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森見登美彦著

図書館が何かの操作をしたのではないか?と、思われるように「鬼の跫音」に次いでこの本が回って来ました。
どちらも心にぞめくひやっとするテイストで、ケモノの匂いがします。
よりによって続けてこんな本を読むのか・・・?と、思いましたけれど、どちらも妖しく忍び込んでくるのですから厭になります。
舞台は京都でしたし、緻密に場所が描写されていましたから、2年半の京都生活で街を歩き回った私にはどの筋、あのあそこと追っていくことが出来るようでした。
知っている町なのにここで描写された町は今の京都ではありませんでした。今の京都の底の底の底から這い出してくる折重なり押し拉がれた・・・しかも、普遍の京都でした。
京都には永住したいと思わせる魅力と共に、完璧に拒絶する何かが感じられました。その拒絶する京都がしんねりむっつりねっとりと漂っていました。内蔵する謎? 孕む闇?
四話収録。闇に漂うような妖しげな一乗寺にある古道具屋芳蓮堂、いたちのようなケモノ雷獣、水の影が臭う。京都に住む魔物とそれを内蔵して連綿と生きる京の人。翻弄される人。しかしこの若い作家のいざなう力は凄い。じわぁっとイメージを浮かび上がらせる。それも京都らしい年増女の濃厚さでじとおっとしのび寄ってくる。物語の筋立てを忘れてイメージに取り囲まれてしまった。後に残ったのはカビの匂いのする鳥肌。
異次元に漂う京都に虜にされた忌まわしさ。
「きつねのはなし」の学生のように後を見届けたくも無く、「果実の中の龍」の瑞穂さんのように京都から逃げ出したくなる。
「魔」は本当に厭だ。誰が魔だかわからない、判るはずが無いんだ、誰もが魔は持っている。魔は何かから分かつことは出来ない。全ての生きるものの中に内蔵されているんだから・・・でもそれは厭だ!ぐるぐるぐるぐるそうしか思えない。
「水神」京都は元々沼地。水の都。抱負に内蔵する水に支えられた都。長い歴史の中で枯渇した都に龍の住む琵琶湖の水が移植された明治期。京に住む息絶え絶えな水神と満々と水を湛えた琵琶湖の水神の姿を私は思い浮かべてしまった。京都は常に新しい物を飲み込んで同化する。そうして鵺のよいうに生きてきた都だ。底に生簀を湛えて、いけずも湛えて?
京都は引き寄せ、眼前でぴしゃと拒絶する。永遠に。作家も拒絶に耐えているのかな?