時代小説最前線Ⅲ

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時代小説最前線〈3〉 時代小説最前線〈3〉新潮社 1994-11
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16作家の16作品集
時代小説作家も16人集めると初めて読む作家も当然いるわけで、今回は山崎巌、羽山信樹、杉本章子、高橋克彦、鈴木輝一郎氏らです。
初めての作家の作品を読むのはワクワクします。それにしても時代物を書く作家がこんなに多いとは・・・嬉しいことです。
しかしこれだけ集めてあると時代小説といっても本当に実に様々ですなぁ・・・老残の鳥居耀蔵、今は聞かない相撲の決まり手由来、股旅物やくざの末路、勝海舟のある一面?忠臣蔵番外編?柳生物、長崎唐船見送役遠見番(と聞き慣れぬ)仕事人、吉原心中物、坂下門の変聞き書き?奥州胆沢城の陰陽師、霧隠才蔵と猿飛佐助忍者物、宮本武蔵外伝兵法物、長屋世話物・・・等々。
玉石混交、といってもそれぞれに工夫を凝らした作品群はなかなか選り取りみどりで面白うござった。しかも見事に殆ど20ページ程の作品。
量的にも読みやすいと言えば実に読みやすく、1話ごとに目先の変わる面白さはなかなかいいかもしれない。が、それは当然食い足りなさにも通じるのだけれど、この目先の変化が実に読んでいてあきさせない本になっている。集め方の勝利?
好きなのは「面影蛍」「いその浪まくら」「休眠用心棒」「霧の中」「絞鬼」「魔剣楽して出世する」かな。

熊野物語

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熊野物語 熊野物語平凡社 2009-07
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中上紀著
熊野古道、熊野三山、那智の滝辺り、古代からの補陀落渡海や様々な宗教伝説の地を舞台にした伝承的な異世界を繋ぐ古代から近代までの時の間の物語17集。
私はこういう伝承的であり土着的であり幻想的でもある非現実的な物語から覗くリアルみたいなものがなんとなく好きだ。
一歩距離を隔てて人や出来事や時代を見ているような、そしてその底からは人々の英知や生命力や次の世代に連綿として伝わっていく何ものかがうかがい知れるのがいい。
京都から名古屋から大阪から熊野を目指す。深い森や海を見ながら台地や山を越え海に突き当たる道の突端にある聖地熊野。そこには多くの物語が生息しているに違いない。その物語を作者なりに形成した作品群なのだろう。そこには龍も神も異国の人も生者も死者もうろついていて混ざり合う・・・不思議が大らかに生息している。その土地の魅力を伝えるには最適の物語集なのだろうと読んだ。伝える意思のあるもの、ただの事象のようなもの、時の変遷を受け入れて人々は生き継いできたんだという気持ちが沸き起こってくる。のどかで怖くて大らかですべてが人らしい。
「巡礼」「渡海」「餓鬼阿弥」などは熊野の神性、底深さを素直に読み取れて好きな話だ。「花の舞炎の海」「ヤタガラス」などの少女や少年の成長がすくすくとしていいなぁと思った。コワイ話もあるがそれらも熊野の特異性が包み込んでしまってくれる。生と性は大らかに一つのものだと思わされてなにかほっとするものがあった。

つばくろ越え

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つばくろ越え つばくろ越え新潮社 2009-08-22
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志水辰夫著

これは又前日読み終わった気楽で楽しい時代物とは正反対。とはいっても実に見事な時代小説だったと満腹しているところです。
志水さんの時代物は「みのたけの春」に続いて二作目です。
前作は長編でありながらテイストとしては志水さんの現代物の短編集に感じられる静かさが身上といったらおかしいかしら?巧いなぁ・・・と思わせられる部分はいっぱいあるのにそれがとりわけむきつけでは無い床しさが好きなのですが。この作品は短編(中編かな)4作、特殊な飛脚が生業の蓬莱屋の飛脚人が主人公の連作物ですが、むしろ志水さんの長編ハードボイルドの趣が強く窺われます。人や物の動きにきっちりと目のいく鋭い男たちはこの作者の小説でお馴染みです。時代が江戸になっても同じ匂いのする男達はいて、暗い色をまとってはいても実に魅力的で私は彼らの磁力に引き付けられてしまいます。
こんな男達のそばにうっかり行こうものなら焼け死んでしまうだろうな・・・などと思いながら焼け死んでもいいやと思わせるに違いない男達です。渋くてパットしなくても心で迫ってくるのですね。
しかもこの困難な旅路の詳細な道筋の記述が実に楽しいです。
こんな難路を選び大事な預かり物を先様に届けるそのありようだけでも物語になるのにそこに入ってくる枝葉のわき道。難事に関わらざるを得なくなる心の機微がいいんですね。この男達はしっかり見るべき物を見ている。見てしまった物を見捨てにはできない。納得がいくまで関わってしまう。関わったらきちっと始末をつけなくてはいられない。こんな男、男の中の男でしょうと読む女は思いますよ。
そしてその一編ずつのおしまいがいいですね。1話の〆「やろう、豆を食ってやがった。」なんてもう凄くいい!ヨッ!って感じ?仙造がぽとっと腑に落ちます。

千両花嫁

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千両花嫁―とびきり屋見立帖 千両花嫁―とびきり屋見立帖文藝春秋 2008-05
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山本兼一著

「利休にたずねよ」か「火天の城」を読みたくて・・・検索したら・・・待ちが長い!じゃぁこの作家の作品を一つ読んでおきましょうか・・・です。
まだ、余り作品は無いのですね。図書館には9作品しかありません。
しかも時代物ばかり。これが面白ければ楽しみが増えようというものです。
場所が京都三条大橋の近くといいますから東海道を上り下りする旅人の多い絶好の場所に、駆け落ちして店を張った骨董商(道具屋)という始まりから・・・ただ者ではないでしょう?こんな一等地に店を出せる駆け落ち者なんてねぇ・・・
それは何故か?どうしてそんなことが出来たのか・・・お話は面白くなりそうな展開です。1話ごとに道具屋ならでの薀蓄もあるし・・・それに登場してくる人々が又豪華絢爛? 坂本はん勝はんに近藤・土方・沖田はん、芹沢はん等新撰組の面々、武市はん、岡田伊蔵まで・・・幕末の京都ですからね?尊王も攘夷もあったものか、商売は商売!
からふね屋おかみゆずさんの父の京都屈指の道具屋さんがいかにこの夫婦を夫婦として認めていくか?時代の荒波の中、様々な曲者客にいかに対処していくか?この時代のこの場所での商売の方針と客あしらい、道具の品揃えの面白さ、寄せ集めの店の奉公人をいかに上手に使いこなし育てていくか・・・捨て子だった真之介の親は?一話ごとに楽しめるのですけれど、なかなかその一話一話が巧いのですけれど・・・ちょっと巧すぎなんですね?
ゆずさんは生まれたときからよい物を見ることで養われた物を見る目を持ち、捨て子として拾われた店で鍛え上げられ商売を覚えた真之介との組み合わせが見事すぎて・・・いえ、当てられすぎて?ちょっと妬けるから?こんなに巧くいっちゃうなんて・・・ちょっと話が上手すぎでしょう。ゆずさんの大博打も、真之介の大博打もうまく中って、道具も人も見抜ける眼力を養いつつこの夫婦はどんな時代になってもちゃんと巧く生き抜いていくのだろうな・・・と、最後には暖かく見つめたのでありました。
とまぁこういうわけなのですけれど・・・これ当然続きがありますよね?
こうして時代物シリーズは作られる・・・のお手本みたいです。
時代設定も商売も登場人物も最高に?面白くなる可能性大なんです。楽しく甘く?気楽に読めます。それでもやっぱり話が上手すぎと違いますやろか?眉唾眉唾でもあり、本当に続きが読みたいのか少々迷うところもありますが・・・。道具が人を育てるからふね屋の皆さんもですが、真の虎徹を手に入れたとき、道具に育てられて近藤さんも物になるのかもしれまへんなぁ・・・なんて思うてるこの頃です。

きつねのはなし

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森見登美彦著

図書館が何かの操作をしたのではないか?と、思われるように「鬼の跫音」に次いでこの本が回って来ました。
どちらも心にぞめくひやっとするテイストで、ケモノの匂いがします。
よりによって続けてこんな本を読むのか・・・?と、思いましたけれど、どちらも妖しく忍び込んでくるのですから厭になります。
舞台は京都でしたし、緻密に場所が描写されていましたから、2年半の京都生活で街を歩き回った私にはどの筋、あのあそこと追っていくことが出来るようでした。
知っている町なのにここで描写された町は今の京都ではありませんでした。今の京都の底の底の底から這い出してくる折重なり押し拉がれた・・・しかも、普遍の京都でした。
京都には永住したいと思わせる魅力と共に、完璧に拒絶する何かが感じられました。その拒絶する京都がしんねりむっつりねっとりと漂っていました。内蔵する謎? 孕む闇?
四話収録。闇に漂うような妖しげな一乗寺にある古道具屋芳蓮堂、いたちのようなケモノ雷獣、水の影が臭う。京都に住む魔物とそれを内蔵して連綿と生きる京の人。翻弄される人。しかしこの若い作家のいざなう力は凄い。じわぁっとイメージを浮かび上がらせる。それも京都らしい年増女の濃厚さでじとおっとしのび寄ってくる。物語の筋立てを忘れてイメージに取り囲まれてしまった。後に残ったのはカビの匂いのする鳥肌。
異次元に漂う京都に虜にされた忌まわしさ。
「きつねのはなし」の学生のように後を見届けたくも無く、「果実の中の龍」の瑞穂さんのように京都から逃げ出したくなる。
「魔」は本当に厭だ。誰が魔だかわからない、判るはずが無いんだ、誰もが魔は持っている。魔は何かから分かつことは出来ない。全ての生きるものの中に内蔵されているんだから・・・でもそれは厭だ!ぐるぐるぐるぐるそうしか思えない。
「水神」京都は元々沼地。水の都。抱負に内蔵する水に支えられた都。長い歴史の中で枯渇した都に龍の住む琵琶湖の水が移植された明治期。京に住む息絶え絶えな水神と満々と水を湛えた琵琶湖の水神の姿を私は思い浮かべてしまった。京都は常に新しい物を飲み込んで同化する。そうして鵺のよいうに生きてきた都だ。底に生簀を湛えて、いけずも湛えて?
京都は引き寄せ、眼前でぴしゃと拒絶する。永遠に。作家も拒絶に耐えているのかな?
 

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