利休椿
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火坂雅志著
短編7作。秀吉統治下の頃の今で言う「アート」な人を題材にした作品集といえるかもしれない。
「山三の恋」は名古屋山三郎、名古屋山三と言えば阿国歌舞伎、てっきり阿国との話かと思いきや、もう1方の伝説?秀頼の父?の方。化かされ物の系譜。目新しくなくてちょっとがっかりだけどこの手の話は好きだなぁ・・・と、読み進む。
「関寺小町」は能の演目に関わる家元と一子相伝などの葛藤
「辻が花」は染師の秀次事件に絡んでの片恋
「天下百韻」は連歌師里村紹巴の成り上がり振り
「包丁奥義」は大草流に挑む懐石膳の工夫をする包丁人の物語
「笑うて候」は曽呂利新左衛門と落語の祖といわれる安楽庵策伝の話
表題の「利休椿」は茶花として欠かせなくなった椿、紫にこだわる利休とその椿の花作り又三の悲恋。
各物語は短かったが、一番絢爛だった頃の秀吉の時代を背景に、秀吉、北の政所、淀殿、千利休、光秀など、登場人物も華やかならば、それぞれの芸術に携わる個性というか異能というか複雑な人々の生き方、その生き方に巻き込まれた人々を描いて興味深い物語集。巨大な権力者が統治する時代には絢爛と花開くものが多い。その花の幾つかは徒花になるのかもしれないが連綿と続いて今なお私達を豊かにさせてくれるものも多い。その花のために自分を貫いた人たちの話とも。
関寺小町もそんなに難しい演目だったのか・・・と今度何処かで演能されることがあったら見てみたいと、とても好奇心をくすぐられた。芸術家のねたみは怖ろしく粘着性がある。どんな怖い情念を描いた演目よりも演じる人の方が怖い?妻の哀れ、一子相伝とか家元制度とか、厭なものだと常々思っているが・・・。
光秀の最後の連歌の催しは世に広く知られているが、紹巴の今の俳句というものから想像も出来ないほどの権勢を目指す成功志向の余りの強さ、その人格の灰汁の強さには辟易とするくらいだが、その強さにはまた妙に感服させられもする。一つのものに秀でるにはなんと強さが必要なことか。命を賭け、まわりの人をも巻き込み踏み潰し・・・ようやくものは成る!
面白い作品集でありながら、枯れる万骨の1骨に過ぎない私にとってはどこか素直に楽しみにくいところがあった。文人がただの文人でいられない、職人がただの職人ではいられない時代が切ない。
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