みのたけの春

題名INDEX : マ行 504 Comments »
みのたけの春 みのたけの春
志水 辰夫集英社 2008-11
売り上げランキング : 5612Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 

志水辰夫著

志水さんの作品を7,8冊も、もっとかな、既に読みましたかね?それで一冊も読書日記に残していないのは何故でしょう?
それはさておき(そのうちに何故かちゃんと考えます)、志水さんの作品にまさか?と思った時代物があると知って、図書館に予約しました。
そしてこの作品は・・・!と、ちょっと驚いているところです。
私の好きなハードボイルド的な多くの作品、「行きずりの街」~「オンリィ・イエスタデイ」に至る作品が放つ匂いと様々な複雑な気分を私に醸させる現代短編小説群の香りと両方が実になんというか、静かなところで手を結び合っているような感じを与えられたからでしょうか。紛れも無く時代小説の風合いをかっちり身にまとっていました。時代に歩調の合っているこの主人公の青年榊原清吉君は志水さんのハードボイルドの中の主人公ほどの魅力的で鋭い尖った衣はまとっていないものの、心の底にはシンとたたえた知性を、判断力の片鱗はしっかり腹の底に湛えて、しかもこの時代の人間が持っていたに違いない地縁の柵にもしっかり耐えて・・・そこが柵は人間関係だけに繋がれる現代の主人公とは一線を画していましたっけ。
身の丈って言葉、なんか色々考えさせられちゃうのです。
それで満ち足りて慰められるような、余りに卑小で情けなくて背のびしたいような、安心して憩えるような、そこで止まったら終りのような・・・私の今の心のある場所でいかようにも変転しそうで取り留めがなくて危なげで、でもそれで良いのかもと慰めやすくて・・・ずるいよ!といいたくなる言葉です。
主人公の青年にとって、親のかせがあることが身の丈、思いを伝えられないのが身の丈、友人の行く末に関わらざるを得なかったことが彼の住む身分や地縁や人の縁の拠ってくる身の丈?
間もなく襲い掛かってくる時代の嵐の中をどんな身の丈で生き抜くのだろうか?行く先が気になるところです。この先、彼が柵を脱ぎ捨てて、身の丈を思わず、夏に突入したら?時代の嵐の中に飛び込めたら・・・維新のハードボイルドになるのかなぁ・・・

行きずりの街 (新潮文庫) 行きずりの街 (新潮文庫)
志水 辰夫新潮社 1994-01
売り上げランキング : 124128
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools
オンリィ・イエスタデイ (新潮文庫) オンリィ・イエスタデイ (新潮文庫)
志水 辰夫新潮社 2008-02
売り上げランキング : 143090Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ボクの町

題名INDEX : ハ行 233 Comments »
ボクの町 (新潮文庫) ボクの町 (新潮文庫)
乃南 アサ新潮社 2001-11
売り上げランキング : 203563
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

bokunomati1.jpg

 

乃南アサ著

この作家も初めてです。「夢十夜」で書いたようなわけで、好きになれそうな日本人の作家を手探りしていて・・・見つけたわけです。
この本に関する限り、悪くないな!と、不遜にも思ったところです。正直好きです。大好きです。
警察物、推理物が好きなのでこの作品も「警察官の話」というだけで取り上げたのですが・・・若者の成長譚でした。
警察ではなくともよかったのでしょうが・・・いえ、警察官じゃなきゃならなかったんです。なんで人のために「命まで掛けて」働くのか?使命を感じている人ならともかく?ただの就職先として警察官になっちゃったボクが?というわけですから。
読んでいるうちに不覚にも、交番にいるおまわりさんがこんなにも多忙で、こんなにも業務?を抱えているということに始めて気が付きました。本当に、私、道を聞くのに立ち寄ったことがあるだけですもん、今まで。
読んでいるうちに交番にいらっしゃるおまわりさんに素直に敬意を感じました。このところ気が付いているのですけれど、交番に電話だけが留守番しているところありますよね?
交番はおまわりさんが常駐してこそ交番なんだ!と、改めて思いました。おまわりさんだけは減らさないでね!!!
高木君が余りにも等身大の今の若者なので、上手く引きずり込まれましたね。多分最初から使命感を抱いて警官になった三浦君が主人公だったらこうは素直に敬愛の情を抱かなかったかもね?警察官・おまわりさんに。と、思ってこれはとんでもないことですよ、失礼な。申し訳ありません!と、頭を下げました。
三浦君のような方がいてこその地域の安心なのです。ただ、多分こういう生活をこの本で知れば知るほど、今後今の甘やかされた(私こそがまさにそうなんですけれど)人間でおまわりさんを心底まじめにやってくれる人はでないんじゃないかな?なんて思えます。
ハードですよ!素晴らしいおまわりさんであり続けるということは、余りにハードですねぇ。一部不祥事が発覚してもその氷山の下には「沢山の高木君や三浦君や宮永班長がいて・・・えーとあのかわいい眉のきりりとした婦警さんもいて・・・なんだよ」と思おうと思います。
「ありがとうね」といつか近くの交番のおまわりさんに言いに行って見ましょうか?恥ずかしいな。せめて家の辺り担当のおまわりさんのお顔だけでも覚えておきましょうか。

夢十夜

題名INDEX : ヤ行, 未分類 259 Comments »
夢十夜 他二篇 (岩波文庫) 夢十夜 他二篇 (岩波文庫)
夏目 漱石岩波書店 1986-03
売り上げランキング : 109259
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

souseki.jpg

夏目漱石著

私の読書体験は少年少女世界文学全集から始まりました。確か少学校の3年生の時この全集が世に出て、私は毎月のお小遣いをこの本の購読に当てていました。今考えるとこの本を買うためにジャストこの本の値段のお小遣いを貰っていたような・・・?
それで好きになった本のあらかたは翻訳物でしたから、私の読書傾向はそれで決まったようなものです。学校の教科書で読んだものの他は明治以降の文豪作品でさえ読んでいない有様です。
例外は芥川龍之介さんと森鴎外さんくらい?それが朗読をはじめたら、基本的に「翻訳物は止めて下さい」なんです。翻訳は訳者の技量次第ってところがあって「文が日本語文として不自然である」という宿命を持っている場合が多いということらしいです。ま、分からないでもないです。
小泉八雲さんを時々読みますが、訳者によって様々なバージョンがあって、なかには確かにひどいんじゃない?というものも有ります。
ところがサークルに入ってみたら皆さん実によくこの明治の文豪作品を読むのですねぇ・・・で、私の偏った読書傾向を今になって修正せねば?という次第です。樋口一葉、林芙美子、志賀直哉、川端康成・・・等。圧倒的人気なのは森鴎外・芥川龍之介!短い作品が多いからでしょうか?(そういえば今のところ谷崎潤一郎・幸田露伴・田山花袋とかは聞きませんね)
中でも人気抜群なのはこの作品。教室生の大抵の方が一度は自分の課題として持ってくるらしいです。それで気が付いたのですが・・・それこそ「坊ちゃん」くらいしか覚えていないのです、私。で、今頃読んだというわけで・・・言い訳が長い!
正直、練習なさるお教室生の方の朗読を聞いても、何でこんな面白くない作品を?と、思わないでもなかったのです・・・ところが聞くと読むとはやっぱり違った!読むほうによほどの技量がないと・・・この世界は心に落ちてきません。人の夢の話・・・聞かされるほうって案外うんざり。その割には私も時々話したくなりますが。
「こんな夢を見た」で始まる(のは、厳密には4話)10の短編(この場合小品と書くべきか)。そのどれもが厭な夢!語られる夢の中で主人公は前世の恋の香につながれ、手に入れられない境地に絡め取られ、前世の過去の罪業を暴かれ・・・夢という時空でがんじがらめになっている・・・動けない、先に行けない、助からない!逃げ出せば、逃げ出したで、逃げ出さない方が、行方も分からないほうがよかったと思っている。私までどん底に落ちそう。
読みながら、一体私はどうすればいいんだ・・・と、途方にくれた。
これは、私には朗読はできない!ということだけが分かった。
 

かぎりなくやさしい花々

題名INDEX : カ行 221 Comments »
かぎりなくやさしい花々 かぎりなくやさしい花々
星野 富弘偕成社 1986-05
売り上げランキング : 117749
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

hosino1.jpg

星野富弘著

年末の最後のサークルの日にこの本を「お持ちの方は持ってきてください。」という回状が回りました。持っていなくて、買わない?私は早速図書館で仕入れました。今後使うかどうか見定めてからというつもりで。それでそういえばこのサークルの幹部?のお一人に相沢みつをさんとこの星野さんのコラボレート展覧会のチケットを頂いた事があったのを思い出しました。私が入会するかなり昔、サークルでこの星野さんの詩の朗読会をしたことがあるとか・・・。多分それで久しぶりに取り上げるのかなぁ・・・と読み始めたのですが・・・素晴らしい方です。
頂いたチケットで絵を見に行った時にも素晴らしい!と思ったのですが、改めて本を読んで怪我をしたところからお母様始めご家族の助け、後に奥様となられた渡辺さんとの馴れ初め、絵への傾斜・・・など・・・読めば心にしみこむ美しさです。それにこの素晴らしい絵が付くのです。

hosino.jpg

絵が素晴らしければ素晴らしいほど、添えられた詩が心を打ちますし・・・。本当に凄い方だと脱帽しました。こんな方も世の中には居られるんだということを知ることは世の灯台に出会うようなものですね?
ところがこの本を取り上げて公開の場で朗読をすることはもう出来ないことらしいです。十数年前に使わせていただいた時はまだ名を知る方も絵を知る方も殆ど居なくて、星野さん及び出版社に問い合わせたところ「どうぞどうぞご自由にお使いください」だったそうですが、素晴らしい美術館もでき、出版物も凄い数に登った今、管理がきびしくなったらしいです。著作権保護の世の方向はそうですものね。
小さな公民館の小さなサークルの発表会でも自由に使うことは難しい世の中のようで、先年まで使わせてくださった宮部さんも、事務所のほうから今後公開の場(区民サークル、区民成果発表会も)ではご遠慮くださいと断りが入ったそうですし・・・。今年の区の成果発表会までに作品を選ぶことさえ困難になっているようです。もう既に亡くなられ、時を経て、自由に使える作品で意外に?おばさんに人気があるのは樋口一葉さんなのだそうですけれど、これはこれで、却って聞きに来る子どもたちには言葉がもう難しくて・・・思案投げ首状態のサークルです。で、小泉八雲さんとか新美南吉さんとか
の作品なら・・・ってことになるんですね。・・・って話がそれました。
 

さまよう刃

題名INDEX : サ行 342 Comments »
さまよう刃 (角川文庫) さまよう刃 (角川文庫)
東野 圭吾角川グループパブリッシング 2008-05-24
売り上げランキング : 1024
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

samayouyaiba.jpg

東野圭吾著

本屋に行っても、図書館資料検索しても、この作家の作品の目だった多さ、(正月用?に)積み上げ方の半端じゃなさ、本当に売れて、読まれて・・・凄いなぁ・・・感歎するばかりです。本当のところ私の気分はガリレオの新作待ち(まだ700人ばかり)なんですけれど・・・
薬丸さんの数冊だって、苦しいのに・・・なんでガリレオ書ける作家のこの手の作品を読まなくっちゃならないのだ?と自問自答しながら・・・
それでも惹かれてしまう何かをこの作家は確かに持っています。
こんなテーマの作品を書いても(「赤い指」「ダイイング・アイ」だけですけれどね、私の読んだのは)エンターテインメント性って言うのは持ち味なんでしょうね。スピード感、ドキドキ感、もあれば主人公への共感の呼び込みも完璧。一気読みさせる迫力十分でした。
多分子供を持った親なら・・・子が被害者になっても、加害者になっても作品の中の親たちのような行動を取るだろう自分が見えるようでした。
実際の経験が無いから建前を言う自分と本音を言う自分を両方見ながらこの本を読んでいるわけですが、だからといってそのあいまいな部分が和佳子さんと被れば読みやすかったのでしょうけれど、そうじゃなかったので?彼女の部分がいらだちになりました。
長峰の心の底にこびりついている建前の部分を彼女は象徴していたのでしょうか・・・とも思いますが。
丁度ちょっと前に読んだ薬丸岳著「虚無」を思い出しました。
犯罪被害者が犯罪者を裁いていたら・・・と言う建前での少年犯罪、精神疾病障害者犯罪の裁きは現在余りにも実情にそぐわないというか被害者心理を逆なでするだけのもののような気がしています。
再犯者、更生不能者、多発する犯罪を阻止できない世の仕組み。それにもかかわらず、絶対何処かに何か対策があると思いたい、何か対策を講じてと祈る私たち親。
警察は何とかできないのか?出来ないのよ。でも警察官も人間で何とかしたいと心の中では思っている(人も居る)のよ。でもそういう組織じゃないのよ。世の識者って対策を立てる人ではなくて、対策を批評する人のことなのよ。弁護士って、少年犯を被害者から隠す人なのよ。ああああ、それじゃやはり犯罪被害者の関係者が何とかするしかなんとも出来ないのじゃないの・・・やっぱり?という渦の中に溺れている私です。
「虚無」で佐和子さんになると思った私は、ここでは長峰になるしかないと思いましたね。密告電話のからくりが分かった時、警察にも心の分かる人も居るんだなと素直に思った私は警察への期待を頭のどこかに摺りこまれているお馬鹿なのかもなぁ・・・。
マンションに昨日越してきた夫婦がマスコミから密かに逃げている犯罪者の親かも知れず、またその反対かも知れず・・・と、なにも隣の住人を知らずに安閑と生活している身には、警察はまだ信仰の対象なんですよ。本を読んで厭な世の中だと、救いの無い世の中だと、真剣に思い不安に苛まれている私も、その直ぐ何分か後には其の事実をすっかり忘れてニコニコ外出する私も、ある意味イカレテイル?現代人なんです。・・・って、じゃないと生きていけないって・・・
 

カイシャデイズ

題名INDEX : カ行 240 Comments »
カイシャデイズ カイシャデイズ
山本 幸久文藝春秋 2008-07
売り上げランキング : 12873
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

kaisyaday1.jpg

山本幸久著

「ココスペース」という会社、好きです!実際は内容を読んでいると「今現在、この会社はきっと苦戦しているだろうな・・・こんなひどい不況だもの、しかもこの業界?」と、思います。でも多分この会社はきっとリストラなんて言葉会社の中に立ちいれさせないだろうな・・・という信頼感まで持っています。根拠?根拠なんて無いんです。けれど、社長を知って、彼らを知れば、誰が彼らの一人でも首を切れるというのでしょう。ちゃんと「仕事好きですか?」「絶対彼ら好きですね!」と、私が答えてあげちゃいますものね。もっとも業績や給与を上げていくのまでは・・・保障できませんが。
一昔前の日本の家族的企業を思い出させます。業績主義になったことで年功序列主義より優れた結果が出たことは確かですか?旦那たちが自慢げに「うちは・・・」と言っていたときの会社より今の会社たち?の方が優れていますか?明日は首を切られるかもしれないのに?隣の人より評価が低いわけを納得できますか?付いて行きたい人が居ますか?・・・不安山済み・・・
さて、今息子たちの世代の人たちにとって会社がそうかというと?です。彼らも夜中まで働いて一生懸命ですけれど・・・「うちの・・・」と自慢げに言うでしょうか?言えるといいなと思います。言えますように!
まともな時間に帰っているように見えないタカさん!帰ってこなくともこのタカさんの奥さん旦那を切り捨てたりしませんよ・・・多分。だって仕事をしているタカさんってかわいいんだもの。そのオーラは厭でも家族を巻き込んじゃうでしょ?うちがそうだったもの?無理しちゃったわよ。
もっともね、タカさんが家に帰ったとき、もぬけの殻になっているのが「今」だって気も少ししていますけれど。可哀想に。
作品の3本柱タカ・クマ・シノさんズ+大屋さん+小田さん+巨瀬社長以下「しょうがないなぁエザっち」に至るまで、私結構好きです。会社で働いている人たちが皆人間として一人一人立っていて、ちゃんと人間として遇されていますもの。「この会社好きです!」になるわけです。「仕事楽しいです?」にもなりそうです。社員の個性が生きる会社って大きくなっちゃ駄目なんですかね?作業着着ている彼らって動けて個性がきらきら粒立っています。その個性を殺さない限りこの会社は生きていける、そんな日本であって欲しいなぁ。
原日本の、人間による、人間のための会社ってなんかよくない?仕事場は海外でもいいんだけどさ。あー、でも内需の拡大は難しい日本の行く末ちゃんと考えている人いるかなぁ・・・
今年最初のブログがこの本でよかった。ほっとする世界・・・回収っぱぐれの施工費があっても。

Design by j david macor.com.Original WP Theme & Icons by N.Design Studio
Entries RSS Comments RSS ログイン