蝦夷拾遺 たば風 (文春文庫) 蝦夷拾遺 たば風 (文春文庫)文藝春秋 2008-05-09
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宇江佐真理著
北海道松前藩が何らかの形で関わっている短編6作
サークルで宇江佐さんの作品を勉強してみようかという提案があって数冊の本が仲間の間を回遊しています。その一つが先日読んだ「深川恋物語」で続いて回ってきたのがこの本でした。この本で「おや?」と改めて作者を見つめなおしたようです。今までに読んだ作品は江戸物、「おきゃんな語り口に江戸言葉をいっぱい上手にちりばめ使いこなす巧者な作家だ」というイメージでした。でもこの作品はこの作家が実に時代小説作家だと言う事を主張しているという印象でした。おかしな事を書きましたが・・・この作品群短編6作はしっかりと手ごわい読み応えを感じさせました。「渾身の作」とか「畢生の作」とかよく惹起言葉にありますがまさにそれに近い感がありました。作家が函館出身と最後に読んで納得です。
真に書きたい物を模索した作品群だという手ごたえがあったのです。
多分にそれは「錦衣帰郷」のせいだと思います。この作品の後ろには松浦武四郎とか北海道の地誌に名を残す有名無名の人々の姿が重層になって浮かび上がってきます。搾取という大文字で書きたいような松前藩やその御用商人たちだけでなく、土地の人々を思った心ある人たちの霞のような姿も浮かび上がってくるようでした。「ご苦労ざまで御座います」
頭を下げたいような出世の裏側に隠れた人生が見事に描き出されていました。この作品群ではこれが一番素晴らしい作品と思いましたが・・・「恋文」の妻はいいなぁ・・・と思います。この作品の中の女性達は皆見事に命を得ていたと思えました。