星間商事社史編纂室

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星間商事株式会社社史編纂室 星間商事株式会社社史編纂室
三浦 しをん筑摩書房 2009-07-11
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三浦しをん著
なんだか笑いながら読んでいて・・・しをんさんが少しわかっちゃった・・・って気分になっている。
「まほろ駅前」の大好きな彼らのかもし出す雰囲気の延長でもあるようで・・・作中に幾つも重層のように按配される幾つかの小説、幾つかの恋・・・なーんか、みんなしをんさんだ!
縦糸の社史編纂事業も猛烈に面白いけれど、よこちょにちょろちょろながれているコミケというジャンル?生活・・・最もこっちの方が幸代さんの大事な生きる柱なんだけれど・・・この捩りあわされた小説世界のどの筋もが生き生き面白くて・・・読んでいるうちに全部知らない世界ながら・・・全部あってもいいな世界になってしまって(うそです)、作中小説のどの人物の姿もありありです。 ありえない社史編纂室の上司さんたちの姿までが・・・理想の上司化しそうな恐ろしさです。 洋平君好きです!
しをんさんの小説読むのは8作目ですが、「光」以外みんな好きです。
が、その中でもこの作品は今のところしをんさんの全ての面を合わせ備えて、彼女を象徴しているように思いました。いい、いいね。生きていくのに卑屈にならない。
それに成長期の「日本商社!」を思い出したよ。 それか?妙に懐かしくも思えたのは。  これって三浦さんの小説のある種のものに対してのラブレターのようでもありますね。ま、そうなんですけど・・・テレる!

星と輝き花と咲き

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星と輝き花と咲き (100周年書き下ろし) 星と輝き花と咲き (100周年書き下ろし)
松井 今朝子講談社 2010-07-16
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松井今朝子著

私が今までに読んだ松井さんの作品の中では一番読みやすい作品でした。 が、「吉原手引草」「仲蔵狂乱」を凌ぐものではなかったなぁ・・・と、思う。
明治期の日本初のアイドル?明治時代のアイドル!竹本綾之助の絶頂期に至る成長の?記録といったところです。
絶頂期に引退っていうと思い出す女優さん歌手さんいますね。
でも、映画もTVも無かった時代としては物凄かったんだなぁ・・・。
日本初のおっかけも彼女をおっかけた「どうする連」だったんでしょうね。
こんな人が居たんだ!初めて知りました。大体明治にあんなに人気のあった娘義太夫というものを今聞く機会などまずありません。
先だって、安鶴さんの本牧亭を朗読勉強した時、中に新内のことが出てきたら先生に「新内聞いたことあるの?無いの?次回までに聞いておきなさいよ、実感が必要」と言われて、図書館からCDを借りてきて聞いたが・・・そのCDそのものがもう絶滅危惧種みたいだった。
だから綾之助の声がどのように描写されても、想像は付くのだが、いやつけるのだが今一どーんと心に響いてこない。 これもやっぱり聞いてみてなんぼのものだろうと思う。勿論綾之助の声が聞けるはずは無いのだが。
しかし実際に聞いてみたかった!という気分は非常なものになった。
こんなに沢山の通から素人さんまで幅広い層を虜にした義太夫語りとはどんなだったのだろう。 見ても楽しい人だったようだが、心にしみこむという義太夫をその声を、全く素養の無い今の私みたいなのが聞いてもやはり心奪われるのだろうか? ああ、聞いてみたいよ!素直にそう思わされた。 松井さんの筆力はやはり魅力だ。
しかし絶滅?してしまったのかもしれない義太夫。なんでこうなったのだろう。寄席の色物がどんどん廃れていくその廃れの走りだったみたいなのだけど、ここまで私にはこの芸の知識がない。
たったの?百年?怖ろしい百年の時代変化。あぶくのように生まれて消えていった流行の一つ、徒花?という一語が残った。
 

花や散るらん

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花や散るらん 花や散るらん文藝春秋 2009-11-12
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葉室麟著

赤穂浪士異聞と補足しておいてもいい作品
京都と江戸を跨いで公家方から赤穂の浅野内匠頭長矩の刃傷事件と大石内蔵助等のあだ討ちを描いている。吉良上野介、柳沢吉保、浅野長載矩に全く違う面から光を当てているというか面白い光の当て方をしている。この事件の裏に桂昌院叙位の舞台裏を置いて。
この作品には歌舞伎などで気持ちよく見ていたあだ討ち物の面影は毛筋ほども無く、あだ討ち物に付き物のある種カタルシスは望めない。
しかし一つの事件、特に歴史の向こう側、朧になり伝承により様々に変化し庶民の望みまで包みこんで発展したに違いない事件の料理の仕方というものを考えさせられる。この作品は素晴らしいとは思えないのだが、それはこちらのあの討ち入りに対する思いが既に固定されているからかもしれない。ある時こんな文を読んだ記憶がある。誰のだったか覚えていないのだが。 「浅野に対してわるもののように語られる吉良上野だが地元では名君だったと今も称揚されており手厚く法要なども営まれている・・・と、言う事を聞くが、それはあの時代にあっては当たり前のことである。大名つぶしが幕府の命題みたいだった時代にあって、領内を納めるのに問題など起こしたら取り潰しの憂き目に会うと分かっていたときに自分の領内を大事に納めない大名が居たら・・・それはただのバカである。 浅野も吉良も領内にあっては立派な殿様でなければ、いや治世を実際行うブレインがちゃんとしていなくては生き残っていけなかったのだ。そういうわけで立派な殿様だったというのは当たり前のことに過ぎない。」
と、まぁこんなのだったと思う。読み終わって、なんだ吉良擁護の文じゃなかったのかと、肩透かしを食らった気持ちだったけれど・・・。
この作品は気の小さな尊王教育を受けた浅野と野心むき出しに柳沢や桂昌院の意を受けてえげつない任官運動を繰り広げる吉良。
あの事件に大奥の勢力争いがこんな風に絡んでいたかも?あだ討ち事件の後での助命機運が大奥にも有ったという話は聞いたことあるけれど・・・なんてぼうっとしながら・・・こういう話はありか?なんて自問自答していたので・・・乗りそこなった。 主人公の蔵人も咲弥も今一つ造形も性格も印象的にならず、風変わりに設定された事件を追うだけでいっぱいいっぱいだった印象でもある。人が描かれていないんだろうな。物語としては、ふうん、こういう作り方もありえるんだ・・・確かに年表をじっと見てるとこの事件とこの事件がこのあたりでぶつかり合って・・・とイメージは広がる。そういった風景が見えた。 ただもう少しこなれて欲しいな・・・と、思った。

八朔の雪ーみおつくし料理帖

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八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫) 八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)角川春樹事務所 2009-05
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高田郁著

父が朝日新聞の書評で見て買ってみた・・・と、読み終えて回ってきた。
私も記事を見てこれから読みたい本に登録しておいたものだった。
図書館ではまだ何人も待ちだからラッキー
図書館の本では期限内に読みきれるとは限らなくなった父はこの頃書評で新しい本を知って読みたいと思うと本屋さんに出向く。そうして読む予定になった本がベッド脇に積み上げられている。読みたいと思った本を読みきるまで頑張るぞ!という気持ちの表れらしい。
なんだかそんな父を見ていると私の30年後が見えてくるような気がしてしまう。
ま、おかげさんで私は楽しみな作家をまた一人見つけることが出来ました!久しぶりで次作が凄く楽しみで!
澪つながりで思い出したんだけど、北原さんの「澪通り」を見つけたときよりも、楽しみな気がします。何より先が明るいのだから。
主人公の澪は素晴らしく可愛く魅力的で先が楽しみだし、取り巻く人々の造形もとてもいい。ご寮さんの芳もつる屋の種市も源斎さんも小松原さんも、みーんないい!で、上手に先に期待を抱かせてもらったし。
ワクワクしながら今後どんな料理を勘案し、店をどのように立ち上げていき、つる屋と天満一兆庵をどう立て直すのか?若旦那とは野江さんとはどう巡り会いかかわりあっていくのか・・・待っています。
素直な気持ちで先が知りたくてたまらない感じなのは久しぶりかも。
母が作った酒粕汁・・・すっかり忘れていた・・・まだ寒い間に作ってみよう(2/15)。

果ての花火ー銀座開化おもかげ草紙

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果ての花火―銀座開花おもかげ草紙 果ての花火―銀座開花おもかげ草紙新潮社 2007-08
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松井今朝子著
図書館で本を探していて、「松井さんの本があったわ」見つけたので借りてきた。 読み始めて直ぐ山田風太郎さんの明治物、特に「警視庁草紙」「明治波濤歌」などの作品群が頭に浮かんだ。
絶対、あの作品たちから想を得たな!って思われるリスク承知で書いてみたかったんだろうか? それならば・・・むしろ期待すべきか?と思って読み始めたのだけれど・・・最後まで面白くなりそうも無いなぁ・・・ぼやきながら読み進んだ。 山田さんのは特急で読みふけられたのだけれど・・・なぁ。 そして「醜い筆」の終りでこの作品の方向と主人公の姿がまぁ見えてきたかなと思えてきた。それでもこの主人公のどっちつかずの姿勢のあいまいさがじれったくて潔くなくて・・・イライラを募らせるんだわ・・・と思っていた。
「果ての花火」の元岡っ引きの最後を読んで作家の描きたいのは、明治期を生きる御家人達江戸時代の尻尾を引きずった人々の寄る辺のなさ、間に落ちてなおかつ時代の流れに乗り始めた敏な人たちにあおられる人の頼りない浮き草の様こそが主人公なのかも・・・と思えてきた。 時代に逆らう確信犯になれない、そこまで芯を貫けない男の優しさが歯がゆいけれど、そのあいまいさに時代を強く意識させられた。そう思って西南戦争前夜の頃を描いた「直びの神」を読むと「禍つひの神」「直びの神」で現す日本人の精神世界から宗教観まで私は主人公宗八郎にやっと共感点を見出して面白くなりそうだわ・・・と、思ったのに・・・「え、此処で終るの?」
納得がいかなくて検索してみれば・・・「幕末あどれさん」「銀座開化事件帖」が先に出版されており、この本はその続編になるらしい。そしてこの作品の後すぐ「銀座開化おもかげ草紙」が発売されているそうな。
同じシリーズのものならそうと分かるように番号なりなんなり手に取った時直ぐ分かるような親切が欲しい!と、つくづく思った。
どうりで妙に中途半端な本だと思っちゃったじゃないか・・・と。

パラドックス13

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パラドックス13 パラドックス13毎日新聞社 2009-04-15
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東野圭吾著

読み終わってもですねぇ・・・私P13現象理解できていません。
この現象は本当に科学的に起こりえる現象か?・・・なんてことは多分どうでもいいようです。という気がしていますが。
単にある種の平行パラレルワールドが出現したということのようです?
多分そのある瞬間に死者と生者の入れ替わりが。そのある瞬間に死者の世界に落ちた?人間13人の生存を賭けたドラマ!ということのようです。
つまり13人だけのあらゆる天災に襲われる社会では生き延びるためにはなんでもありなんですよ。生き残ることだけが命題なんですよ・・・と言う小説でした。・・・と、私は読んだのですが・・・。
「生き残った」と思い「生き抜こう」とする普通の人間達が考え行動するとすると?・・・なんかこの人間達が種を保存して未来社会が成育されるとすると・・・あまり人類に期待出来ないなぁ・・・というのが素直な感想ですか。 主人公の久我兄弟は対極のリーダーを表現しているのでしょうか?既にここからして図式的というかステレオタイプというか・・・魅力が無いのでがっかりでした。ま、実際こういうシチュエーションで人材に不足は言えませんか。それにしてももう少し何とかならなかったかなぁ・・・死人のパラレルワールドなんてちょっと覗いて見たいものではあるのだから。どんな意外な社会が登場するのか?それなのにアダムとイブそれも強制されシステム化されそうなアダムとイブ・・・よしてもらいたいな!女性が何の期待もできないワールドなんて・・・つまらん!

バスジャック

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バスジャック (集英社文庫) バスジャック (集英社文庫)集英社 2008-11
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三崎亜記著

この作家の本、これで5冊目です。この作品を読むのが遅くなったのが気になっていました。そして、改めて感心しています。
この作家の5冊の本読んで、一瞬たりとも厭な気持ちにならなかったことにです。本当に不愉快な思いさせられることが一度も、どこでも、無いんです。いや、無かったです・・・と、書いておいた方がいいのかなぁ・・・。宇宙に小さな無限の塵の様に漂っているあらゆる優しさ(悲しみを含んだのや、微笑みを湛えたのや、不思議を纏ったのや)を一つ一つ丁寧に拾い上げて、それを読む人の心にコトリと小さな音をたててソフトランディングさせてくれたようです。
この七作品(長いのや本当に短いのや)の中では「二階扉をつけてください」に心を震わされる怖さがありましたけれど・・・。これを読んでいた時「会社から離脱して今度は社会に加入?する定年後の男性陣」への警鐘とも思えました。都会の勤め人は地域に無関心ですものね。でも「しあわせな光」と「雨降る夜に」はこの人の真髄を軽く垣間見せてくれたのかも・・・としあわせな気持ちで読み終えました。「動物園」は「廃墟建築士」の中の「図書館」を思い出しました。社長と彼女の関係が同じ微妙な寂しい淡いの中です。
「送りの夏」の真摯さはなんとも好ましい佇まいで・・・人と死の距離のとり方の様々な人それぞれのありようを受け入れることは、とりもなおさず生きている人の全ての距離の撮り方繋ぎあい方を受け入れているようで素直な気持ちになりました。
「2人の記憶」はまた愛の一つの真実の面白い描き方でした。受け入れるってこういうことかもなぁ・・・と。そんなわけでいままでのこの人の作品は全部愛読できるのが嬉しいです。
 

暴雪圏

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暴雪圏 暴雪圏新潮社 2009-02
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佐々木譲著
この作家の警察物、「笑う(うたう)警官」「警官の血」に次いで三作目。
前二作と比べて警官物という意味では薄い感じがした。それでも前3作に劣らず面白く読めたのだけれど。
北海道釧路方面広尾署志茂別駐在所の巡査を中心に帯広辺りまでの範囲で3月お彼岸の頃にこの地方を襲う低気圧による暴風・暴雪の嵐に巻き込まれた人々の1昼夜を描いている。
様々な人がこの身動きの取れなくなる暴風雪によって、その一日にその管内でどんな事件事象に巻き込まれ事を起こしてその結果・・・という話なのだが、これが色々な人の視点から描き進められていく。
登場人物はその土地に住む人、入り込んできた人、事件はその地方の一日としては多分異常なくらい多発する。よりによってそんな日に!
そんな日だったために多くの人間が人生を誤り建て直し?生き抜き,死んで行く。全員が主人公で全員がこの物語の共犯者?
それにしても駐在所の巡査を描く手は素晴らしい。「警官の血」でもそうだったが、警察のこの部署が私達庶民にとって一番大事な部署である事を再確認する。ここに優秀な人材が洩れなく配置されていれば・・・日常はかなり守られるのではないかという気が確かにする。
この志茂別駐在所の川久保巡査部長は一人でこの困難な日の駐在所を預かる羽目になるのだが・・・彼は実に誠実で懸命に対処しようと最善を尽くす。しかも非常に優秀である。この優秀な人材がこの僻地(失礼)にいるのは北海道警察本部の不祥事防止対策の結果だというのだから・・・何が幸運になるかわからんものですねぇ。
読み終わって圧倒的に心に残るのは人がどうにも動きが取れない状況を生み出す気候の恐ろしさです。北海道の弱点と行ってもいいでしょうが、北海道に住むことの困難が痛々しいです。
仕事のなさ、それによる低賃金、日常の低調さ、娯楽の乏しさ、気候のリスク・ハンデ。だけどそれに対処する人々の助け合う絆の存在も描かれています。この日、路外転落の車から助けられて近所で1夜を救われた多くの人たちがいるだろうということも書かれていて印象に残りました。
きびしい土地で生きる人たちにはそれなりの知恵もあるけれど、冒頭の3本ナラの話はそれでも追いつかない自然の驚異を伝えています。
警察の事件物としてより自然の猛威に翻弄される人々を描いて緻密な作品だったという気がします。
それにしてもなかなか知恵者の悪党に思えた笹原がこの自然の前にあっけなくあえなくなるなんて・・・意外だったな。そして西田は無事に・・・?
似たジャンルの物を描いて(「震度0」を思い出したので)、横山さんの作品とは又違う魅力がある。またこの作家の警察物の作品を探してみよう。
 

深川恋物語

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深川恋物語 (集英社文庫) 深川恋物語 (集英社文庫)集英社 2002-07
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宇江佐真理著
サークルでこの作品集の中から「下駄屋のおけい」を課題に取り上げようか・・・という提案があったので、この夏休みの間に一応目を通しておこうと思って借りてきた。以前、宇江佐さんの作品は長編1冊と何かの短編集の中で一編を読んでいる。そして長編は少し散漫な印象で今ひとつ面白く読めなかったが、短編は上手い!と思った記憶がある。
そして宇江佐さんの初の短編集を読むことになったのだが・・・面白かった!と、言っていいだろう。
どの作品もきりっとしてピリッとしてうまく纏まっていて情緒満点でお江戸を堪能させてもらった。科白がいい!男もイナセなら女もおきゃんだねぇ?そう、見事に深川が全体にみっしり流れていた。
短編六編、「下駄屋のおけい」「がたくり橋は渡らない」「凧、凧、揚がれ」「さびしい水音」「仙台堀」「狐拳」
それぞれに心に響く物語がある。恋は一人一人違って同じ物は無いのに、それでいて恋は皆似通っている。二人でお互いに同じに思い合っていても相手と自分ではその心の様はやはり同じではない。男からみて、女からみて・・・様相は微妙に違っている。
そういう恋を6編深川の情緒の中で展開させているのだが「凧、凧・・・」は様相が違っていてこの淡さは見事に淡く切なくいい世界を醸している。
ここに描かれている人々の息づかいは香しく優しく、下町というものに息づく大らかさを感じさせてくれる。
確かにおけいのおきゃんな一途さは気持ちのいいものだが・・・私はこの「凧・・・」が一番好きだな。「がたくり橋・・・」「さびしい水音」も。
この作家はこうだったろうな・・・と思える深川とそこに住んでいたろうな・・・と、思える人を描くのに長けている。そこが魅力だと思ったので、暫く短編集を中心にこの作家の物を読んでみようかなと思った。

武家用心集

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武家用心集 (集英社文庫) 武家用心集 (集英社文庫)集英社 2006-01-20
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  乙川優三郎著

この人の作品は・・・5・6冊読んでいるのですが・・・悪くないのです。
でも、もう一つ好きになれないのです。というか絶対作家の方で好きになってくれなくて結構!という姿勢でいるに違いないっていう気がしています。今まで読んだ本は、表現も、使う言葉も、とても吟味して丁寧に書かれていると思いました。それだから?隔てられているという気がしてしまうのかなぁ?と、思っています。親しくなれない感じです。
主人公たちもとてもシャイで謙譲の精神が漲っている?
「心の本当の所は明かせないのよ」とつぶやいて、いや嘯いているような気を感じるのです。知ってもらいたくて描いているんじゃないの?その態度は何よ!と言いたいもどかしさを感じるんですね。
庶民のものでもそう感じさせる作家の武家ものですから・・・さて、どうでしょう?短編8編・・・で、結論から言うと、やっぱり隔てを感じました。
節制、抑制、利いています。武家が用心するのですから・・・やはり垣根越しですかね。それが主題とシンクロしている部分も確かにあって、今まで読んだ中ではその点でこの題材はこの作家にはしっくりしているのではないかなどと不遜な事を思いました。
心配りのいい人とか、察しのいい人とか、気が利きすぎる人とか・・・皆ニュアンスは違いますが、私にとって怖い人たちです。読まれるって厭ですけど、読もうとする心ってもっと厭だと思うんですね。
この作品の人々はその気配が濃厚な心配り過ぎて息を詰めている繊細な人々のようです。
でも、清清しさを感じさせてくれるところがあるのが救いです。ただしそこにたどり着くまでの過程を楽しめるかどうかが乙川さんのファンになるかなれないかの分かれ目かも。

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