深川恋物語

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深川恋物語 (集英社文庫) 深川恋物語 (集英社文庫)集英社 2002-07
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宇江佐真理著
サークルでこの作品集の中から「下駄屋のおけい」を課題に取り上げようか・・・という提案があったので、この夏休みの間に一応目を通しておこうと思って借りてきた。以前、宇江佐さんの作品は長編1冊と何かの短編集の中で一編を読んでいる。そして長編は少し散漫な印象で今ひとつ面白く読めなかったが、短編は上手い!と思った記憶がある。
そして宇江佐さんの初の短編集を読むことになったのだが・・・面白かった!と、言っていいだろう。
どの作品もきりっとしてピリッとしてうまく纏まっていて情緒満点でお江戸を堪能させてもらった。科白がいい!男もイナセなら女もおきゃんだねぇ?そう、見事に深川が全体にみっしり流れていた。
短編六編、「下駄屋のおけい」「がたくり橋は渡らない」「凧、凧、揚がれ」「さびしい水音」「仙台堀」「狐拳」
それぞれに心に響く物語がある。恋は一人一人違って同じ物は無いのに、それでいて恋は皆似通っている。二人でお互いに同じに思い合っていても相手と自分ではその心の様はやはり同じではない。男からみて、女からみて・・・様相は微妙に違っている。
そういう恋を6編深川の情緒の中で展開させているのだが「凧、凧・・・」は様相が違っていてこの淡さは見事に淡く切なくいい世界を醸している。
ここに描かれている人々の息づかいは香しく優しく、下町というものに息づく大らかさを感じさせてくれる。
確かにおけいのおきゃんな一途さは気持ちのいいものだが・・・私はこの「凧・・・」が一番好きだな。「がたくり橋・・・」「さびしい水音」も。
この作家はこうだったろうな・・・と思える深川とそこに住んでいたろうな・・・と、思える人を描くのに長けている。そこが魅力だと思ったので、暫く短編集を中心にこの作家の物を読んでみようかなと思った。

眼中の悪魔

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眼中の悪魔 本格篇―山田風太郎ミステリー傑作選〈1〉 (光文社文庫) 眼中の悪魔 本格篇―山田風太郎ミステリー傑作選〈1〉 (光文社文庫)光文社 2001-03
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山田風太郎著

ただただ「黄色い下宿人」を読みたさに、その短編が入っている作品を探してきた。そしてその作品をまず最初に読んだ!
「あ、あ・・・これなら許せる!」不遜この上ないのですが・・・それでもそれが正直なところです。出会い方、合せ方、事件に入っていくホームズとワトソンと依頼人と。かなり丁寧に正典を踏襲しています。新たな翻訳が出たか?と言ってもいいくらいか?・・・マサカ!こうい小技?風太郎さんは手馴れています。
しかも終りがいい!漱石さんも胃痛を忘れられるひと時だったでしょう。実際?こんな出会いがあったなら、漱石さんの倫敦滞在はもっと幸せなものになっていたでしょうに・・・と、漱石さんのために惜しみます?
ところがです。この本の他の作品が問題でした。
正直読むのが辛かったと申せましょう。風太郎さんは作家初期にこの一連のミステリーを書いたそうです。寡聞にして風太郎さんにミステリーがある事を知りませんでした。私は時代物は読んでいません。明治物から読み始めたファンです。それでもその明治物での風太郎さんの女性の扱い方というかその描写その運命どうにも釈然としないというか、無残なものがあるのが気に入りません。
どんな美人が描かれていてもその不幸の影には妙に厭なものがあって、はっきり不快に思います。そしてそれと全く同じ物をこの初期の作品群から受けました。ってことは?風太郎さんの描く女性は彼の人生を通して結局変わらなかった?のでしょうか。
そんなわけでこの黄色い下宿人以外は二度と読むことは無いな・・・むしろ他の作品は読むべきじゃなかったな・・・と思いながら・・・それでも終りまで読むか?迷いながら・・・「司祭館の殺人」?なんかミス・マープルものみたいな題じゃない?と思いながら読み出したら・・・これが外人物。
舞台がヨーロッパ?「果樹園のセレナーデ」の無気味妖怪版?みたい・・・と、読んでいって最後に笑っちゃった。ルパン!ルパンなの!ルパンのパスティーシュ?風太郎さんの哄笑が・・・否、ニヤッが見えたようでしたが・・・。悪戯な人だったのね?なんてちょっと思いました。
でも総じて、他の作品は題から受けるイメージそのまま、気持ちのいいものではありませんで、ちょっと、否、かなり、無気味!それでも風太郎さんのミステリー10巻もあるんですよ。読むべきか、読まざるべきか?それが問題です。             
でも念のため「黄色い下宿人」は別格です。

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漱石と倫敦ミイラ殺人事件

題名INDEX : サ行, 未分類 212 Comments »
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島田荘司著

世に言うホームズもののパスティーシュ。
私はその手の作品は読まないことにしていたから、この作品の知識も当然無かった。図書館でこの作品を見つけたときも読むべきか迷ったのだが、以前倫敦へ行った時、ホームズの足跡を辿ると漱石さんとかなり被さるのに気がついた。ベーカー街に並んで走る道を歩いていた時、漱石の通ったクレイグ先生の家も見つけたし、もう少し先へ行くとワトソンの開業したクイーン・アン街も大英博物館も意外に近い。漱石の最初の下宿もこの辺り。
しかも漱石が下宿を代えて行く先はホームズの事件の舞台とも重なっている。時も重なる。何より漱石の「倫敦塔」は好きだったしなぁ・・・。
おかしなことにその頃、風太郎さんの明治物を読んでいたので、風太郎さんならこの事を知ったら絶対漱石とホームズを作品の何処かで接近遭遇させるだろうな・・・と思ったのだ。
違う作家だったが、この作品を見つけたとき、「あ、やっぱり!このことに気が付く人って結構いるんだろうな?」と思った。って言うよりホームズが好きな人は大抵知っている?
なら、例外としてこの作品を読んでみようと思って借りてきた。
この作品のホームズを許せるか許せないか人によるだろうけれど、ホームズが奇人になるとき、まともに近く?なるとき、マイクロフトの扱い方・・・さて、これは問題だぞ!私は余り好きじゃないな・・・ぼやきながら読み進んだ。ワトソンの性格はかなり把握の仕方が私とあっているぞ!っていう気もするが。その優しさ、穏やかな知性、ホームズに対する忠誠。ま、遺憾なく描かれているのだけど。何せこのホームズじゃ・・・女装は止めてもらいたい、このふざけ方・・・ため息も出ようというもの。
それでも、事件そのものというよりその前哨となる漱石の悩まされた幽霊の事件の解決がとにかくいい!そう繋がるのか!この部分というかこの連結?が見事だから・・・お遊びだし・・・と、思うことにした。
この微妙な違和感がやっぱりパスティーシュはなぁ・・・もう一つ楽しみきれないよ。ホームズに対する愛着も人により様々だからこのジャンルは多分どんな言い作品を書いたとしても評価が高くなることは無いのじゃないかと思う。たとえどんな新しいトリックや見事な解決を編み出したとしても。
やっぱりこれだったらホームズを読み返すわ!っていう気分?
ところがとんでもないおまけがついていた!
巻尾の解説に「島田荘司は山田風太郎のホームズと漱石を描いた作品を知らなかっただろう・・・云々」というようなことが書かれていたのだ。
やっぱり!風太郎さん二人を出会わせていたんだ!
そんなわけで「これ」は「これ」より読まなくちゃいけないでしょう!と、早速図書館へ出向いた。それは山田風太郎作「黄色い下宿人」で、次回に!

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