おちゃっぴい -江戸前浮世気質

題名INDEX : ア行, 未分類 338 Comments »
おちゃっぴい―江戸前浮世気質 (徳間文庫) おちゃっぴい―江戸前浮世気質 (徳間文庫)徳間書店 2003-05
売り上げランキング : 40896
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

otyappii.jpg

otyappi.jpg

宇江佐真理著

「たば風」で宇江佐さんに大期待を抱くようになって、さらに回ってきたのがこの作品です。多分こういう短編集がこの作家の独壇場なのだろうと思います。「深川恋物語」と同系列で同じくらい好感を抱ける作品群です。良いです!この六作品に登場する人々は同じ町内の馴染みの顔ぶれのように私はすっかり顔見知りになってしまいました。毎朝「おや、はっつぁん、お早いお出かけだね」なんて声掛け合っているような。
この作家は物語の舞台で登場人物を生かせる術を本当によく知っている人なんだ!という嬉しさ。
先日「下駄屋のおけい」を朗読材料に取り上げたいとサークルのある人が言っていたけれど、私は「概ね、よい女房」を取り上げたいな・・・と、思う。家賃を払えるか払えないかのキリキリの生活の中での長屋の女房達の気概も優しさも物凄く良い!けれど、その仲に入り込んできた不協和音のおすてを受け入れるまでの経緯がなんともいえない!そしてその傍らを流れる男たちの奏でる曲想も実にいい。良質の絡み合い!
人付き合いの下手な私でも明日は何とかなるかもしれない・・・という期待を抱かせてもらえる。ちっとも心を開けないくせに・・・明日上手く心を開けるかも・・・小さく開けた隙間から誰かが微笑みか何気ない一言を注いでくれるかもしれない・・・みたいな?
生活からにじみ出る慰めやいたわりが思わずこぼれる小さなグチや悲しみを柔らかく揉みほぐしてくれる・・・まるで体内に入り込んだ異物を粘液がくるみこんで痛みを消してくれる・・・そんなような世界。
 

たば風

題名INDEX : タ行 248 Comments »
蝦夷拾遺 たば風 (文春文庫) 蝦夷拾遺 たば風 (文春文庫)文藝春秋 2008-05-09
売り上げランキング : 304095
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

tabakaze1.jpg

tabakaze2.jpg

宇江佐真理著
北海道松前藩が何らかの形で関わっている短編6作
サークルで宇江佐さんの作品を勉強してみようかという提案があって数冊の本が仲間の間を回遊しています。その一つが先日読んだ「深川恋物語」で続いて回ってきたのがこの本でした。この本で「おや?」と改めて作者を見つめなおしたようです。今までに読んだ作品は江戸物、「おきゃんな語り口に江戸言葉をいっぱい上手にちりばめ使いこなす巧者な作家だ」というイメージでした。でもこの作品はこの作家が実に時代小説作家だと言う事を主張しているという印象でした。おかしな事を書きましたが・・・この作品群短編6作はしっかりと手ごわい読み応えを感じさせました。「渾身の作」とか「畢生の作」とかよく惹起言葉にありますがまさにそれに近い感がありました。作家が函館出身と最後に読んで納得です。
真に書きたい物を模索した作品群だという手ごたえがあったのです。
多分にそれは「錦衣帰郷」のせいだと思います。この作品の後ろには松浦武四郎とか北海道の地誌に名を残す有名無名の人々の姿が重層になって浮かび上がってきます。搾取という大文字で書きたいような松前藩やその御用商人たちだけでなく、土地の人々を思った心ある人たちの霞のような姿も浮かび上がってくるようでした。「ご苦労ざまで御座います」
頭を下げたいような出世の裏側に隠れた人生が見事に描き出されていました。この作品群ではこれが一番素晴らしい作品と思いましたが・・・「恋文」の妻はいいなぁ・・・と思います。この作品の中の女性達は皆見事に命を得ていたと思えました。
 

道、絶えずば

題名INDEX : マ行 122 Comments »
道絶えずば、また
道絶えずば、また
おすすめ平均
stars3部作の3冊目ではありますがAmazonで詳しく見る
by G-Tools

mititaezuba.jpg

松井今朝子著

7月に松井さん4作目に新聞に新刊案内で読んだこの本を予約しました。
勿論今まで待っていたから即今読み終えたところなわけです。
ところが読み始めて失敗したことがわかりました。この作品には「非道、
行ずべからず」という前編があったのでした。その前編の5年後の多分どうやら同じ顔ぶれが登場する新しい歌舞伎中村座から始まる殺人事件を描いたもののようでした。まずこちらを先に読むべきだったかもしれません。                               登場人物を挙げて見たいほどなんか歌舞伎ファンには嬉しそうな・・・感じですが。
前三作、私が読んだ松井さんの作品は絶品!でした。でも、残念ながらこの作品もしっかり書かれていながら・・・のめりこむ面白さはありませんでした。前の作品をちゃんと順に読んでいたら登場人物たちにもう少し思い入れが出来ていたのかもしれません?
それにしても冗漫の印象があります。
有名名代の絶世の女形の異常な死から幕を開け、無垢な?町人が何人も殺され、その探索が難渋を極めている。それと閉口して偉大な父に先立たれ襲名を控える血の繋がらない兄弟の女形の芸と父の謎の死に揺れる芸道の話とが交差する。構造的には隙の無い構築物が出来上がりそうな期待を感じさせてくれるのに・・・今ひとつ本にのめりこませる力が不足しているような。なんだろう?
読みながらこの面白くならなさは何が原因なのだろうと考えている。
それぞれの登場人物の心の描き方が、視点が、作家にもう一つ愛情が無いような。突き放した客観性が生ききれていないような。
「あなたも彼らのことが本当は分かっていないんでしょう?」と、聞いて見たくなるような。宇源次が足を突っこんでいる泥沼はあるのだろうし分かろうとすれば分からないではないのだけれど・・・それじゃぁその向うに居る筈の市之介はどうだ?というと・・・彼の葛藤は簡単に乗り越えてしまったようじゃないの?本当はそうじゃなかったろうに・・・言葉と時間でごまかしちゃったのね・・・みたいな片手落ち。とまぁ私にはこの二人の葛藤がもう少し書かれていて欲しかったんだなぁ・・・と、自分の感想を覗き込んでいる。事件の解決のまだるっこさが役者の葛藤をもだらだらとしまりの無いものにしてしまったような気がする。
う~ん、「非道、行ずべからず」を読んでみないとこの作品の感想を書くのは非道なのかな?作中の人物が肝心の宇源次を始め道具方はもとより、理市郎も笹岡ももう一つ人間として見えてこなかったのです。
 

暴雪圏

題名INDEX : ハ行 143 Comments »
暴雪圏 暴雪圏新潮社 2009-02
売り上げランキング : 37906
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る by G-Tools

佐々木譲著
この作家の警察物、「笑う(うたう)警官」「警官の血」に次いで三作目。
前二作と比べて警官物という意味では薄い感じがした。それでも前3作に劣らず面白く読めたのだけれど。
北海道釧路方面広尾署志茂別駐在所の巡査を中心に帯広辺りまでの範囲で3月お彼岸の頃にこの地方を襲う低気圧による暴風・暴雪の嵐に巻き込まれた人々の1昼夜を描いている。
様々な人がこの身動きの取れなくなる暴風雪によって、その一日にその管内でどんな事件事象に巻き込まれ事を起こしてその結果・・・という話なのだが、これが色々な人の視点から描き進められていく。
登場人物はその土地に住む人、入り込んできた人、事件はその地方の一日としては多分異常なくらい多発する。よりによってそんな日に!
そんな日だったために多くの人間が人生を誤り建て直し?生き抜き,死んで行く。全員が主人公で全員がこの物語の共犯者?
それにしても駐在所の巡査を描く手は素晴らしい。「警官の血」でもそうだったが、警察のこの部署が私達庶民にとって一番大事な部署である事を再確認する。ここに優秀な人材が洩れなく配置されていれば・・・日常はかなり守られるのではないかという気が確かにする。
この志茂別駐在所の川久保巡査部長は一人でこの困難な日の駐在所を預かる羽目になるのだが・・・彼は実に誠実で懸命に対処しようと最善を尽くす。しかも非常に優秀である。この優秀な人材がこの僻地(失礼)にいるのは北海道警察本部の不祥事防止対策の結果だというのだから・・・何が幸運になるかわからんものですねぇ。
読み終わって圧倒的に心に残るのは人がどうにも動きが取れない状況を生み出す気候の恐ろしさです。北海道の弱点と行ってもいいでしょうが、北海道に住むことの困難が痛々しいです。
仕事のなさ、それによる低賃金、日常の低調さ、娯楽の乏しさ、気候のリスク・ハンデ。だけどそれに対処する人々の助け合う絆の存在も描かれています。この日、路外転落の車から助けられて近所で1夜を救われた多くの人たちがいるだろうということも書かれていて印象に残りました。
きびしい土地で生きる人たちにはそれなりの知恵もあるけれど、冒頭の3本ナラの話はそれでも追いつかない自然の驚異を伝えています。
警察の事件物としてより自然の猛威に翻弄される人々を描いて緻密な作品だったという気がします。
それにしてもなかなか知恵者の悪党に思えた笹原がこの自然の前にあっけなくあえなくなるなんて・・・意外だったな。そして西田は無事に・・・?
似たジャンルの物を描いて(「震度0」を思い出したので)、横山さんの作品とは又違う魅力がある。またこの作家の警察物の作品を探してみよう。
 

Design by j david macor.com.Original WP Theme & Icons by N.Design Studio
Entries RSS Comments RSS ログイン