の線の向うに落ちるかこちらに落ちるか・・・その理由のわからない不条理なものだと・・・夜中だったので落ち込みました。
朝が明るかったので直ぐ立ち直るのが私の取り柄で・・・助かった!

表紙の指はさほど気にしなかったのに、中表紙の細い赤い指にはギョットさせられました。何処かで誰かがあんな指を伸ばして・・・それはヒョットすると・・・?

red.jpg