月のころはさらなり 月のころはさらなり
井口 ひろみ新潮社 2008-01
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井口ひろみ著

こんな大事な本の感想を書けるなんてもうそれはそれは嬉しさでいっぱいです。私の親友のお嬢さんが書かれた本なんですよ。
「新潮エンターテインメント大賞受賞作」です。
友人から受賞の知らせが届いてから私まで舞い上がっていました。
こんな身近で?こんな快挙!ってありえませんもの、普通。
しかも授賞式の翌日にサイン入りの本を直接いただけましたし。
発売日の本屋さんの山積みの写真まで撮って!
帰ってきてから着物を着て(心ばかりの作家デヴュー作への敬意!)背筋を正して読ませていただきました。
題を聞いた時から古典に造形の深い友人のさすがにお嬢さんだなと思いました。
田舎の月の夜道の描写がとてもいいです。
私は東京生まれで真っ暗な夜空の夜(って言い方はおかしいんでしょうね?)なんて縁がありませんでした。結婚して夫の生家で、まさしくこの本にあるように、庭を突っ切ってお風呂屋や、やはり庭の隅にある便所(あれはトイレなんていうものではありません)で、悟の様に庵の始めての夜と同じ体験をしています。
その家ももう建て変わり、あの真っ暗な庭、萱の茂みのざわざわ騒ぐ横手を通り過ぎる恐怖、人気のない風呂屋の孤独な胸のざわめき等ももうすっかり忘れていました。
冬の月のない夜など、便所に行くのがいやでいやでぎりぎりまで我慢しすっかり重症の便秘になって帰ったことなど(笑)・・・今の子供たちには分からないことかもしれないなぁ・・・と、妙に郷愁に囚われていました。
が、夜が夜であったということはとても大事なことだったのかもしれません。夜には闇があり、月の白さがあり、夜と友達になるということ、つきと親しくなること、闇の息使いを聞くこと、などの中には人を人足らしめる情緒を発育させる何ものかがあるということを感じていました。
民話的なテイストを持ったミステリアスなファンタジーで物語の世界が完全に構築されているので、この世界の住人が不思議なのに違和感がなく素直にいいのです。この主人公3人のかもし出す空気感が柔らかさに満ちていること・・・。そしてその後ろに隠れている母の辛い世界への心遣いに伺われる主人公の心の成熟・・・。この庵での数日間がこの後に帰らなければならない世界への励ましになると信じられる明るさ・強さ・・・。
都会の子供たちがこの情緒を汲んでこの本を楽しんでくれるといいな・・・と思いながら読んでいました。都会の子供たちにこそと。