熊野物語 熊野物語平凡社 2009-07
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中上紀著
熊野古道、熊野三山、那智の滝辺り、古代からの補陀落渡海や様々な宗教伝説の地を舞台にした伝承的な異世界を繋ぐ古代から近代までの時の間の物語17集。
私はこういう伝承的であり土着的であり幻想的でもある非現実的な物語から覗くリアルみたいなものがなんとなく好きだ。
一歩距離を隔てて人や出来事や時代を見ているような、そしてその底からは人々の英知や生命力や次の世代に連綿として伝わっていく何ものかがうかがい知れるのがいい。
京都から名古屋から大阪から熊野を目指す。深い森や海を見ながら台地や山を越え海に突き当たる道の突端にある聖地熊野。そこには多くの物語が生息しているに違いない。その物語を作者なりに形成した作品群なのだろう。そこには龍も神も異国の人も生者も死者もうろついていて混ざり合う・・・不思議が大らかに生息している。その土地の魅力を伝えるには最適の物語集なのだろうと読んだ。伝える意思のあるもの、ただの事象のようなもの、時の変遷を受け入れて人々は生き継いできたんだという気持ちが沸き起こってくる。のどかで怖くて大らかですべてが人らしい。
「巡礼」「渡海」「餓鬼阿弥」などは熊野の神性、底深さを素直に読み取れて好きな話だ。「花の舞炎の海」「ヤタガラス」などの少女や少年の成長がすくすくとしていいなぁと思った。コワイ話もあるがそれらも熊野の特異性が包み込んでしまってくれる。生と性は大らかに一つのものだと思わされてなにかほっとするものがあった。