真相

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横山秀夫著

当然と言えば当然!必然と言えば必然?
今年第一作は横山さんになりました。
正月休みは「指輪物語」!と、読み始めたのですが、そこそこ落ち着いて本を読む時間が無くて、第1巻を読み終わったところで休みは時間切れです。
休み明けメールの第一号は図書館から到着、横山さんの「真相」だったと言うのが真相?
昨年からの流れで行けば順当だ!と納得して・・・
五つの短編が収録されていました。どれも事件の裏の真相が主題です。それも一ひねりと言うか、裏の裏を行くというか真相が浮かび上がってくる構図です。
そしてそれがどれもはっきりいって頷けない、了解できないものなのです。厭だわ、ひどいわ、こんなの受け入れたくないわって言う気持ちになります。
勿論横山さんの作品の私が好きな部分はちゃんとあります。
でも、辛いだろうなぁ・・・と真相を見た人に寄り添ってあげたい気分です。それこそ余計なお世話でぶっ飛ばされそうですが、そうさせてもらいたいという止むに止まれぬ気分に駆り立てられます。
そうっとしておいて上げるわけにいかない・・・それでは済まない・・・という状況をよくもまぁ思いつくなぁ・・・横山さんは・・・!
だから私は「真相」では篠田が離すまいと思った美津江の手にそっと自分の手を添えて暖かくしてあげたいと思い、「不眠」では山室の耳から「ザザザザザッー」のボリュームをなんとか一つ絞ってあげたいと念じ、「他人の家」では映子さんの手を貝原の方に押しやり彼らの家を作れる方法を考え込むのです・・・(えー私も犯罪に手を染めるの?どうすればいいのでしょう?この状況は難題です。)
でも、「他人の家」はまだかろうじて?作中の彼らに寄り添える・・・そんな気がもてますが、「18番ホール」はどうにもなりません。
「破」ですか?何でこんな作品入れたんだろうって作家に泣きを入れたいくらいです。
「花輪の海」も辛いですが彼らには何か未来を予感させる若さもありますが・・・だからこそ、この作品群に「18番ホール」は入れて欲しくなかったなぁと読み終わってため息をついています。
そしてやっぱり「年の初めは指輪物語を完全読了してから横山さんに取り掛かるべきだった!」と、反省?しています。反省って?これが運命!
今幸せな気分でいる人にも、暖かいひと時が欲しい人にも横山さんのこの作品はやっぱりお薦めできないなぁ・・・暖かくはなれないけれどもそれでもいい、人の世にすがりつけるものが、よすがでもいい、かけらでも欲しいと切羽詰っているなら?・・・それでもどうかなぁ・・・。
友人に山崎豊子さん大ファンがいます。
「凄いわよ。調べつくして、構築して、濃厚極まりない世界よ!」
彼女が薦めれば薦めるほど、尻込みする私ですが・・・でもね、横山さんを読んでいると何でも読めるんじゃないかな?という気がしてきます。
「豊子でも清張でも持って来い!」(スイマセン)って。
それくらい横山さんの描くものはある意味(負ケテイナイゾ)濃厚濃密、きつーい!短編でさえこうよ!

パズル・パレス

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ダン・ブラウン著

ラングドン・シリーズ第三作目執筆中と書いてあるのを何かで読んで、それから彼の作品に「パズル・パレス」というのがあるのを見つけて、図書館で予約して待つこと暫し!ようやく到着しました。
「デセプション・ポイント」より待ち時間がずーっと長かったのですから、待っている間これが「ラングドン・シリーズ三作目なのかな?」と、楽しみにしていましたが、なんとこれが彼の処女作ですと!
全く作家の事を知ろうとしないで作品だけを漁っているとこういう頓珍漢!10年も前に発売された本だそうです。
ところがです、こと私に関してはこれはちっとも古くはなっていませんでした。
聞くところによるとかなり勉強していても「情報関連情報?」に関しては日々情報遅れになっていかざるを得ない!若い子には追いつかない!というのが昨今の実情という変化の激しさだそうですが。
早い話私はこのアメリカの情報戦略と暗号関連についてのお話部分ではただただ「へぇえぇ・・・?????!!!!!」の世界でした。
デセプション・ポイント」の方が読める部分がまだ多いくらいでした。しかもこの作品の方がかなり新しいというのにね。
アメリカのNSA内部とスペインの二部構成になっているとはいえ、殆どを占めるこの情報統制機関(でしょう、ほとんど?)の有り様には全く私は蚊帳の外?なんて生易しいものではありませんでした。
作中の彼らがPCに向かってやっている事の大半は私には「?」なんですから。言っちゃいますけど、「ガントレッド」って、私にとっちゃ「クリント・イーストウッド」と=ってだけですからね。
10年前に作家が手に入れられる情報に立脚した作品でさえこうなんですから、もし今度の作品が今の「コンピューターと情報とに関係した何か」だったらそれはもう完全お手上げの世界です。
「パズル・パレス」はただ、役職に応じて右往左往し、人間関係によって右往左往する人のドラマがこんんなハイテク?世界にもごく普通に生々しくあって、そのドラマと、縦糸になるスーザンとディヴィッドの心配しあうか細い糸によってのみ私の読書意欲をつなぎとめてくれた!という感じでしょうか。
どんな世界になってもそこに住む人間の本質が変わらなければ?「そう何とか読める!」でもミュータントばかりの世界になったら・・・!
それにしてもこのデビュー作?この作品からして彼は内部情報通好みだったんですね。知識に関する欲望の膨大さがこの人の作品の最大の特徴ですが、多分「ダ・ヴィンチ・コード」で一番大きな油田を掘り当てたのでしょうね。知識の種類においても読者層の幅広さにおいても。大向こう受けする素材のね。だから今後に期待します。
「パズル・パレス」を楽しめる層はやっぱり薄いんじゃないかな。
付いて行きたい気は勿論?あるんですよ。でもできたらもうちょっと普遍的な知識の掘り下げ方に期待したいです。
ただこれだけは書いておかないと・・・と思うのは、この物語の本当の後半部分ストラスモアが死んだ後からの畳み込み方がとてもスピードがあってわくわく気分を盛り上げてくれたということです。
急に面白くなりました。それとディヴィッド(スペイン)の部分!ここは楽しく読めました。サスペンススパイ物定番商品という感じでしたが。
ハラハラ感も、うーんという驚きも、程のいいロマンスも絶対手堅い何かを彼は持っていますから。
ラングドンなら文学的な、芸術的な、古典的な何かを読者に堪能させてくれるでしょうから。間違いない?
あと、日本人の名前の考察をもう少し真摯にしていただきたいものですよ。トクゲン・ヌマタカは古風とはいってもまだなんとか?エンセイ・タンカドって何?でも、この名前が出た時直ぐ日本人じゃないでしょうね、まさか?って思っちゃったのがちょっと悔しい?

さて、今年はこの本が最後の読書になりました。
正月は「指輪物語」を再々読して楽しもうかな・・・と、予定です。
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クライマーズ・ハイ

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横山秀夫著

この作家は読むたびに腹の底から唸らせてくれる。
読むのが厭になるほどねちっこいのに、夢中で読まされるのはもう上手いとか凄いとか言葉の表現の外だっていう気がして、感想なんてお手上げ!
勿論、業界(この場合地方紙北関東新聞)や扱っている御巣鷹山の日航墜落事件や山・谷川の衝立岩・・・の知識・情報の調査の濃密なことは言うまでも無い。この濃厚さといったら彼はその道の権威なんだろうなと思わされるくらい。
しかし、私が読まされるのはそのことでは、そのことだけではない。
勿論その精密さの上に構築される人間関係が状況以上の?濃密さだから!だからこそ読まされてしまうのだ。
主人公の悠木(新聞記者)の40歳の時の山仲間との衝立岩挑戦の日(結局墜落大事件で果たせなかった)から17年後その友人の死後、彼の息子と衝立に登るまでの大事故後の衝撃の数日間を軸に修復できなかった彼の息子との関係・その友人の言葉の謎などを絡めて濃密なドラマが展開される。
正直その一つ一つが1冊の本になりうる課題だと思う、
「友人が何故あの場で倒れたのか・・・?」という一つを追い求めるだけでも一つのサスペンスになりえただろうし、彼の生い立ちを含め母との・妻との・息子との又娘とのそれぞれの関係・葛藤を描いても1冊の小説になりえたし、新聞記者としての事件へのかかわりを徹底的に描けば(後論この作品はそうだが)これは一つのドキュメンタリー的作品になるだろう。
それを、その3ツの主題を文庫400ページ余りに凝縮して書き込んでしまったのだから・・・感嘆と賞賛とため息で夢中で読みふける以外読者の出来ることは無いようだ。
しかしやはり一番読ませたのは新聞記者としての彼のこの大事件への姿勢だ。
私は新聞を作る人、学校の先生、楽しい読み物を書く人、お医者さん・・・彼らをずーっと子供の時から聖職者としてみていたところがある。今では微妙と言わざるを得ないが。
新聞記者というのは事実を正しく伝えてくれる人と思っていて、新聞で読むことは正しいと信じていた時期がある。
それが音を立てて崩れたのは「ある新聞を父がずうっと読み続けているのはその新聞が好きだから」と思っていたのが違うという事を知った日だった。父がその新聞を読んでいたのは「その新聞が戦争責任をきちんと認めないまま、戦争中にどんな記事を書いたかを反省しないまま、今も新聞を作り続けている事を見張るつもり。」という事を知った時だった。(ちなみに父は記事によっては抗議の電話をかけ続けている)色々な地方に住んで色々な記事を読んで一つの事実を色々な立場で書くのが記者なんだと知ったし。その立場が問題なんだということを肝に銘じて記事を読まなければならないということも知った!
地方で暮した時私はその地方の新聞を採っていた。その地方を知るにはその地方の新聞が一番!と思っていたからだ。
その意味ではこの作品は私にぴたっとはまった!といってもいいだろう。妙に納得がいったという感じだ。ここにひしめく新聞記者たちの様々な関係意識軋轢あらゆることが記事に反映する。新聞も人間無しではありえないということを示してくれた。
良い記者がどんな者かは分からない。読者の心を持てあそぶ記者、心を揺さぶろうとしすぎる記者、自分の立場を優先させる記者、思い込みで誘導する記者・・・様々な人間がひしめく新聞社、その新聞社の立場が主導権争いで左右されるなんて思ってもみない余りにも低級な悲しさだったが、ただ横山さんの小説は必ず最後に人間を肯定してくれる(今まで読んだ限り)。
燐太郎君は存在そのものが救い以外の何者でもないし、悠木本人も途中で腹が座って記者というものの有り様を素敵にして見せてくれたし、等々力という上司の姿でさえ何かいいものを感じさせてくれた。育って行く記者たち、佐山、神沢、望月彩子。神経を逆なでしあい否定しあいながらも寄り添うなにかもある同僚たち。
この神経をすり減らされるような話の合間に不思議なくらい好きだなぁと思わされるちょっとしたフレーズというか遣り取りがあってそのたびに救われた。
それにしてもこんなに見事に現代を読ませる作家を私は始めて知ったような気がする。
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天使のナイフ

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薬丸岳著

大体何とか賞というものには惹かれない時流に疎い私で、読書は大抵古典が主体。そんな私もそろそろ大曲りの年頃?少し気分も若返るため、それでもちょっと遅れ目?ですが新しい作家というか今まで縁が無かった作家の作品にも目を向けてみよう・・・ということで。
この作品は新聞の下段の広告で「犯罪被害者と少年法」に迫った第51回江戸川乱歩賞受賞作という惹起文に惹かれての選択です。
江戸川乱歩賞というのは知っていましたが始めてその賞の作品を読みました。
巻末の歴代受賞者の作品一覧を見ても読んだ物は一冊も無いようですし、作家も知らない方がほとんどという有様です。
でもこの作品は興味深く読ませてもらいましたから、この作品群の中から名前を聞いたことがある方たちの作品を順に遡って読んでみるのもいいかな?と思っています。この受賞者の皆さんは今も活躍していらっしゃるのでしょうか?大体選者の方からして大沢在昌さんしか知らないんですから。汲むべき泉はいっぱい潜在しているってことですね、私にとっては。
この作品は作者の始めての小説のようでしたが、この長い作品をよく破綻させずに纏め上げたものだと感心して読みました。初めての小説ですよ?!
プロットはしっかりしているなぁ、最後にいたる伏線もきっちりしているなぁ・・・と思いながらも文体に堅苦しい読みにくさがあって、でもそこが初々しい作品の持ち味かとも思いました。
決してその感じは不快なものではありませんが、表現が直截すぎて、じんわりと感情移入していく緩やかさが少し欲しいと感じました。
主人公の気持ちを押し付ける言葉が多いという感じでしょうか。
主人公の気持ちは痛いほど分かります。
むしろそれが分かるからこそこの本を読んでみようかという気になったのです。なぜなら今現実のこの社会は若い子の犯罪におびえているところがありますもの。
注意してあげたいと思うことが一歩町に出るとひしめいているのに、怖くてそれが出来ない社会です。
その連鎖が又怖い子を産んでいくのだと承知していますが、今目の前にいる子供が私の一言で切れないという保証はどこにも無いのが現状です。
そんな子供たち、心は幼くともすることは一人前に悪いという犯罪を見て厳罰以外の何を望めるのか・・・って思うこともしばしばです。
家庭に戻したとして機能する家庭かどうかどうやって見極めたらいいのでしょう。そんな時代にしてしまったのは何故でしょう?
考えなければならない事を実に上手にこの作品は提起していましたが結末のつけられない問題で、おかれた立場で意見は千差万別でしょう。被害者にならなければ被害者の心は分からない!でも加害者になって加害者の気持ちがわかるようにだけはなって欲しくないと願います。今の社会に意味のある作品だと思いました。
愛情をいっぱい受けた子供でも犯罪に押しやられる、または犯罪者にすすんでなることは多いですし・・・3人の少年のうち一番家庭がしっかりしていそうだった犯人の少年の事をつい考えてしまいます。
そして祥子さんの人生をそっと撫でてあげたくなりました。
可塑性ですか?なんという可能性を秘めた言葉なんでしょう。この言葉が生きる事を願いますが。

デセプション・ポイント

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ダン・ブラウン著

「デセプション・ポイントとはあえて訳せば「欺瞞の極点」とでもなるだろうか。」越前敏弥・訳者あとがきより。

先に申し込んであった「パズル・パレス」より先にこの本がやってきた。全く先入観が無かったので開いて直ぐ「ほー、女性が主人公だ!」と、一瞬意外に思った。ラングドンのシリーズだとは思っていなかったけれど、考えてみればラングドンはいつも女性に引きずられているところがあって、その引きずる方の女性の身になって書けばいいだけのことかもしれない?
過去に読んだ二作(「ダ・ヴィンチ・コード」と「天使と悪魔」)と同じく、この本も読み始めて直ぐその膨大な知識の奔流に全く疑う暇もなくその流れに溺れた。
物語がこれだけ早く展開すると繰り広げられた世界に関する情報の真偽なぞ考えてなどいられなくなる。
この知識の上に立脚して私は物語の世界に引きずり込まれたのだから(その点全く文句は無いんだけれど)二つの流れに引きずられるのだから、抵抗など出来ないだろうという事を言いたいだけなのですが。
物語の進行の奔流と情報(知識)の奔流との二つの力に。
それが読む快感になっている。短く刻まれてジャブのように繰り出される幾つもの場面、眼が回りながら?ドラマを夢中で追いかける楽しさ。
主人公・登場人物の設定が特別に意表を突くものではないながら、あらゆる点で理想的な羨ましい人種なので憧れまで抱いてしまう。
そこがちょっとチェッ!って感じがしなくも無いが、なれるものなら主人公になってみたいと気持ちはすっかりその気。
彼の作品の主人公は天からニ物も三物も運まで与えられていて難題を間一髪で切り抜けていく。
これが小気味が良くなくてなんだろう。しかもちゃんと最後にはロマンチック場面ももれなく?盛り込んである。トーランドと妻の逸話は絶対泣かせるし、この困難を乗り切った後なら私だってこの愛を祝福するにやぶさかではないし。
「イアン・フレミング」を夢中で読む高校生と「ダン・ブラウン」を夢中で読むおばさんとの間は紙一重も無いんだね!
私も成長していないらしい!
しかし本を閉じてつらつら思うに・・・ここに描かれた機密はもう機密でもなんでもないんだ!ホント?するってーと、無防備にインターネットに繋ぎ、携帯を利用し、電話を掛け捲っている私はひょっとして国家の秘密とすれ違ったら「あ」という間もなく抹殺されるんだ!間違ってもそんな者にも物にも縁が無くて美味しい紅茶とお菓子を手元に置いてこの本を楽しめる人生に感謝しよう・・・っていう気に苦もなくなれる。本の最後で謝辞に名前を挙げられている情報源の人々は今頃抹殺されているはずだよなぁ・・・?それにしても恐ろしい世の中!
「天使と悪魔」や「ダ・ヴィンチ・コード」の宗教的・美術的な舞台と違って「宇宙」や「海洋」や「氷河」など自然が舞台で最先端の軍事機密が満載のこの物語は一層男の子たちの新しい冒険小説のバイブルになるかもしれない?へーすげぇ、そんなことも出来るのか!!そんなことになっているのか!!!ただ、セクストン上院議員の性格設定は余りにも安易で類型的で折角の作品の厚みを損なっているような気がしてしまった。
だって、これじゃぁなんでここまで(大統領選の対立候補)来れたんだか・・・絶対ありえないでしょう?善より悪にこそ魅力がより多く与えられなくては物語りはちょっと・・・だから?私にはラングドンシリーズの方が面白かったのかな?
この本に盛り込まれた知識は醒めてみたら私には何の役にもたたなさそうで・・・憧れの旅行先にもなりそうも無くて・・・でも、「今」ってホント凄い!のね。
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アトランティスのこころ

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スティーヴン・キング著

初めてキングさんの本を読んだのは先にも書きましたが、「ローズ・マダー」です。その時は映画化(映像化)していない作品をと思って探しましたが、この本はアンソニー・ホプキンスの映画で見ました。それもほんの偶然に、題名とアンソニーの名で惹かれて「録画」しておいたものでです。「SFファンタジー」かと思ったのに。
見てから原作がスティーヴン・キングだと知りました。
彼の作品では「スタンド・バイ・ミー」「グリーン・マイル」に続いて気持ちよく見られた作品でした。なにしろアンソニー・ホプキンスさんが魅力的な老人を演じて(この人の目は温かいとなったら・・・本当に温かい!でも違うとなったら・・・!)、少年期を描いた心温まる作品でしたから。本当にいい映画でしたよ。母親役の女優さんがいかにもそれらしく?って、少年と母親の微妙な関係を表現していて・・・「見で?」のある映画でした。だから次にキングさんを読む時はこれって決めました。
映像で見る限り老人テッドには超能力?(不思議な力)はあっても恐ろしいものの様ではありませんでしたし(彼自身は悲しい宿命の下に身を潜めていたようでしたが?)、むしろそれより少年の幼き日の悲しみやテッドとの交流で得たもの(父性とか父の発見とか友情・絆、本への感性、能力?等)、そしてその成長が全体を覆う超自然的な不安の下でさえも、どちらかというと甘悲しい映画でしたから、これならいいでしょう?
ところが小説はとても長くてボビーの少年期の話は全体の構成の中の2分の1ぐらいでした。結果的には映画は実にウマイところを選び取って脚本・監督が見事だったということでした。
さて、本の方の話です。
この大作は・・・最もキングにとっては大作のうちに入らない?・・・5部構成、上巻1部「黄色いコートの下衆男たち」下巻2部「アトランティスのハーツ」3部「盲のウィリー」4部「なぜぼくらはヴェトナムにいるのか」5部「天国のような夜が降ってくる」
映画はその1部と5部の終わりをつないだもので、残りは省いてありました。私が面白く読めたのも丁度その部分でした。それだけで十分物語り読みには楽しいわくわく小説になっていますが、全部通して読むとここ40年間のドキュメントの色合いを帯びるようです。どの巻にもポイントになる「不思議」が微妙なかげりを帯びて支配しています。そこがキングなのだろうな・・・と、思い始めています。
そしてそこが読者をひきつけて止まないのだと。
ひょっとしたら「映画で見たから読むの止めよう、キングさんは。」・・・と思っていた私が方向転換するきっかけになるかも?
それは厭なんですよ、実のところ。何しろキングの作品はどれも長いんですもの。大抵は怖いし!
「アトランティスのこころ」は時代が人間に及ぼしたものの方がキングの味付けより怖くって、結局人間ほど恐ろしい物はないのだと今気が付いたところです?
60年代半ばに大学生になった私はあの時代の空気を覚えています。といって、私は何をしたということも無かったのですし忘れかけてはいますけれど(殆ど忘れていた!)、この作品を読んでいるとあの頃アメリカで私と平行な時空を歩いていた学生や若者の痛みがどれだけのものだったのかが、キングの多用する風俗・映画・音楽の間からにじみ出てきてひどいケロイドを見せ付けられるようです。
「ヴェトナム帰還兵は癌になる」「ヴェトナム帰還兵は鬱になり、酔っ払い、自殺する」「ヴェトナム帰還兵は歯が悪い」「ヴェトナム帰還兵は離婚する」そして最後の親指「ヴェトナム帰還兵はジッポーを持ち歩く」までの最後の間にサリーが思うアメリカの姿!
今度の戦争の後ではどうなるのかと思うと・・・それが津波のように世界に及ぼす「文化」の事を思うとね。でも1部があって5部に繋がるから、キャロルと一緒に心の底から悲しむ涙を流さなくてもいいのかも知れない。
1部で終らないのが・・・キングなんでしょうね(又言っちゃった)。
「自分の部屋が前より狭苦しく見えた。帰り着く部屋ではなく、立ち去るべき部屋という感じだった。・・・ボビーは自分が成長しつつある事を認めた。頭の奥で苦々しげに反対している大きな声があった。ちがう、そうじゃない。ちがう、ちがう―声はそう叫んでいた。」
ねぇ、キングさんって10代の私のそばにいたんでしょうか?
こんな文章を見つけるために、又キングさんを読むんでしょうね。
ボビーの手を離れてからぐるっと回ってボビーの元に戻ってくる魔法のかかったグローブを手にするのは誰なんでしょう?でもそれにはテッドの温みも不思議ももれなく付いてくる?
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出口のない海

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横山秀夫著

父から「「回天」の映画見に行こう。」といわれた時には、そして見てもこれが横山さんの原作だとは分かりませんでした。本を読んでも!です。
それくらい今まで読んだ横山さんの本とは違っていました。
「洋画の字幕についていけなくなった。」と、ここ数年邦画に転向?してからありがたいことの一つは父がどんどん新しい作家の作品に親しむようになったということです。元々読書家ですが、「レディ・ジョーカー」を見なければ高村薫さんの本を、「博士の愛した数式」を見なければ小川洋子さんの本を読むようにはなっていなかったでしょう。「半落ち」の御蔭で私も父から回ってくる本で横山さんのファンになりかけているところです。もうなったかぁ!
横山さんの本を読み始めてからまだせいぜい1・2年です。たいした数は読んでいません。だからこの本は横山さんとは思えなかった・・・というのは早計ですね。勿論この本も先週来た父が置いていきました。
大体満州で戦争体験がある父が戦争の事を話すようになったのも、やっとここ数年のことです。それも、孫が質問したからだったのですから。そんな父ですから「男たちのヤマト」とか「回天」とか見に行くとは思わなかったのですが・・・
「確かに海軍の方が新兵いじめは少ないとあの頃聞いたが。何しろ陸軍のいじめは本当にひどかったから。」とは言葉少ない陸軍新兵体験のある父の言葉です。
「玉が後ろから飛んできて戦死した上官もいたって話もあったなぁ・・・」
一瞬なんのことか・・・
この時は「海に出れば一蓮托生、板子一枚・・・っていうじゃない?海軍は連帯感が違うのかしら?」
「それはどうかな?」なんて話していたのですが・・・
人が二人寄ればいじめって始まるものなのかと、大の男集団の浅ましさを、今の今の世間と摺り合わせてなんか切ないですが。
いじめられる方も命がかかっているなら、いじめる方にも命がかかるんだという事を心したいものです・・・って、本から逸れました。
映画を見るつもりで先に本を読んでしまった父が、映画の感想を殆ど言わなかったのが本を読み終えて今分かったような気がします。
結局人が集団になれば力関係が出来るわけで、卑劣な・極限状態になればそれもエスカレートするわけで・・・海軍も色々な名前に体を借りたいじめの横行には歯止めが無かったって事です。
あれよりひどかった陸軍って?と、ただただ怖いです。
死が決まっている人に振るう暴力って後ろめたさの裏返し?
この作品はとことん主人公の気持ちを、周りの青年たちのその当時の様を追い続けてゆきますが・・・やはり読んでも分かりはしませんし、調べることで時代に追いつく何かがあるような気もしません。
でも知らないで済ませられない気持ちも良く分かるようです。
目の前の死は「ゲド戦記」を読んで深沈と生死観に思いを凝らすようなわけにはいきません。ただただ辛いです。
「戦争はいけない」というのは永遠のお題目で人間はどんな反省の上に立っても結局は戦争を起こす事を目論む動物なのだと、思わされてしまいます。戦争のないこの日本の60年の「奇跡の空白?」としか言いようのない時空にぴったりはまり込んだ私の人生の特殊なこと!その驚き!
あんなに若くて夢のある人に負わせてはいけないものを負わせてしまった負い目を映画の脚本は置き去りにしてしまったような気がします。平和なはずの国に暮しているのに今の子供は何を負わされているんでしょう?若い人の中には死を目指す種がまるで宿っているかのようじゃありませんか。
「弟を見れば今の教育が分かる。」って、主人公が言いました。親と学校の教育を何とかしなくちゃと切に思いますが。
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ゲド戦記(続き)

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アーシュラ・K・ル・グィン著

また、ゲド戦記です。やっと3巻目が来ました。
2・1・5・外伝・4・3巻の順で図書館から回ってきました。
こんな順でこの本を読む人っていそうもありませんが・・・?いや、図書館で借りた人なら?こういうことになったはずです?
さて、この感想録一体どうしたものだろう?今更?
映画「楽しみました。」と、書きました。確かに!でも、余りに分からないところがあったので本を全部読む気になったのですが・・・なんでこの物語を映画化する気になったんでしょうね?
この物語が好きだったら、あの映画はありえないだろうし・・・という気がしてなりません。本を読んだから言うのですが。あの映画を作りたかったのなら、ゲド戦記という題を外して良心的に?するなら「ゲド戦記に想を得た」オリジナル脚本ということで「違う題名」でという方法はなかったものですかね?それなら受け入れ十分OK!ですよ。
原作と脚本は違う作品だということは承知ですが、「レバンネンの冒険」みたいな感じで括ったほうが良かったのになぁという気がします。むしろその方が換骨奪胎とも言われないでしょうし。
なぜなら、読み終わった感想はこれはゲドの戦記というより、ゲドの歩んだ路にちりばめられた冒険による成長と生死の倫理観風人生の指南書という印象が強かったからです。(ゲドから学ぶといったほうがいいかな。)
ゲドも良き師を得て不安な少年から冒険の青年期を経て大魔法使いとなり老いて一個の人間に成熟していく過程で、自分も師として、夫として、父としてアレンやテナーやテルーの成長に関わっていく物語として私は読みました。
だって、冒険そのものより会話でつづられる沢山の言葉たちの含蓄が凄いんですもの。それなのにロマンスも満喫できるんですから。
好きなとこを書き抜いて永久保存しちゃおうかと思いましたが、それより「買いだ!」と思いました。
前にも書いたかと思いますが田舎の邸宅?(クスッ)暮らしを止めてこのちんまりしたマンション暮らしを選んだ時点で(何百冊もの本を泣く泣く処分したんですよ)本は図書館と決めた私です。買うのは最小限度と決めています。
しかもこの歳!今更成長でもないでしょう?
それでもこの作者が描く世界のバランスは本当に魅力的です。
ゲドの言葉は私の残り少ない人生を温めてくれるかもしれないと思ったんですよね。だからいつでも読み直せるように。
この本は子供たちへのワクワク冒険話であると共に楽しい人生の哲学入門・倫理事始?にもなりそうですけれど、私への「人生捨てたものではないわね!」書?にも「まだまだ学ばねばならないことありそう!」書?にもなりそうですよ。読んでいると魔法のある国で楽しんだり安らいだりしながらも、「そうよね、今のこのフレーズ、心に抱いていたいわねぇ・・・」というところに立ち止まってしまって、とても穏やかな気持ちになりました。
生きていくうえでの暗い側面が底に流れながら、上空には明るい光が漂っていて、その中空で魔法が働いて様々な色合いの智恵でつづられていくのが人の一生なんだと・・・。
朝が来ないのじゃないかと思ったことはありませんでしたか?
でも来ましたよ。確かに!・・・そんなこと思い出したりして。でも、何時かは来ない朝も・・・!
ゲドの世界の「王」って「竜」って何を象徴するのでしょう・・・ユックリ考えてみるかな?と、思った時に「やっぱりこの本は買いだ!」です。何度読んでも泉がありそうです。1巻からちゃんと読み通さなくてはね。
書き抜いた幾つものフレーズここに書き抜きたいのは山々ですけれど、今回は止めて起きましょう。どれだけ長くなることか・・・!
私って地図がある物語に弱いのかな?中央部に赤や黒や褐色の人がいて東のはずれに白い人がいるのもなんとなく良くない?
それになんてったって、竜が出てくるのですよ!竜が!
?もうじきクリスマス?買うのちょっと待ってみようかな???うふぅ。
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緋色の記憶

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トマス・H・クック著

「題名は大事!」って、先日書いた通りに題名で惹かれたのですけれど・・・だって、ホームズ・ファンとしては「緋色の研究」を思い出さないわけにはいきませんし、高校生の時の読書家としてはあの当時高校生定番?だったナサニエル・ホーソンの「緋文字」を思い出さずにはいられない「題」ですからね。
そして二つあわせれば(推理力を働かせて?)・・・おのずと答えは・・・
って程ご大層なものではありませんが、「犯罪(推理)もので、不倫がらみの恋物」?
大当たり!でした。
でも読み終わって後書きを読んだら原題は「チャタム校事件」でした。素直にこの方が良かったのではないかなぁ・・・と、思いました。
本文に何度も「チャタム校事件は・・・」という記述があるのですから。
(最も、この題だったら私はチョイスしていなかったかなぁ?)
私はこの「緋色の記憶」という題で既にかなり想像を逞しくしちゃっていましたからね。先入観を抱き過ぎましたもの。この思い込みは後になってみるとやっぱり邪魔だったと思います。
この作品の凄いところは「誰が誰を殺したんだ?」って事を知りたさに、目の前に人参をぶら下げられた馬みたいに?私は突進する勢いで読み終えてしまったというところです。
事件が起こって、誰かが死んで、ミス・チャニングが裁かれたらしいということは判ってはいても、私が知りたいと思うことは最後まで確定的な言葉では表現されません。
語り手の少年だった過去と、思い返している老年の今とが細かく入り乱れて、読む私は作家の思う壷?じたばた足掻きながら不安にせきたてられるように読んでいったのです。
次から次に質問が口から出掛かるようでした。
父である校長はこの事件にどんな役割を果たしたのだろうか?
その夫でもある校長の苦悩は何によって生まれたのか?
母親(妻)の夫への根深そうな不満と反抗は何に萌すものだったのだろうか?
嫌悪感を匂わせて語られる検事はいったい何を立件をしたのだろうか?
サラは・・・何か悪い予感がするけれど・・・どうなったのだろう?
リードの子供アリスに覆いかぶさる不安の要素(挿入される子供たちのからかい「歌」など)は何を語るのだろう?
そしてこの中の「不倫」二人の恋の本当の姿とは?
そして何よりこの語り手の少年の心の中のはかり知れなさ。
少年期から青年期への脱皮の多感な時期の憧憬や焦燥の複雑さ。
彼は物語の最後まで何を隠し通すつもりなのだろう?
絶対何らかの大きな役割を担っているはずのこのヘンリーは?
結婚しないわけ、愛情を遠ざけるわけ、子をなしてはいけない理由!重なる謎と過去と現在の振幅・・・それで読ませてしまう作者の綯う罠。
その罠に填まった格好の私がこの作者の次の作品を物色している姿も推理?出来るようで・・・「このミステリーは面白い」?
どこかのキャッチフレーズみたいに絡め取られたかも知れません。
それにしても姦通で3年もの刑期が化せられるなんて・・・今なら?
大抵の時代は女に過酷だったように思われるけれど、この頃・・・からは?男に過酷な時代が来るのかも・・・帳尻はどこかであわせてもらいたいものですよね?
男に緋文字をくっ付ける時代・・・笑える!いいかも?・・・って、そういう意味ではなくって!
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東京奇譚集

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村上春樹著

新聞で「カフカ賞」とかを取ったとかで、受賞式後のインタヴュー記事を読んだ。次はアカデミー賞とか?
そういえば以前にもアカデミー賞の候補?みたいな話題なかったかしら?作品の多さからみても、翻訳されている作品も多いらしいし?何より次男の書棚にいっぱい「村上春樹」の名があったし・・・?
何時だったか「面白い?」と聞いたら、ひょいと1冊「読み終わったとこだよ、読んでみたら?」
題も忘れたけど、薄い文庫本だったと思うが・・・これが面白くなくて「面白かったの?ほんとに。」
「最初に読ませる本間違えたかもなぁ・・・」
それっきりでしたが、ニュースのせいか?再挑戦。
賞に弱いからではありません・・・念の為。
題名から自分のアンテナに引っかかるものを・・・と、探した結果がこの本。
題で選んで結果・・・大正解!
私向きじゃん?(失敬!)
短編集です。以下の5作収録。
「偶然の旅人」
「ハナレイ・ベイ」
「どこであれそれが見つかりそうな場所で」
「日々移動する腎臓のかたちをした石」
「品川猿」
第一作目、読みながら途中もう「全然いいよ。」と息子の様に言ってみました、自分に。
偶然の程のよい楽しみ方のセンス!
人生の味わいが自分の上でちょっと濃くなった瞬間!
二作目のサチさん好きになりそう・・・だけどきっと好きにならせてくれないって感触。好かれたくないでしょうね。年も取らないでズーットそのまま二つの時の間で、二つの場所の間で、振り子のように行ったり来たりしながら、それでも蹲らないで立っていそうよね、この女の心。
三作目、何かを考えそうになりながら何も考えないまま読み終わったという感じなんですけれど、「時間の流れに身を任せ、時間を効用もなく磨耗させた。」この「私」さんも好きです。
私の時間も効用なく磨耗していったのですが、「していった。」のと「させた。」のにある夢幻の無限の距離が絶望的です。
四作目、は、いい物語でした。手のひらにそっと大事に置いておきたいような、優しく扱ってあげたいような、空中に浮揚している世界の物語のようでした。私もこの物語をそっくり「受容」出来そうです。その言葉を使ってもいいなら?
五作目は楽しく読みました。「見ざる・聞かざる・話さざる」の3猿に縛られた女の人の解放話として。
その繰り広げ方の面白いこと。解決の仕方の意表を突くこと。名前かぁ・・・名前ねぇ・・・。
また、気が向いて、心にひっかかる題を見つけたら、村上さんの本読むかもしれないなぁ・・・。題「名」は大事。
題名といえば、カフカ賞おとりになったのですが、村上さんは「カフカ」という名を付けた作品があるんですね?「カフカ」訴えてくるものがあるかなぁ?うーん。
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