みのたけの春 みのたけの春
志水 辰夫集英社 2008-11
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志水辰夫著

志水さんの作品を7,8冊も、もっとかな、既に読みましたかね?それで一冊も読書日記に残していないのは何故でしょう?
それはさておき(そのうちに何故かちゃんと考えます)、志水さんの作品にまさか?と思った時代物があると知って、図書館に予約しました。
そしてこの作品は・・・!と、ちょっと驚いているところです。
私の好きなハードボイルド的な多くの作品、「行きずりの街」~「オンリィ・イエスタデイ」に至る作品が放つ匂いと様々な複雑な気分を私に醸させる現代短編小説群の香りと両方が実になんというか、静かなところで手を結び合っているような感じを与えられたからでしょうか。紛れも無く時代小説の風合いをかっちり身にまとっていました。時代に歩調の合っているこの主人公の青年榊原清吉君は志水さんのハードボイルドの中の主人公ほどの魅力的で鋭い尖った衣はまとっていないものの、心の底にはシンとたたえた知性を、判断力の片鱗はしっかり腹の底に湛えて、しかもこの時代の人間が持っていたに違いない地縁の柵にもしっかり耐えて・・・そこが柵は人間関係だけに繋がれる現代の主人公とは一線を画していましたっけ。
身の丈って言葉、なんか色々考えさせられちゃうのです。
それで満ち足りて慰められるような、余りに卑小で情けなくて背のびしたいような、安心して憩えるような、そこで止まったら終りのような・・・私の今の心のある場所でいかようにも変転しそうで取り留めがなくて危なげで、でもそれで良いのかもと慰めやすくて・・・ずるいよ!といいたくなる言葉です。
主人公の青年にとって、親のかせがあることが身の丈、思いを伝えられないのが身の丈、友人の行く末に関わらざるを得なかったことが彼の住む身分や地縁や人の縁の拠ってくる身の丈?
間もなく襲い掛かってくる時代の嵐の中をどんな身の丈で生き抜くのだろうか?行く先が気になるところです。この先、彼が柵を脱ぎ捨てて、身の丈を思わず、夏に突入したら?時代の嵐の中に飛び込めたら・・・維新のハードボイルドになるのかなぁ・・・

行きずりの街 (新潮文庫) 行きずりの街 (新潮文庫)
志水 辰夫新潮社 1994-01
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オンリィ・イエスタデイ (新潮文庫) オンリィ・イエスタデイ (新潮文庫)
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