暴雪圏
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佐々木譲著
この作家の警察物、「笑う(うたう)警官」「警官の血」に次いで三作目。
前二作と比べて警官物という意味では薄い感じがした。それでも前3作に劣らず面白く読めたのだけれど。
北海道釧路方面広尾署志茂別駐在所の巡査を中心に帯広辺りまでの範囲で3月お彼岸の頃にこの地方を襲う低気圧による暴風・暴雪の嵐に巻き込まれた人々の1昼夜を描いている。
様々な人がこの身動きの取れなくなる暴風雪によって、その一日にその管内でどんな事件事象に巻き込まれ事を起こしてその結果・・・という話なのだが、これが色々な人の視点から描き進められていく。
登場人物はその土地に住む人、入り込んできた人、事件はその地方の一日としては多分異常なくらい多発する。よりによってそんな日に!
そんな日だったために多くの人間が人生を誤り建て直し?生き抜き,死んで行く。全員が主人公で全員がこの物語の共犯者?
それにしても駐在所の巡査を描く手は素晴らしい。「警官の血」でもそうだったが、警察のこの部署が私達庶民にとって一番大事な部署である事を再確認する。ここに優秀な人材が洩れなく配置されていれば・・・日常はかなり守られるのではないかという気が確かにする。
この志茂別駐在所の川久保巡査部長は一人でこの困難な日の駐在所を預かる羽目になるのだが・・・彼は実に誠実で懸命に対処しようと最善を尽くす。しかも非常に優秀である。この優秀な人材がこの僻地(失礼)にいるのは北海道警察本部の不祥事防止対策の結果だというのだから・・・何が幸運になるかわからんものですねぇ。
読み終わって圧倒的に心に残るのは人がどうにも動きが取れない状況を生み出す気候の恐ろしさです。北海道の弱点と行ってもいいでしょうが、北海道に住むことの困難が痛々しいです。
仕事のなさ、それによる低賃金、日常の低調さ、娯楽の乏しさ、気候のリスク・ハンデ。だけどそれに対処する人々の助け合う絆の存在も描かれています。この日、路外転落の車から助けられて近所で1夜を救われた多くの人たちがいるだろうということも書かれていて印象に残りました。
きびしい土地で生きる人たちにはそれなりの知恵もあるけれど、冒頭の3本ナラの話はそれでも追いつかない自然の驚異を伝えています。
警察の事件物としてより自然の猛威に翻弄される人々を描いて緻密な作品だったという気がします。
それにしてもなかなか知恵者の悪党に思えた笹原がこの自然の前にあっけなくあえなくなるなんて・・・意外だったな。そして西田は無事に・・・?
似たジャンルの物を描いて(「震度0」を思い出したので)、横山さんの作品とは又違う魅力がある。またこの作家の警察物の作品を探してみよう。
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