鬼の跫音
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道尾秀介著
道尾さん5作目。意識してホラーと書かれた物は外しているのだけれど、
この作品は微妙だなぁ・・・。私はホラーだけは苦手。で、この作品の底に漂う背筋を這い登るようなおぞましさはホラーの匂い。とは思うものの、それでもやはりただのホラーと言い切れない何か違うものも併せ持っている。
なんなんだろう・・・厭なもの読んでいるよ・・・と心の中の声は小さく呟いているのだけれど、目はどんどんどんどん吸い寄せられていく。
確かに怖いもの見たさに似ている。って言うかそのものなんだと思うよ・・・と、認めたくなく頷いている。帰りたいけど足は前に進んでいるみたいな?悪夢に近い。
「S」だよ。ウン、又「S」だね。ああまた「S」だよ。「そろそろSが何か考えるべきだよ。いや、いいんだよSは統一感、既視感、永続する悪意の象徴なんだから。余計なもの付け加えなくて良いんだよ。それその気持ちが余計なものじゃない。」ぼやきながらの読書です。
Sは人の底に棲む狂わせる暗黒の物を引き出す触媒のようなものかと思いながらSに囚われました。でもそれは枝葉です。
6作。どの作品の題も余り良い感じを受けません。開いた時にケモノ「犭」の字が真っ先に目に飛び込んできて「鈴虫」も「よいぎつね」も塗りこめてしまいました。そしてその印象は読み終わった読後感をあらかじめ教えてもらったようなものでした。全ての作品が心に棲む「犭」を描いているのだと思いましたから。
「ケモノ」や「悪意の顔」は道尾さんらしい?「今」が匂っています。
実際こんな事件が後を断たない今があります。やり直す時を与えない社会があります。一刻も無駄に出来ない(と思われる?)限られた時を生きる人々。それなのに実際には人に充実した時を与えない世に住んでいる。やりきれない。その気持ちにSが注がれる・・・と・・・。
「冬の鬼」に漂う耽美性は見覚えがあります。私達の世代には懐かしさも感じられます。「よいぎつね」には輪廻の空恐ろしさが漂います。ここにも記憶の襞をゆする何かがあります。そこには若い作家にとって新しい道を探る手がかりがあるのかしら?とも思えました。
芽を出さないで終る種もたっぷり持たされて人は生まれてくるのかもしれません。芽を出さないで終る種は哀れなのかしら?安らかなのかしら?水をやり光を当てる種を見きわめる目が欲しいものです。
心を目の詰んだ網で浚ってみると(この作家のこの作品はそんな感じです)この正反対の何かをも引き上げられるのではないか・・・と、思えてきて・・・次回作は振り子がそっちに振れてくれると良いのになぁ・・・なんて思ったのです。
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