ダン・ブラウン著

「デセプション・ポイントとはあえて訳せば「欺瞞の極点」とでもなるだろうか。」越前敏弥・訳者あとがきより。

先に申し込んであった「パズル・パレス」より先にこの本がやってきた。全く先入観が無かったので開いて直ぐ「ほー、女性が主人公だ!」と、一瞬意外に思った。ラングドンのシリーズだとは思っていなかったけれど、考えてみればラングドンはいつも女性に引きずられているところがあって、その引きずる方の女性の身になって書けばいいだけのことかもしれない?
過去に読んだ二作(「ダ・ヴィンチ・コード」と「天使と悪魔」)と同じく、この本も読み始めて直ぐその膨大な知識の奔流に全く疑う暇もなくその流れに溺れた。
物語がこれだけ早く展開すると繰り広げられた世界に関する情報の真偽なぞ考えてなどいられなくなる。
この知識の上に立脚して私は物語の世界に引きずり込まれたのだから(その点全く文句は無いんだけれど)二つの流れに引きずられるのだから、抵抗など出来ないだろうという事を言いたいだけなのですが。
物語の進行の奔流と情報(知識)の奔流との二つの力に。
それが読む快感になっている。短く刻まれてジャブのように繰り出される幾つもの場面、眼が回りながら?ドラマを夢中で追いかける楽しさ。
主人公・登場人物の設定が特別に意表を突くものではないながら、あらゆる点で理想的な羨ましい人種なので憧れまで抱いてしまう。
そこがちょっとチェッ!って感じがしなくも無いが、なれるものなら主人公になってみたいと気持ちはすっかりその気。
彼の作品の主人公は天からニ物も三物も運まで与えられていて難題を間一髪で切り抜けていく。
これが小気味が良くなくてなんだろう。しかもちゃんと最後にはロマンチック場面ももれなく?盛り込んである。トーランドと妻の逸話は絶対泣かせるし、この困難を乗り切った後なら私だってこの愛を祝福するにやぶさかではないし。
「イアン・フレミング」を夢中で読む高校生と「ダン・ブラウン」を夢中で読むおばさんとの間は紙一重も無いんだね!
私も成長していないらしい!
しかし本を閉じてつらつら思うに・・・ここに描かれた機密はもう機密でもなんでもないんだ!ホント?するってーと、無防備にインターネットに繋ぎ、携帯を利用し、電話を掛け捲っている私はひょっとして国家の秘密とすれ違ったら「あ」という間もなく抹殺されるんだ!間違ってもそんな者にも物にも縁が無くて美味しい紅茶とお菓子を手元に置いてこの本を楽しめる人生に感謝しよう・・・っていう気に苦もなくなれる。本の最後で謝辞に名前を挙げられている情報源の人々は今頃抹殺されているはずだよなぁ・・・?それにしても恐ろしい世の中!
「天使と悪魔」や「ダ・ヴィンチ・コード」の宗教的・美術的な舞台と違って「宇宙」や「海洋」や「氷河」など自然が舞台で最先端の軍事機密が満載のこの物語は一層男の子たちの新しい冒険小説のバイブルになるかもしれない?へーすげぇ、そんなことも出来るのか!!そんなことになっているのか!!!ただ、セクストン上院議員の性格設定は余りにも安易で類型的で折角の作品の厚みを損なっているような気がしてしまった。
だって、これじゃぁなんでここまで(大統領選の対立候補)来れたんだか・・・絶対ありえないでしょう?善より悪にこそ魅力がより多く与えられなくては物語りはちょっと・・・だから?私にはラングドンシリーズの方が面白かったのかな?
この本に盛り込まれた知識は醒めてみたら私には何の役にもたたなさそうで・・・憧れの旅行先にもなりそうも無くて・・・でも、「今」ってホント凄い!のね。