霧笛荘夜話

題名INDEX : マ行 287 Comments »
霧笛荘夜話 霧笛荘夜話
浅田 次郎角川書店 2004-11
売り上げランキング : 62656
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

mutekisou1.jpg

  浅田次郎著

7話からなるひとつながりの物語。浅田さんはこういう物語を構想するのが本当に上手!こうなると、手馴れている分まるで職人さんだね。作品も量産していてしかもそれが皆高水準(って、読んだだけでも)!
時々絵を見に行くとその画家の生涯の事を考えることがある。本当に短い生涯だったり長寿だったり。その違いを例えば奥村土牛さんの絵などを見ていると「職人になれば長寿」、ゴッホなどを見ると「芸術家になると短命」なんて。浅田さんはなぜか土牛さんを思い起こさせる。大作も小品も上手過ぎる!ツボを知っている!確実に引き込んで描かれた世界を堪能させてくれる!これもそう。
霧笛荘には管理人の部屋を入れて7つの部屋がある。もう随分古い建物だが、ある頃のそこの住人の話が1話ずつ管理人の纏足のおばあさんの語りで語られていく。物語の始めが上手くてついまるで私がその部屋を借りに来た「まだ性根の座らないさ迷い人」のような気がした。ここにたどり着くときは私の鞄には「何が入っているのだろう?」かと。
纏足なんてもう長いこと聞くことの無かった言葉だ。パール・バック「大地」で始めて知ったんじゃなかったっけ?それだけで謎めいていて異国風で、港町の霧と雨の情景の中、ポットンとこの世界へ墜落する。
それはともかく?行き場がなくなってぎりぎりに追い詰められなければたどり着けないこの古アパートの住人は「よくもこんな人生を思いついたね?」と作家に言いたいくらいな背景を背負わされているのに、老婆は「皆幸せだった」と言うんだよね。どうして?と夢中で読んでしまう。どうしたらそういえるの?どうなるの?と。3人の女と3人の男プラス語り手の物語を。
そして最後に納得させられてしまったような気がするんだよね。
でも本当は納得していないの。だってこんなの悲しすぎるじゃないの・・・って思いながら読んだから。それは「作家が無理やり作った納得だろ?そう思わせるために仕組んだ作品だろ?」って、心の底では思っているの・・・それは「余りに上手すぎるから?納得しちゃったじゃないの」って思っている冷めた私が完全には消えないから。そこが限界かもって。
それなのに上手いって思うのは、物語を堪能したと思えるのは、テーマにそう信じたいと思わせる「実」があるから。だって誰だって「お金でかえないものがあると信じていたい!」んだもの。ヒョットすると誰かさんみたいに「金で買えない物はない」って普段思っているのかもしれないけれど。
だからそれを素直に簡単に「金で変えない物はある」と貫けちゃう人を差し出されるとクチャっと頭を垂れたくなっちゃう。それで「心からそう思っている私」でありたいんだねって気付かされる。
その上人は皆「自分の行き方で生きた!」って思いたいのだから。

鼓笛隊の襲来

題名INDEX : カ行 470 Comments »
鼓笛隊の襲来 鼓笛隊の襲来
三崎亜記光文社 2008-03-20
売り上げランキング : 6554
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る by G-Tools

kotekitai1.jpg

 三崎亜記著

いやいやいや・・・これはこれはこれは・・・なんとステキなホラーじゃないの?
聞いてないよ・・・って、誰からもこの本を読んだ話もまだ聞いてない!いやいやいや・・・この作家本当に好きかも!
しかもこの短編集好きな順に並べられる!だって殆ど好きだもの。
一話ずつ読み終わるたびに背筋がゾクリとしてふっと我を見つめてしまう。不思議な捩れやパラレル・スパイラルなんて言葉が浮かぶ世界で表現されている事象が現実の私の既視感を刺激し、私の未来予想に繋がっていくような。不安を掻き立てられるけれどこの静かな世界は安らぎもあるし刺激も程好い!
1話「鼓笛隊の襲来」には思わず「いい!」すごいシチュエーションなのにちゃんと現実と繋がっていて・・・可愛さと楽しさを併せ持つ異な意識。それに素直に「そうだよ、老人の理知常識が役立つ世界であって欲しいよ」なんて思って。現実には今若い人にどんどん教わり続けなければ生き難いんだもの。

9話「同じ空を見上げて」こんな不条理何故かひどく現実に起こりそうな気がして・・・それでも未来には希望もあるし、心は再生することも出来る。悲しいけれどありがたい。

6話『「欠陥」住宅』窓の外を見ると窓窓窓。
前も隣も後ろにも50階建てのビルの数え切れない沢山の窓が我が家を見下ろしているの。あの窓の一つにひょっとしたら昔の私の大事だった人たちが、二度と合うことも無く捩れた空間を介して向かい合っているのかもしれない・・・そしてその窓から外を見ている人はどんな景色を見ているの?リアルにゾクリ!こんだけ窓があるんだ現実に居るかもしれない・・・

2話「彼女の痕跡展」そうなの、何か心に引っかかることがあった後は頭の中で私が私とその出来事を話し合っているの・・・微妙に削除付け足し変更歪曲・・・出来上がった物は微妙に私には真実。そのとき削除した物は何処かで・・・ね、ほら背筋が・・・過去って唯過去ってだけで不安なのに、記憶って唯記憶だってだけで争いの種になるのに?人が記憶と思っているものを付き合わせたときどんな大きさのブラックホールが出来るんだろう?
と言った具合で・・・

7話「遠距離・恋愛」少女の部分をどう読めば?と思いつつもふと慣れた幸せ慣れた不幸は慣れているだけほっとする部分も。8話「校庭」誰のせいでもないこの存在・・・私も見たような・・・いや私がそうだった様な・・・全部記憶に残る物語!

8話・・・あった、あった、こういう存在・・・誰のせいでもなくて・・・3話、4話、5話・・・皆好きだな・・5話が最後に書かれたのだって唯私が男じゃないってだけで、管理社会の恐怖と共に誘惑のゾクリとする魅力とそれに抵抗する切なさ・・・は・・・この作品十年後に読み返してもきっと心が不思議な感じにスイングするのだろうな。

ぬしさまへ

題名INDEX : ナ行 216 Comments »
ぬしさまへ ぬしさまへ
畠中 恵新潮社 2003-05
売り上げランキング : 149362
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

nusisama.jpg

nusisama2.jpg  nusisama5.jpg  

畠中恵著

はい!はい!やって来ました!シリーズ第二作がようやく読めました。平仮名で「ぬしさまへ」とある題名、果たしてこの「ぬしさま」はあの「主様」のことであろうか?・・・一寸三味線を入れて鼻声で「ぬしさまに・・・」とか「ぬしさんは・・・ありんすか?」なんて唸りながら待っていました。
恋文の宛名だったのですね?第1話でした。
でもこの本で一番嬉しかったのは「ねこのばば」を読み終わってから心配でならなかった仁吉の過去がやっぱり書かれていたことです。
案の定でしたね。長い長い片思いが丁寧に騒々しくなく語られて、この一編は仁吉ファンの私には嬉しい贈り物になりました。
この本の1話で語られた「あ、煙管の雨が降るようだぁ!」みたいな恋文の雨が降り続きそれを一顧だにしない仁吉の奥の奥に潜む初心さに嬉しくなりました。全く恋人にはこうあってもらいたいものですよ・・・って、それは罪だろ!可愛そうに、ねぇ?
何百年毎かに「恋と喪失」を繰り返す輪廻?そっちもきつそうだけどなぁ・・・と、ロマンスより安穏を選びかねない?私はちょっと思わないでもない・・・けど。人間の本質も妖の本質も変わらないんだね?
そんなわけでこの6話、好きな順に並べると・・・
「仁吉の思い人」
「空のビードロ」・・・え~困った。「松之助関係は柱の一つみたいでいろいろ知りたいのだけれど、この事件は先ず動物殺しからおぞましく、登場人物もおぞましい。いやな部分が多くて困るよ。
作品全体の読後感は悪くなかったのです。長崎屋はいつもの長崎屋ですし、一太郎は期待通りに頭の鋭い立派に体の弱い若旦那だし、妖たちはいつもの面々、何の不足も無く風景は同じです。
ただね、私的には兄松之助が登場するたびに長崎屋の大旦那が分からなくなるのです。「ホントはどんな奴だ?」って。
ですけれど主要な面々が既にもっと先の作品を読んで好きは好きになっているから?余り悲しい殺人事件はなしにして欲しいなって思ってしまうのでしょうね。悲しいだけならいい、おぞましいのはね。ついで「栄吉の菓子」かな?
「栄吉の菓子」は良く出来ていました・・・と、思います。
老人の孤独も、彼と栄吉の間に流れる細い糸のような交情も。でもこの老人の考えた賭けは他の作品でもよくある自殺して犯人をでっち上げ恨みを晴らすって筋書き風ですが、欲しかない人々しか身辺に集まらなかった(められなかった?)老人の孤独は悲しく思えてこの事件はやっぱり厭だな。
「ぬしさまへ」の殺人事件も犯人の少女も哀れすぎて・・・イヤだな。
「四布の布団」も「虹を見しこと」もそう。彼らの醸す雰囲気にはそぐわない・・・と、勝手に決め付けてしまいました。それなら自分で書けよと言われそう?そう、どうやら期待するものが私の中で勝手なイメージに膨らんで先走っていますね。
解決の上手さはあるし、妖との連携、会話、ユーモア(含ブラック)、情も好もしくちゃんと揃ってはいるのです。お江戸も今も事件は事件、猟奇的事件は同じく猟奇的、厭な世相は厭な世相と共通ですから仕方ない!か。
真綿の中で一本立ちの努力をする6話目の一太郎君がホント可愛い!
 

ぬしさまへ (新潮文庫) ぬしさまへ (新潮文庫)
畠中 恵新潮社 2005-11-26
売り上げランキング : 3611
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る by G-Tools

辰巳八景

題名INDEX : タ行 243 Comments »
辰巳八景 辰巳八景
山本 一力新潮社 2005-04-21
売り上げランキング : 323454
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 

tatumi8kei1.jpg

山本一力著

八景、八話、江戸情緒満点の深川を舞台のお話です。
深川近くの堀端に住んでいるから「読みたいでしょう!」とわざわざ知人が持ってきてくださった本です。作家さんも私と同じ区の堀端にすんでいらっしゃるらしいですね。
なるほど、私の地元の2・3百年以上前の情景満載!・・・って?うちはその頃海の中だわ。
風情・情緒は確かに江戸の気分満載で舞台も人々も時代をしっかり感じさせてくれます。でも、何かもう一つ物語りに乗れなかったのです。どの1話をとっても。気分良く情緒にポトンと浸れないんですね。言葉も情景描写も実にたくみにしっかり選ばれている感じ、時代考証もきっと確かなんだろうなぁ・・・という感じは濃厚に漂っているのに?
考えるに、むしろ時代考証をし過ぎて、それに囚われて話が年号でぶつ切りになるからかしら?何代目が何年に・・・とか言う記述で?でもその記述がなければ何十年、いや百年にもわたる一家の歩みは語れないだろうし・・・1話づつが本当は長編に仕立てるべき物を端折ってしまったからではないか?短編にするために?急ぐ余り何代目がどうして何代目がどう繋いで・・・という走り方をしたのが飲み込みにくい部分になってしまった?だから余りそういう部分に力を入れていない物語の方がまだおもしろく読めたのかもしれない。
一つの物語に書き込まれる商店の代々の変遷がこの物語一つ一つの眼目なのではあろうけれども、作家は江戸に何代も代を重ねた商家を縦線にそれに絡む江戸の庶民の哀歓をこそ描きたかったのだろう。
その縦線がある意味で物語の連綿性?を損なっているような気がして・・・だってその辺りが読みづらかったのだもの・・・と私はぼやいている。一つ一つのその屋の家業は面白かったのだけれども、共感しやすい庶民・町やの人々の物語を切ることになってしまったよう。
例えば一番読みやすくて好感を抱いた「石場の暮雪」はそういう商家の長話が無かったし、「やぐら下の夕照」もその点があっさりしていたせいか読みやすいと思い共感を感じられた。
さくらさんに好意を持った「木場の落雁」はさくらの成長話と商家の生き抜く智恵の両立が割合上手くいっているとは思うものの、やはり水に油が流れ込んでいる軽い違和感が読みにくさを読後に残した。ここまで描くならじっくりと長編乃至は中篇にまで育てても良いのではなかろうかと。
つまりこちらは短編として、読みやすい江戸情緒を単に求めていたのに対して作家には読者に江戸時代という時をきっちり意識させる時代物を書くぞという矜持がはっきりあったということかもしれない。私みたいに読みやすい作品、乗りやすい作品、溺れやすい作品を期待する読者は全くこの作家には迷惑な読者かもしれないなぁ?特にこの作品では。
周五郎さんや正太郎さん、周平さんとはまた違う丁寧さ・こだわり方がこの作家の持ち味なのかもしれない?この辺りが好き好きというところだろうか。
 

ねにもつタイプ

題名INDEX : ナ行 163 Comments »
ねにもつタイプ ねにもつタイプ
岸本 佐知子筑摩書房 2007-01
売り上げランキング : 40829
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

nenimotu.jpg

nenimotu1.jpg

岸本佐知子著

翻訳者さんだそうである。デ、この方の本を読む気になったのは何故か?勿論新聞の書評欄か下段の新刊広告のせいだろう?
もう忘れたというのは・・・この本も図書館に予約後1・2ヶ月は経っているからで、最近この手の記憶力がどんどん薄れていくようだ。予約して安心したが最後、何を予約したかなんて・・・キレイサッパリ?
でも笑っていられるのは、1にも2にもこの本のおかげ?
最初に「ニグ」を読み始めたとき・・・?「アラ、本の選択をまた間違えたらしい!」と、思ったのだった。
でも、そこで閉じてしまわないのが私の真骨頂でもあって、良いのか悪いのか?「うふっ」と笑い、「ニヤッ」と口の端を捻り、「郵便局にて」で、お友達の本だと認識したわけです。
その後はもう毎晩布団の中で数編ずつ(それ以上はいけません)読み進む事を自分への1日のご褒美にするということになりました。
読み終わって早速検索。図書館にはもう1冊しか(翻訳を除けば)著作は無いようです。ここのところ知人と父から「読め!」と届けられた本がうずたかく積もっているのもナンノカワ?この連休里帰りから帰ったらその1冊を予約するぞ!と、意気込んでいるところです。
それにしてもこんな妄想する人がいて、それを著述してしまう人がいるんだぁ!だってここはナイショの部分ですもん。
「郵便局にて」で、そう思ったのだから、「奥の小部屋」はあたしの頭の中そのまんまだし・・・「心の準備」も私の日常・・・「疑惑の髪型」ではとうとう声を放って笑い崩れてしまった。ナンデ・・・?
頭の中の行動様式は覗かれたか?と思うのだけれど(人は皆その人で、ユニークな存在なんだってば!)・・・表現の、ネーミングの、言葉の、突き詰め方の、なんとも途方も無い表出はやっぱり表現できる人の凄さだ!
だからあたしは「これ」をどう思っていたのかを改めて知るためにというか、私を追いかけるためにというか・・・まぁいいや、私を笑うために?彼女のこの後の、日記も、エブリディも、思い出も、最近も、すべて読ませてください!
それにしても、イラストがまたいい!つぼにぴたぁっとはまっていますね。

まんまこと

題名INDEX : マ行 431 Comments »
まんまこと まんまこと
畠中 恵文藝春秋 2007-04-05
売り上げランキング : 80853
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る by G-Tools

manmakoto1.jpg

畠中恵著

お待ちかね、畠中さんの江戸時代ファンタジーです・・・じゃないの?、残念なことにお約束じゃないのね?妖怪変化なーし!不思議なーし!ファンタジーにあらず!てっきりシリーズ外でもあやかし物だと思い込んでいました。
ファンタジーではなくよろず揉め事承り候?
なんて書くと周平さんの「平四郎活人剣」を思い出しそうですが、ま、それ系の走り書きかな?
明るく書かれていますが・・・それはそれなりに・・・彼らは彼らなりに・・・優しいんだもの・・・生きていくのは色々あらあな・・・でも智恵があればさ・・・あわせる力があればさ・・・人の世はそれなりに渡っていけるのだわね・・・なんて、事件は色々あっても何とかなって・・・
楽しく読ませていただけますね。北原亜以子さんの複雑読み込み心理ものとは北と南の違い。
主人公の醸すムードは畠中さんの世界のレギュラー陣?
やっぱりこれは言われちゃうのでしょうね「畠中ワールド!」
それはとてもステキなことですよ。なんにせよカラーは見つけるまでが大変なのですから。デ、見つけられれば・・・鬼に金棒!
安藤さんのコンクリート壁も、クリムトの金ぴか装飾も、ユトリロの白いモンマルトルも・・・でしょう?
だから「こころげそう」というのは妖が出るのか出ないのか?分かりませんが予約しました。150人待ちのようです。「ちんぷんかん」はやっと25人待ちになりましたし・・・楽しみにはしているのですよ。とにかく時代物を中心にと。でもちょっと「まんまこと」は薄味だったようなきがしないでもないんですね。トリオが楽しいけど一寸躁が勝ちすぎかな。もう少し熟成させて欲しいような?そういえば「はなしあいをもつ」とか「説明の場を持つ」とか・・・翻訳文を感じさせられたのですが・・・今じゃ当たり前ですか?「設ける」とかより現代的なんでしょうか。一つ一つ事件を解決して主人公は成長し、結婚へと、大人へと、階段を上る。成長譚は実に気持ちよくさわやかに読めるジャンルだわい!と、思いながらそれでもなんとなくものたりない気分で、やっぱり「一太郎さんを待とう」という気分の読後感なんですねぇ~。
 

オトナの片思い

題名INDEX : ア行 175 Comments »
オトナの片思い オトナの片思い
石田 衣良角川春樹事務所 2007-08
売り上げランキング : 141160
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

otona1.jpg

「ふむ・・・オトナとカタカナなのが気に掛かるけれど・・・」と、思いながら、随分長いこと実るも実らないも恋なんか袖も摺りあわない私ですから「片思いアンソロジー」?でもいいや、「ロング・グッドバイ」の後に軽い失恋話しでもつまんで見ますか・・・ってな気分でしょうか?
思ったとおり!軽い気分の短編集。
そして思ったとおり「オトナ」はやっぱり大人ではありませんでしたね。一寸がっかり。11作11人の著者はプロフィールに生年月日の入っていない数人も含めて多分一番年長が1955年生まれの佐藤正午さんでしょうか。殆どが70年代生まれという若さです。
それじゃァいかに想像力+創造力の権化?たちでも、まだ大人の片思いは無理でしょう・・・と、納得。
で、期待は外れましたが何作か記憶に残りそうな作品が!・・・って、失礼ですね。でも実際期待は軽い読み物だったのですからそれでもいいはずでしょ?作家先生たちにも?
最近読んだせいですか・・・三崎亜記さん「Enak!」と角田光代さん「若葉の恋」が印象に残りました。一寸いい感じかも!
山田あかねさんの「やさしい背中」と井上荒野さんの「他人の島」も心に残るかもしれません。
それにしても・・・「どこが大人だ?」いや「オトナ」か?とボヤキが出ます。主人公たちはまだほんのひよっ子じゃありませんか。
そんな年で、そんなことしていて、おとなになったつもりになるなよ!と思っています。
生きていれば普通にあるほんの心のさざめき程度の片?思い!ばっかですよ。これ痛いですか?修行が足らんよ、もっともっと痛いことは直ぐ後を追いかけてくるからね。デモネ、それとオンナジくらいオイシイこともあるからね。と、オバサンらしくつぶやいて閉じました。どっちにしてもおしゃれな気分を楽しめる間はまだまだコドモだね。装丁はちょっとじゃなく、おしゃれなおとなでした。

ロング・グッドバイ

題名INDEX : ラ行 444 Comments »
ロング・グッドバイ ロング・グッドバイ
レイモンド・チャンドラー 村上 春樹早川書房 2007-03-08
売り上げランキング : 5074
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る by G-Tools

レイモンド・チャンドラー著
             村上春樹訳

海外の作家の作品を翻訳者の名前で検索しようなんて思ったことも無かった。
確かに、誰が翻訳したもので読んだかということは翻訳書の場合ズーッと後々まで後を引くことはある。
私にとって外せないのは、堀口大学訳の「ルパン」物。但し堀口さんはルブランの全作品を翻訳していないらしく、他の訳者で読まなければならないものがあるのが、最初のルパンを堀口さんで読んだ私とすれば残念。同じく「赤毛のアン」も村岡花子さんとは切っても切れない。しかしそれは皆、たまたま最初に読んだ時の翻訳者がその人だったために過ぎない。そしてそれなりに個性があった!から。
この作品は多分学生時代に「マルタの鷹」などのダシール・ハメットの作品群と一緒に読んだっきりの作品だ。あの頃面白く読みはしても何度も何度も読み直したい作品にはならなかった。何しろ読みたい本が目白押しだった。最もそれは今も変わっていないけれど。
しかも村上春樹さんの膨大な作品群の中の1冊さえも私は読んでいないというのに・・・?何で今この人の翻訳だからといって読もうという気になったのか?ミーちゃんハーちゃんだからにすぎないのでしょう!よ。
図書館で翻訳者の名前で検索できるんだ!今「新訳」を謳う本が多く見られるから役に立つかも?でもなぁ・・・?いずれにしても私には久しぶりの翻訳小説だ。
翻訳者の違いによるのかもしれないが、昔読んだ時はこんなに寄り道というか薀蓄というか蛇足というか・・・主筋に関係ない話がこんなに膨らんであったのか気が付かなかったよ・・・という気が先ずした。司馬遼太郎さんの本も晩年になればなるほど筋から離れた薀蓄が多くなって、それは時には面白く読めたが、時には「邪魔だなぁ・・・」というため息にもなったっけ。
ふっとそれとオンナジジャン!と思ってしまった。そして訳者の長い後書きの中で訳者がその部分を痛く気に入っていて、やはりその部分がチャンドラーのチャンドラーらしさを際立てているらしいと思ったのだが。若かった頃には私はその部分をすっ飛ばして筋を読んでいたのだろうか。膨らんでしまった、または膨らませざるを得ない作者の傾向嗜好を楽しめる読者ではなかったのだ。
それでもフィリップ・マーロウの名をサム・スペードと共に忘れることは無かったのだから、主人公の魅力には十分惹かれたのだろう。
実際読み直してみて、多分この数十年間の時も彼の魅力は全然減じることは無かったのだなぁと改めて思っている。男の究極の姿勢として頷ける気がする。彼の姿勢を貫く様は一つ一つの彼の科白が際立たせる。その姿は女性が愛しさを感じずにはいられない不器用さを備えていて・・・可愛い!
こういう男と永遠に付き合える女性はいないかもしれないが、彼に惹かれない(または反発と同義?)女性もまたいないだろうと思われる。
図書館に帰そうとして玄関に置いておいたら、目ざとく見つけた息子が「いいな、いいな、読む時間があって。読みたいのにコッチは時間が無いんだよ。」と、ぼやいた。そういえば学生時代の彼の本棚では村上さんがひしめいていたっけ。だからこの本だけ読む気になった私はなんとなく・・・なんで?・・・申し訳ないような気持ちになってしまったじゃない。

楽園

題名INDEX : ラ行 244 Comments »
楽園 上 (1) 楽園 上 (1)
宮部 みゆき文藝春秋 2007-08
売り上げランキング : 8721
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

楽園 下 楽園 下
宮部 みゆき文藝春秋 2007-08
売り上げランキング : 4677
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

rakuen.jpg  rakuen1.jpg

宮部みゆき著

友人から「お薦め」とメールを貰って直ぐに図書館に申し込んで待つこと半年余り・・・いやそろそろ1年近くかな?「東京タワー」も千人待ちだったけれど・・・「ハリポタ」500人待ちもあったけれど、これも400人近く待った。今現在最高に待っているのは「流星の絆」東野圭吾著700人です。
で、待った甲斐あったか?って、「まぁ、ありました!」
それで何故「まぁ」が付いたか?ってことですよね。
これが謎解きものだとしたら・・・(でしょう?)謎は半分残ってしまったからです。上下二冊は長かったのですが、長いと感じずに読みきりました。その意味では宮部さんは本当に凄い!読ませてしまう天才です。作品の巾、守備範囲の巾最高です。私は時代物優先で読んでいますが・・・超能力物も好きです。日常から遊離すればするほど好きっていう部分もあるかも?しかしこの作品の場合読ませる力と物語の集中力は比例しませんでした。どうなるのかどう進むのかどう結末がやってくるのか・・・人参求めて・・・ひたすら読み進みました、面白かったし、主人公前畑滋子さんは心ある婦人で、思索力にも行動力にも優れていましたし、周りに魅力的な人材が多数輩出・・・って?そう夫を始め登場する人物像はなかなか見事に書き込まれ、私など一人一人にこのキャラ惜しい!これだけで終るのか?ってなものでした。
萩谷敏子さん・・・どんどん膨らんでいきませんでしたか?
最後には本当に素晴らしい母として人として、魅力的でしたね。
高橋弁護士、野本希恵刑事、秋津警部夫妻?クリーニング屋の兄ちゃんから米やの姉ちゃんまで等等・・・魅力満載って感じでした。
だから読まされちゃった・・・「作者はやっぱり宮部さんだ!」でしょう。
何より作品構成力?あのところどころ挟まる「断章」には翻弄されました。目次見てください、5章あるんですが、これはどういう目的で挟まれたのだろうか?この余りに哀れな愚かな少女はどういう役割を担っているのかと。引っぱられましたねぇ。
それに主人公の誠実さが伝わって、彼女への好意でも気持ちよくお話に引っり込まれましたし。
でも、読み終わってやっぱり、あれれ・・・確かにそろそろお話は終息に向かう頃だけど・・・えぇぇ?これで終らないでしょう?
等君が三和と接点があって、あの絵が描けて、で、シャンパンのボトルの首はどうなるのかな?読み落としたのかなぁ?でも暫くは読み返せないでしょう、図書館へ返さなくちゃならないから。困っちゃうなぁ。
この作品の骨は「どうすればよろしいというのでしょう。幸せになるためには。・・・・・誰かを切り捨てなければ、排除しなければ、得ることのできない幸福がある。」あのページ・・・ここで読者を頷かせてしまう・・・そこへ読者を見事に引っぱりおおせたうまさに唸りました。
作者も作中の自分が生みおとした子供に引きずられるのでしょうね。
というわけで?ボトルが気に掛かるし、次の作品でも?等君の絵が鍵なら「滋子&敏子」さんにお目にかかれるかもしれませんね。そうなれば楽しい待ち時間ですが。
 

八日目の蝉

題名INDEX : ヤ行 388 Comments »
八日目の蝉 八日目の蝉
角田 光代中央公論新社 2007-03
売り上げランキング : 9034
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

youkamenosemi11.jpg

角田光代著

この作家の本を読むのも初めてです。
読み終えて最後の「著者紹介」で、色々な賞を取った方だと知りました。「遅いよ!」と突っ込まれそうですが、何でこの本を最初に読むことになったのかというと、新聞の書評で図書館に予約を入れたら何百人待ちもだったのでとりあえず!でした。先ず1作読んでからその作家を読み続けるか決めようと思っていますから、他の作品を検索してみなかったのです。この作家のファンだったら先ず何をお奨めしてくれるのでしょうね?
正直なところこの作品は女である私、母親でもある私には重い作品でした。静かに始まって静かに終っていくその合間の切羽詰ったドラマはこの作家の持ち味なのでしょうか?非常に押えた筆致で、うっかりすると読み落としてしまいそうです。何事も無かったみたい!って。こういう事件って何年かに一度、全く同じではないけれど目にするようです。
そういう意味では普遍的な命題でもあるかもと思ったとき何故かドキドキしました。
0章から1章へ、1章の終わりに0章’みたいなのが付いて2章へ。そこで語り手が加害者(というべきか?)から被害者に替わります。
そこでまた思うんですよ。人は何らかのモノに対して加害者でもあるし被害者でもある。そういう二人がまたなんというか、別な意味で別な思いで人生を重ね合わせているんですよ。そこが切ない。ある種トラウマ?を負った過去は人格を作りそこなうものなのか。生きる時には傷つけ、傷つけられるなんて、当たり前の事を正面切って言わなければならないとしたら・・・なんと生きるのって難しいことでしょう。
でも、どんな形であれ寄り合い寄せ合う情や具体的な援助という救いもあるのです。そういう社会の中で自分を自分として認めるには何が必要十分条件か?と考えさせられました。
その意味ではエンゼルさんのスタディは面白いというか手段の一つとなりえるかも・・・と思ってしまいました。が、この手の集団が消え去らず何度も何度も社会面に顔を出す理由もちゃんとあるので、やっぱり人間は悲しいという気分になってしまいました。いやだなぁ。でも物語の二人は(千草さんも含めて3人?家族も含めて6人?)7年以上かかったけれど、脱皮できて?道が見つかってよかったねぇ。
それでも、からっぽ、がらんどう、蝉の抜け殻・・・のイメージはいやだなぁ。
最後のメッセージを書き抜いておきましょう。忘れないように。
「7日で死ぬよりも、8日目に生き残った蝉のほうがかなしいって、あんたは言ったよね。私もずっとそう思ってたけど、それは違うかもね。八日目の蝉は、ほかの蝉には見られなかったものを見られるんだから。見たくないって思うかもしれないけど、でも、ぎゅっと目を閉じてなくちゃいけないほどひどいものばかりでもないと、私は思うよ」
この行を思いついたときにこの本が生まれたみたいね。
 

Design by j david macor.com.Original WP Theme & Icons by N.Design Studio
Entries RSS Comments RSS ログイン