漱石と倫敦ミイラ殺人事件

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漱石と倫敦ミイラ殺人事件 (光文社文庫) 漱石と倫敦ミイラ殺人事件 (光文社文庫)光文社 2009-03-12
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漱石と倫敦(ロンドン)ミイラ殺人事件 (集英社文庫) 漱石と倫敦(ロンドン)ミイラ殺人事件 (集英社文庫)集英社 1987-10
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島田荘司著

世に言うホームズもののパスティーシュ。
私はその手の作品は読まないことにしていたから、この作品の知識も当然無かった。図書館でこの作品を見つけたときも読むべきか迷ったのだが、以前倫敦へ行った時、ホームズの足跡を辿ると漱石さんとかなり被さるのに気がついた。ベーカー街に並んで走る道を歩いていた時、漱石の通ったクレイグ先生の家も見つけたし、もう少し先へ行くとワトソンの開業したクイーン・アン街も大英博物館も意外に近い。漱石の最初の下宿もこの辺り。
しかも漱石が下宿を代えて行く先はホームズの事件の舞台とも重なっている。時も重なる。何より漱石の「倫敦塔」は好きだったしなぁ・・・。
おかしなことにその頃、風太郎さんの明治物を読んでいたので、風太郎さんならこの事を知ったら絶対漱石とホームズを作品の何処かで接近遭遇させるだろうな・・・と思ったのだ。
違う作家だったが、この作品を見つけたとき、「あ、やっぱり!このことに気が付く人って結構いるんだろうな?」と思った。って言うよりホームズが好きな人は大抵知っている?
なら、例外としてこの作品を読んでみようと思って借りてきた。
この作品のホームズを許せるか許せないか人によるだろうけれど、ホームズが奇人になるとき、まともに近く?なるとき、マイクロフトの扱い方・・・さて、これは問題だぞ!私は余り好きじゃないな・・・ぼやきながら読み進んだ。ワトソンの性格はかなり把握の仕方が私とあっているぞ!っていう気もするが。その優しさ、穏やかな知性、ホームズに対する忠誠。ま、遺憾なく描かれているのだけど。何せこのホームズじゃ・・・女装は止めてもらいたい、このふざけ方・・・ため息も出ようというもの。
それでも、事件そのものというよりその前哨となる漱石の悩まされた幽霊の事件の解決がとにかくいい!そう繋がるのか!この部分というかこの連結?が見事だから・・・お遊びだし・・・と、思うことにした。
この微妙な違和感がやっぱりパスティーシュはなぁ・・・もう一つ楽しみきれないよ。ホームズに対する愛着も人により様々だからこのジャンルは多分どんな言い作品を書いたとしても評価が高くなることは無いのじゃないかと思う。たとえどんな新しいトリックや見事な解決を編み出したとしても。
やっぱりこれだったらホームズを読み返すわ!っていう気分?
ところがとんでもないおまけがついていた!
巻尾の解説に「島田荘司は山田風太郎のホームズと漱石を描いた作品を知らなかっただろう・・・云々」というようなことが書かれていたのだ。
やっぱり!風太郎さん二人を出会わせていたんだ!
そんなわけで「これ」は「これ」より読まなくちゃいけないでしょう!と、早速図書館へ出向いた。それは山田風太郎作「黄色い下宿人」で、次回に!

空飛ぶタイヤ

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空飛ぶタイヤ 空飛ぶタイヤ実業之日本社 2006-09-15
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池井戸潤著

「貸して」と頼みもしないのに、友人が「絶対面白いから読んでみて」と押し付けました。
例によって自分で自分の首を絞める図書館借り本に追われている私は、この本の知識が全く無かったので正直「迷惑な!」と思って放ってありました。
でも彼女に会う日が近づいてきたので、止むを得ず・・・手に。
そしたら寝られなくなりました。久しぶりに夜明かし、徹夜で読み続けてしまった本です。
どうして途中で本を置くことが出来るでしょう?
赤松社長のぎりぎりの崖っぷちを思えば?ホープ自動車の人々のありようを読み進めば?財閥系会社の性格、財閥要の銀行がらみの融資、資金の引き上げ・・・その余りの汚さを目の前にして?加害会社とされた社長の家族、被害者の家族の苦衷を読みながら?
早く読み終われば、それだけ彼らが早く救われるような気がして・・・
冒頭直ぐ「あ、あの三菱のトレーラタイヤの脱輪事件!」と気がつきましたし。
私の人生でたった一度の対企業への苦情電話はまさにその三菱自動車に対してのものでしたから。あの時は見事に一閃!石の壁の前ではじき返されちゃいましたけど。苦情処理係のおじさんむちゃくちゃ手ごわかった・・・記憶です!アレだけのことにでも見事に潜り抜けられてしまった私には、かの会社の手強さが下世話的に?理解できましたもの。
コンプライアンスって号令のように一時物凄くよく聞きましたけれど、実際生活の中で余り必要が無くて深く意識していませんでした。この意識の無さが一番の問題でしたね。
最近TVや新聞などで「この型の商品のリコールのお知らせ」を良く見るようになって、会社が責任を認めるところまで持っていくためには、私たちの知らないところでどれだけの人のどれだけの苦闘が有ったことか?と考えるようになりました。
使い方が悪い、整備が不良という言葉に隠れた多くの真実の多分ほんの一部が現れてくれただけなんでしょうね?
使う方が立証しなければ、取ってもらえないような責任って、ねぇ?
赤松自動車があれだけきちんと整備記録をつけていなかったら・・・どれだけ疑いが濃くても、そもそもの始めのところでどうにもならなかったんでしょうから。しかしあの自動車会社本当に腐っていたのね?怖ろしい!
大きくなりすぎると滞って濁って腐るのね。
それでもあの裁判きちんと見届けていなかったことに今更気がつきました。この意識の無さも大問題!
それで・・・殺人・・・?有罪じゃなかったのね?ウソッ!

ジーン・ワルツ

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ジーン・ワルツ ジーン・ワルツ新潮社 2008-03
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  海堂尊著

こうなったら一蓮托生とでも言いますか?読まないわけには行きません。あの、あの人の、あの人が・・・みたいに芋ずる式です。
この主人公?・・・「あ、医学の卵の薫君のお母さん?だって、ゲーム理論の第一人者の伸一郎が夫なら・・・?」
清川先生?「『ひかりの剣』のあの清川君?へぇ~アレから20年後に飛んだんだ?偉くなっちゃって!
で、最終的にはこれは薫ちゃん誕生秘話だったのね?って処に落ち着くわけですが・・・これだもの海堂さんの本どうしたって続けて読まざるを得ません。嵌められた!って感じも無きにしも非ず?
でも、やっぱり面白いんです。そして、今までの作品の中では一番「あ、小説になっている!」という感じがしました。
読んでいて手ごたえがあったのです。
勿論今までも医学の、病院の、大学医学部の、様々な問題点を考えさせられてきましたけれど、今回の作品は私が女性であるためにより一層理解しやすいフィールドであったためも有りますが、実際危惧していろいろ考えていたことでも有ります。大抵友人と集まると、孫の話、娘が息子が結婚しない話(驚くほど多いのですが・・・)が親の介護の話に次いで話題に上がる率が多いのです。ごく当たり前の事を理恵先生はごく当たり前に言っているような気がするのに、そのどれもがなんだか言い難い世の中になっているような気がします。
若いうちに子供を産んだ方が・・・なんて簡単な科白も、働く女性に女性が言うわけに行かないでしょう・・・?だって、女性の足を女性が引っぱってどうするの?みたいな雰囲気感じますもの。医学がそれだけ進んでリスク回避もそれだけ可能になっている(と、思われる社会になって?)のに。とにかく10年後、税金納められる人ってどのくらいになっているのかな?社会基盤や道路や箱を維持するお金はあるのかな?だけど全ての事を棚に上げて、必死で考えるべき問題だよね。日本の人口問題。だけどもう埋めない私が言えることは「産んでもらった子は社会全体でなんとしても育てましょうよ!」
 

さざなみの家

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さざなみの家 (ハルキ文庫) さざなみの家 (ハルキ文庫)角川春樹事務所 2002-09
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連城三紀彦著

友人が「ねぇ、面白い本読んだの。で、色々考えちゃって、あなたの感想を聞いて見たいのよ。読んでみてくれない?」と言う。
この作家の名前は知っているが1冊も読んだことはない。でも、そういわれると読みたい病がむくむく立ち上がった気配。読むのは好きだし、それについて語れるのは大歓迎。彼女も図書館で見つけたというし、で早速図書館へ。
とても面白く読み終えたけれど・・・何処か胡散臭い。
丁度嫁姑物をTVドラマで見るみたいに、何処かにごまかしを隠して甘めの衣で包んで、人ってねぇ・・・って、なだめられているような・・・この薄物を剥ぎ取れたら何が出てくるんだろう?何も出てこないよ。だって「ほんとう」を見ないようにしているんだもの・・・みたいな?
ただ物語りは実に上手いのです。面白い設定から入って家族の肖像画が描かれて、それぞれにそれぞれのそれぞれなりの言い分がちゃんとリアルっぽく描かれて・・・なんと大らかな家なんだろう!
なんてそれぞれのキャラクターがその凸凹がパズルのようにうまくはめこめるんだろう。彼女の出っ張りと彼のへっこみがなんてうまくはまるんだ?
ほどのいい意地悪と、ほどのいい裏切りと、ほどのいい思いやりと、ほどのいい誠実さと・・・何より程の良い家族思い。
私って身びいきなの。よそから見て何がわかるの、この大家族の良さとその裏に隠れた苦労と許しと思いやりが?みたいに、そう大向こうから正面切って大目玉でギョロリと睨まれた感じ。
「毎日少しづつ疲れていくと、その疲れに慣れて、疲れを疲れと認識しなくなるものよ。そう大家族もやってみるといい味でるわよ。家族の丁々発止は無いと薬味のない蕎麦みたいなもんよ。やったんさい!」そういわれても・・・毎日慣れて行く重みを見つめちゃうと・・・その果てしない努力は(いや、果てはあるんですけれど)いや、私は考えただけで疲れそう。だってこれ「ほどのいい」っていうキーワード付きだけど、実生活では「ほど」は取っ払われているんだもの・・・
さて、彼女はどんな感想を期待しているのかな?
 

忍びの国

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忍びの国 忍びの国
和田 竜新潮社 2008-05
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和田竜著

「のぼうの城」の作者の二作目の小説です。前作が本当に面白く読めましたから、直ぐ予約して待っていました。期待に違わぬ力の入った作品でした。
が、「のぼうの城」とは全く違う性質の舞台、主人公でした。文章の力強さ、骨格のしっかりしているところ・・・やっぱり畳み込まれてしっかり読まされてしまいました。
ただ、主人公はやはり「無門」という百地三太夫の下人なのでしょうが、伊賀忍者集団とも受け取れなくもないのですが、そして集団と見た場合、私も信長ではなくともこの「人でない者」たちは実に無気味でしたね。
最終的にはこの無門という男に共感が持てなかったことが決定的でした。
お国との経緯にはほほえましい部分や人らしい部分があるのに、それが却って彼の個人の気味悪さを増長させるようなところがありました。
勿論育ってきた環境などの説明はありましたし、想像力のすべてを動員して分かろうとしてみたいのに、分かったとしてもなおかつ共感は覚えられそうにありません。その育ちを知れば知るほどこの集団の気味悪さはどうでしょう!
確かに、それほど異質な‘人’を、またそういう人間たちのおぞましい集団を、実に見事に描いているとは思いました。銭と彼らの関係を実に見事に描ききっていると感心してしまいましたが・・・その主体となる部分は読んでいて楽しくはなかったなぁ。
丸山城築城落城の経緯などを別とすれば、本当の意味で楽しめた部分は日置大膳と長野左京亮と信雄のやりとりとその関係の部分と柘植三郎左衛門と下山平兵衛のような集団を外れた者たちの部分だったように思います。
昔、子供の頃に読んだような忍者物の楽しみは皆無のようでした。スピード感もあり、戦闘場面の描写は見事なだけに、厭なものも抱え込んでいるようで・・・。忍者者にはどうしても「猿飛佐助」「霧隠才蔵」とかワクワクする意表を突く冒険の楽しさを何処かで求めてしまうんですかね?
忍術?の凄さもちゃんと描かれていたのに・・・ちょっと郷愁・・・昔の忍者に。アレは楽しかったなぁ・・・真田十勇士とか?
最終場面の大膳の言葉がこだまするんですよ。
「虎狼の族の血はいずれ天下を覆い尽くすこととなるだろう。・・・・・・その血は忍び入ってくるに違いない。・・・自らの欲望のみに生き、他人の感情など歯牙にも掛けぬ人でなしの血は・・・浸透する。」
これが書きたかったんでしょうね。そしてこれがこの作品におぞましさを付加したものの真の正体かも?周りを見回して御覧なさい・・・ね?今の社会は・・・乗っ取られちゃったんだ・・・あの血筋の者たちに!
 

のぼうの城 のぼうの城
和田 竜小学館 2007-11-28
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さよなら、愛しい人

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さよなら、愛しい人 さよなら、愛しい人
村上春樹早川書房 2009-04-15
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レイモンド・チャンドラー著  村上春樹訳

先日NHKハイビジョンでチャンドラーをしていましたね。それにこの間村上春樹訳で「ロング・グッドバイ」を読んだところでしたし・・・面白かったし。その後また新しい訳があればチャンドラー読むのもいいかな・・・と、思っていましたし。で、調べたてみたら、村上さんの訳でこの本が出ていたことが分かったので読み直しました。
こういう時ってやっぱりちゃんと考えているんですかね?NHK。古い映画の「さらば愛しき女よ」も放映していましたし。ロバート・ミッチャムがマーロウに適しているかは?ですが・・・いや、良かったかも!シャーロット・ランプリングはいい感じでしたね・・・と、思って見ました。実際のところ今は誰がやっても、この人がマーロウ?ヘッって感じになるのでしょうが。しかし厄介な人だなぁ・・・と嘆息です。幾つか道があったら絶対細い方、険しい方、曲がりくねった方、人が来ない方を選ぶ男です。でも救われることには、ちゃんと同じ道に迷い込む男なり、まぁ女なりがちゃんとそれでも居ることです。ムース・マロイとヴェルマの恋はある意味「美女と野獣」美女の方は大分腐っていたことが分かりましたけれど・・・あの時代あの世界で生き抜いていくとしたら・・・と思えばまぁねぇ・・・って感じでしょうか?この物語りの魅力の一つはマロイの8年越しの愛なんですが・・・野獣の愛は切ないです。ベルがベルでいてくれる可能性って低いですもの・・・って女性の私が言っていいものか?ベルになってあげたいものですよ、本当は!野獣もこの場合王子様になることはないし・・・人間の執着は悲しい。といって執着できなくては人間といえない。マーロウだったらそういいますよね?
そういうわけで?外国のこういう乾いていそうな風土での捩れたウェットの世界・・・楽しまなくちゃ!そして私も一風変わったロマンスに浸るのです。
それにしても、映画以上に映画を感じさせる本です。気が付いてみたらミッチャムさんを蹴飛ばしてちゃんと私のマーロウがデーン!と出来ている気がするんです。存在感が抜群なんですね。
 

三月の招待状

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三月の招待状 三月の招待状
角田光代集英社 2008-09-04
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 角田光代著

「角田光代さんってどんな小説を書くの?面白い?」と、先日知り合いに聞かれました。
「どんなってねぇ~私もまだ2冊くらいしか読んでいないから言えた立場じゃないけれど・・・そうねぇ、人の心の襞を丁寧に穿り出して、熨斗を掛けてみましたけど・・・どうでしょう?って聞かれている感じ?」
「面白いか?って聞かれると・・・う~ん、面白くはないかもって思う。」
でもね、何処かひきつける何かは確実にあるのです。好きじゃないけれど、覗いてみたくなる人の心?特に女性の心なら?私にはもう遠くなりかけているあの年頃の・・・苦闘という言葉が少し思われるあの頃の・・・そのときと同じ年頃を今生きている女の人たちの心の襞、しっかりとお平らに?繰り広げて延べてくれている感じ。実際心の窓から覗いている感じ?これが癖の元かな。でも、なんかいやらしい。だから好きじゃない。そんなところかな?
それで・・・だから・・・どうなの?傷?あったら嘗める?それとも同じに傷があるんだ・・・そうか同類か?なんだ、君もそうなのか・・・だから君が嫌いなんだ・・・乃至は君が好きなんだ?                                                 三月の同級生の離婚式から始まって、翌年の5月の結婚式までの一年余り、そろそろ学生時代の腐れ縁も伸びきって薄れかけても良さそうな?お仲間の有様、現況。
大学の時の友人仲間・・・十数年も立っていても、会えばあの頃に戻れる・・・そう得難い最後の仲間・・・それでも実際は足を引っぱれるし、相手の弱みは知り尽くしているし、そして時には助け合えもする、そして懐かしい殻の中の居心地はやっぱり悪くない。お互いがお互いにとって羨ましい存在であり、疎ましい存在であって、傷つけあう存在でもあるのに・・・でも許しあえる最後の仲間。それを丁寧に拾い上げて・・・ほら、やっぱりアイロンでしっかり伸ばして影を明るみに広げちゃって・・・で、だから何を考えろって言うの?ああそうですか?そうですよ!そういう時確かにあったかもなぁ・・・目を細める私であります。

最後の恋 つまり、自分史上最高の恋

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最後の恋―つまり、自分史上最高の恋。 (新潮文庫) 最後の恋―つまり、自分史上最高の恋。 (新潮文庫)
阿川 佐和子新潮社 2008-11-27
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8人の作家によるテーマ確定の短編集。
どこで何がトチ狂ったんだか・・・我ながら、らしくない変な作品借りちゃったよーと、思いながら帰ってきたのだけれど・・・三浦しをんさんと乃南アサさんの名が表紙にドンとあったから。三浦さんはファンだと言っていいと思うし、乃南さんは1冊しか読んでいないけど好印象。角田さんはまだ?付くけれど実力は分かっている。あとは読んだことの無い作家ばかり。
だから作家の経歴を読みながら・・・一作ずつ読んでいったのだけど・・・意外なことに?みんな良かった。好き嫌いはあるけれどもちゃんと力が入った作品をあつめてあるということは分かった感じ。
「最後の恋」だなんて乙女チック?気恥ずかしい?題だけれど、やはり女にとっても男にとっても大事なのは・・・大事な人とその思い出?
こういう作品もありだよね!うん!と、皆肯定しました。それに谷村さん作以外は、どれもちゃんと明日がありました。
「春太の毎日」はこう来ましたね?というとおりに来ましたけれど、茶化してないのがいい。「最後の恋」というテーマに本職さんが照れて・・・なんてことはやっぱり無いのでしょうが・・・そんな感じに一人で受けていました。でも本当の愛情は自分が独り占めするものでなく、徹底的に相手の幸せを考えるところにあるんだなぁ・・・と、素直な私は頷いていました。
「ヒトリシズカ」は徹底的に泣かせる。そのために書いてるんじゃないか?と思いましたね。こういう涙と官能の世界どっぷりもたまにはいいけど・・・こういうときを潜って女は再生するのかなぁ・・・必要な潜伏期間なんだよ・・・と、付け加えてオーケーか?
「海辺食堂の姉妹」はお伽噺。類型的な人物像でありえないとは思えど、このほんわりした素直な感じは悪くない。幸せに暮らしましたとさ!ヨカッタァ・・・
「スケジュール」は文句無く好きだね。こういう人居る、って言うか私そうなりたい・・・ちゃんとその人物が彷彿とするし・・・それなのに・・・ニコニコ笑えちゃうのは・・・この静かなユーモアにある。
「LAST LOVE」は彼女とお友だちも、どちらも近くに居そうなお姉さん。そう、こういう人居るのよね。余計な鎧外して自分だけになったとき見えてくるものとか、身に添ってくるものとかが、見つかったりすることってあるし。なんて、先輩面しちゃったりして。良かったわね。
「わたしは鏡」 メインのインサートされた小説がチョット稚拙な感じ。それが初々しい感じを増幅させて、少女雑誌系?なんか教室で回っていたロマンチックストーリーの小説集を思い出した。でもこれって可愛い!
「キープ」はこういう女居たら、私嫌いだ。大体知り合いにもならないね、お互い様だって?大人を気取っちゃって・・・呪われてって思うけれど・・・こういう人にも素直になる時がそのタイミングがあるんだな・・・なんて、振り返ってみたら入り込んでいたな。「本当に最高の恋がやってきたんならいいね」とまぁ言ってあげたいし。
「おかえりなさい」は上手い小説だなぁ・・・構成も内容も人の心の機微を上手に浚って丁寧にほぐして・・・ミステリアスでもあり・・・男の人の根本的弱点を上手く利用しているなっていう作品。この短編集をぐっとしめた感じがする。恋とか愛とかっていっても日常に根ざしたものにはかなわない。リンド夫人が言ったではないですか。男の操縦法1、美味しい物をたっぷり食べさせる!
 

世話焼き長屋―人情時代小説傑作選―

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世話焼き長屋―人情時代小説傑作選 (新潮文庫) 世話焼き長屋―人情時代小説傑作選 (新潮文庫)
池波 正太郎新潮社 2008-01-29
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縄田一男選 新潮社

最近?多いのですねぇ・・・前からこんなの多かったのでしょうか?この頃サークルの方々の間でこういうアンゾロジーを見つけて読むのが流行っています。最初に気が付いたのは「川口松太郎の「紅梅振袖」が良かった」と言った人がいたからです。「えー、川口松太郎読んだのですか?それって舞台の脚本?劇?スゴーイ(なにがスゴイんだか?)」
「いや、何とかって言う短編集めた本に載ってたの」
そうか、朗読するのに長編はきつい。皆さんいい短編探すのに苦労しているんだ?そうかアンソロジーって手があったかっ!です。
「「小田原鰹」って言うのも良かった。」「誰の?」「忘れちゃった」で、
「あーそれ、私も読んだ乙川優三郎さんの短編集で」と口を挟み、「その人知らない、何とか長屋って本に他の作家と載っていたの」で、「何とか長屋って、他にどんなの載ってるの?周五郎さんのとか?」
「貸してあげる」となって、お借りしました。で、「小田原鰹」以外は初めての作品でした。
が、この掲載作家は皆一度は何か他の作品を読んだことのある作者ばかりでした。そしてどれもその作家を髣髴とさせられる作品でしたが、意外に?どの作品もいいのです。特に宇江佐さんは先だって1冊長編読んで今一だなぁ・・・なんて思ったのですが、この「浮かれ節」はそれよりずーっといい読後感で、主人公の心の動きありようと娘の寄り添う心ねがなんとも気持ちよい作品になっています。
早速父に都々逸の事を聞くと父の長兄くらいから上の年頃の人なら「たいてい都々逸は歌えたものだ、宴会ではよく都々逸を回したようだ・・・えーとーぉー ‘都々逸は野暮でも遣り繰りは上手 今日も七ツ屋で褒められたぁー’ なんてのから覚えたんじゃァなかったか・・・?」
って、伯父も生きてりゃ百歳。「戦後そういえばパッタリ聞かなくなったなぁ・・・」
北原さんの「証」も「切ない」気持ちのぎりぎりを描いて切なさいっぱいで読みきりましたが・・・この方の今まで読んだ作品の中では一番素直に「やりきれない世界」に溺れ切れたように思います。
池波さんの「お千代」も乙川さんの「小田原鰹」も時代小説を堪能させてくれる上手さが光るようで唸ってしまいますが、村上さんの「骨折り和助」は素直にいい作品でした。読んでいて、いいなぁこの人々・・・と嬉しくなります。人も世も捨てたモンじゃない!でしょうか。なるほどなぁ・・・いい作品選び抜いているなぁ・・・と他に二作ある長屋短編集も読んでみようと図書館に予約したところです。

さまよう刃

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さまよう刃 (角川文庫) さまよう刃 (角川文庫)
東野 圭吾角川グループパブリッシング 2008-05-24
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東野圭吾著

本屋に行っても、図書館資料検索しても、この作家の作品の目だった多さ、(正月用?に)積み上げ方の半端じゃなさ、本当に売れて、読まれて・・・凄いなぁ・・・感歎するばかりです。本当のところ私の気分はガリレオの新作待ち(まだ700人ばかり)なんですけれど・・・
薬丸さんの数冊だって、苦しいのに・・・なんでガリレオ書ける作家のこの手の作品を読まなくっちゃならないのだ?と自問自答しながら・・・
それでも惹かれてしまう何かをこの作家は確かに持っています。
こんなテーマの作品を書いても(「赤い指」「ダイイング・アイ」だけですけれどね、私の読んだのは)エンターテインメント性って言うのは持ち味なんでしょうね。スピード感、ドキドキ感、もあれば主人公への共感の呼び込みも完璧。一気読みさせる迫力十分でした。
多分子供を持った親なら・・・子が被害者になっても、加害者になっても作品の中の親たちのような行動を取るだろう自分が見えるようでした。
実際の経験が無いから建前を言う自分と本音を言う自分を両方見ながらこの本を読んでいるわけですが、だからといってそのあいまいな部分が和佳子さんと被れば読みやすかったのでしょうけれど、そうじゃなかったので?彼女の部分がいらだちになりました。
長峰の心の底にこびりついている建前の部分を彼女は象徴していたのでしょうか・・・とも思いますが。
丁度ちょっと前に読んだ薬丸岳著「虚無」を思い出しました。
犯罪被害者が犯罪者を裁いていたら・・・と言う建前での少年犯罪、精神疾病障害者犯罪の裁きは現在余りにも実情にそぐわないというか被害者心理を逆なでするだけのもののような気がしています。
再犯者、更生不能者、多発する犯罪を阻止できない世の仕組み。それにもかかわらず、絶対何処かに何か対策があると思いたい、何か対策を講じてと祈る私たち親。
警察は何とかできないのか?出来ないのよ。でも警察官も人間で何とかしたいと心の中では思っている(人も居る)のよ。でもそういう組織じゃないのよ。世の識者って対策を立てる人ではなくて、対策を批評する人のことなのよ。弁護士って、少年犯を被害者から隠す人なのよ。ああああ、それじゃやはり犯罪被害者の関係者が何とかするしかなんとも出来ないのじゃないの・・・やっぱり?という渦の中に溺れている私です。
「虚無」で佐和子さんになると思った私は、ここでは長峰になるしかないと思いましたね。密告電話のからくりが分かった時、警察にも心の分かる人も居るんだなと素直に思った私は警察への期待を頭のどこかに摺りこまれているお馬鹿なのかもなぁ・・・。
マンションに昨日越してきた夫婦がマスコミから密かに逃げている犯罪者の親かも知れず、またその反対かも知れず・・・と、なにも隣の住人を知らずに安閑と生活している身には、警察はまだ信仰の対象なんですよ。本を読んで厭な世の中だと、救いの無い世の中だと、真剣に思い不安に苛まれている私も、その直ぐ何分か後には其の事実をすっかり忘れてニコニコ外出する私も、ある意味イカレテイル?現代人なんです。・・・って、じゃないと生きていけないって・・・
 

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