トマス・H・クック著

「題名は大事!」って、先日書いた通りに題名で惹かれたのですけれど・・・だって、ホームズ・ファンとしては「緋色の研究」を思い出さないわけにはいきませんし、高校生の時の読書家としてはあの当時高校生定番?だったナサニエル・ホーソンの「緋文字」を思い出さずにはいられない「題」ですからね。
そして二つあわせれば(推理力を働かせて?)・・・おのずと答えは・・・
って程ご大層なものではありませんが、「犯罪(推理)もので、不倫がらみの恋物」?
大当たり!でした。
でも読み終わって後書きを読んだら原題は「チャタム校事件」でした。素直にこの方が良かったのではないかなぁ・・・と、思いました。
本文に何度も「チャタム校事件は・・・」という記述があるのですから。
(最も、この題だったら私はチョイスしていなかったかなぁ?)
私はこの「緋色の記憶」という題で既にかなり想像を逞しくしちゃっていましたからね。先入観を抱き過ぎましたもの。この思い込みは後になってみるとやっぱり邪魔だったと思います。
この作品の凄いところは「誰が誰を殺したんだ?」って事を知りたさに、目の前に人参をぶら下げられた馬みたいに?私は突進する勢いで読み終えてしまったというところです。
事件が起こって、誰かが死んで、ミス・チャニングが裁かれたらしいということは判ってはいても、私が知りたいと思うことは最後まで確定的な言葉では表現されません。
語り手の少年だった過去と、思い返している老年の今とが細かく入り乱れて、読む私は作家の思う壷?じたばた足掻きながら不安にせきたてられるように読んでいったのです。
次から次に質問が口から出掛かるようでした。
父である校長はこの事件にどんな役割を果たしたのだろうか?
その夫でもある校長の苦悩は何によって生まれたのか?
母親(妻)の夫への根深そうな不満と反抗は何に萌すものだったのだろうか?
嫌悪感を匂わせて語られる検事はいったい何を立件をしたのだろうか?
サラは・・・何か悪い予感がするけれど・・・どうなったのだろう?
リードの子供アリスに覆いかぶさる不安の要素(挿入される子供たちのからかい「歌」など)は何を語るのだろう?
そしてこの中の「不倫」二人の恋の本当の姿とは?
そして何よりこの語り手の少年の心の中のはかり知れなさ。
少年期から青年期への脱皮の多感な時期の憧憬や焦燥の複雑さ。
彼は物語の最後まで何を隠し通すつもりなのだろう?
絶対何らかの大きな役割を担っているはずのこのヘンリーは?
結婚しないわけ、愛情を遠ざけるわけ、子をなしてはいけない理由!重なる謎と過去と現在の振幅・・・それで読ませてしまう作者の綯う罠。
その罠に填まった格好の私がこの作者の次の作品を物色している姿も推理?出来るようで・・・「このミステリーは面白い」?
どこかのキャッチフレーズみたいに絡め取られたかも知れません。
それにしても姦通で3年もの刑期が化せられるなんて・・・今なら?
大抵の時代は女に過酷だったように思われるけれど、この頃・・・からは?男に過酷な時代が来るのかも・・・帳尻はどこかであわせてもらいたいものですよね?
男に緋文字をくっ付ける時代・・・笑える!いいかも?・・・って、そういう意味ではなくって!