嘘をもうひとつだけ

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嘘をもうひとつだけ (講談社文庫) 嘘をもうひとつだけ (講談社文庫)講談社 2003-02
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東野圭吾著

この作家のいわゆる「ガリレオシリーズ」はかなり読みましたが・・・「探偵ガリレオ」「予知夢」「容疑者Xの献身」「聖女の救済」「ガリレオの苦悩」と5冊?
たまたま、この本を借りてまたこの作家に「加賀恭一郎シリーズ」といわれるものがあるのを知りました。で、このシリーズで私が読んだ最初の作品は五作品の短編集でした。まだ1冊だけですから湯川さんと加賀さんのどちらがより好きかということは断定できません。私の性格からいっても?多分断定は出来ないかも・・・と、まぁ今の状態では思っているところですが。なにしろこういう探偵ものは読めるだけで、存在してくれるだけでありがたいとさえ思ってしまう私ですから・・・。そういえば今朝の朝刊にコーンウェルの新刊の広告がありました。満を持して?題も「スカーペッタ」!読みたい!
加賀さんはなかなか男前の気配ですが・・・なんとなくコロンボが手帳をひっくり返しているところを連想してしまいました。質問を重ねる口調まで。追いつめるしつこさも。彼も1匹狼系?刑事二人でつるんで聞き込みに回るタイプではなさそうです。この本面白かったので慌てて検索。ガリレオさんを超える8冊が出ているのですね。それで加賀シリーズとこの本の終りに書いていなかったらうっかり気が付かないところでしたが・・・記憶の何処かを軽く刺激する聞いた名のような気がしましたよ・・・「赤い指」でもう既にお目に?かかっていたのでした。うかつ者!
さて、この5つの短編・・・「嘘を・・・」は美千代さんの動機にみえる矜持があわれです。「冷たい灼熱」は多発する同種の事故を思いますね。何でああいうことになるのか?その一つの心理を描いていますが妻の嘘はともかく子どもの死体の処理が厭でした。ほかの作品も皆・・・全く女は・・・と思いながらこの作品の女性達にため息をついたのですが、加賀さんの推理は見事です。加賀さん登場の最初の作品から図書館に予約しました。この若さで、このスタイルで・・・コロンボねェ・・・? 「赤い指」ではそんな風ではなかったので期待して待ちましょう。
 

家守綺譚

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家守綺譚 (新潮文庫) 家守綺譚 (新潮文庫)新潮社 2006-09
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梨木香歩著
久しぶりに「私の本だ!」と同類感を満腹させてくれた小説に出会った!
これだけ心にぴたっとフィットする本にはなかなか出会わない。先回であったのは・・・吉田篤弘さんの「つむじ風食堂の夜」
庭のうろの大きなサルスベリに懸想された主人公もいいし、隣家の何事にも動じない物知りのおばさんもいいし、掛け軸の白鷺を追い立てて舟を漕いで何気なく?現れる高堂もいい、狸にしょっちゅう成り代わられる和尚さんもいいし・・・河童やサルスベリと格闘する花の咲いた竹もいいし・・・ゴローもいい・・・すべてが奏でる世界がいい!
ある夏、南禅寺の妙にしらっと明るい庭にサルスベリが印象的に咲いていたのを見たことがある。桃より濃い色のピンクが見事に咲き誇っていた。あの光景と裏の水路閣~蹴上げの風景を頭に思い浮かべながら楽しく不思議な物語を読みました。
描かれた風景と主人公の青年征四郎君の佇まいと彼の周りで関わってくる動植物の織り成す日々を豊かに楽しませてもらってそれでいいなぁ・・・。目次の純和風の植物名がいいでしょう?
適当にのんびり開いたところから1節づつ声に出してゆっくり読むのもいいなぁ。ただね最初の「サルスベリ」を読まないと話が見えないのね。それが惜しい!久しぶりに買ってしまいました!
子どもの時から図書館で読んで二度読みたい本だけ買うというのが私の石橋をたたく性格。それが久しぶりに出ましたなぁ・・・嬉しい!
実を言うと諦めきれずに年末の朗読会で「1章サルスベリ」を読みました。意外なことに?何人もの方から面白かったと声を掛けていただきました。読んでみたいと作家の名と作品名を確認された方々がいて・・・我が意を得たり!
 

おちゃっぴい -江戸前浮世気質

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おちゃっぴい―江戸前浮世気質 (徳間文庫) おちゃっぴい―江戸前浮世気質 (徳間文庫)徳間書店 2003-05
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宇江佐真理著

「たば風」で宇江佐さんに大期待を抱くようになって、さらに回ってきたのがこの作品です。多分こういう短編集がこの作家の独壇場なのだろうと思います。「深川恋物語」と同系列で同じくらい好感を抱ける作品群です。良いです!この六作品に登場する人々は同じ町内の馴染みの顔ぶれのように私はすっかり顔見知りになってしまいました。毎朝「おや、はっつぁん、お早いお出かけだね」なんて声掛け合っているような。
この作家は物語の舞台で登場人物を生かせる術を本当によく知っている人なんだ!という嬉しさ。
先日「下駄屋のおけい」を朗読材料に取り上げたいとサークルのある人が言っていたけれど、私は「概ね、よい女房」を取り上げたいな・・・と、思う。家賃を払えるか払えないかのキリキリの生活の中での長屋の女房達の気概も優しさも物凄く良い!けれど、その仲に入り込んできた不協和音のおすてを受け入れるまでの経緯がなんともいえない!そしてその傍らを流れる男たちの奏でる曲想も実にいい。良質の絡み合い!
人付き合いの下手な私でも明日は何とかなるかもしれない・・・という期待を抱かせてもらえる。ちっとも心を開けないくせに・・・明日上手く心を開けるかも・・・小さく開けた隙間から誰かが微笑みか何気ない一言を注いでくれるかもしれない・・・みたいな?
生活からにじみ出る慰めやいたわりが思わずこぼれる小さなグチや悲しみを柔らかく揉みほぐしてくれる・・・まるで体内に入り込んだ異物を粘液がくるみこんで痛みを消してくれる・・・そんなような世界。
 

鬼の跫音

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鬼の跫音 鬼の跫音角川グループパブリッシング 2009-01-31
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 道尾秀介著

道尾さん5作目。意識してホラーと書かれた物は外しているのだけれど、
この作品は微妙だなぁ・・・。私はホラーだけは苦手。で、この作品の底に漂う背筋を這い登るようなおぞましさはホラーの匂い。とは思うものの、それでもやはりただのホラーと言い切れない何か違うものも併せ持っている。
なんなんだろう・・・厭なもの読んでいるよ・・・と心の中の声は小さく呟いているのだけれど、目はどんどんどんどん吸い寄せられていく。
確かに怖いもの見たさに似ている。って言うかそのものなんだと思うよ・・・と、認めたくなく頷いている。帰りたいけど足は前に進んでいるみたいな?悪夢に近い。
「S」だよ。ウン、又「S」だね。ああまた「S」だよ。「そろそろSが何か考えるべきだよ。いや、いいんだよSは統一感、既視感、永続する悪意の象徴なんだから。余計なもの付け加えなくて良いんだよ。それその気持ちが余計なものじゃない。」ぼやきながらの読書です。
Sは人の底に棲む狂わせる暗黒の物を引き出す触媒のようなものかと思いながらSに囚われました。でもそれは枝葉です。
6作。どの作品の題も余り良い感じを受けません。開いた時にケモノ「犭」の字が真っ先に目に飛び込んできて「鈴虫」も「よいぎつね」も塗りこめてしまいました。そしてその印象は読み終わった読後感をあらかじめ教えてもらったようなものでした。全ての作品が心に棲む「犭」を描いているのだと思いましたから。
「ケモノ」や「悪意の顔」は道尾さんらしい?「今」が匂っています。
実際こんな事件が後を断たない今があります。やり直す時を与えない社会があります。一刻も無駄に出来ない(と思われる?)限られた時を生きる人々。それなのに実際には人に充実した時を与えない世に住んでいる。やりきれない。その気持ちにSが注がれる・・・と・・・。
「冬の鬼」に漂う耽美性は見覚えがあります。私達の世代には懐かしさも感じられます。「よいぎつね」には輪廻の空恐ろしさが漂います。ここにも記憶の襞をゆする何かがあります。そこには若い作家にとって新しい道を探る手がかりがあるのかしら?とも思えました。
芽を出さないで終る種もたっぷり持たされて人は生まれてくるのかもしれません。芽を出さないで終る種は哀れなのかしら?安らかなのかしら?水をやり光を当てる種を見きわめる目が欲しいものです。
心を目の詰んだ網で浚ってみると(この作家のこの作品はそんな感じです)この正反対の何かをも引き上げられるのではないか・・・と、思えてきて・・・次回作は振り子がそっちに振れてくれると良いのになぁ・・・なんて思ったのです。

アイスクリン強し

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アイスクリン強し アイスクリン強し講談社 2008-10-21
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畠中恵著

この本は作家を知らずに読んでも多分誰か想像が付きそうです。
自分の世界を築きあげるって凄いことです、しかもそれが気持ちのいい世界であるとなれば・・・
というわけで、しゃばけシリーズの作者のちょっと現代に近づいた明治が舞台の青春群像シリーズ?みたいです。この主人公たちもシリーズ化されるのでしょうか?出来そうな入り口です。
「さびしがり屋でお人よし」の主人公とおきゃんで利口な金持ち娘と頭がいいが調子もいい巡査の親友とその仲間達。
個性はちょっとパターンながら?でもいいんじゃない?青春時代を真っ直ぐに生きている情けも心意気もある青年たちなんだから。それにマドンナが入れば・・・なんとも楽しげな応援したくなるようなグループですもんね。こういう青年たちとスウィーツ(彼らはこんな括り方知らないと思うけれど)が結びついたら鬼に金棒。若旦那と三春屋の和菓子が最強コンビ?なのを、ここでもちょっと踏襲?
時代設定が変革期とはいっても、その時代に特別に抗うのでもなく、なかなか融通も利き目端も利く活きのいい青年たち・・・何時の時代もこういう青年達が結局は時代を作るのかもね。
序章で提出された謎は・・・忘れられたかに見えますし、どだい解けるはずの無い難問そうに見えて・・・お話そのものが解決へのそのものずばりのアプローチという展開もわかりやすい。物語にはかなり悲惨な?あくどい?筋立てが噛まされながら主人公たちの持ち味と後ろからほのかに香るアマーイ洋菓子の佇まい?が心地よいハーモニー。今現実にワッフルスが熱い!し。
序で明治への時代の移り変わりを見てきたように?箇条書き?にしてくれますが・・・若い読者には親切かもね。
 

江戸市井図絵  時代小説の楽しみ(5)

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時代小説の楽しみ〈5〉江戸市井図絵 (新潮文庫) 時代小説の楽しみ〈5〉江戸市井図絵 (新潮文庫)
縄田 一男新潮社 1994-12
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18作18作家

「時代小説の楽しみ」全7巻の家の5。縄田一男編・新潮社。

「全7巻の中から、とりあえず市井もの主体の作品群を選んでみた。
縄田さんという人が何者かよく知らないが、時代物の本を探していると結構この人の編というアンソロジーに突き当たる。多分?時代小説専門の評論家か出版社の編集者か何かだろう?
読み終わって彼の解説を読んでみたが、ま、頷けるものもあり・・・そうでないものもあり。好きな本をいっぱい読んで編者になって解説を書いている仕事って妙に羨ましい?解説者とか批評家とかいうお仕事って嫉ましさ募って?反発も受ける仕事だろうけれど・・・これだけうまく品評できる人が作品を作り上げられないって不思議だ・・・と、常々思ってもいる。
スポーツの世界なんてもっとそれが著しいけどね。
「父と呼べ」「ちっちゃなかみさん」「こんち午の日」は既読。しかも好きな本ゆえに別格。殆ど掲載の作家の作品は何かしら読んでいるが、馴染みの無いのが伊藤桂一さんと小松重男さん。小松さんは何かのアンソロジーで「蚤とり侍」1篇を読んだ記憶があるくらい。
それぞれに面白く読んだけれど別格以外では、やはり柴田錬三郎さん、池波正太郎さん、北原亜以子さん、山手樹一郎さんの作品が巧いし面白い!私が好きだと思う作品は結局終りの口当りのいいものなんだ・・・単純なんだと思うけれど、こういう短い作品を読んでいちいち苦い思いを噛み締めたくは無い。特に時代物には娯楽を求める傾向がある。
さもなければしっとりとした時代感、人間関係がもたらす哀感の中の温かみを感じさせてもらえるもの・・・に傾く。
そういう意味ではこの作品群は皆かなりいい線で纏まっていると思ったけれど、「浅草小町・・・」には厭な後味が残った。全ての人が自分に正直に生きたらどうなるんだろう?一途とか必死とか夢中、盲目、若い時って生きるのが難しいのね。あおりを食う多くの人のことがないがしろにされているような気配を感じ取ったから・・・厭なのかな。
「母子かづら」もやはり心の通じ合いが無い小説で、読んでいて心がじっとり重くなった。こんな母も娘も、こんな生き方も読みたくは無かったよ・・・とぼやいてしまった。
同じく「江戸前にて」も哀しすぎて。
「代金百枚」は面白い味わいがあった。主人公も長屋の人々も医者もそれぞれの持ち味が面白く綯い交ぜになっていて、「蚤とり侍」より良かった。
江戸っ子の始まりから明治の初めまでに渡る江戸の庶民の生きようを描いた作品をまぁ・・・巧みに集めてあるなあ・・・と思いました。
いつか「江戸っ子由来」朗読してみるかなぁ・・・。

イノセント・ゲリラの祝祭

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イノセント・ゲリラの祝祭 イノセント・ゲリラの祝祭宝島社 2008-11-07
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海堂尊著
やっと、やってきました。・・・というわけで完全にこの人脈に絡め捕られてしまった私です。仕方ないやね? お馴染みの知人たちが右往左往しているのだもの。この作品は時系列のどこに填まるんだ?なんて思いながら・・・どうしたって気にならないわけにはいかない。
こんなに簡単に?世界を作り上げてしまっていいのだろうか?と、思いながらすっかりその世界の住人になってしまっている?気がつけばもう10冊も読んでいるってこと?そしていっぱしに医療と厚生労働省のあり方に疑問と不安を掻き立てられて、意見まで持ち始めているのですよ。いるのですよ。
今回は先回の「ジーン・ワルツ」のように小説を読んでいるぞ!って感じではなかったのですけれど、作家さんが言いたいことは箇条書きで並べられた以上に実によく理解できたと思いますよ。そう、このコミカルに造形されたおなじみの人々がどんな現実を見せてくれるのかと興味津々です。
形態的には「ジーン・ワルツ」のようなの好きですけれど・・・
とにかくしょっぱなの目次と登場人物の羅列には驚きました。
「えらいこっちゃ!最近脳軟化症!この膨大な登場人物たち、ちゃんと私の脳が捌ききれるかしら?交通整理が大変そう?」って、懸念・・・読み始めたら直ぐ吹っ飛びました。例によってこの作家の恐るべきところは登場人物の設定というか表現の実に巧みな?個性付け!
おかしな渾名、それぞれの表情の見事なレリーフ。一人一人が直ぐに頭の中に定着します。それに定着しなくてはならない人物は主に数人。それもあらかたは存じ上げていますし。麗々しく登場人物と書き連ねられていても、ほんのちょい役さんも。でもこれだけきっちり紹介されるということは・・・この厚生労働省がらみのAi導入問題の真の解決までにまだ数作上梓される可能性があるということでしょうか?
厚労省の会議は踊り続けるのでしょうか?(踊ってくれればこちいのもの?)
とりあえずエイアイ導入は既定の事実になったのですよね?
なにしろ白鳥さんが絡むとコッチの頭も混乱するので・・・。しかもあの鵺のような知識人の会議!世の諮問会議というのは本当にあんなものなのかも・・・背筋が凍ります?
それにしても解剖というものに絡む警察司法医学の混乱は全く私には異次元の問題のようですが・・・病理と絡んでくるとやっぱり妙な不安が生じてきます。なんにせよ問題が大きくて、単に医者不足を嘆いていれば済むっていう状況じゃないことは分かりますし。
なんだかこの作家の本を読むと妙に追いつめられて何かできることは無いかしら?と、頭の中が右往左往してついでに体の方までなんかガタガタしてしまいます。楽しくおかしく読んだのにね。
 

伊勢奉行8人衆

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伊勢奉行八人衆 (時代小説人情シリーズ) 伊勢奉行八人衆 (時代小説人情シリーズ)PHP研究所 1996-10
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佐江衆一著

お伊勢さんは夫の実家のある三重県にある。結婚して舅に初めて連れて行かれたのが伊勢神宮だったということもあり、つい最近その舅の17回忌の法事の帰りに伊勢へ参って来た。
だから、図書館で本を物色していた時この背表紙の文字が目に飛び込んできたのだろうか。

丁度初めて佐江さんの小説を読んだところである。佐江さんを紹介してくれた人は、職人を描いたものが面白いといっていたのだから、そちらを先に読むべきか?しかし読みたいかどうかは縁による?表紙の装画のお奉行様が若い頃の加藤剛さんみたいだと思いながら、目次を眺めぱらぱらとめくってみたら・・・大岡忠相の名があった。で、面白そうだと借りてきた。
題名通り、8人の伊勢奉行の事跡を描いている。江戸時代を通じて、伊勢の奉行は48代続いたそうだが、その中の8人を選り抜いて描いている。
どちらかといえば正直に?文献を当たって、忠実に描こうとした作品のようで、いってしまえば小説としては面白くない。
どの挿話もそれなりに興味深くは描かれているのだが、小説としての熟成は浅い。その時代その時代に困難を抱えたり、それを切り抜けるための努力に翻弄されたり、事実と違って悪名を負ったり。
そうして、その挿話を通じて、江戸時代を通して神都としての特殊な性格を持っていた町を抽出しようとしたことは読み取れる。
実際あの伊勢が・・・このように特殊な土地だったとは、今観光客で賑わっているだけの表面的な景観からはもうこれっぽっちも窺うことも出来ない。
伊勢神宮というもの、内宮と外宮の間の複雑な関係、政治権力との微妙なもたれあい、政治に利用されまた利用しようとするしたたかさ、その伊勢に参る庶民の事情、不安、社会情勢。拾い上げられたエピソードから伊勢が浮かび上がってくる。
色々なことが知識としてわからせられた感じがする。まるで良く出来た教科書を読んだようだ。副読本にどうかしら?
特に最後の奉行、本多忠貫の苦衷。あの明治維新に?・・・そういえば神道の大元だったんじゃないの、伊勢は。と、ようやく気がつくお粗末。
明治維新の様々な駆け引き流れのなかに、このような水戸天狗党との騒動があったなど、今まで聞いた事も無かった。いかに神が人の心から遠ざかったことか?と、そっちの方に驚いているところです。
今、事を成すに当たってまず神を奉じて、薬籠中のものにして?・・・などと考える人々・党ってあるのでしょうかね?それにしても水戸というのは解からない。あの時期変な迷走をしたとしか思えないのですが?

動かぬが勝ち

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動かぬが勝 動かぬが勝
佐江 衆一新潮社 2008-12
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 佐江衆一著

先日「動かぬが勝ち」を朗読会で聞きました。
実に見事な朗読で、魅せられてしまいました。最もその魅力の8割までが演者の力だったような気がしています。が、でも、この作家さん、名だけは知っていても読んだことが無かったのです。で、どうかな?読んでみるものだろうか?
職人物で定評のある作家さんのようですが、そういうわけで私が最初に取り上げたのはこの作を含む7編(うち剣術ものが前三作、市井ものが後四作)
朗読で聞いた「動かぬが勝ち」が確かにこの中では一番印象が強い纏まった作品でした。何しろ主人公の上州屋幸兵衛がなかなかいい親爺です。娯楽的な作品の魅力の一は主人公に共感できるか?愛せるか?にあります。その点只今同じ老後を養う身としては・・・こういう風に意気高くいきたいものですよ。
「峠の剣」はあだ討ち物ですが、十歳の孫の父のあだ討ちを祖父と曽祖父が助けるという珍しい条件です。これを居合わせた湯治客の婦人の目から描くのかと思いきや・・・ちょっと視線がぶれる感じで甘くなったようです。
「最後の剣客」は一人の剣客の数奇な生涯を描いて、悲しいながらもいいものを味わせてくれたと思ったら・・・剣客の執着の凄まじさ・・・銃声の後味の悪さ。しかしこの作品がこの集の2番かな、私には。
残りの市井物は小品が揃った。色々の味わいがあるが割合情緒的でさらりとしている風だ。どちらがこの作者の持ち味なのだろうか?
饒舌でもないし無口でもないほどのよさを感じる。汲み上げる情感に共感もする。特に最後の「永代橋春景色」の主人公の変わっていくさまは丁寧に描写されていて、読後感もとてもよかった。最後にこの作品で、またこの人の作品を読みたいかも・・・と、思えた。

一夢庵風流記

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隆 慶一郎新潮社 1991-09
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隆慶一郎著

大昔、子供が少年ジャンプだか少年マガジンだか読んでいた頃は結構一緒になって漫画見ていました。その中に「影武者徳川家康」だか「花の慶次」だか?見た覚えがあります。そのとき隆慶一郎の名も覚えたのでしたっけ。隆さんのことは父が、なかなか面白い作品を書く人で「吉原御免状」など読むといいと言っていましたが・・・いまだに読んでおりません。が、いつだったか旦那が「捨て童子・松平忠輝」を買ったときにそれは読んでいます。
あの本は面白く読んだのに何故続けて隆さんの本を読まなかったのか不思議です。今回この本も旦那から回ってきて、読んで本当にそう思いました。実に面白い!と。
ただ、読んでいる間にどうしても慶次郎が漫画の・・・つまりケンシロウの顔になってしまうことが厄介でしたね。「お前は既に毒されている」と呻きながら読了。
歴史の襞の中にある意味落ちてしまった、けれども魅力的な人物を探すアンテナに長けていたのでしょうか?加賀の前田家には多分殆ど資料の残っていない人物なのかもしれませんが・・・そういえば・・・と、記憶を辿って、先年NHK大河ドラマでした「利家とまつ」の中で三浦友和さんが演じた利久の養子が慶次郎でした。確か及川光博さんが演じた?
漫画の慶次郎と大分開きがありますが・・・そんなわけで、もなにも?大抵の人にはイメージの及ばない人物です。有名な武将は人それぞれにイメージがありますね。家康だったら誰が演じるとぴったり!みたいな?
でも慶次郎は誰が演じてもヘーこういう感じの人なんだ・・・みたいに受け入れやすいでしょ?それだけ埋もれていた人物が実に大きく大らかに血肉をぎっしり詰め込んで華々しく登場してきた感があります。
多分二度と薄れることは無いだろうと思われるくらい見事に印象的に!
古文書の海を探索するのはきっと物凄く面白いことなのでしょう?どんな宝が眠っているか・・・全然違うかもしれませんが塩野七生さんのローマ物も殆ど現地の古文書が種だと聞いたことがあります。
忠輝もそういえばそうでしたっけ・・・と思って、これがこの作家の素晴らしい魅力なんだと思います。全く史実に無い人物を勝手に造形したのではなく、ちゃんと資料の海を踏査して背骨を磨きあげてから時代の色の人物を肉付けして、想像力をありったけ動員しているからなお更読むと血沸き肉躍るのでしょうか。
こんな人物いたら私も惚れるんだろうな・・・だけどそれはきつい人生を選び取ることになるのだろうな・・・だけど本人は全く・・・そう、人の心を攫た上にさらりと自分の生き方だけを見つめて生きちゃうんだろうな・・・なんてね。骨にも捨て丸にも金悟洞にもなれるわけ無いんだから!本でお目にかかっただけで本当に良かった!と、胸をなでおろしています。で、ここに至っても、ケンシロウ風イメージが消えないので今のNHKの直江兼継続の線の細さが心配なんですよ。
「生きるまでいきたらば、死ぬるでもあらうかとおもふ」・・・かっこいいなぁ!

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